2021年にやってくる「急落相場」で投資家がやるべきこと、絶対やってはいけないこと
プレジデントオンライン / 2021年1月5日 11時15分
■誰も予想できなかった特異な相場
2020年の株式市場は、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う経済活動の停滞を背景に、きわめて激しい値動きとなった。しかし、その後は順調に値を戻し、米国の主要株式指数は史上最高値を更新するなど、大方の予想を超える株価の回復を示した。
3月以降の新型コロナ感染拡大や、世界各国でのロックダウンなどの状況を見れば、当時まさか年内に現在のような株価水準に戻すと予想していた人はほとんどいなかったはずだ。
世の中の動きを予測し、それを資産運用における投資判断に結びつけることはきわめて難しい。今回のような非常事態の環境、相場展開では、百戦錬磨のプロたちでも翻弄され、投資判断を間違え、大きな損失を出すことになった。
■人間は同じ失敗をする…
ある程度経験を積んだ個人投資家にも同じことがいえる。経験を積むと、相応に自信が出てくる。また、成功体験もあるため自説を疑わなくなる。しかし、実はこのような投資家が最も危ない。
想定外の市場の動きを前に、冷静であったなら本来とれていたはずの行動ができず、自分自身を見失い、思わぬ損失を出すことになる。また、自前の投資判断はどうしても近視眼的になりがちで、目先のイベントや材料に振り回されるようになる。そして判断を間違い、大きな損失を出すケースも生じてくる。
そうならないようにするためには、まずは自分にふさわしい運用方針を確立し、忠実に実行する強い気持ちを持つことが肝要である。言うのは簡単だが、実はこれがいちばん難しい。なぜなら、「お金」が絡むからである。
お金が絡むと、人間はどうしても正しい判断をしづらくなる。まして資産運用となると、短期間でできるだけ多くを増やしたいと欲が出るのが人の常である。しかし、そんな簡単にいくはずがない。
それらのことを十分に理解しているにもかかわらず、なぜか人間は同じ失敗をする。不思議な生き物である。いわば「学習効果がない」といえる。
■狼狽売りした時が「底値」
今回のコロナ危機では、2020年3月に株価はあっという間に急落し、きわめて短期間で大きく値を崩した。このような状況になれば、普通の投資家は耐えられない。狼狽(ろうばい)売りをしてしまい、その後の上昇相場に乗ることができなかった投資家が少なくなかった。
当時の状況では、コロナ危機からの回復には数年かかりそうな雰囲気だった。しかし、振り返ってみれば、その時につけた株価が底値だったのだ。
多くの投資家が同じ心理状態に陥り、同じ投資行動をとる。だからこそ、株価急落のクライマックスでこのようなことが起きる。結局、自らが耐えられなくなって売ったことで株価は底打ちし、反転に向かうのである。本当に皮肉なものである。
■うまくいった投資家は果敢に買い下がった
一方、今回のような株価の急落局面でうまくいった投資家は、急落にもひるまず、果敢に安値を買い下がっている。「株価はいずれ戻る」という基本を忘れず、下げ続ける相場に耐え、それでも安いところを買い続けた。
コロナ危機による株価下落をむしろ投資拡大の好機と捉え、保有していた現金を株式購入に振り向け、株式の保有比率を徐々に増やしていったのである。
しかし、このようなことができる投資家は、実際にはそう多くはない。下げ続ける可能性がある中で、保有する株式を増やせば評価損が膨らみ、資産価値がどうなるかわからない。普通であれば、コロナ危機のような下げ相場ではとても精神的に耐えられるものではない。
「株式投資は精神鍛錬の場なのか?」と言われそうだが、そのような一面があることも事実である。下げ相場で慌てて狼狽売りを出すようでは、残念ながら資産形成はできない。
■知識がある人ほど間違うもの
過去の株価推移を振り返れば、株価の歴史的な調整局面は、多くのケースで「買い場」となる。買い場というのは、資産を増やすために、株式保有の比率を増やすタイミングだということである。
株価が調整しているということは、株価はその直前よりも安くなっていて、株式を安く買うことができる。ビジネスでもそうだが、できるだけ安く買い、買い値以上の価格で売れば利益が出る。
単純なことのように思えるが、現実には非常に難しい。それは、人間の判断にはどうしても「思い入れ」や「感覚」が入るからである。
なまじっか知識があると、「今の相場状況では、今後こうなりそうだ」「今の相場はおかしい」などと考え、自らの勝手な判断で、「現在の株価水準は割高である」などと考えるようになる。
■投資家をあざ笑う「天邪鬼」な市場
そして、取引の技術が上がってくると、たとえば信用取引で「空売り」をすることなどを覚える。空売りとは、保有していない株式を借り、それを元手に売りを仕掛ける行為である。株式そのものを保有していないのだが、市場で売ることができるのである。
この方法で、下がり銘柄を狙って売りを仕掛け、安くなったところ買い戻し、借りた株を返せば利益が残る。しかし、思惑とは逆に、株価が上昇した場合には大きな損失を被ることになる。
基本的に株価は、どんなに下がっても価値はゼロ以下にはならないが、株価は理論的には青天井に上がる可能性がある。そこまで極端ではないにしても、それに近いような上昇に遭遇することはある。
市場とは不思議なものである。一度大きな整理がなされると、今度は一転して相場が反転し、勢いを増していくのである。そのような動きになった理由を考えていては、とてもついていけない。なぜなら、相場の動きの背景について、リアルタイムで納得できる理由を探すのはほとんど不可能だからである。
相場は一歩も二歩も先を行くというのは、まさにこのことである。そして、空売りを行った投資家は、最終的に「踏み上げられ」、損失を確定するために買い戻しを行う。そして、ここで株価がピークアウトすることになり、調整し始めるのである。
■下げを利用して買いを増し、資産を積み上げる
このような点を考えると、やはり相場は精神鍛錬の場のように思えてくる。
しかし、実際にはそれほど複雑ではない。要は、どのような「やり方」で市場に参加するかである。重要なポイントは、長期的に資産を増やす方法を身につけることである。
相場の上げ下げなど、プロでも当たらない。一般の人は当たらないものを分析するのに時間を割くのではなく、誰でも可能な資産運用の方法を身につけるべきだ。
資産運用では、大きく下げた時に買わないと、株式投資は収益が出ない。それも大きな下げのほうがなおよい。このような下げを利用して買いを増やしていき、資産を積み上げていくのである。
■金融資産の3割を現金で保有し、調整を待て
今回のコロナ危機でもそうであり、その前のリーマン・ショックも同じだが、暴落ともいえる下げ局面でいかに果敢に攻めて買えるかが、資産を増やすうえで重要なポイントになる。
また、10%程度の調整は株式市場では頻繁に到来する。このような調整もまた、資産を増やすうえで重要なタイミングになる。
下げ相場ですかさず買うためには、常に資産の一部を現金で保有しておくことが肝要である。私は常々「金融資産の3割を常に現金で保有せよ」と言っている。3割は多いと思えば、2割でもよい。
現金さえ保有しておけば、下げ相場で買いを入れることができる。そして、株価が上がりすぎたと感じれば、資産の一部を売却して現金化する。そうすれば、現金を保有しながら、下げ相場で再び安く株式を購入することができる。
■投資家が「最もやってはいけないこと」
投資家が最もやってはいけないことは、下落相場で狼狽売りをすることと、上昇相場で空売りを行うことである。
下落相場では、むしろ保有している資金を利用して、保有株を増やすべきである。そして、ある程度高くなった時点で一部を現金化し、また下落を待つのだ。
ただし、半分以上資産を売却するようなことは行わないほうがよい。株価はいずれ上げていく。その機会を失ってはもったいない。
2021年も動乱相場が到来するだろう。10%から15%程度の下げは複数回あるだろう。その時がまさに資産を増やすチャンスである。資産を増やす人はそのような場面で買い、減らす人は底値近辺で投げるだろう。
両者の資産額の差は、期間が長くなればなるほど大きくなる。
■臆病で果敢な投資家が勝つ
買い場は間もなくやってくる。その機会を見逃さなければ、数年後あるいは数十年後には資産が大きく膨らんでいることは間違いない。
最後は「臆病だが、チャンスが来れば果敢に攻めることができる投資家」が勝つことになる。
取引を行う回数はむしろ少ないほうがよい。冷静に市場を見る癖がつけば、必然的にそうなっていくはずである。結果として取引コストも低減させることができ、資産はいっそう膨らんでいくだろう。
人類や企業が「よい生活をしたい」「もっと成長したい」と考えるのであれば、経済は拡大していく。その結果、企業業績が拡大し、株価も上昇していく。
このように考えれば、株価は基本的に成長し続けるものであるという真理にたどり着く。この点を理解していれば、何が起きても驚くことなく、冷静に対処できるはずである。
やがてやってくる急落局面で、そのたびに保有する現金で買い下がる。このように対処できれば、ピンチはチャンスになるはずである。規模は違うにしても、あなたも著名なウォーレン・バフェット氏のような「立派な投資家」になれるのだ。
■株式と金を同時に買え
株式を購入する際には、購入代金と同額あるいは少なくともその半分程度の金(ゴールド)を買うこともぜひ検討したい。金は株価急落時のヘッジになるだけでなく、インフレヘッジにもなる。
現在はデフレのような経済状況だが、各国の財政出動と中央銀行の資金供給は、いずれインフレを引き起こすだろう。また、過去のデータからも、株式と金の値動きには相関関係はほとんどなく、同時に保有していると資産保全効果があることがわかっている。
このような利点もある金も併せて保有することで、心理的な不安感が払拭され、長期的な資産運用が可能になる。ここまでできるようになれば、海外のヘッジファンドにも負けないくらいの運用者だといっても過言ではない。
ぜひこのような基本に忠実な運用方法を身につけていただきたい。
金投資や金に関する詳しい解説を知りたい方は、拙著『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)をぜひお読みいただければと思う。今後の世界情勢や米ドルの動向、さらには米中対立の結末や金価格の将来見通しなどを知ることができるだろう。
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エモリファンドマネジメント 代表
1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事に入社し、非鉄金属取引に従事。英国住友商事(現欧州住友商事)に出向し、ロンドンに駐在。Metallgesellschaft Ltd.(ロンドン本社、現JPモルガン)、三井物産フューチャーズ、アストマックスを経て独立。現在はエモリファンドマネジメント代表。著書に『ロンドン金属取引所(LME)入門』(1999年総合法令出版)、『米国株は3倍になる』(2017年ビジネス社)など、共著書に『コモディティ市場と投資戦略』(2014年勁草書房)がある。新刊は『金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり』(2020年プレジデント社)。
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(エモリファンドマネジメント 代表 江守 哲)
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