「転売ヤーから従業員を守りたい」スタバ福袋が"大盤振る舞い"を続ける理由
プレジデントオンライン / 2020年12月30日 15時15分
■毎年「即完売」する大人気ぶり
正月の風物詩のひとつである「福袋」――。
これまでは「新年の初売りの象徴」として、お客が店舗で買い求める姿が毎年報道されてきたが、コロナ禍で外出自粛が続く2021年の年明けは、どんな状況になるのか。
福袋を用意する各社の対応もさまざまだ。実店舗での販売ではなく「オンラインでの受注」に切り替え、注文確定後に発送を行う会社も目立つ。
なかには毎年、販売後に「即完売」する人気商品もある。そのひとつが、カフェチェーン最大手「スターバックスの福袋」だ。
かつては先着順に販売したが、2018年から抽選制となり高倍率が続く。今回は全品オンラインストアでの販売に切り替えたが、申し込みが殺到した。
本稿執筆時は、すでに応募→当選発表を経て、購入手続き(12月14日まで)も終了。当選して購入申し込みをした人は、年明けの商品到着を待つだけになった。
どんな「思い」を福袋に込めてきたのか。同社の責任者に取材を行い、送り手側の思いを中心に紹介したい。
■2021のテーマは「環境に配慮&四季を感じられる」
「福袋を通じて、コーヒーを楽しむきっかけをつくり、さらに広げられたらと思って商品設計を考えています。そしてコーヒー関連グッズには、環境に配慮した要素も盛り込んだのが今年ならではです」
こう説明するのは後藤護(まもる)氏(スターバックス コーヒー ジャパン 商品本部 リテイル&ビジネスディベロップメント部)だ。2019年から同部のリテイルグループ グループマネージャーとして「福袋の商品開発」の責任者も担う。
中身は開けてのお楽しみだが、前回はコーヒーチケットなどのグッズが入っていた。
同社公式サイトの「スターバックス福袋2021」では、すでに中身の概要も伝えられているが、そこに記されていないこだわりも紹介しよう。
「商品が入るトートバッグの生地には、リサイクルコットンを一部使用した綿帆布素材を採用しています。繰り返し使うことができるステンレスタンブラーには『四季の移ろい』をテーマにした限定デザインを施したものを、この福袋限定でご用意しました」
購入者への思いについては、こう続ける。
「タンブラーも使ってコーヒーを楽しんでいただくことで、おいしさだけでなく、少し環境にも配慮した思いをお客さまにお届けしたい。また、外出もこれまで通りとはいかなくなったこの時期に、デザインで四季を感じていただけるのではないかと考えています」
後述するが「外出もこれまで通りにはいかない」には別の思いもあるように感じた。
■価格を上げつつも「大盤振る舞い」
一般的な福袋は「5000円」や「1万円」といった区切りのよい価格も多いが、今回の「スターバックス福袋2021」の価格は7500円(税・送料込み)。
ちなみに前回(福袋2020)は、店舗販売分が7000円、オンラインストア販売分は7500円(同)だった。前々回(福袋2019)は店舗販売分のみで6000円。中身は変わっているが、商品価格は少しずつ上がってきた。
これを「高い(安い)」と思うかは人それぞれだが、「こんなに商品が入っていてオトク」という姿勢は一貫している。中身次第で価格は変わるが、福袋2020の場合は、実勢価格で1万5000円を超える商品が入っていた。
「福袋に対して、オトク感を期待されている点も理解しています」と後藤氏は前置きしながら、送り手の思いをこう明かす。
「福袋を開ける時のワクワク感や感動はもちろん、スターバックスでは福袋を通じて『コーヒーを楽しむきっかけを届ける』ことが一番大きなメッセージだと考えています」
毎回、福袋にはテーマも込める。「福袋2020」は屋外でもコーヒーを楽しむきっかけづくりと、「お出かけ」をテーマに、汚れにくいトートバッグ、サンドイッチボックス、ジッパーバッグなどを入れた。「福袋2021」は前述の環境面も意識した商品構成だ。
■ファンも従業員も満足する方法を模索
1996年に日本1号店が東京・銀座に開業した米国発祥のスターバックスが、日本国内で福袋の販売を始めたのは2000年ごろだった。だが、福袋で欠かせない要素の「大盤振る舞い」は、見方を変えれば、商品をディスカウント販売すること。
やり方を間違えれば、ブランドイメージも低下する。
一方で同社は、米国系企業にありがちな「本国のやり方を押しつける」のではなく、「ローカライズ」(≒郷に入っては郷に従え)的な視点を持つ会社でもある。
「福袋については『日本の風物詩をスターバックス流にアレンジする』ことも、ローカルへのリスペクト(敬意)の表現方法と考え、中身や販売方法を進化させてきました」
その福袋販売で、ターニングポイントとなった出来事はあったのだろうか。
「販売手法に関しては2018年のオンライン事前抽選の導入です。人気を呼ぶのはありがたいのですが、購入のために並んでいただくことが、お客さまにご負担をかけており、また対応するパートナー(従業員)の負荷にもなっていました」
同社には「コーヒービジネスではなく、ピープルビジネス」という言葉がある。この「ピープル」はいろんな意味があり、顧客や従業員を大切にする視点も欠かせない。
「そこでオンライン販売を行った結果、パートナーの負荷も大きく軽減できました。当時、十数店舗を担当するDM(ディストリクトマネージャー)から、『その分、店舗でゆったりお客さまに向き合うことができた』と聞いたのも印象に残っています」
■「転売ヤー」対策はどうしているか
インターネット取引が盛んになるにつれて、数量限定などの人気商品を手に入れて高値で転売を図る「転売ヤー」の対策に、各社が苦労するようになった。
スタバも例外ではない。2016年シーズンは、東京・二子玉川の店舗で先頭グループが福袋108個をすべて買い占め、後続の人たちが手に入れられない事態になった。顧客の怒りは従業員にも向けられ、同社は翌年に購入数を制限する措置を導入。18年からのオンライン事前抽選はこうした転売ヤーを排除する狙いもあった。
それでもなお、高値で転売する例が一部で目につく。スターバックスの考えはどうか。
「本当に欲しいと思うお客さま、スターバックスのファンの方に商品をお届けしたいという気持ちが常にあります。それも年々進化させています。例えば『お1人様1個』という個数制限を設けたほか、できるだけ多くの商品数を用意するなどしてきました。事前抽選以降は、引き換え店舗を指定することで、以前よりも転売しづらくなったと思います」
世間には「不正転売を取り締まる法律が十分でない」という声もあるが、個人売買サイト運営側とも連携しながら、商品ではなく、福袋の購入権利といった不正出品は削除してもらうような働きかけもしている。
■「やはりお店に来てほしい」福袋の工夫
「スターバックスコーヒー」の国内店舗数は、最新の発表数字で1601店(2020年9月末現在)。コロナ禍でも例年通りの姿勢で、2020年も約100店が新規オープンした。
とはいえ、外出自粛ムードも続くので、「スターバックス アットホーム」も訴求する。「スターバックスの味わいをご家庭でも」のキャッチコピーを掲げて、オンライン上で訴求する取り組みだ。
だが同社の理想は、以前のように店舗を気軽に訪れてもらう状況になること。
「福袋を通じて、コーヒーを楽しむきっかけを訴求していますが、スターバックスにおけるお客さまとのつながりのハブは『やはりお店にある』と思っています」
こう話す後藤氏の思いが込められているのが、今回の福袋に入る「コーヒー豆引き換えカード」だ。最初に決まった豆を同封するのではなく、店に引き換えカードを持っていけば、豆の種類(対象商品には制限あり)や挽(ひ)き方を選ぶことができる。
店舗でコロナ対策を進めつつ、「これまで通りにはいかない外出」機会を促すのだ。こうした状況と向き合いながらも、後藤氏は前向きに語る。
「コーヒーを飲む時は、ほっとする息抜きや、くつろぎの意味もあるでしょう。新しい年の始まりに、大切な人とコーヒーの時間をぜひ楽しんでいただきたいですね」
筆者の記事では時々「カフェは幸せ産業」とも記してきた。戦火に追われる国や治安の悪い地域では、落ち着いて飲食を楽しむこともできない。コロナ禍とはいえ、多くの人が「座ってコーヒーが飲める」ありがたみをかみしめる、年明けになりそうだ。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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