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英語を仕事で使いこなす人が着実に踏んでいる「5つのステップ」の正体

プレジデントオンライン / 2020年12月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TakakoWatanabe

英語を使いこなすにはどうすればいいのか。慶應義塾大学環境情報学部の今井むつみ教授は「英語を日本語に置き換えているうちは難しい。無意識に自動的に使えるようになるためには、5つのステップを踏む必要がある」という——。

※本稿は、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

■「単語の意味がズレている」英語が上達しない根本原因

ことばの意味は点ではなく面である。「hear=聞く」のようにフラッシュカードや語彙リストで与えられている英単語は、じつは「意味」とは言えない。

面としての単語の意味の一つの点にすぎない。『英語独習法』で述べたように、子どもはある状況の中で発せられた意味の点から面を推測してことばを覚えていく。

外国語学習者も同じだ。学ぼうとしている言語での分類のしかた、面としての単語の意味を、点としての例文や辞書にある説明から推測することになる。しかし、そもそもその外国語を知らないので、母語によって自分が作りあげた分類のしかた(母語の単語スキーマ※)をよりどころにして面の範囲を決めるしかないのである。つまり、無意識に母語の単語がもつ意味の範囲を使ってしまう。これはごく自然なことである。

※スキーマとは、ある事柄についての枠組みとなる知識のこと。多くの場合、人はスキーマの存在に気づかず、無意識に使っているが、スキーマはどの情報に注目し、記憶するかに大きな影響を与える。スキーマについては『英語独習法』第2章に詳しい説明がある。

母語の意味範囲を誤って外国語に適用してしまう誤用例は枚挙に暇がない。たとえば、中国からの留学生は「薬を食べるのを忘れました」とよく言う。私たちは「薬を食べる」をヘンだと思う。

しかし、同じような誤りを私たちも英語でしてしまう。たとえば「彼はこの書類に目を通しておくように部下に言った」と「彼は明日アメリカに行くよと言った」を英語にするとき、「言う」に当たるのはsay, talk, tellのどれでもいいんじゃない、と思ってしまったりするのだが、そうではないのだ。

■誤用は無意識に母語に当てはめることで生じる

最初の文は書類を読んでおくようにという指示だからHe told his staff to take a look at that document.のようにtellを使うのが適切である。

2番目の文は、He said to/told me that he would go to the US the next day.のようにsay, tellの2通りの可能性がある。「私に直接伝えた」というニュアンスならtellを使うが、誰か別の人に言っていたのを聞いたのだったらsayを使う。状況によって動詞の選択は違ってくる。

「言う」とsay, talk, tellは日本語のほうが意味範囲が広いケースだが、その逆もある。たとえばwearの意味範囲が「着る」と同じだと思ってしまう。すると、どういうことが起きるかと言うと、Look at the cool pants/shoes/hat/necklace/glasses she is wearing.という「正しい」英文を、非常に多くの日本の学習者が「不自然である」と判断してしまうのだ。ズボン・靴・帽子・ネックレス・眼鏡という、日本語で「着る」と言わないものをwearの目的語にした英文だからである。

座敷に上がるために靴を脱いだとき、靴下に穴があいていて「恥ずかしかった」と言いたい場合、何と言うだろうか? 「恥ずかしい」をWeblio英和・和英辞典で検索すると、第一の語義として<恥ずべき>があり、対応する英単語としてdisgraceful; shamefulとある。さらに「恥ずかしい」の第二の語義として、<きまりが悪い>があり、be ashamed《of》; be embarrassed《by, about》と書かれている。

オフィスでコミュニケーションをとる
写真=iStock.com/TakakoWatanabe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TakakoWatanabe

■日本語スキーマから“点”を拡張するしか手立てがない

たったこれだけの手がかりから、その単語を使うことができるすべての状況を推論し、面としての意味を復元するのは不可能なことである。いきおい学習者は、日本語スキーマから点を拡張するしか手立てがない。このような辞書の記述から「恥ずかしい」=ashamed=embarrassedの公式を学習者が作ってしまうのは、まったくもって、もっともなことである。

しかし、ashamedは「本来してはいけないことを知りつつもしてしまって恥ずかしい」という罪の意識を伴ったときに使うので、靴下に穴があいていて「恥ずかしかった」という状況で使うと、英語母語話者には奇異に聞こえてしまう。

ここではI feel embarrassed.がもっとずっと自然な言いかたである。しかし、一度「恥ずかしい」=ashamedの公式が頭に入ってしまうと、他の言いかたは、聞いてもスルーしてしまい、なかなか入ってこない。やっとembarrassedを覚えても、こんどはashamed=embarrassedの公式を作ってしまう。

日本語話者はさらに、shyも「恥ずかしい」として記憶しているので、靴下に穴があいていて恥ずかしいと言いたいときに、I am shy to find a hole in my sock.などのように言ってしまう誤用も散見される。

shyは状況ではなく、性格のことを表すので、ashamedとshyは英語話者にはまったく違うことばであるが、日本語では「恥ずかしい」と「恥ずかしがりや」の語根が同じなので、混同してしまうのである。

■スキーマは自分で探さなければ身につかない

ではこの問題にどのように対処したらよいか。まず、日本語母語話者は英語を使うときに無意識に日本語スキーマを使っていること、しかし、それを使うとほとんどの場合、英語では不自然な文を作ってしまうことを認識する必要がある。次に、英語母語話者のスキーマを自分で探していくことが重要である。

なぜ自分で探していかなければならないのか。日本人が間違えやすいパターンを解説した本はたくさんあるのに、と読者は考えると思う。一つには、これらの本はなぜ日本人がこのような間違いをするのか、その根本にある問題を説明していないので、その根本をどのように修正できるのかについての示唆を得ることができないからである。

さらに、1冊で日本人がよく使う不自然な表現を100指摘してあったとして、それを一生懸命覚えればその100のヘンな表現は直るかもしれないが、ヘンな表現はほかにも無数に存在する。無数に存在する不自然な表現をすべて指摘してくれる本やウェブサイトは存在しないということが第二の理由だ。

しかし、自分でスキーマを探索し、見つけなければならない第三の(そして最大の)理由は、人は正しいスキーマを誰かに教えられただけでは、結局前からあるスキーマに負けてしまい、新しい、正しいスキーマを定着させることができないからである。

■英語学習は日本語スキーマとの闘いだ

前にも述べたように、スキーマは、氷山の水面下に隠れていて、無意識にアクセスされ、使われる。英語スキーマをアウトプットに使えるようにすることは、すでに身体の一部になっている日本語スキーマとの闘いでもある。いったん身体が覚えたことをリセットするのはたいへん困難であることは、読者も経験があるのではないかと思う。

日本語スキーマの影響で「似ている」と思っていっしょにしてしまっている単語の意味の違いを理解し、使い分けをするために大事なのは、比較し、意識的に違うところを見つけ出すことだ。しかし、自分の中で「同じ」と思っていると、人が解説してくれても、ふむふむとそのときには思うのだが、もともともっている誤ったスキーマのせいで、大方忘れてしまうのだ。

では、英語としては誤ったスキーマ(日本語に基づいたスキーマ)を修正するにはどうしたらよいか。スキーマの修正は、現在のスキーマを疑うところから始まる。長年染みついて身体の一部となったスキーマを書き換えるには、自分のスキーマが誤っているという事実を突きつけられ、それに納得することがもっとも有効である。仮説をもち、予測をして、それが裏切られたとき、人はもっともよく学ぶのである。

英語スキーマを作っていくには、まず、学習者が表面に現れない英語のパターンを自分で見つけていかなければならない。そして、そのパターンから予測される文を作ってみる。そして、その予測が正しかったかどうか、検証するのである。

■英語スキーマを身につけるための5つのステップ

ここまで読んでくださった読者の中には、やはり大人になってからの英語学習はたいへんすぎるから自分には無理だと思った人もいるかもしれない。

今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)
今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)

まったくそんなことはない。それを伝えるのが本書の目的なのである。難しいことを難しいから無理だというのでは本を書く意味がない。

しかし難しいことを難しいと言わず、「簡単にマスターできる」と言うのは、ウソであるばかりか、学習に甚大な悪影響を及ぼす。スキーマが根本からズレているのに、ズレていることに気がつかずに、無理やり学習しようとしてもうまく学べるわけがないからである。

日本語スキーマを当てはめていることに気づかずに英語のアウトプットを続けていては、いつまでたっても上達は望めない。

最終的には英語スキーマが、母語スキーマのように身体の一部となり、無意識に使えるようになるとよいのはもちろんである。しかし、そこに至るためには、次のステップを経る必要がある。

①自分が日本語スキーマを無意識に英語に当てはめていることを認識する。
②英語の単語の意味を文脈から考え、さらにコーパスで単語の意味範囲を調べて、日本語で対応する単語の意味範囲や構文と比較する。
③日本語と英語の単語の意味範囲や構文を比較することにより、日本語スキーマと食い違う、英語独自のスキーマを探すことを試みる。
④スキーマのズレを意識しながらアウトプットの練習をする。構文のズレと単語の意味範囲のズレを両方意識し、英語のスキーマを自分で探索する。
⑤英語のスキーマを意識しながらアウトプットの練習を続ける。

ポイントは「意識」と「比較」である。最終的には意識しなくても自動的に英語スキーマが使えるようになりたい。しかし、最初のうちは、日本語スキーマとのズレを意識し、さらに、英語スキーマを働かせることを意識しながら練習を繰り返すことを続ける必要がある。

この過程を経て、初めて英語スキーマは身体の一部となって、無意識に自動的に使えるようになるのである。『英語独習法』ではこのことについてもっと詳しく具体的に述べているので参考にしてほしい。

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今井 むつみ(いまい・むつみ)
慶應義塾大学環境情報学部教授
認知科学を中心に研究者や教育実践者などが理論・知識・経験をシェアする「学びを考えるコミュニティ」ABLE(http://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/imailab/)主宰。

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(慶應義塾大学環境情報学部教授 今井 むつみ)

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