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アジカン後藤「生演奏派の僕が『音楽アプリはもっと普及すべき』と思う理由」

プレジデントオンライン / 2021年1月5日 11時15分

撮影=遠藤素子

新型コロナウイルスの影響でイベントができない音楽業界では、演奏の動画配信や、音楽アプリで楽曲提供する手法が活発になっている。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文氏は生演奏にこだわる一方、「音楽配信アプリはもっと普及すべき」とも指摘する——。(第2回/全2回、聞き手・構成=姫路まさのり)

■10月のツアーを収録し、有料で配信

前回記事(アジカン後藤「ミュージシャンを“お前らは不謹慎だ”と非難する社会に伝えたいこと」)で、後藤は「生で音楽を聴くという体験は一回切りのもの」であり、「絶対に収録できないものがある」とまで言い切った。アーティスト本人にそこまで発言させるほど、特別で上質な体験である“ライブ”。しかし、コロナ禍の人数制限などの影響で、通常公演もままならない中、運営側がこぞって取り入れたのが、生演奏をネットで全国に届ける「有料配信サービス」であった。

アジカンももれなく全国ツアーが全公演中止となった。そこで10月の3日間に亘(わた)り、「KT Zepp Yokohama」(横浜市)にて有観客の公開収録ライブを敢行し、その模様を後日有料配信するという方式をとった。人数制限とソーシャルディスタンスを保ち、観客も声を出すことを禁じられた中での公演は、味わったことのない空間だったと微笑みさえ浮かべた。

■見に行けない人にも届けられる。だけど…

「お客さんも声が出せないからか、その場になじもうと周りをキョロキョロしているように見えたんです。でも逆にあれだけソーシャルディスタンスが保たれていると、周りに合わせる必要がないじゃんって(笑)。みんな新しい環境で探っているんだなと。答えなんてないから、自分の楽しみ方を改めて見つけて楽しんでほしいですよね。空いている椅子に荷物置けて意外といいなとか」

新たな取り組みへの展開を模索し歓迎する一方、コロナ禍で急拡大、急成長する「配信」という手法に対して、後藤はバンドマンとして一家言あるという。

「アジカンも、コンサートの無料配信は早い段階からやってきました。参加できない人もいるし、大人になって色んな事情で“ライブ現場”から引き揚げてしまう人達にも届けられると考えていました。生の現場で、そこでしか体験できない特別な空間にお金を払ってもらうのがチケット代というか。だから、今回の配信も本音は無料でやりたかった。有料配信の流れは仕方ないし、凌いでいかなければならない部分もあるけど、逆に今度は“無料に戻れなくなるのでは?” という心配もあります」

■“失われるもの”は絶対にある

実は後藤に限らず、コロナ禍で多くの関係者から漏れ聞こえた言葉がある。それは「配信はライブの代替には決してならない」である。

より多くのお客さんに観てもらうことが目的であれば、配信は有効手段と言えるだろう。実際に、会場の収容人数を何十倍、何百倍と上回る視聴数を記録したライブ配信もたくさん生まれた。だが同時に生の音を体中で浴びる、という醍醐味は必然と薄まってしまう。前回記事で述べたように、駆け出しミュージシャンからすれば、ライブハウスは“ボトムアップの場所”でもある。まだ知名度の低い彼ら彼女らの配信を、どれだけの人が視聴してくれるのだろうか? という疑問も首をもたげる。

「配信に活路を見出すにしても、このやり方では伝わらないものが明らかにあります。本来のコンサートとは違う。マイクで拾って、信号に変換して電波で飛ばして、聞いている人に音が届く……という段階で“失われるもの”は絶対にある。その場で鳴っている音を、そのままパソコンなりお茶の間なりに届けるのは難しいし、各家庭や個人の再生機器の性能に依存してしまう。環境による音質の格差も生まれる。

だからやっぱり、気持ちとしては生の現場に戻っていきたいです。配信はあくまでそれに対する“付属的な物”。そうじゃないと、画面を見て楽しむYouTubeやテレビ番組と何が違うのかって、感じてしまうから」

■これを本当に収益にしていっていいのか

後藤は音楽機材への愛着が人一倍高く、だからこそ“生音”への愛着も大きい。広義の意味での「音」とは、そこで鳴る音楽だけでなく、空気の振動である。鼓膜以外でも感じる、肌で感じる複雑な空気の振動も含んでの「音」なのだ。

撮影=遠藤素子

そんな音楽には、必ず凸凹がある。ギターの「ジャン!」をまるで目の前のように感じたり、ドラムのリズムを背後からの反響で感じたり。演奏する側も観客のレスポンスを織り込んで曲を作り、そうしてライブハウスは長年に亘り、音楽文化を底辺から養ってきたのだ。

後藤自身も、音楽を届けるバンド、空間を提供するライブハウス、そしてそれを楽しみに待つファンという三者三様のメリットを踏まえ“仕方がない”と腹を括りつつも、「本当に収益にしていっていいのか?」という戸惑いを、両天秤に掲げる。

「今は凌いでいくしかないと思う一方で、『このままただ便利にしていく』ということでは不十分な気がします。場当たり的な配信という対処も、もちろん生き延びるためには必要だけど、もう少し長いスパンで考えないといけない。たとえ僕らはやり過ごせても、僕らの子供・孫の世代で直面する問題になってしまうかもしれない」

■「CDからサブスク」の時代に思うこと

「どうやったら生演奏で続けられるのかを考えていった方が、音楽にとって魅力なんじゃないかと思う。会えない前提でテクノロジーを進化させるのではなく、今まで続けてきた、目の前で色んなものを見て楽しめるということを、これからどうやって続けていくのか。その『限度』と『自由』を戦わせ合っていかないといけないですよね」

ステージの真ん前に柱がドーンとそびえたり、アンコールのいいタイミングで必ず貨物列車が通過したり、コンサートホールのように音楽を聴くのに最適な環境とは言い難いライブハウスも多数ある。だが、コロナ禍で足が遠のいた今となって思い返すのは、それさえも“ハコの味”だったという哀愁だ。聞こえ方や感動の伝達がすべて異なるライブハウスの味を、配信でどう伝えるのか? それを伝わらないものと片付けてしまっていいのだろうか。コロナ禍において業界全体に与えられた課題のようにさえ感じる。

後顧(こうこ)の憂いとばかりに、さまざまな視点からライブの変化に危機感を募らせる後藤。それならと、数年前から業界を席捲している“音楽の聴き方に対する変化”についても意見を尋(たず)ねた。言わずもがな、レコードやCDの“盤”を購入するより、配信で購入する人が多数という時代だ。好きな音楽を好きなだけダウンロードして聞く人が増えた昨今。それでも後藤は、“配信至上主義”にはならず、音楽の配信自体はとても好意的に受け止めているという。

後藤正文氏
撮影=遠藤素子

■誰もが音楽に一言あるような文化になれば

「配信でいいという人は一定数いるし、むしろ配信でも何でも音楽を聴く人が増えた方がいいと思います。誰のスマホにも何らかの音楽配信アプリが入っている時代になれば、インディーレーベルまで潤うかもしれない。それくらいまで普及すべきで、もっと分母が広がれば生で聴きたい人の数も増えるかもしれない。逆に、ライブやコンサートでしか味わえない音楽というのが、ある種の希少性を生んでいくはず、とも思うんです」

さらに後藤の思惑は、誰もが配信で聴く世界がもたらす“音楽社会の未来像”にも言及する。

「だって、好きになる方法は色々あるから。配信だけで音楽をガンガン聴いているとしても、音楽がそんなに好きな人がいることは単純に嬉しい。オジサンがプロ野球の采配に一言あるように、みんなが音楽に一言あるような文化になっていくといよいよ面白くなってきますよね。草野球やフットサルみたいな感じで、誰もが音楽をやるような文化が広がれば……楽器やDJはプロじゃなくてもやっていいんだと思える時代になれば、音楽の裾野が広がるし、その価値観も変わるはずです」

■「この世は生きるに値する」言葉に込めた思い

そんなコロナ禍において、アジカンとして昨年10月にニューシングル『ダイアローグ/触れたい 確かめたい』を、後藤正文ソロとして12月に新曲『The Age』を含むニューアルバム『Lives By The Sea』という作品を世に送り出した。今回はソロ作品に込めた想いを聞いた。

♪君の手 君の声
この世は生きるに値する
大丈夫 聞こえる
Life goes on
耳澄ませて 目を凝らして
ほら 遠く向こう
The age is moving on(『The Age』より)

「コロナ禍で仕事が全てなくなってしまったことで、空白のような静かな時間ができました。将来や現状に対する不安はあったのですが、楽曲制作をするにはとてもいい時間だったと言えます。他のことに一切邪魔されなかった。

『Lives By the Sea』
『Lives By the Sea』

その時間を使って取り組んだのが「Lives By The Sea」です。長年温めていた構想と、現在の世情に合わせて反射的に紡いだ言葉が重なったアルバムだと思います。「The Age」は、社会や時代に対する反応が色濃く出た曲で、最後の「この世は生きるに値する」は、悲しいニュースに埋め尽くされて心が折れそうな仲間たちや、同じ思いを抱えて今を生きる人たちの背中を優しくポンポンと叩くような、そういうイメージで咄嗟に湧き出てきた言葉です。録音の日に思いついて追加で吹き込みました。

アルバムを通じて、ままならない人生も少しだけ愛せるような、そういう体験を聴いた人たちがしてくれたらうれしいです」

■たとえ、非常事態が繰り返されても

あるインタビューで、後藤はソロ活動について「アジカンが標準語なら、ソロは語尾に「~ら」をつけて故郷の静岡弁で歌っている感じ。よりパーソナルな表現になる」と、その違いを独特に表現している。バンドと違い、隣に座って囁(ささや)くように、語りかけるような歌い方。時代を語るのは自分自身だと問いかける曲は、アジカンとは違う等身大の魅力を、世話に砕け手渡しで届けてくれる。

後藤正文氏
撮影=遠藤素子

コロナが落ち着いたとしても、当然、これからも感染症の脅威はあり、その都度、ライブハウスやイベントは閉鎖に迫られるかもしれない。そういった非常事態が繰り返されても、ミュージシャンであることを守り続けたいという信条を、後藤は「商業音楽のカルマ」と覚悟を込めた表現で見晴るかす。

「音楽が商業化して、大きな産業になっているからやりにくくなっている面もあると思います。責任が伴うから。アジカンのライブでクラスターが起きると、自分たちだけの問題だけでなく、業界そのものが悪く見られる可能性があって、やっぱりライブハウスは危険なんだとなる。パンパンに観客を入れないと成り立たないようなやり方をしているのであれば、それが問題であるし、大規模になればなるほど収益を考えなければいけない構造になっています。これは音楽を商売にしたから生まれた、カルマ(業)ですよね」

■生き方自体を問われている気がする

価値ある音楽でも、必ずしも金銭的な価値に交換できるとは限らない。利潤を追求する社会の中で、“何らかの価値”が見落とされているのではないだろうか? その形にならない、表現に曰く言い難い価値こそ、人は『文化』と呼んできたのではないだろうか?

「今後、音楽をどういうものとして考えるかは、それぞれに問われるかもしれない。僕はたとえ商売にならなくても音楽はやめません。これでお金が稼げなくなっても、別のことをしながらでも、やりたいもの、それが『音楽』だから。逆に考えると、そういう作品やバンドしか生き残れないし、やる意味がないのかもしれない。コンサートでお金を儲(もう)けなきゃ、僕は音楽をやめますという人はやめればいいじゃんとさえ思います。音楽を続ける動機はそういうことじゃないはずですから」

新聞でコラムの連載を長年続け、政治・社会・事件・環境など多様な論点にアーティストとして向き合ってきた後藤の関心は、音楽という枠を超え「人間としての生き方」にも及ぶ。

「いま、生き方自体を問われている気がするんです。暮らし方の問題。パンデミックが起きるような暮らしを人類がしている以上、繰り返し起こることだと思います。遅かれ早かれ訪れた問題でもあるから、こうした暮らしっぷりが果たしていいのかどうか。それを考えなければならない、非常に大きな問題であり、本質でもあります」

■届かない「声」と「音」に耳を傾ける社会であってほしい

「安全」と「安心」という2つの言葉は、同じような語感でもその意味が全く違う。仮に国やライブハウスが「安全です」と宣言しても、観客が本当の意味で「安心して」通えるまでには、相当の時間を要するかもしれない。

2003年のデビューからアジカンの音楽は一貫して、心の内側を投影したような内省的メッセージから、打って変わって能動的な力強さまでも表現してきた。その作品を振り返ると、“閉塞感のある世界からどう突き抜けるか?” という問いかけが、消えそうで消えないマジックペンで書かれたように、くっきりと残されていることに気付かされる。

『「暗いね」って君が嘆くような時代なんて もう僕らで終わりにしよう』(『さよならロストジェネレーション』2010年)

生のライブと違い配信では決して「届かない音」
苦しいともがいても地下空間から「届かない声」

コロナで誰も彼もが疲弊し、危殆(きたい)に瀕するこの世界において、たとえ小さなものだとしても、届かない「声」と「音」に耳を傾け、掻き消されることがない社会であることをねがう。いつかきっとまた、ライブハウスで笑いあえる、その日が来るまで。

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姫路 まさのり 放送作家・ライター
1980年、三重県生まれ。放送芸術学院専門学校を経て現職。ライターとして朝日新聞夕刊「味な人」などの連載を担当。HIV/AIDS、引きこもりなどの啓発キャンペーンに携わる。著者に『ダウン症って不幸ですか?』(宝島社)、『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。ソーシャルファームという希望』(新潮社)がある。

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(放送作家・ライター 姫路 まさのり)

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