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文系でも目指せる「社会人対象の医学部受験」の穴場・裏ワザ案内

プレジデントオンライン / 2020年12月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Scukrov

現在、別の仕事に就いている社会人が医師の道を目指し医学部に入ることを模索する動きが活発化している。麻酔科医の筒井冨美氏は「コロナ禍の影響で2021年度の試験は一部の出題問題が易化される予定ですし、在宅ワークなどで社会人が医学部受験予備校のオンライン授業を受けやすくなりました。また年約200人の学士編入枠や、同窓会枠などを利用すれば合格のチャンスも増える」という――。

■コロナ禍でなぜか医師を目指す社会人が増えている

先日、いちど薬剤師となった後に医学部再受験に成功した知人の医師がこんな話をしてくれた。

「昔から、医学部受験にチャレンジしたい社会人から相談されることが多いのですが、2020年はその件数が過去最高でした」

医学部受験専門予備校の関係者に聞いてみると、「医学部受験の説明会に参加する社会人が目立つ」と述べた。

目下、コロナ感染者の増加で医療の最前線は疲弊している。医療崩壊の危機に瀕する感染者の入院を受け入れる病院はもちろん、受け入れていない病院も「長期間のコロナ対策」「高齢者の受診控え」などにより、経営環境が悪化しているところが多い。

2020年は、医師や看護師など医療現場の過酷さや病院経営の難しさにフォーカスがあたった年だったが、そうした苦境に立たされている世界に飛び込み、自分も人命を救う力になりたいという献身力の高い社会人が少なくないのだ。

そこで今回は「医学部受験にチャレンジして、人生の新しいページを開きたい」社会人に向けたアドバイスをしたい。

■2018年の東京医大騒動で、社会人受験生の門戸が広がる

2018年、東京医科大学における文部科学省関係者の不正入試を発端に、大規模な女性受験者や高齢(多浪)受験者の減点が発覚し、連日トップニュースをにぎわせる大騒動となった。

一連の不正入試の反省から、同年秋には全国医学部長病院長会議が「性別や年齢による入試差別を禁止」する「大学医学部入学試験制度に関する規範」を公表している。要約すると以下のとおりである。

・男女差別:厳禁
・年齢差別:厳禁
・内部進学、同窓会枠、推薦、帰国子女、学士入学:予め要件を明示すれば容認
・地域枠(出身地による加点):予め要件を明示すれば容認、また地域枠内の明示された年齢制限は容認

その結果、それまで10年以上、医学部生の女性率は30~35%未満で推移してきたが、2019年度には37.2%に増加した。年齢差別についても文科省は追跡調査を行い、「前年に比べて2019年度には改善された」と調査結果を公表している。2020年以降も同様の追跡調査が行われる予定なので、今後の大規模な減点入試は不可能だろう。

■コロナ禍で数学Ⅲが選択科目に、文系出身者にもチャンス

大学受験において、医学部は理系最難関学部である。国公立大の医学部や、学費安めの私立医大の多くは数Ⅲが必須であり、医学部受験する社会人にとっては大きな壁となっていた。

しかし2020年6月、文科省はコロナ禍で長期休校した現役の受験生のために各大学に個別試験での「出題範囲の配慮」を要請した。具体的には、高校3年で学ぶことが多い数学Ⅲや物理などで、「学びきれなかった範囲を避けられるよう選択問題を設ける」「学習指導要領を超える『発展的な学習内容』は出題しない」などである。

これにより、大学受験からブランクのある社会人受験生に追い風となると同時に、数Ⅲや微積分を履修していない文系出身者にも医学部への可能性が出てきたことになる。

また、コロナ禍で在宅勤務や副業を容認する企業が急増した。医大受験予備校もオンライン授業や面接を取り入れる学校が増えている。多忙な社会人でも勉強時間の確保が、前年度に比べて容易になった。よって、コロナ禍がもたらした社会のオンライン化は、社会人受験生にとっては追い風でもあるのだ。

■社会人が医学部に入るなら「一般枠」か「編入枠」で

社会人が医学部再受験を目指すには2つの道がある。

1つは、上記のように高校生と同様に「一般枠」で学力試験を突破する方法、もう1つは「社会人編入枠」を目指す方法である。

2000年以降「良医育成のため、いちど大学を卒業し社会経験を積んだ人材を、積極的に医学部に編入させること」という名目で編入試験を実施する医大が増加し、現在では合計約200~220人の編入枠が設定されている。定員数は少なく(1~20人)、倍率は非常に高い(おおむね10~20倍、中には50倍超も)が、医学部の2年次(1年次後期、3年次もある)に編入できるので在籍期間が短縮されるのも魅力である。

胸の前で腕を組む外科医
写真=iStock.com/psphotograph
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/psphotograph

社会人編入枠の受験は具体的にはどんな内容なのか。

最大の特徴は、一般枠に比べて受験科目が少なめという点だ。高3生などが受験する一般入試では、国公立大の場合、大学入学共通テスト(旧大学センター試験、5教科7科目)のあと、2次試験で学科試験(英・数・理科2科目が主流)+面接を受ける。一方、私立大の場合は、学科試験(同)と面接などが課される。

社会人編入枠でも、1次試験:学科試験と2次試験:面接の組み合わせが多いが、1次では「英語+生命科学」「英語+総合問題」「自然科学系および生命科学系(数学・物理、化学・生物)」など、2次で小論文・面接というパターンが多い。小論文や面接が重視される傾向があり、国公立大の場合は共通テストを受ける必要はない。さらに、入試期間は大学によって、5~6月、7~8月、9月以降とそれぞれ異なるため、複数の大学を受験することが可能であることも社会人受験生にはメリットだろう。

編入枠は、かつては「医学研究者募集」的な意味合いが強く「元研究職」「博士号所持」などが優遇されたが、近年では「卒業後も地元に定着してくれそうな人材」が選ばれているといわれる(特に地方医大)。

出題傾向は大学によってさまざまなので、事前の情報収集が重要になる。河合塾KALSのように、「社会人医学部編入コース」を設ける予備校もあり、オンライン授業やe-learningも行われているので、本気で受験を考えるならば検討する価値はあるだろう。

■地域枠の攻略は面接が鍵…「シュバイツアーの伝記に感動」はNG

日本の医療界における長年の問題の一つに「医師偏在」があり、都市部(なかでも東京圏)に医師が集中している現状がある。この一極集中への対策が「医大入試における地域枠」である。2020年度の実績では、医学部総定員9330人中1679人(18.2%)が地域枠とされている。

地域枠は偏差値的には若干低いが、小論文や面接などで地域医療への熱意を確認され、「医学部卒業直後から9~11年程度の指定地域での勤務」が義務化されている。従来は「指定地域での勤務」が紳士協定であり「奨学金返金」以外の罰則がなかったため、「結婚」「子育て」「祖父の介護」などを理由に都市部に転居する、いわゆる「足抜け」と呼ばれる義務放棄が後を絶たなかった。

そこで厚生労働省は、2019年からは「足抜けした元地域枠医師を雇った病院には、補助金減額」という一歩踏み込んだ策を講じた。さらに2020年には、「足抜けした元地域枠医師は、専門医資格が得られない」という規則を追加している。よって「偏差値低めの地域枠で郷土愛をアピールして、まんまと医師免許をゲットした後に、東京に戻る」という作戦は、今後は失敗に終わる確率が高い。

社会人が地域枠受験を目指す場合、「出身地ではない地域枠を受験」するケースでは面接で厳しく追及されることが多い。面接官は地域医療のプロなので、少なくとも「シュバイツアーの伝記に感動」「豊かな自然が魅力的」のような薄っぺらい説明では、合格はおぼつかないことを覚悟すべきだろう。

■養子で「同窓会枠」という裏技もある

前述の「大学医学部入学試験制度に関する規範」では、「同窓会枠」が認められている。

例えば、東邦大学医学部には「同窓生子女入試」があり、2020年11月に試験が実施された。対象は、「本学医学部の卒業生または医学部在学生の血族2親等までの者」で、募集人員は5人。選抜方法は、「適性試験、基礎学力、面接、調査書」である。

かつて、医師会の宴席などで「実は、○○医大の同窓枠は10人あるらしい」などとヒソヒソ話されていた枠は、インターネット上で確認できる公認の制度となったのだ。

MRI画像を説明する女性医師
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

「父または母が卒業生」であることを要件としている大学が多いが、「実子のみならず養子もOK」であることも多い。実際、開業医ファミリーなどでは、「自分の子どもの学力がイマイチの場合、優秀な親戚の子供に学費を支援して後継者にする」ことは珍しくない。少子化で後継者不足に悩む開業医も増えているので、社会人の医学部受験に興味がある読者は、近しい親族に同窓会枠のある私立医大卒業生がいれば、ぜひ相談するといいのではないか。

なお、東京女子医大の同窓会枠は「3親等までOK」である。昭和時代、すなわち「仕事と育児の両立が今よりはるかに困難だった」頃の開業医ファミリーでは、「優秀な娘は女医、そうでない娘は出産育児」と“役割分担”することで、「伯母から姪」に院長のバトンを渡すパターンが散見された。その名残なのかもしれない。

■まずは模擬試験、その後はひたすら勉強

以上のように社会人の医学部受験を後押しする環境は整いつつある。だが、仕事に就きながら、本当に合格できるのだろうか。

医学部再受験を検討するなら、まず行うべきは模擬試験の受験である。私自身も社会人から「自分も医者になりたいんですけど」と相談されることがある。その際、「では、模擬試験受けて結果スコア見せていただけますか」と返答するのだが、実際にスコアを見せてくれた人は今のところ存在しない。「模擬試験は、勉強して基礎ができたら受けます」などと返答する人もいるが、そういうタイプが合格に至ったという話は聞いたことがない。

中には「今から医学部に行っても卒業は35歳になるけど、結婚や出産できますかね」などと心配し、あちこちに相談を持ち掛ける女性も存在するが、「そういうのは合格してから心配すれば」としか返答しようがない。こうした漠然とした不安で時間を浪費するタイプは、合格には至らないだろう。参考までに言えば、女医は現役合格者でも独身率が高く、年を重ねた再受験女医では独身率がさらに高くなっている。

結果がどうあれ、模擬試験で客観的な学力を把握した後は、不足分はひたすら勉強して補う……これが、昔も今も変わらない「何が何でも医大合格」したい人の受験対策の王道である。

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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