「メルケル後はどうなるか」ドイツ与党の党首選に世界が注目するワケ
プレジデントオンライン / 2021年1月3日 9時15分
■事実上はメルツ氏とラシェット氏の一騎打ち
ドイツで年明け早々、与党CDU(キリスト教民主同盟)の党首選が代議員の投票によって行われる。本来なら2020年4月に開催される予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて12月まで延期され、さらに21年1月中旬に繰り延べられることになった。このCDU党首選で、秋に退任予定のアンゲラ・メルケル首相の後継候補が決まる。
2005年から4期16年の長期にわたって政権を担ってきたメルケル首相だが、近年は長期政権の弊害も指摘され、地方選での敗北も相次いだ。そのため2018年12月の党首選には出馬せず首相職に専念、後継にアンネグレート・クランプ=カレンバウアー(AKK)元ザールラント州首相を指名したものの、この戦略はうまくいかなかった。
次期党首に名乗りを上げたのはアルミン・ラシェット現ノルトライン=ヴェストファーレン州首相、弁護士としても知られるCDUの重鎮フリードリヒ・メルツ氏、外交通である連邦議会議員ノルベルト・レットゲン氏の3名。しかし事実上は一般党員の人気が高いメルツ氏と、CDU議員の信頼が高いラシェット氏の一騎打ちの様相を呈している。
■新党首の下で挙党一致体制を作り上げることができるか
メルツ氏は長年にわたりメルケル首相のライバルであったことでも知られる。前回2018年12月の党大会でも党首選に出馬したが、決選投票でAKKに敗れた。捲土(けんど)重来を期するメルツ氏は現在CDU青年部の支持を得ているが、強い保守色を打ち出しメルケル路線からの転換を主張していることから、敬遠される向きも強い。
そう考えると、メルケル路線の踏襲を明言するラシェット氏に分があるようだ。メルケル路線の踏襲は望ましいことだが、重要なのはCDUが新党首の下で挙党一致体制を作り上げることができるかどうかだ。そうなれば有権者の支持も広がり、9月26日に実施予定の総選挙でもCDUは議席を増やすことができるだろう。
■過激な民族主義政党「AfD」の人気はしぼんだが…
近年のドイツでは、メルケル首相擁するCDUとそのライバル政党であり大連立のパートナーでもある中道左派の社会民主党(SPD)の人気が低下していた。代わりに旧東独を中心に過激な主張を展開する民族主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」や、新興の環境政党「同盟90/緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)」が有権者の支持を集めた。
CDUと姉妹政党CSU(キリスト教社会同盟)の支持率は今年1月には25%程度まで落ち込んだが、有権者に新型コロナウイルスの感染対策が評価されて40%近くまで回復した。反面で、一時はCDUから有権者の支持を奪い取っていたAfDの人気は、有権者の関心が難民問題などから新型コロナ対策に移ったこともあって急速にしぼんだ。
1月に誕生する新党首の下でCDUが挙党一致体制を築き上げることができれば、CDUは9月の総選挙を有利に戦うことができるだろう。しかし新党首がAKKのように党内の掌握に苦心して求心力を失えば、CDUの支持率は低下することになる。当然、秋に予定されている総選挙でCDUは苦しい戦いを余儀なくされる。
■「赤緑連合」の組み合わせに注目が集まる
いずれにせよ、CDU/CSUが単独与党となる可能性は極めて低い。そのため他の政党と連立を組むことになるだろうが、ドイツ政治の安定を考えれば、引き続きSPDとの間で大連立が組まれることが望ましい。しかし長年にわたる大連立の結果、CDU/CSUの与党内野党的な存在と化したSPDが大連立の継続に二の足を踏むかもしれない。
そのため、CDU/CSUが支持率ベースで第2党につけている「同盟90/緑の党」との間で連立を組む可能性もある。確かに政党としても実力を着実につけてきた「同盟90/緑の党」だが、与党として政権実務に携わった経験は乏しい。それに北大西洋条約機構(NATO)に反対するなど、CDU/CSUと立場の隔たりが非常に大きい。
ここで注目したいのが、復活を狙うSPDが支持率ベースで第2党につけている「同盟90/緑の党」とタッグを組む可能性だ。政党のシンボルカラーがSPDは赤、「同盟90/緑の党」が緑であるため「赤緑連合」と言える組み合わせである。両党の支持率を合わせればCDU/CSUと拮抗(きっこう)するため、十分に考えられる選択肢だ。
■環境重視、分配重視、反戦重視といった理想主義路線か
SPDと「同盟90/緑の党」は、シュレーダー首相時代の1998年から2005年にかけて連立を組んだ経験がある。このときの「赤緑連合」は、経済成長や国際協調を重視する現実路線のSPDと環境対策や反戦を掲げる理想主義的な「同盟90/緑の党」との間で軋轢が生じて、必ずしも順風満帆とはいえなかった。
仮に9月の総選挙でSPDと「同盟90/緑の党」がタッグを組み、赤緑連合政権ができた場合、イニシアチブを取るのは支持率で勝る「同盟90/緑の党」だろう。政党として成熟し現実路線を強めつつある「同盟90/緑の党」とはいえ、CDU/CSUとの違いを鮮明にするため環境重視、分配重視、反戦重視といった理想主義路線を強めるかもしれない。
洋の東西を問わず、理念が先走り過ぎた政治は現実との間で軋轢を生む。新党首の下で挙党一致体制を作り上げることができたCDUが引き続きドイツで政権を担うなら、現実的な政治運営が望める。一方で9月の総選挙で「緑赤連合」政権が成立すれば、ドイツの政治は不安定さを高めると予想される。
■CDUの党首選は、EUの安定を大きく左右する
ドイツ政治の不安定は、ひいては欧州連合(EU)の不安定につながる。EUの二大国であるドイツとフランスの関係は、メルケル独首相とマクロン仏大統領との間で非常に良好であった。CDUが新党首の下で挙党一致体制を作り上げ、政権を引き続き担うことができれば、両国の関係は引き続き良好だろう。
しかしドイツ政治が不安定化すれば独仏関係にも秋風が吹きかねず、EUの運営にも悪影響が出る。またフランスも2022年に大統領選と総選挙を控えている。新型コロナウイルスの感染対策で支持率が持ち直したマクロン大統領だが、ライバルである極右マリーヌ・ル・ペン氏の人気も根強く、無事2期目を迎えることができるか定かではない。
ドイツでCDUが引き続き政権を担えず、さらにフランスでマクロン大統領が敗北すれば、良好だった独仏関係にひびが入る恐れが大きい。2021年1月のCDUの党首選の行方は、9月のドイツ総選挙の結果を、ひいてはEUの安定を大きく左右することになる。2021年はドイツ政治の行方に注視したい。
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)
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