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既得権益にあぐら「テレビ」が5Gはスゴいと能天気に言えないザマミロ的な事情

プレジデントオンライン / 2020年12月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

2020年はコロナ禍で多くの業界が打撃を受けた。だが逆に、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの急成長を遂げた大手動画配信サービスのような業種もある。国際エコノミストの今井澂さんは「本格化し始めた5Gによって、これらのビジネスは今後さらに活性化します。一方、新聞・テレビなど旧メディアは衰退するリスクが大きい」という――。

※本稿は、今井澂「2021コロナ危機にチャンスをつかむ日本株」(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■コロナ禍で急成長する動画配信サービス

新型コロナショックによって最も打撃を受けた産業の1つにエンターテインメント業界があります。

音楽や演劇などの市場は2019年には、ぴあ総研によると過去最高の6295億円となり、日本映画製作者連盟によると映画興行も過去最高の2611億円を記録しました。合計すれば年間9000億円近い規模です。

ところが、2020年2月の政府の自粛要請以来、観客は会場まで足を運んで音楽、演劇、映画などを楽しめなくなってしまいました。市場規模は少なくとも3分の1まで縮小したのではないかと見られています。エンターテインメント業界が新型コロナショックから受けたダメージは観光業界や航空業界に勝るとも劣らないでしょう。

そのいっぽう、ぐんぐんと伸びているのがネットフリックスやアマゾン・プライムビデオ、ディズニープラスなどの大手動画配信サービスです。いうまでもなく、これも新型コロナによる巣ごもり需要が追い風になっています。

ちなみにネットフリックスの有料会員数は6月末に全世界で1億9295万人となり3月末よりおよそ1000万人も増加しました。日本でも8月末には1年前の300万人から500万人へと大幅に増えています。

ところで、アメリカのウォルト・ディズニーが8月に発表した2020年4~6月期決では最終損益が約5000億円の赤字でした。赤字転落は19年前に記録して以来のことで、新型コロナの感染拡大によって世界各地のテーマパークを開けなかったことと、新作映画の公開が延期されたことが大きく響きました。

しかし、ウォルト・ディズニーは2019年11月に動画配信サービスのディズニープラスをスタートさせており、2020年8月には有料会員が6000万人を突破したのでした。ウォルト・ディズニーは、歴代の世界興行収入ベスト5の映画にすべて関わっており、家族向けの息の長い映画も多数そろえていて、人気コンテンツの豊富さで抜きん出ています。今後、ディズニープラスがテーマパークと映画公開に代わる収益の柱になってもおかしくはありません。

また、ウォルト・ディズニーは4月に映画館公開の予定だった新作映画『ムーラン』を、映画館公開ができなくなったため、9月からディズニープラスで配信することにしました。

■新作映画の映画館とネットでの同時封切り

新型コロナショック以前も、動画配信サービスの台頭によって新作映画の封切りを映画館とネットで同時に行ってもいいのではないかという声が出てきていたのですが、そうなると映画館への客足が遠のくとして映画館産業は強く抵抗してきました。

映画館なら入場料だけでなく飲食や関連グッズの収入も期待できます。とくに映画館での関連グッズの売上げは映画会社にとっても大きな収益源の1つなので、映画会社としてもネットとの同時封切りにはおよび腰だったのです。

ところが、新型コロナショックによって映画館での公開そのものができなくなり、今や否応なく新作映画の封切りもネットで行わざるを得ないという流れになってきています。『ムーラン』がその先鞭をつけたともいえるのです。

では、新型コロナが終息すれば、新作映画の映画館とネットでの同時封切りという流れは止まるでしょうか。つまり、以前のように封切りは映画館だけになるのか、ということです。おそらく同時封切りは続くでしょうし、それどころか映画館産業のほうがなくなってしまう可能性さえ否定できません。というのは、これからの動画配信サービスにも5Gが大きな力になるからです。

■5Gで映画館がいらなくなる

新作映画の封切りが映画館だけだったら、上映の映画館数と期間が限定されているため、どうしても時間が取れなくて見逃す人もけっこういます。ネットでの封切りなら見逃すことはありません。これがネットの1つのメリットです。

今井澂『2021コロナ危機にチャンスをつかむ日本株』(フォレスト出版)
今井澂『2021コロナ危機にチャンスをつかむ日本株』(フォレスト出版)

デメリットについては、ネットは基本的に1人で見るのに対し、映画館なら友人と一緒に見に行けるので、見終わったあと、友人とあれこれ映画の感想を語り合うことは楽しい、ネットだとそういうことはできないという声があります。

ところが、技術は日進月歩。ディズニープラスでは2020年9月から、別の場所にいる友人と同じ映画やドラマを一緒に見られるという同時視聴の機能を備えました。これは、ディズニープラスの会員の1人が見たい映画やドラマを選んで招待用のアドレスをつくり、一緒に見たい会員にそのアドレスを送ることによって実現します。会員なら最大7人まで同時視聴が可能で、その会員同士でチャットや絵文字による会話ができるのです。

■映画館産業はなくなるかもしれない

ネットの同時封切りに対するほかの有力な反対意見には、映画館で体験する大画面と迫力ある音響には自宅でのネット視聴はとてもおよばないというものがあります。けれども、こうした点にこそ5Gが威力を発揮することになるのです。

自宅に50型くらいの大画面のディスプレイと高音質のオーディオセットをそなえて5Gにつないだ動画配信サービスで映画を見ることによって、もちろん画面の大きさは映画館にはおよばないとしても(サウンドなら自宅でも映画館並みの音質を実現するのは可能)、映画館にいるのと同じような環境をつくることができます。むしろ視聴中の飲食については、自分の好みをそのまま反映できる自宅のほうが質は高くなるはずです。

もっとも、新型コロナショックがなかったら、新作映画の映画館とネットとの同時封切りは映画館産業の強い抵抗によってなかなか実現しなかったでしょう。この点でも新型コロナショックは新しい時代の扉を開けたのです。

しかも前述したように、同時封切りがずっと続いていくのではなく、映画館産業のほうはなくなるかもしれません。映画館が残ったとしても、それは新作映画のプレゼンテーション用くらいでしか使われなくなるのではないでしょうか。

■K-POP、BTSの100分間のオンラインライブ売り上げは26億円超

音楽の会場でのライブコンサートもオンラインが中心になっていくのでしょう。新型コロナショックで会場が閉鎖されたために、ネットでオンラインライブを行う音楽家も増えてきました。

たとえば、韓国のK-POPグループであるBTS(防弾少年団)は6月に100分間のオンラインライブを開きました。チケット代は約3500円。75万人が視聴したので、売上げは26億円を軽く超えたことになります。

K-pop
写真=iStock.com/Elena Almazova-Dolzhenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena Almazova-Dolzhenko

会場のライブに75万人の観客を動員するためには、ドーム球場クラスの大会場に5万人の観客を入れたとしても15回も開催しなければなりません。当然、会場設営に15回分のコストがかかり、音楽家にも15回分のパフォーマンスが求められます。それと比べると、オンラインライブのコストと労力は圧倒的に小さくて済むので、利益率も非常に高くなるのです。

とはいえ、会場のライブが消えてオンラインライブだけになることはないと思います。理由の1つは、オンラインライブで稼げるのはある程度人気のある音楽家に限られるからです。

BTSも世界的な人気があってオンラインライブのチケットが売れました。無名あるいはあまり人気のない音楽家のオンラインライブにはそれほど多くの視聴者は期待できないし、チケット代も安く設定しなければならなくなります。結局、利益が出るかどうかもわかりません。

■ライブとオンラインライブが共存する時代に

もう1つの理由は、音楽の会場でのライブ特有の臨場感はやはりオンラインでは体験できないからです。

オンラインライブも、多方向のカメラで音楽家を映すなど視聴者に臨場感を伝えるための工夫がいろいろと行われるようになってきています。多方向から音楽家を見るというのはむしろオンラインライブでないとできません。また、オンラインライブであればこそ、どこに住んでいても手軽に人気の音楽家のライブを楽しめるのです。そこに5Gを導入すればさらに臨場感を高めることができます。

しかし、会場のライブとオンラインライブを比べると、どうしても会場のライブにしかない臨場感があるのです。それは、音楽家が目の前の観客を意識しながらパフォーマンスを行うことによって醸し出される臨場感にほかなりません。

この点が映画とはまったく異なります。映画館だろうが自宅だろうが、一方的に映像と音を観客や視聴者に送るのが映画です。対して、音楽の会場でのライブには音楽家と観客との双方向のコミュニケーションがあります。それで会場のライブならではの臨場感が生まれるのです。同じことは演劇や落語、講談などにも当てはまります。

したがって、これらのエンターテインメントにおいては、新型コロナショックが終息しても、オンラインライブの比率が上がるとはいえ、会場のライブとオンラインライブは共存していくことになるでしょう。

■テレビや新聞を駆逐する5Gの脅威

ネットの出現によって新聞やテレビなどの既成のメディアの影響力が落ちてきているわけですが、それを一段と促進したのも新型コロナショックです。

NHK
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

日本新聞協会は毎年10月現在の総発行部数(日刊116紙)を年末に発表していますが、2019年は一般紙とスポーツ紙の合計で約3780万部でした。これは前年比で約210万部もの減少です。しかも、この減少幅は5.3%減で過去最大となりました。

最も発行部数が多かったのは1997年の約5377万部。以後の22年間で3割近い約1597万部も部数が減りました。うち過去10年間の減少が約1254万部なので、近年の減少の勢いがいかに強いのかがよくわかります。

一般紙とスポーツ紙に分けて過去5年間の推移を見ると、2014年には一般紙が約4169万部、スポーツ紙が約368万部だったのが、2019年にはそれぞれ約3488万部、約293万部へと減少しています。

特徴的なのは一般紙が16.3%の減少だったのに対し、スポーツ紙は20.2%の減少となり、減少幅が4%近くも大きかったことです。スポーツ紙の減少スピードは一般紙よりも速くなっています。

そのような状況のときに2020年に襲来したのが新型コロナショックでした。プロ・アマ問わず国内のほとんどのスポーツ競技が中止になってしまい、スポーツ紙は長期間、最大のコンテンツを失ったのです。とすれば、スポーツ紙は売れるわけがありません。近い将来、廃刊になるスポーツ紙が出てきてもおかしくないでしょう。

一般紙にしても減少のスピードがスポーツ紙よりも遅いというだけで、前途が暗いのには変わりありません。

テレビの視聴率もやはりネットのために大幅に落ちてきました。テレビの場合、視聴率と広告費には相関関係があるので、視聴率が落ちると広告費も減っていきます。

2020年3月に電通が発表した「日本の広告費(2019年)」という調査では、テレビ広告費は前年比2.7%減の約1兆8600億円でした。しかも2014年以来6年連続の2桁成長で約2兆1000億円(前年比19.7%増)となったネット広告費にテレビ広告費は初めて追い抜かれたのです。

■5Gの登場で最も打撃を受ける業界こそテレビ局

2020年は新型コロナショックで東京五輪・パラリンピックをはじめ各種イベントの延期や中止が相次ぎ、経済活動も停滞しているために企業は広告費を縮小しています。それがテレビ広告費に響くのは当然です。日経広告研究所が7月に発表した2020年度の国内の広告費の見通しでは、テレビ広告費は前年度比14.8%減になります。ネット広告も新型コロナショックの影響を受けるものの、2020年度も0.5%増のプラスを維持する見込みです。

フジテレビ
写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa

少し前なら5G関連の話題を取り上げるテレビ番組はけっこうありました。そういう番組で語られるのはもっぱら5Gのもたらすバラ色の未来だったのですが、実は5Gの登場で最も打撃を受ける業界こそテレビ局なのです。

すでに述べたように、5Gは動画配信サービスやオンラインライブなどの映像とサウンドの質が向上しますから、テレビの視聴者もそちらに引っ張られていきます。

10年くらい先になると、経済合理性を最優先するアメリカではテレビ局という業態そのものがなくなっているかもしれません。日本の場合、テレビ局はどうにか存続はできるにしても、活路を見つけないと経営は厳しくなるいっぽうでしょう。

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今井 澂(いまい・きよし)
国際エコノミスト
1935年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、山一證券入社。山一證券経済研究所、山一投資顧問を経て、日本債券信用銀行顧問、日債銀 投資顧問専務、白鷗大学経営学部教授などを歴任。主な著書に『シェールガス革命で復活するアメリカと日本』(岩波出版サービスセンター)、『経済大動乱下! 定年後の生活を守る方法』(中経出版)、『日本株「超」強気論』(毎日新聞社)、『恐慌化する世界で日本が一人勝ちする』『日経平均3万円 だから日本株は高騰する!』『米中の新冷戦時代 漁夫の利を得る日本株』(以上、フォレスト出版)など多数。公式ウェブサイト

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(国際エコノミスト 今井 澂)

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