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東浩紀「TwitterやYouTubeで『知の観客』をつくることはできない」

プレジデントオンライン / 2021年1月2日 9時15分

批評家で哲学者の東浩紀さん - 撮影=西田香織

批評家で哲学者の東浩紀さんが新著『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)を出した。自身の経営する会社「ゲンロン」の10年を振り返る異色の本だ。なぜ東さんは大学教授という職をなげうち、会社経営を続けてきたのか。プロインタビュアーの吉田豪さんが聞いた——。(前編/全2回)

■「これでいいんですか?」って何回も何回も何回も何回も言った

【東】吉田さんの取材は緊張しますね。

——雑談するだけなので大丈夫ですよ! とりあえず今回の本は、ライバルが『鬼滅の刃』ってぐらいに売れてるらしいじゃないですか。

【東】初速は。でも、どれくらい広がってるのかわからないですよ。そもそもゲンロンってなんだってことですからね。『ゲンロン戦記』ってタイトル自体、「これでいいんですか?」って何回も何回も何回も何回も言ったんだけど、「いや、これがいいんだ」ということで。

東浩紀『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)
東浩紀『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)

——東さんがゲンロンという会社を作って大変なことになった話だから正解ではあるんですよね。なんでこれを出そうと思ったんですか?

【東】中公さんから企画が来て、「『ゲンロン戦記』って本を出しませんか?」って。これは仮題でそのうち変わるのかと思ってたら変わらないまま最後までいっちゃったっていう感じです。

——最初からそこまで決まってたんですね。

【東】「タイトル『ゲンロン戦記(仮)』ゲンロンの戦いを描く」みたいなことが書いてあって。「へぇーっ、やるならやってもいいですけど売れないと思いますよ」みたいな、最初はそういうスタンス。だけど、たしかにゲンロンを10年やってて、最近入った人は過去に何があったか知らないし、ここで社史をまとめておくのもいいかな、みたいな気持ちもあって。

でも、おもしろおかしいエピソードばっかり追求してもしょうがないから、どうなるのかなって心配してたら、聞き手のノンフィクションライターの石戸諭さんがうまくまとめてくれた。

——『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)でおなじみの石戸さんが。

【東】彼自身、ぼくと知り合ったのはゲンロンのチェルノブイリツアーに来ていたからなんです。そういう意味で、ちょうどいい聞き手だったと思います。

吉田豪さん
撮影=西田香織
プロインタビュアーの吉田豪さん - 撮影=西田香織

■「自分はかなりダメなんだ」に気づくまでの10年間

——東さんはボクが接する限り非常に頭のいい人という印象なのが、この本を読むとなんでこんなに迂闊なんだろうって思うんですよ。

【東】ホントそう。恐ろしいですよね、コスト感覚もないし、人にはだまされるし。

——失敗するのはしょうがないんですけど、同じような失敗を繰り返すから、「え、なんでそこ学習してないの?」ってことが多くて。

【東】そうです。そういう人間なんだということに気がつくのに10年かかった(笑)。自分がかなりダメなんだということに。

——社長なりビジネスマン的な要素が決定的に抜け落ちている。

【東】抜け落ちてるし、まず人を管理してないし。かといって人を伸ばすわけでも……ダメなんですよ、人を見る目もないし。

■あとから考えれば「当たるわけない」という失敗ばかり

——とりあえず人を信用するタイプではありますよね。

【東】人を信用するタイプですね。で、デカい話が来るとすぐ、「お、いいね! やろうよ!」みたいな感じで夢を見てしまう。そして、あんまりお金がかかることを気にしない。

——一発当たればなんとかなるよっていう発想で。

【東】そう、「ワンチャン来るでしょ」みたいな(笑)。でも当たらない。あとから考えれば当たるわけないじゃんみたいな、そういう失敗ばかりでしたね。

——なんでこんなにお金でだまされるんだろうっていう思いですよ。

【東】コスト感覚がないんだと思います。あればあるだけ遣うというか、貯蓄とかそういう概念もなくて。それはプライベートでもそうなんです。最近ちょっとお金を貯めるようにしてますけどね、老後のためにも。計画性がないんですよ。

東浩紀さん
撮影=西田香織

——すごい当たり前のことに気付いた、と。ちなみにボクは編集プロダクション出身なので、最初にコスト感覚が叩き込まれてたりするんですよ。どうやったら赤字にならないかって、まず考えて。

【東】べつにこっちで採算が取れなくてもあっちが儲かってればいいじゃん、みたいな感じなんですよね。端的に言うと、社会人経験がないからだと思います。『ゲンロン戦記』にも書いてあるけど、ふつうだったら20代、30代で学ぶはずのことを年齢を重ねてからやってしまったところはありますね。

■この10年間で大学人や知識人に対する見方がかなり変わった

——その感覚がないまま動くお金がデカくなっちゃったんですね。

【東】そうですね。あと、自分の能力への過信がすごく強くあった。若い頃にある程度成功してるので、いざとなったら1000万、2000万ぐらいの借金は埋められるだろうっていう過信があって。結局それがいろんなところの判断の甘さだとか、本当は他人と共同で仕事をしているにもかかわらず、いざとなったら俺が穴を埋めるんだから俺の言うことをきけっていう傲慢にもつながってたと思うんですよ。反省だらけの10年ですね。

——だからこそリアリティーのある苦しみとかは伝わりますよ。

【東】どうなんだろうなあ。あるのかもしれないけど、凡庸な話だと思いますよ。ふつうに生活をして会社人をやればこういうことを学ぶっていう、ごくごくふつうのことを10年間かけて学んできた。それでもぼくがちょっと変わってるのは順番が逆ということで、ふつうだったらビジネスがある程度うまくいってからメディアに出たり大学の先生をやったりするんだけど、ぼくはメディアに出たり大学の先生をやったあとにビジネスをやってる。だから客観的に分析できちゃってるところがあるんだと思いますけどね。

とにかく、ぼくはこの10年間で大学人とか知識人に対する見方がかなり変わってしまったので、昔のようには戻れないです。それがいまネットとかで冷笑的と言われたりするんですけど、冷笑では借金できませんよ。こんな何千万も借金してるのに、なんで冷笑的って言われなきゃいけないんだって常に思っている。ハッシュタグ運動みたいに冷淡なのもそのせいですね。ハッシュタグで世の中は変わんねえよ、ハッシュタグで給料を払ってみろよって感じなんで。

——ダハハハハ! ボクも冷笑って言われがちなんですけど、やっぱり左右どちらかのはっきりとした意見が求められてるんでしょうね。

■「ハッシュタグで政治運動」というのは遊びにしか見えない

【東】いまはみんな条件反射じゃないですか。たとえば、最近は(noteを母体とするcakesが、DV被害に対する人生相談とホームレス記事と声優あさのますみさんの連載消滅という3度の炎上で)いろんな人がnoteやめるとか言ってるけど、noteやめるってどれだけやめたのか、草津温泉に行かないって言ってどれだけ行かないのか。彼らはハッシュタグを打ってるだけでどんどん忘れていくわけですよね。でも、ビジネスはそうはいかないわけで、給料を払うって言ったら給料を払わなきゃいけない。「#給料払う」と打てば給料払ったことになるんだったら、ぼくだっていくらでも打つけど。

——俺はもっと現実の世界で生きてるんだ、と(笑)。

【東】ハッシュタグを書いてるだけで政治運動やった気になるっていうのは遊びにしか見えない。そういう点では世の中に対する見方が変わっちゃいましたね。

——そういう現実の重要さについて書いた本でもあると思うんですけど、とにかくいちいちふつうのことを言ってるんですよね。オンラインよりもオフラインが重要だとか。

【東】超ふつうですね。デジタルトランスフォーメーションも、いまさらなんだかなとか思ってますよ。

スマートフォン
撮影=西田香織

■インターネットはSNSが出てきてて、おかしくなってしまった

——東さんもそうだし津田大介さんもそうだし、かつてネットメディアの代表みたいな感じだった人が、「やっぱり対面で話すことが重要だよね」っていう結論に至ったっていうところが興味深いんですよ。

【東】そうですね。ホントぼくもそう思いますよ。ふつうの結論に至ってますよね、やっぱり人って対面で腹を割らないとダメだよね、みたいな。

——津田さんがそれを言い出したときは爆笑しましたけどね。

【東】うーん。

——Twitterで世界は変わる、みたいなことを言ってた人が。

【東】SNSからおかしくなったんだと思いますね。インターネットは出発点はオルタナティブメディアだった。出版やテレビは100万、1000万の人間を相手にしてきたけど、インターネットだったら1万とか10万の数でも十分に人の生活を支えられる。最初はそういうメディアが出てきたんだと思ったし、実際に90年代に日記サイトとかやってた人たちは、小規模なスケールのオルタナティブメディアをインターネットに見て入ってきてたんだと思うんですよね。

それが2000年代になってSNSとかYouTubeとか出てきて、むしろインターネットがマスメディアよりも大きいマスメディアに変わっていくなかで、そういうオルタナティブなコミュニティを作る側面がどんどん忘れられていったと思うんですよ。

2010年代のインターネットは、かってぼくが昔夢見ていたインターネットではないんですよね。とにかくスケール感が重要で、いいねがいくつ、PVがいくつっていうことばっかりみんなが考えるようになってしまった。そういう意味ではぼくがゲンロンでやってることは、90年代に初めてインターネットに触れたときのネットの可能性を、自分なりの追い続けてる気持ちでもあるんですよね。

■数百万人より数百人に届けることにインターネットを使うべき

——最近のYouTubeなりで稼ぐ流れとは真逆ですよね。

【東】いま1再生で0.1円ぐらいなのかな? そうだとすると、100万再生で10万円、1000万再生でようやく100万って感じだけど、それじゃ生活できるひと超少ないですよね。他方でウチの動画プラットフォーム「シラス」であれば65パーセントがテナントに入る設計になっていて、そうすると30万円を集めれば20万円入るんですよね。つまり1500円を200人が払えばいい。200人を集めれば20万円入る。ホントはインターネットってこういうふうに使うもので、なんで100万ビューで10万円なんだって思うわけ。

——それはものすごく思います。

【東】最近、ぼくの友人の渋谷慶一郎って音楽家が『ミッドナイトスワン』のサントラをやってて話題になっていてるんですけど、彼は今回あえて、一番売れる曲はCDでしか聴けないようにしてるんですよ。それでCDを自分で梱包して発送してるんだけど、そちらのほうがはるかに儲かるんだって。

東浩紀さん
撮影=西田香織

——サブスクは広がりはあるけど儲かるものじゃないですよね。

【東】結局、少人数のちゃんと支えてくれる人たちがいればいいんですよ。彼らはプラットフォームや広告代理店に金を落としたいわけじゃないから、その人たちといかにダイレクトにつながって、彼らの熱量でこっちがいいコンテンツを作るような生態系を作っていくかっていうことだと思うんです。でもいまのプラットフォームビジネスはそうじゃなくなってる。

■SNSとワイドショーがお互いを参照しあうというダメさ

——テレビを否定したはずがテレビっぽい方向に行ってるというか。

【東】そうです。広告モデルだと内容もテレビに近づいていくわけです。だれもが思っていることだけど、いまはSNSとワイドショーがお互いを参照しあってどんどんレベルが下がっている。そういうなか、ぼくとしては数百人から数千人の人たちによっていかに自分たちの生活を支えるかを真剣に考えてシステムを作っていて、ゲンロンはそういう規模でやると最初から割り切っている。『ゲンロン戦記』も、そういう小さい経済圏を作るための成功モデルとして読んでくれたらいいと思っています。

——ボクも小さい経済圏の人間だからわかる話ばっかりでした。

【東】ありがとうございます。

——配信とかやってても課金にした瞬間に、すごい平和になりますからね。炎上させたい人たちは、本当に課金しないんですよ。

【東】そうなんですよ。だから、じゃあ無料で公開してていいことってなんだって話なんですよね。

——宣伝効果だけなんですよね。

【東】それも将来はどうなるかわかりませんね。いまだってフェイクとかポストトゥルースって言われてるわけで、これから10年20年たったときに、むろんSNSは存在し続けてるだろうけど、もう誰も信用しなくなって、SNSでいくら拡散しても実際の商品はピクリとも動かないっていう世界が来る可能性もあると思うんですよ。そしたら広告料も支払われないだろうし、廃墟みたいな存在になる。

結局のところ信用の問題なんで、無料コンテンツを人が信用しなくなる時代が来るんじゃないかなっていう気がするんですよね。たしかに再生はされてる、一瞬話題になってる、ただそれは結局なんにもならないよねと。ハッシュタグも、もうあきれられてきてる。たしかに検察庁法改正のときのハッシュタグは目新しかった、だから政治も動いた。

■Twitterで宣伝したからって本が売れるわけじゃない

——普段は政治のことに触れない芸能人もハッシュタグ付きでつぶやいたりで。

【東】でもいまハッシュタグが乱立してるわけですよね。そうすると政治家もだんだんわかってくるわけですよ、ハッシュタグがあったって関係ないんじゃないかって。実際に選挙の票はピクリとも動かないじゃんっていうふうになっちゃったら、これは関係なくなる。人はどんどん学んでいくんで、いまみたいに無料コンテンツが世の中を動かす時代がどこまで続くかわからない。

これはぼく自身の実感でもあって、つまりTwitterで宣伝したからって本が売れるわけじゃないんですよ。商売の実体って結局お金じゃないですか。それを考えると、ホントにTwitterってむなしい世界で。だから逆に、Twitterですごく炎上して「東さんたいへんですね」って言われたって、ホントにたいへんなのは借金とかであって炎上なんてまったく無だと思っていた。

本だな
撮影=西田香織

——ダハハハハ! 現実社会でのしんどさのほうが大きくて(笑)。

【東】Twitterですごい評判になったからといって金が入るわけでもないし、なんなんだみたいな。だからある時期からSNSへの見方も変わっていった。

■オンラインサロンと「ゲンロン」の決定的な違い

——ボクもTwitterを見てくれた人の一部が読者になってくれるか的な思いでやってはいるけど、そこまでの効果はあるのかなってちょっと思うんですよ。

【東】そうなんですよね。『ゲンロン戦記』にも書いたように、この数年ゲンロン友の会の会員がまた増えてるんだけど、入会者はぼくのTwitter経由じゃなくて、どっちかというとゲンロンの何かの動画を何かのきっかけで買って、それがけっこうおもしろいから入るとかになってる気がするんですよね。

ぼくはオンラインサロンとゲンロンの違いっていうのをよく言ってるんですが、オンラインサロンっていうのは基本的に内側と外側があって、外側はサロンの中はまったく見えなくて、内側は会員だけが見えるんですよ。ウチは会員ビジネスなんだけど、バラ売りで外から単体でかなりのコンテンツを買えるようにしてる。なんでそれをするかというと、バラ売りに出会ったのをきっかけにだんだん会員になっていくっていうことが起こるんですよね。バラ売り層を作るのがウチのモデルの特徴で、そこの部分が一番宣伝効果があるんですよね。

ふつうのオンラインサロンだと内側と外側を完全に区別して、内側に入ると外のヤツに対しては「ここに入ればいいこと起きるよ!」っていう空手形みたいなものを切って、一定数騙されればいいや、みたいになってるんだけど、ウチはそこの人たちへのお試し商品をいっぱい作ってる。だからゲンロン友の会の会員は3500人ぐらいなんだけど、その周りにおそらく3~4倍の規模のファンがいる状態が作られている。それを今後、何倍にするかっていうところなんですよね。

■「信者」を集めるのではなく、「観客」を育てていく

——どうしてもオンラインサロンのうさんくささってあるじゃないですか。閉じてるからこそなのかもしれないですけど、信者ビジネス的な部分のうさんくささ。そこに対する反発はあるわけですよね。

【東】そうそう。だからウチは「観客」という考え方をしています。信者とアンチってほとんど同じようなもんで、信者は内容と関係なく金を払うけど、アンチは内容と関係なく腐してくるんで。それはほとんど同じメンタルなんですよね。そうじゃなくて、1個1個のコンテンツに対してジャッジするくらいの距離感がある人をどれくらい抱えていくかが重要なんだと思ってますね。

——オンラインサロンで騙された人がアンチに回ったりするパターンもありますからね。

【東】その代わり必ず信者は供給されるから大丈夫、みたいな感じになってる。不健康だと思いますね。そもそもやってて主催者が楽しくないはずですよ。

壁にメモ
撮影=西田香織

——空手形を切り続けるのも絶対しんどいじゃないですか、「あなたたちは絶対に稼げるようになるから」みたいな。

【東】キツいですよ。だから、ゲンロンは、ウチに来たから成功するとか絶対に言わない。何もないって言ってます。ウチに来ても金は儲からないし人生も成功しない、そういうものじゃない? っていう。

——「そもそも金銭的には俺が成功してない」っていう(笑)。

■大学を中心とした「知」が社会的に信用されなくなっている

【東】そうそう。だから空手形も何もないですよ。だから、最近の論調だと、インターネットはスケールの世界で、それに対してオンラインサロンっていうのがあって、そこは小さくてコアなファン向けに濃密な議論がされてるんだっていう話になってるけど、ぼくはこの両方とも違うと思ってるんですね。第三のモデルとしてゲンロンを考えてる。でも、考えてるだけじゃしょうがなくて、現実にビジネスの形にしたっていうことがポイントなんですけどね。

——たしかに信者ビジネスのほうがやりやすい気はするんですけど、ボクはなるべくそっちには行きたくなくて。本を買ってもらえる、イベントに課金してもらえるくらいの信頼関係でいいというか、それ以上の関係になりたくない。

【東】それ大事ですよね。ぼくは今年49歳なんですけど、ぼくがいつまで活動できるかわからないので、ぼくの後にゲンロンを残す方法を考えています。ぼくはいわゆるインテリと言われる層なんですけど、いまのインテリってすごくダメだと思ってるんですよ。

ひと言でいうとみんな大学のサラリーマンで、大学の職を失いたくない、しかし社会貢献している感じは出したいから、記者会見をやったりハッシュタグを打ったりする。そういう人たちばっかりになっていて。これでは知というものは社会的に信用されなくなると思うんですね。そこでなんか、別の形でまじめに知的なことが存在するモデルを作らなきゃいけなくて。先行世代は何もやってくれなかったんで、一応作ったモデルがゲンロンなんです。

■「結局俺が支えている」という意識こそが問題だと気がついた

——そういう理想でゲンロンを初めて。

【東】ただ、モデルを作っただけで、結局ぼくが体力があるあいだ頑張って維持して、ぼくが倒れたらダメになるようだったら、やはりモデルは正しくなかったことになる。だから、これをモデルとして離陸させることが今後もぼくの目標なんですよ。ただ、これはいまはクリアに言えていますが、『ゲンロン戦記』に書いてあるとおり、長いあいだどこかで結局俺が支えている、とも思ってたわけですよ。その意識こそが問題だと気がつくのが2018年の末なんですね。

——それでゲンロンの代表を降りて。

【東】代表を降りて、いまシラスというプラットフォームも始めて。シラスはいろんな人たちがテナントとして入ってくれることを想定しています。

手を組む
撮影=西田香織

——東さん的な頭のいい人の失敗例としてよく見るのが、ほかの人たちもみんな自分ぐらいできて当たり前だと思ってたらそうじゃなかったって気づくパターンなんですけど。

【東】ぼくの失敗はそういう話じゃないと思いますね。ぼくはできてないことがすごく多いんですよ。そのことにぼく自身が気づいてなかった。『ゲンロン戦記』にも書いたけど、ぼくが辞めたあとのほうがウチの会社はぜんぜん利益が出るようになってるんですよ。これはたいへんなことで。ぼくはとにかくビビりましたよ、ぼくが辞めたあとの回復。

■ぼくが辞めたあとのほうがぜんぜん利益が出るようになった

——会社の業績が劇的に回復して(笑)。

【東】衝撃を受けました。ホントに心の底から衝撃を受けた!

——きちんと経費削減して。

【東】そうそう! おまけに売上高も減ってない。おかしくない? 俺は何やってたの? 金をつかってただけ? そのとおりだっていう(笑)。やっぱり能力がないところはないんですよ。そのことに気がついて、ぼくはいままったくもって謙虚というか反省しかない。

——本を出す度にデザインとか印刷に凝りまくってどんどん赤字になっていく流れとか、読んでてハラハラしましたよ。

【東】そうなんですよ。「金かかりすぎるからやめろ」って誰か言ってくれって。でも、それは俺が言えって話で。いまは言われる世界になった。

——ようやく。

【東】そう。ぼくはホントにバカですからね、いまの経営状態でぼくが社長だったら、たぶんまた数千万使ってセミナーハウスを作るとか、そういうことを考えてたと思いますね。ぼくは昔からセミナーハウスを作りたいんですよ。高原みたいなところに「ゲンロン」って書いてあるセミナーハウスがあって、夏にそこに行くんだみたいな……。でも、これなんの実体も伴ってないので、それ借りてどうすんだっていう。

——でも、いまそういう物件は安いですよね。

【東】そうそう。ときどき不動産調べると、いまマジ投げ売られてるんですよ、いろんなところの別荘とか旅館が。ゼロ円もあるの。そういうの発見するたびに、「おっとゼロ円!? これ俺が社長だったらいっちゃうなあ!」みたいなこと言ってるんだけど、でもそのたびに社長の上田(洋子)さんにたしなめられている。「雪が降ったらだれかが雪を下ろさなきゃいけない」「たしかにそうだ」みたいな。

——ダハハハハ! まだ現実を見ない部分があるんですね(笑)。

【東】雪ぐらいなんとかなるだろうと考えちゃうんですよね。(後編に続く)

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東 浩紀(あずま・ひろき)
批評家・哲学者
1971年東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社ゲンロン創業者。同社発行『ゲンロン』編集長。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(1998年、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(2001年)、『クォンタム・ファミリーズ』(2009年、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志 2.0』(2011年)、『弱いつながり』(2014年、紀伊國屋じんぶん大賞2015「大賞」)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(2017年、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『哲学の誤配』(2020年)ほか多数。対談集に『新対話篇』(2020年)がある。

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吉田 豪(よしだ・ごう)
プロインタビュアー
1970年生まれ。綿密な事前調査に定評のある「プロ」インタビュアー。タレント本収集家としても有名。著書に『吉田豪の喋る!!道場破り』『元アイドル!!』ほか。

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(批評家・哲学者 東 浩紀、プロインタビュアー 吉田 豪)

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