人事部が確信「社員1~2割いなくても会社回る」「花形部署&出世コース激変」という地殻変動
プレジデントオンライン / 2020年12月25日 9時15分
■コロナ禍で意外な「社員の本質」があぶり出されている
新型コロナウイルスの感染拡大が長期化するなかで、職場ではさまざまな“不都合な真実”が顕在化している。
その節目は、緊急事態宣言だった。
解除されるまでの約2カ月間、多くの企業は出社制限による在宅勤務を余儀なくされた。5月末の解除以降、徐々に出社が始まったが、信じられない行動を取る社員もいた。
広告業の人事部長はこう語る。
「6月から週2~3日は在宅という『50%ルール』を目標に在宅勤務に移行することになりました。自粛明け初日は、待ってました、とばかりにほぼ全員一斉に出社してきたのです。ところが、退職届を出してきた社員が若干名いました。どうして? と聞くと『感染するのが怖くて出社したくない』というのです。さらに驚いたのは出社2日目に『うつ病で会社に来れません』と40歳の男性社員が医師の診断書を持ってきたのです。コロナ鬱とか在宅鬱といわれますが、在宅が長すぎたせいかもしれません。コロナ前は他の社員と変わらない普通の社員でしたが、実際は神経質でストレス耐性が弱かったのかもしれません」
ふだんの健康診断やストレスチェックではわからなくてもコロナ感染拡大という異常事態の長期化で豹変する社員もいるのだ。
■メール・電話返信なし、ウェブ会議不参加「全然連絡取れない社員」
しかし表に出るだけまだましだ。在宅勤務中にどんな生活をしているのかわからない社員もいる。在宅勤務を推奨している教育・研修会社では出社日を週2日以内に抑制する指導しているが、平均的には週2~3日出社が多い。しかし、今でも週1日も出社しない社員もいるという。
勤務記録をデータでチェックしている同社の人事課長が、ちゃんと仕事をしているのか、と上司に問い合わせると驚くべき答えが返ってきた。
「彼とはこの2週間全然連絡が取れないのです。メールや電話をしても出ないし、ウェブ会議を招集しても参加しないので困っています」
人事課長はこう語る。
「さすがに上司が『何をしているかわかりません』と言ったときはカチンときました。仕事の割り振りや業務の内容までは口を出せませんが、『安否確認だけは怠らないように』と釘を刺しましたが。でもこんな社員は珍しくありません。もっと驚いたのは当社ではノートパソコンと携帯電話を社員に貸与していますが、パソコンを会社に置いたまま在宅勤務をしている社員もいます。同じ職場の社員は『あの人、パソコンを持って帰らないで家で何をしているんだろうね』と言う声も飛び交っています」
■8.5%いる「社内失業者」が在宅勤務になって顕在化
これだけではない。人事課長が社員全員に事務連絡のメールを送ると、いつまで経っても返事を寄越さない社員がいた。催促するために電話をすると「あ、ゴメン。ちょっと待ってね。今パソコンの電源を切っているから」と友達に話すように言ったという。
「えっ、就業時間中なのにパソコンの電源を切っているのはどういうことだろうと思いました。出社時も電源を切ることはありませんし、パソコンを使わないでどんな仕事をしているんだろうと。こんな疑惑を抱く社員は結構います。人事部内でも議論になりますが、結局、そういう社員は出社しているときも仕事をするフリはしていてもあまり成果を残していなかった人が多い。それが在宅勤務中に顕在化したというのが結論です」
彼らは、コロナ前はどうしていたのかといえば、全員が定時に出社し、顔が見える状況で仕事をする中で、業務の成果を出せなくても「彼なりにがんばっている」と、どこかで見過ごされてきた。
あるいは、期限付きの重要な仕事は真面目で仕事ができる他の社員に任せられ、どうでもいい仕事しか与えられなかった社員が在宅勤務に入った途端、本当に仕事をしなくなった可能性もあると、この人事課長は睨んでいる。
社内失業者は8.5%いるという内閣府の調査があるが、在宅勤務になって顕在化したということだろう。
■「結局、社員の1~2割が稼働しなくても会社が回ることを確信した」
倉庫会社の人事部長も「在宅勤務といっても社内メールを見ているだけの社員もいる半面、コロナ禍でも前年比5%の売り上げ増になった」と語り、こう話す。
「結局、社員の1~2割が稼働しなくても会社が回ることを確信しました。本当はそんなに人はいらないのではないかと話題に上ることはある。さすがに人を削る話にはなっていないが、業務の整理が進むことは間違いないでしょう」
一方、在宅勤務で管理職のマネジメント能力の欠如が浮き彫りになったと語る。
「今まで部下とのコミュニケーションや関係性が作れていなかった管理職でも何とかマネジメントをこなしていました。しかしオンラインになり、距離が遠くなったとたんマネジメントができないことが完全に顕在化し、職場のパフォーマンスが落ちています。改めてコーチングスキルやリモートマネジメントの研修をしていますが、そもそも管理職に不向きな社員を任用していたのが最大の問題です。今後は管理職の適性を厳しくチェックすることになるでしょう」
■「花形部署&出世コース激変」という地殻変動が起きつつある
逆にリモートワークになって頭角を現す社員もいる。前出の広告会社の人事部長はこう語る。
「30代前半の社員ですが、職場では口数が少なく、趣味はゲームというどちらかというとパソコンオタクで変わったやつという印象でした。在宅勤務になると、水を得た魚のように同僚にオンラインスキルを教えたり、頼られる存在になったりしています。ウェブ会議でもチームの仕事の進め方や業務の効率化を積極的に提案していますし、上司も彼のおかけで職場のコミュニケーションが活発になったと評価しています」
日頃は目立たないがオンライン時代になり、隠れた才能を開花させる社員もいる。また、コロナ前は日陰の部署的存在と言われた情報システム部門が今、脚光を浴びている。前出の倉庫会社の人事部長はこう語る。
「情報システム投資はコロナ前から続けていますが、テレワークやオンラインシステム投資の予算も拡大しています。情報システム部の人員も増強し、担当者がリモートワーク研修の講師を務めるだけではなく、残業管理や仕事の進捗管理、非対面営業対策など社内改革プロジェクトのリーダーも務めるようになっている。発言権も強くなり、人事に係わる領域にまで口を出すようになっていますし、今では間違いなく当社の花形部署になっています」
■在宅ワークで頭角を現す人・沈む人の特徴
コロナ禍で進むテレワークやオンライン業務で沈む社員もいれば、浮上する社員もいる。評価の軸や出世コースも変化しつつある。
情報システム改革は企業の事業継続に不可欠な要素なっており、当たり前になったテレワークを続けたいというビジネスパーソンも増えている。
その一方で、緊急事態宣言以降、再び出社を強制している会社もある。中堅サービス業の人事課長は「このままではブラック企業と呼ばれかねない」と危惧する。
「テレワークへの転換を阻んでいる元凶は経営幹部です。コロナ前は対面で自分が思いついたことをやれ、と指示するのがしょっちゅうでした。しかし在宅勤務のように非対面になると、思いつきで仕事を命じることができない。彼らはそれが嫌なのです。だから緊急事態宣言が終わると『さあ、皆出社しろ、やっぱり対面が一番だよな』とうそぶいています。それでいて職場の机は相変わらず島形の向かい合わせの配置ですし、机と机の間にはお金がかかるからと、アクリル板もありません。せいぜいマスク着用と窓を開けているだけで感染対策はできていないし、いつクラスターが発生してもおかしくありません。採用活動にしても、オンライン面接ではなくわざわざ学生に来てもらって対面でやっています。学生からすればブラック企業と思われても不思議ではありません」
強制出社・テレワークなし、感染対策なしという企業は当然、学生から選ばれるとは思えないし、逆に社員の離職を促すかもしれない。クラスターでも発生すれば、会社の浮沈にも影響するだろう。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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