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「ケネディはCIAに暗殺されたのか」バイデンは"最後の機密文書"を公開できるか

プレジデントオンライン / 2021年1月1日 11時15分

凶弾に倒れる直前のケネディ米大統領(アメリカ・ダラス)=1963年11月22日 - 写真=AFP/時事通信フォト

1963年のケネディ米大統領暗殺事件は、ベトナム戦争の泥沼化や社会の分断を招き、米戦後史の大きな転換点となった。ケネディを敬愛するジョー・バイデン次期大統領が2021年10月、関連の機密文書を全面公開する見通しだ。果たして真相解明の可能性は――。

■バイデン次期大統領にとってケネディは「伝説の星」

年配の米国人は、1963年11月22日のケネディ暗殺事件をどこで聞いたか記憶している。当時、デラウェア大学の2年生だったバイデンは『アメリカはJFK暗殺を記憶する』(2013年)という著名人の著作集に短文を寄稿した。

「今も鮮明に記憶している。金曜日の午後で、暖かい日だった。授業が終わり、ホールから外へ出ようとしたら、誰かが『大統領が撃たれた』と叫んだ。キャンパス内に車を止めていたので、友人3人で車まで走り、カーラジオを付けた。信じられない思いだった。30分後か1時間後、大統領の死亡が伝えられた。学生らは口々に『聞いたか』『本当か』と叫んで途方に暮れた」

当時の学生がマイカーを持つのは異例だが、バイデン家は裕福ではないものの、父親が中古車のセールスマンだった。バイデンとケネディは同じアイルランド系カトリックで、バイデンにとってケネディは輝ける星だった。

「ケネディが当選した時、私は高校生だった。ケネディはすべての可能性を切り開いた。就任演説から月面到達の夢まで、彼は未来にあらゆる可能性があると力説した。60年代、アイルランド系カトリックは『2級市民』とみなされていたが、彼のおかげでプライドを持てた。偉大な伝説の人物だ……暗殺は米国で絶対に起きてはならないことだ」

■1992年の「JFK暗殺記録収集法」で暗殺文書全面公開を決定

2021年1月20日、バイデンはケネディに次いで米史上2人目のカトリック教徒の大統領となる。

そのケネディ暗殺事件はいまだに謎のままだ。

後任のジョンソン大統領が設置したウォーレン委員会の報告書は、リー・ハーベイ・オズワルドの単独犯行であり、陰謀はなかったと結論付けた。

しかし、暗殺50年後の2013年の世論調査では、暗殺に組織的陰謀があったと思う米国人は61%で、単独犯行と考える30%を大きく上回った。米国では、関連本が300冊以上出版され、依然として関心の高い「未解決事件」だ。

一方で、ケネディ暗殺事件の情報公開はかなり進んでいる。事件は、中央情報局(CIA)やマフィアの一部が実行したとする「陰謀説」を描いたオリバー・ストーン監督の映画『JFK』(1991年)が反響を呼ぶと、米議会は1992年、「JFK暗殺記録収集法」を採択し、関連文書を25年以内に全面公開することを決めた。

■CIAやFBIが一部文書の公開延期を要請?

暗殺事件関連の文書は計約500万ページに上り、同法に沿ってこれまでに88%以上の文書が全面的に、11%は一部黒塗りで機密を解除され、ワシントン郊外の国立公文書館で公開されている。

残りの3200点の文書も2017年10月に解禁が予定され、トランプ大統領は「JFKファイルの全面公開は明日だ。非常に興味深い」とツイートしていた。

ところが解禁されたのは2890点で、残る約300点の公開が突然延期された。1992年の法律は、「国家安全保障上の理由で大統領は公表を見送ることができる」としており、CIAや連邦捜査局(FBI)が大統領に一部文書の公開延期を要請したためとみられてきた。

しかし、大統領はその際、「文書秘匿が適切かどうかを2021年10月26日までに再検討する」としており、公表の是非をバイデン次期大統領が判断することになる。

多くの歴史家らはすでに、文書の全面公開を求めている。上院議員として1992年の文書公開法を支持したバイデンは、高校時代から敬愛する大統領の悲劇の真相解明に動く可能性が強い。

■オズワルド単独犯行説が虚構であるのは確実

筆者は20年前、テキサス州ダラスのデーリー広場を訪ねたが、現場を見ると、オズワルド単独犯行説が虚構であることがすぐに分かった。オズワルドが撃ったとされる教科書ビル6階から現場の道路まで80メートル以上あり、街路樹が邪魔をしていた。海兵隊で射撃の成績が悪かったオズワルドが、1発撃つたびに手元のレバーを引くイタリア製旧式ライフル銃で6秒間に3発発射し、動く標的に命中させたとは思えない。

しかし、オープンカーの右前方、グラシーノールと呼ばれる垣根からはざっと30メートルで、十分狙える距離だ。現場にいた90人のうち、警官を含め60人以上がグラシーノールから発砲があったと証言した。写真家のザプルーダーが撮影した8ミリフィルムでも、致命傷となった銃撃で大統領は後方に反り返っており、前方から銃撃があったことが分かる。

事件の2日後、オズワルドがナイトクラブ経営者のジャック・ルビーにダラス警察署で射殺されたこと、車列が無防備で、パレードのルートが前夜変更されたことと併せ、陰謀があったのは確実だ。

■近年の新研究で注目される「キューバ・コネクション」

暗殺の黒幕については、CIAや軍産複合体、マフィア、旧ソ連、ジョンソン大統領から宿命のライバルだったニクソン大統領に至るまで多くの臆測を呼んだが、近年の情報公開や新研究で注目されているのが「キューバ・コネクション」だ。

1961年のケネディ政権発足後、CIAが亡命キューバ人部隊によるカストロ政権打倒を試みた「ピッグス湾侵攻作戦」、旧ソ連が弾道ミサイルをキューバに配備した「キューバ危機」など、キューバが米国の安全保障の重大な脅威となった。そのためCIAはカストロ首相の暗殺工作を進めたが、逆に大統領がキューバによって暗殺されたというシナリオである。

近年の情報公開で、オズワルドは暗殺の2カ月前、メキシコ市を旅行し、ソ連とキューバ大使館を訪れていたことが判明した。オズワルドはキューバ大使館でケネディ暗殺に言及していたことも、FBIの報告書に書かれていた。

CIAの内部メモでは、カストロ首相は暗殺事件の2カ月前、ハバナでAP通信記者と非公式に話し、「米国の指導者が私を消そうとすれば、彼も安全ではなくなる」と警告していた。カストロは自身の暗殺計画を察知し、報復を示唆したともとれる。

■ケネディ暗殺は「ピッグス湾侵攻作戦の報復」という見立て

マッコーンCIA長官が内輪の協議で、「カストロは恐ろしく乱暴なことを話しており、(暗殺は)能力の範囲内だ」と語っていたことも判明した。

元上院情報特別委のスタッフだった作家のジェームズ・ジョンストンは2019年秋に出版した『殺人株式会社 ケネディ政権下のCIA』という著書で、ケネディ暗殺はピッグス湾侵攻作戦の報復としてキューバが計画。ジルベルト・ロペスという米国在住キューバ人が犯人で、オズワルドはおとりだったと指摘した。ロペスは事件当時23歳で、暗殺当日ダラスにおり、同日深夜テキサスからメキシコに入国。4日後にメキシコ市からキューバに航空機で移動した。乗客はロペスただ一人だった。暗殺の4日前、ケネディがフロリダ州タンパを訪れた時も、ロペスはタンパに滞在していたという。

サングラスをかけたジルベルト・ロペス
画像提供=米国立公文書館
ケネディ暗殺犯として浮上したキューバ人、ジルベルト・ロペス - 画像提供=米国立公文書館

ただし、ロペスの人物像や、暗殺当日ダラスで何をしていたかなど核心の部分は書かれていない。FBIはオズワルド同様、ロペスを不審な人物として事件前から調査しており、近年の情報公開で顔写真や関連文書が公表されている。

だが、ジョンソン大統領やウォーレン委員会は、キューバ関与説が高まれば、国民がデマで扇動され、ソ連を刺激して新たな核戦争の危機を招きかねないことを憂慮し、オズワルド単独犯行説をとったとされる。

■NHKは「暗殺を実行できるのはCIAしかない」として放送

逆に、失敗に終わったピッグス湾事件でケネディに恨みを持ったCIAの反ケネディ派がオズワルドを利用して暗殺を敢行したとの見方もある。

NHKは2020年春、「未解決事件・JFK暗殺」という調査報道番組で、オズワルドが逮捕直後、「I'm just a patsy(はめられた)」と叫んだ謎を追い、暗殺事件の黒幕はCIAのジェイク・エスターライン西半球局長とウォルトン・ムーア・ダラス局長の2人のケースオフィサーだと分析した。

2人はピッグス湾事件の責任者で、ケネディが最終段階で攻撃を停止し、CIA幹部を更迭、CIAの解体も検討していたことに恨みを持っていたという事情にも触れている。「暗殺を実行できるのはCIAしかない」という見立てで、中立公正のNHKとしては踏み込んだ内容だった。

当面、最後に残った300点の機密文書解禁が待たれるが、専門家のラリー・サバト・バージニア大学教授は「もし核心部分を暴露するような資料があれば、とっくに廃棄されているだろう」と語った。その場合、文書の全面公開によっても事件は解明されず、永遠に謎が残ることになるかもしれない。

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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学海外事情研究所教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。著書に『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)などがある。

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(拓殖大学海外事情研究所教授 名越 健郎)

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