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「余計なことは絶対にしゃべるな」給付金コールセンターで禁じられた話し方

プレジデントオンライン / 2021年1月4日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Blue Planet Studio

この夏、政府の持続化給付金をめぐってさまざまなトラブルが起きた。そのひとつが「コールセンターに電話がつながらない」というものだ。一体どんな問い合わせがあり、どんな対応が行われていたのか。元オペレーターがその内幕を明かす――。(第2回)

■わかっているのに、明確に伝えられないケースが多すぎる

男性社員は血相を変えて、私をこうたしなめました。

「今のはダメです、そんな余計なことは絶対しゃべっちゃいけません」

新人研修の際、講師役となったコールセンター社員たちはことあるごとに、「入電者に寄り添った対応をお願いします」と繰り返しました。

さらには各オペレーターの受電デスクの前にも、入電者に寄り添うようにと『心構え』が書かれた紙が貼ってあるのは、前回も触れた通りです。

ですが入電者に対するコールセンターの対応姿勢は、給付金を必要としている人たちの心情や実情に果たして本当に寄り添っているのかと感じることがしばしばでした。

入電者の問い合わせに対してコールセンターの側ではわからない、答えられない、あるいは詳細がわかっているのに、明確に伝えられないケースが多すぎるのです。

■なぜか「提出書類画像」を見ていないことになっている

審査の進み具合に関する質問に詳しく答えられないのはそのひとつだし、申請時に提出した書類に不備があった場合、どこを修正しなければいけないのかを、コールセンターの側ではっきり指摘することができないこともそうです。

申請者は必要書類をJPEGやPDFのファイルにして各人のマイページ経由で提出することになっていますが、審査の結果その書類に不備があると判断されると、後日マイページに訂正依頼の表示が出ます。ところがその表示はいくつかある定型文の中から選ばれているだけの内容なので、具体的に修正が必要な点がわかりづらく、よくコールセンターに相談が寄せられるのです。

彼らが提出した書類は、センター運営会社の社員や各派遣会社のスーパーバイザー、リーダーならば、データベースにアクセスしてそれぞれの画像を確認できる権限がありますから、申請者のマイページに表示された修正依頼文の内容と照らし合わせれば、直すべきところはだいたい特定できます。

なのになぜか、コールセンター側で各申請者の提出書類画像を見られることを入電者に明かしてはいけない決まりになっているため、ここを修正してくださいとオペレーターの側からはっきり伝えられないのです。だからオペレーターは、マイページに表示された書類画像を入電者自身に確認してもらいながら、彼らが「自分で不備に気付く」よう、それとなく誘導していくしかありません。

■トラブルを避けるために、負担ばかりが増える

ただ当然、中には不備箇所に気付いてもらえない入電者もいるわけで、そうなると結局オペレーターもお手上げになってしまい、「修正依頼の文面と書類を改めてごゆっくり確認していただけますでしょうか」と答えが出ないままの形での終話に持っていかざるを得ないのです。

書類が見えていることを明かすのを禁じられ、具体的な修正箇所をはっきり指摘できないのは、審査担当者でもないコールセンターの人間が迂闊に判断し、誤案内が起こるのを避けるためなのかもしれません。しかし入電者は解決を求めて電話をかけてくるのですから、リスクを恐れるよりも便宜を優先させることこそ寄り添った対応なのでは、と思うのですが……。

そして、何にも増して私が歯がゆく、また心苦しい思いをしたのは、いわゆるフリーランスとして働いている方々からの問い合わせを受けた時でした。

■公立高校の元教師だという年配の男性からの問い合わせ

制度の運用開始当初、個人事業主として持続化給付金を申請できるのは、年間収入金額を『事業所得』として確定申告した人に限られていました。今年になってからの収入減少条件を満たしていても、(雇用契約ではなく)業務委任契約に基づいて音楽教室や学習塾で教えている講師や、請負契約で完成品を納めているプログラマーやエンジニアなどが年間収入を『雑所得』、もしくは『給与所得』で確定申告していると、事実上の個人事業主であっても持続化給付金の申請対象者に含まれていなかったのです。

確定申告の書類
写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

その不公平さへの不満や批判が中小企業庁に多く寄せられたのか、対象者要件は途中で改められます。6月26日にフリーランスの個人事業主も申請できる旨が公式に発表され、同29日から申請可能となったのです。

6月中にフリーランスでも申請可能となる動きがあることは、コールセンターに事前に知らされていました。そして情報解禁されればすぐ問い合わせに答えられるよう、公式発表に先立ち、フリーランス申請の概要に関するレクチャーもセンター内で行われていたのです。

でもその内容をオペレーターが入電者に案内できるのは、あくまで公式発表が行われた後。発表されるまでは、口外を固く禁じられていたのです。

解禁日がいよいよ目前に迫っていた6月下旬のある午後、私は公立高校の元教師だという年配の男性からの問い合わせを受けました。

■「このままだと家を売ることになってしまいます」

その男性は定年退職後、業務委託契約の予備校講師として生計を立てているのですが、コロナ禍で講義の中止が続き今年の収入が激減してしまったため、持続化給付金の申請を思い立ったのだそうです。ところがかつて確定申告の相談をした際、税務署から講師としての収入を『雑所得』欄に記入するよう指導されたので、2019年分も予備校からの給与を雑所得として申告していました。

となると電話をしてきた時点では、持続化給付金の申請対象者から外れているのです。

「雑所得で申告していても、なんとか給付金の申請ができないものでしょうか。まだ今は貯金を切り崩しながら何とか生活してますが、このままだと家を売ることになってしまいます」

電話越しに、彼は切々と訴えてきます。けれど6月28日までは、事業収入として前年分の確定申告をしていない人は給付金の申請対象となりません。

学校の教室
写真=iStock.com/tabaco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tabaco

でも、困り果てていることが痛いほど感じ取れる声を耳にしていると、26日にフリーランスも申請可能との正式発表があり、29日から受け付けが開始されますとなんとかして伝えたい気持ちが、抑えられなくなってくるのです。とはいえ国が行っている事業の規則変更を、正式発表前にコールセンターが情報流出させるなど言語道断です。

■「そんな余計なことは絶対しゃべっちゃいけません」

そこで私は、こんな言い方をしてみました

「より多くの事業者の方の現状を反映できるよう、給付金の申請規則が随時変更される可能性もございます。ですので雑所得での申告者も給付対象者に含まれるようになるかどうか、今後こまめに給付金ホームページを確認されるようにしてはいかがでしょうか」

具体的な内容は一切口にすることなく、でもそう遠くないうちに、フリーランスも申請できるようになると察してもらえる――私ができるギリギリの案内のつもりでした。

ですが言葉の選び方が良くなかったのか、私の真意はうまく彼に伝わらなりませんでした。むしろ、空疎な気休めと受け取られたようです。

「そうですか……」

と力なくつぶやいた彼が電話を切るやいなやのことでした。近くを巡回していたコールセンター運営会社の男性社員が血相を変えてやってきて、

「今のはダメです、そんな余計なことは絶対しゃべっちゃいけません」

強い調子で私をこう注意したのです。規則が変更される可能性を示唆することすら、オペレーターは許されていないのだ、と。

■「余計な期待を持たせてはいけません」

目の前に貼られている『対応の心構え』の、

Web/申請のガイダンス/FAQ等、情報が確実なもの以外、お伝えしてはいけません!

に該当するということなのでしょう。確かに正論かもしれませんが、では私はばっさり、「フリーランスの方は申請対象となっていません」とだけ言い放てばよかったのでしょうか。

実は5月22日の段階で、持続化給付金事業の最高責任者である梶山弘志経済産業大臣が定例記者会見において、フリーランスの人も給付金申請の対象者となるようできるだけ早く制度改正をしたいと明らかにしています。記者とのやり取りの様子は経産省のホームページに記載されているので、せめてその内容ぐらいは伝えてもいいでしょうかと社員に確認すると、

「いつから改正されるかまだ決まっていないんですから、オペレーターの側から案内して余計な期待を持たせてはいけません」

と、またクギを刺されてしまいました。

■ネットに不慣れな人は情報集めも困難なはずだが…

規則改正の正式発表の直前でも、フリーランスの事業者は申請対象となるのかという問い合わせを、多くのオペレーターが受けていました。つまりそうした電話をかけてくる方々は、私が対応した予備校講師も含め、梶山大臣発言のことをまったく知らないわけです。

だとすると、オペレーターから「対象外」だと回答されれば、それっきり給付金申請を諦めるかもしれません。特にネットに不慣れな人は最新の情報を集めるのも困難です。自分にも門戸が開かれたことを知らないばかりに、今も苦境にあえいでいるフリーランスの方々は少なからずいるのではないでしょうか(私が電話を受けた予備校の先生、あのあと申請できてるかな……)。

ただ一方で、曖昧な情報を入電者に案内できないというコールセンター運営側が置かれた立場も、この業界に身を置いてきた者としては理解できるのです。ましてや多額のお金が絡む国の事業であり、今日明日の暮らしにも困っている方々を対象としているのですから、回答には厳格な正確性が求められるわけで。

そんな事情と入電者の生々しい声との板挟みの中、コールセンターのスタッフは日々、やり場のないもやもやした感情を抱え込んでいくのです……。(1月5日公開の第3回に続く)

(元オペレーター 飯島 じゅん)

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