結婚できない男を生み出してしまう「過保護すぎる母」

プレジデントオンライン / 2021年1月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/electravk

超少子化社会を迎えた日本。ニッセイ基礎研究所人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子さんは、統計データを正しく読み解くことで、誤った思い込みをなくし、真の課題に向き合う必要があると説きます――。

■少子化は女性の社会進出のせいではない

日本は「少子化」と言われ続けて30年近く経ち、1993年以降は合計特殊出生率が常に1.5未満の超少子化社会となりました。少子化が進んだ理由として、「女性の学歴が高くなったから」「女性が働くようになったから」「結婚しても子どもはいらないと考える人が多い」など、あたかも女性の社会進出が原因のように誤解されることが多いですが、これは誤りです。

まずは日本の出生数に関係するデータを丁寧に見ていきましょう。統計を見ると、日本の場合は結婚を伴わない出産は2%と非常に少なく、結婚と出産が深く結びついています。

初婚同士の夫婦が結婚して15年から19年経過して最終的にもつ子どもの数の平均(完結出生児数と呼ばれます)は、30年以上もの間「約2人」です。一方、出生率(合計特殊出生率)は、生まれた子どもの数を分子に、未婚・既婚を問わず15~49歳の女性全ての数を分母に算出します(詳しい計算方法は省略します)から、分母の未婚者の割合が増えれば下がります。つまり、日本の出生率の低下の原因は「1組あたりの夫婦が持つ子どもの数が減ったため」(そこは約2人で微減)というよりも、「未婚者割合が増えたこと」(婚姻数大激減)にあるわけです。

出生率の低下の大きな原因は「未婚化」。そして、未婚化は、男性で特に顕著に増加していることは前回の記事(「未婚化の原因は男性にも」婚期を逃していることに気づかない独身男性)でお伝えしました。いくつになっても結婚できると安易に思って結局は未婚化してしまう日本の男性があまりにも多いのです。

■男性よりも長生きリスクの高い女性

少子化が進み、長生きリスクが深刻化しているのは男性ではなく女性です。

2019年の出生数は前年度から約5万人減少し、第2次世界大戦後最低の86万人となりました。この数は、明治42年(1909年)ごろと同じレベルです。現在アラフィフの団塊ジュニア以上の中高齢人口が多いという過去の人口遺産のおかげで、今はそれほど総数レベルでは人口が減っているようには見えないかもしれませんが、足元の出生数は「半世紀で半数以下」にまで落ち込んでいるのが現状です。

イギリスやフランスのように、出生率が1.8や1.9くらいのレベルで、子どもが少しずつ減っていくのであれば社会保障上の問題は出にくいのですが、日本のように1.5以下という出生率は低すぎます(統計的に超低出生率といいます)。現在の40代が高齢者になったとき、日本は税金で支えられる高齢者層と、その税金を捻出する若年層のバランスが取れる状態ではなくなることが目に見えており、今のままでは老後の社会保障で現行水準を維持することに期待はできません。このままでは税収不足で、生活保護の仕組みさえ持続することが難しいかもしれません。

こうした状況の中で、男性よりも女性は長生きです。男性が婚期を誤解しているために結婚市場に出遅れることによって、20代男女のマッチングは難しくなっており、結婚市場における20代男女のプレーヤー割合のアンバランスが未婚化解消の大きな壁となっています。日本では未婚化は出生数の減少に直結しているため、人口の支えられる側の世代と支える側の世代のアンバランスが進み、男性よりも平均寿命の長い女性の方が老後苦しむ長生きリスクが高くなるのです。

車椅子を押す若い女性の後ろ姿
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■過保護すぎる母が「結婚できない男」を作る一因にも

少子化の原因である未婚化は、男性に強く見られているわけですが、その男性を旧世代の女性が育てていることも、「結婚できない男性」が増えたかげにはあるような事例が少なくありません。

都会では、地方から上京してきて一人暮らしをしている独身男性も多いのですが、地方の独身男性の多くは親と同居している傾向にあります。家賃不要、親の車も使える、身の回りの世話など手厚いサービスをしてくれる母親もそばにいるわけです。結婚相談所に30歳過ぎて現れる男性には、結婚相手の理想像をあたかもこのような手厚いサービスをしてくれる過保護な母親の若返り版ととらえているかのような男性も見受けられます。

もし成人してから一人暮らしであれば、誰かと同居して2人世帯になる経済的メリットは感じやすくなります。OECDの計算では、1人暮らしだった人が2人暮らしとなると、その生活費は2倍にはならず、約1.4倍にしかなりません。1人暮らしだった時にくらべて、1人当たり生活費が70%程度に減るのです。

ところが、元から親と同居しているとなると、結婚に経済的なメリットを感じることは難しくなります。過保護すぎる母親から離れる前提の結婚である場合は、身の回りのことをすべて自分でやらなくてはならなくなるかもしれません。結婚のデメリットが多く感じられるようになってしまうのです。

「結婚して独立するのはソン」ということになると、結婚相手には、「嫁に来て親と同居をしてほしい」という思考になりがちです。でも、今どきそんな結婚を望む若い女性は非常に少ない状況です。結婚の条件として、若い女性ほど親との同居を拒む女性が結婚相談所でも主流となっています。

■安堵する父、うなだれる母

2015年の国勢調査のデータを見ると、日本では20~40代の未婚男性の6割以上が、親や祖父母なども含めた親族と同居しています。50代になると1人暮らしをする未婚男性が増えてきます。この年代になってようやく、親の他界や施設入居などによって、慣れない一人暮らしを始める様子が垣間見えます。

ちなみに同じデータでは、20~40代の未婚女性の約7割が親や親族と同居しています。「どっちもどっちだ! 女性だって!」と言いたくなるかもしれませんが、そもそも未婚の割合(+人口数)が男女で異なります。20代後半以降、男性は女性の未婚割合を大きく超え始めます。女性はそもそもの未婚者の母数が年齢とともに男性よりも大きく減少していく一方となります。

イギリスやドイツ、アメリカなどほかの先進諸国では、独身者の3割以上が親と同居しているという統計結果が新聞等で公開されると、「そこまで若者が貧困なのか」と若年層の貧困問題ととらえられて、喫緊の政策課題として経済政策の検討などがなされます。

しかし、日本では貧困というより「むしろその方がうちの子も楽だろうし」といった親の価値観から同居を続けさせる傾向が強く、親との同居そのものが経済的前提条件によるものかはさておき、それが価値観的にはあまり問題になりません。ただ、この親との同居は結婚市場では、男女とも選ばれるためには不利な条件となっているのです。

結婚に関するデータ講演を行うと、30歳過ぎの独身の子を持つ親御さんから「息子の婚活のために何をしたら良いでしょうか」と質問を受けることがあります。特にお母様には、「とりあえず実家から出してください。かわいそうなどといって、ご飯を作ってあげたり、かいがいしく彼の部屋を掃除したりと、初老女性が成人男性の世話を焼くようなことはやめましょう」とお伝えしています。

講演でこうした話をすると、父親とみられる参加者は安堵したように会場を後にします。おそらく、未婚の息子が同居し続けていることを、以前から問題だと思っていたような様子です。一方、できるだけ長く息子を手元に置いておきたい母親とみられる参加者は、暗い顔で帰って行く様子が見受けられます。「先生、ひとごとじゃなかった、うちの話でした」と苦笑して退出した結婚支援員さんまでいらっしゃいました。

■過保護すぎる母親にはならないで

息子さんがいる読者の方には、息子さんにとって過保護にならないように、早いうちから自立をうながしてほしいと思います。

恵まれすぎた環境が当然となると、息子さんは結婚のメリットを感じることが難しくなってしまい、親元から自立しようという意欲を失っていきます。ゆくゆくは年老いた私の介護を……といった淡い期待をお持ちの方もいるかもしれませんが、自分の身の回りの世話でさえ過保護に甘やかされて育った息子さんが、果たしてあなたの介護をしてくれるものでしょうか。私自身、10年以上に及ぶ介護経験者ですが、介護は心身ともに厳しく、そんなに甘いものではありません。

■若者の意識は既に変わっている

冒頭で出生数の話をしましたが、日本は出生数が少なく、高齢者の割合が非常に高いので、社会保障制度を維持していくための労働人口が足りなくなっています。まずは納税者たる労働人口数を確保するために、これまでの健康な男性しか耐え難いような働き方スタンダードを変え、世界に冠たる長時間労働体質をやめて(先進国最低の時間当たり労働生産性)、男性も女性も労働市場にしっかり参加できるようにならないといけません。

そう言うと、「専業主婦家庭が減ると子どもが減る」「女性が働かないほうが子どもは増えるのでは?」という声が年配の方々から上がることがありますが、これも統計的には全くの事実誤認です。過去の記事でも指摘した通り、専業主婦世帯よりも共働き世帯の方が、1世帯当たりの子どもの数が多いのです。

若い人たちの意識はすでに変化していて、34歳までの未婚女性のうち、専業主婦になることを理想としている人は18%しかいません。実はパートナーは専業主婦が理想と考えている独身男性も1割程度なのです。そうであれば、こうした若い男女の価値観に合う社会を作る必要があります。夫婦共働きで、男性ばかりが経済力を背負うといった価値観はもはや若い男女には必要はない(むしろ受け入れられにくい)のです。

■本当の課題を知り、意識を変える

人口、特に少子化や結婚に関しては、データを無視した思い込みや誤解がとても多いのが現実です。結局のところ、これらの問題の解決のために今の日本に必要なのは、誤解にもとづいた「なんとなく」の論調に流されず、データに現れている真の社会構造をしっかりと読み解いて、自分や周囲の本当のライフデザインの課題を男女ともに知ることです。例えば「高給取りのエリート職業について、妻を働かせずに養える、これが理想の男性像!」などという旧時代的なカッコイイ男女像に基づいて何かしらライフデザインして思い描いていることがあるなら、それを一刻も早く改めたほうが、男女ともにはるかに生きやすいかもしれません。

女性も求められてもいない古い枠に自分をあてはめて息苦しいなどと言っていないで(女性が自分で作るガラス天井問題)、思い込みのない「今」をしっかり見つめて生きていかなければなりません。自分であえてガラスの天井を作って「ワンオペで苦しい。会社の制度が、日本が、もっと女性に優しく変わらないといけないのよ」と天下国家論・企業論をかざすばかりではなく、まずは自分のすぐ目の前の夫と向き合い、「どうしてあなたはできないの? 私ばかりなの? あなたも会社にかけあえないの?」と話し合い、まずは自分の足元を変えていくことからも逃げてはいけません。

息子に対してだけでなく、夫に対してまでも、過保護な母親メンタルになって物事を考えてしまっていないでしょうか。

まだまだ女性の側にも、「やっぱりお母さんみたいに男性に稼いでもらった方が楽なのでは……」というメンタリティが残っているように思います。婚活でも、自らの年収がそれなりにあるのに、自分よりもさらに年収が高い、統計的にはほとんどいないような年収の男性を紹介してほしいと言ってみる女性はまだいらっしゃいます。

バブルも崩壊し、リーマンショックも経て、人口構造的には、マジョリティである高齢者をマイノリティである若手層が支えなくてはならない――「女性は結婚後、パート程度がちょうどいい」などといったことが許される時代ではないのです。少子高齢化により大きく変わる社会構造の中で、男女ともパパママ世代ゆずりのメンタリティを変える必要があります。

男性を先進国最高水準の長時間労働から解放しましょう。女性だからと逃げないで、経済的な役割を担う気概を持ちましょう。どっちが養ったっていい。育児は男女ともにできるのですから。

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天野 馨南子(あまの・かなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー
東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年日本生命保険相互会社入社、1999年から同社シンクタンクに出向。1児の母。専門分野は人口動態に関する諸問題(特に少子化対策・少子化に関する社会の諸問題)。内閣府少子化関連有識者委員、地方自治体・法人会等の人口関連施策アドバイザーを務める。エビデンスに基づく人口問題(少子化対策・人口動態・女性活躍・ライフデザイン)講演実績多数。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)等。

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(ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子 構成=太田美由紀)

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