「これこそ国費のムダ遣い」給付金コールセンターの"中の人"がそう話す理由
プレジデントオンライン / 2021年1月5日 11時15分
■「走りながら柔軟に修正」というやり方はいいのだが…
「結局あれは、『国民の皆様からの御批判にお応えしました』っていうポーズ作りなんですよ」
私たちのスーパーバイザーを相手に、コールセンター運営会社の社員はこう断じました。
持続化給付金という事業は、申請規程から問い合わせ窓口であるコールセンター内のルールに至るまで、さまざまなことがとにかく目まぐるしく変わります。
申請規程では、6月29日からフリーランス事業者や、2020年の1月から3月までに創業した事業者も給付対象者に含まれるようになりました。受付開始時の対象者の想定が甘かったと批判する声もありましたが、コロナ禍に苦しむ事業者を救済するため、まずはできる限り迅速に制度を立ち上げ、走りながら都度都度で柔軟に修正を施していくやり方を選んだのだと思います。
それに伴って申請者などからの疑問や要望が反映されていったのか、給付金のホームページには当初の記載内容よりもかなりきめ細かい説明や解説、よく寄せられる質問の例などがどんどん追加されていきました。
となるとコールセンターのスタッフも制度やホームページの変更に合わせ、新しい知識を随時理解、記憶していかねばならず、これにはなかなか苦労しました。
センター内の変化はこれだけではありません。
■「1日働いて2本しか電話を取らない」という人も珍しくない
5月の申請受付当初の超繁忙期には、渋谷の拠点だけで100人超もの入電者(相談者)がオペレーターにつながるのをずっと待っている時間帯があったそうです。
しかし7月中旬以降は入電数もかなり落ち着き、われわれのフロアにいる150人前後のオペレーターのうち、20~30人が応対中でも切電後の通話記録の作成中でもなく、ただただ手持無沙汰な状態にあることを、壁の電光掲示ボードが示す時間帯が出てきました。
さらに8月に入ると、日曜などは常に100名以上のオペレーターが電話が入るのをぼーっと待っているという人員の大量だぶつきが発生(1日働いて2本しか電話を取らなかった人も珍しくありませんでした)。そのせいか9月以降、渋谷をはじめ全国7拠点からなる持続化給付金コールセンターは、開設以来の無休稼働から、土曜・祝日が休みとなりました。
入電数の減少はオペレーター1人当たりが費やせる時間の増加につながり、応対に余裕が生まれます。
センター開設当初、申請後2週間未満の方からの審査の進捗状況の問い合わせの場合、個別の照会を極力避け、できる限り、「ただ今審査中ですので、もう少々お待ちください」という案内だけで終わらせるのが基本ルールでしたが、やがて、どんな方であってもまずは入電者の申請番号や名前、電話番号などをうかがって、データベースで個々の進捗具合を確認するようになりました。さらに、判明した状況について答えられる内容も、段階的に増えていったのです。
■給付が完了しているのに、「まだなのか」と電話
もっとも、審査部門並みに調べられるわけではなく、仮に確認できたことがあってもオペレーターが入電者に伝えられる情報は制限されているので、せいぜい、
「ただ今審査中です」
「申請に不備がないことまでは確認できております」
「最終確認まで進んでおりますので、給付通知をお待ちください」
「すでに振り込みが完了しています」(給付が完了しているのに、銀行口座を確認もせず「まだなのか」と電話してくる人がけっこういるのです)
程度の回答止まりなのですが。
とはいえ、これらの修正は給付対象者にとって多少なりとも有益に働くわけですから、ポジティブな変更と言えるのではないでしょうか。コールセンターのスローガンである「寄り添った対応」が、日々の業務に少しずつ反映されるようになってきたわけです。
■他人の不正受給をタレコミたい人がたくさんいた
ですがその一方で、持続化給付金事業の「中の人」(私たちコールセンターのスタッフだって、その一員でしょう?)からすれば、変更ではなく単なる“迷走”にすぎないと思えるドタバタにもしばしば直面します。
給付金の不正受給がマスコミでしきりに取り上げられ始めた7月中旬、不正をしていると思われる個人や法人についての情報提供を広く求める『匿名情報ダイヤル』を、持続化給付金事務局が設けたことがありました。
ところが開設初日から入電が殺到、回線がパンクしたため、わずか1、2日で廃止されてしまったのです(他人の不正受給をタレコミたい人が、それほどたくさんいたというわけですね)。結局元通り、既存の私たちのコールセンターが、不正受給に関する情報提供も受けつけることになったのでした。
■「国会レベルで応対品質が問題になっています」
こんなこともありました。
8月下旬、衆議院本館で開かれた『野党合同国対ヒアリング』で、中小企業庁が、
「持続化給付金コールセンターに審査状況の問い合わせを毎日していたある申請者が、対応したオペレーターから『毎日電話していただいても迷惑ですから、待ってください』と言い放たれた上に、オペレーターの側から一方的に切電されたとの報告を受けている。給付金事務局のコールセンター監督態勢はどうなっているのか」
と指摘されたのです。するとその10日後、コールセンターでの朝礼時に我々の派遣会社のスーパーバイザーから、こんな訓示がありました。
「国会レベルで給付金コールセンターのオペレーターの応対品質が問題になっています。これからは今まで以上に、入電者の気持ちに寄り添った対応を心がけてください」
具体的には、入電者がまだ話をしている時は絶対にオペレーターの側から言葉をかぶせないことを、まず強く求められました。
さらに、それまでは入電者とのやり取りの途中で相手が激昂して、「責任者に替われ!」と要求してきた場合でも、管理者が安易に交替したりせず、できる限りオペレーター1人で解決すべしとなっていた基本方針も、捨て去られました。
簡単に対応交替しないのは元々、各オペレーターのトークスキル習熟のためだったのですが、ヒアリングでの批判を受けて背に腹は代えられなくなったようです。入電者とのやり取りが長引いているオペレーターがいたら、リーダーやオペレーターがすぐに別の端末経由で会話の同時聴取を行い、話がこじれて相手の感情が高ぶってしまう前に積極的に対応交替する、と改められたのでした。だったら最初からそうすべきだったのでは、とも思いますが……。
そして最も馬鹿げたドタバタ劇、といえばやはり、9月以降のコールセンターの新設に尽きます。
■「電通への丸投げ」といった批判を受けて、運営が別会社に
持続化給付金事業がゼロから立ち上がった際、経産省から受託したのは『サービスデザイン推進協議会』(以下、サ協)でした。これが「電通への丸投げ」ではないかとの批判を受け、9月以降は『デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社』(以下、デ社)が事業を受託することになったのです。
となると当然、5月からの給付金事務局関連組織は引き継がれません。デ社を頂点とする体制の中で、9月以降の申請者向けにホームページ、審査部門、振込部門、コールセンターなどをまた改めて作らなければならないのです。
これほど無意味なことってあるでしょうか。
本来必要なかった、同じ業務を行う組織をもう1セット立ち上げなければならなくなったのです。そして8月末までの申請者分の審査、書類不備連絡、入金、問い合わせ受け付けなどの業務は、9月以降も引き続き、私も属しているサ協体制の組織が行います。つまり、2セットの組織が並走するという……。
あれは、デ社と給付金業務の契約を行ったと経産省が8月中旬に正式発表してから、数日後のことだったと思います。その日の終業時間間際、私たちの派遣会社のオペレーターが固まって着台しているエリアまで、なにかの用事でコールセンター運営会社の社員が来ていました。
用が終わったタイミングで、我が社のスーパーバイザーがその社員に世間話を始めました。やり取りの内容は、すぐそばにいた私の耳にも入ってきます。
■「なんで経産省は、あからさまな予算の浪費をするのか」
「9月からの予算分はデロイトトーマツが仕切るみたいですね。ここみたいなコールセンターもわざわざ新しく作るんでしょ? 冗談みたいですよね」
センターの社員が返します。
「せっかくうちのオペレーターさんたちが場数を踏んで規則の知識が深まって、トークスキルも上がってきたから、てきぱきした応対ができるようになってるのに……。向こうのセンターはこれから急いで募集して、白紙の人に駆け足の研修で詰め込んで形だけ間に合わせたところで、ちゃんと案内ができるのかなあ」
スーパーバイザーはそれを受け、
「センターだけじゃなくて新しい審査部でもおんなじ調子だろうから、こっちの事務局の5月や6月みたいに、いろいろなことが滞ったり、ミスが起きたりするんじゃないですか。電通が入札しなかったんだからしょうがないけど、なんで経産省はわざわざ別の会社に発注して、あからさまな予算の浪費をするんですかねえ」
するとセンター社員はうなずきながら、吐き捨てるように言いました。
「結局あれは、『国民の皆様からの御批判にお応えしました』っていうポーズ作りなんですよ」
2人の懸念は、的中することになります。
■「オペレーターが要領を得ない」といった不満が相次いだ
9月から新事務局での持続化給付金の申請受け付けが始まるや、さながら旧事務局の立ち上げ当初が再現されたかのように、SNSなどで「いつまでたっても給付されない」「コールセンターに電話しても、オペレーターの答えが要領を得ない」といった申請者からの不満が相次いだのです。
それだけなら旧事務局体制の側はただ傍観していればよかったのですが、私たちのコールセンターまでが“被害”を受けました。
給付金申請を検討中のある方が、新しいコールセンターへ提出書類に関する込み入った問い合わせをしたのですが、電話を受けたオペレーターが不慣れだったため、的確な回答ができませんでした。するとそのオペレーターはあろうことか、「より詳しい情報をお求めでしたら、今から申し上げる番号におかけ直しください」と、旧コールセンターへの連絡を案内したというのです。
9月以降の申請者や申請検討者からの問い合わせを受ける窓口は当然、そのために設けれた新コールセンターです。私たちの旧コールセンターは新センターの開設と同時に、8月31日までに申請した方々向けの専用相談窓口へと役割が変わりました。仮に9月以降の申請者が旧センターに審査の進捗状況を問い合わせてきても、新旧事務局間でデータベースが共有されていないので、照会そのものができない仕組みになっているのです。だから新旧の持続化給付金ホームページ上でも、申請をいつ行ったかによって、問い合わせ窓口の電話番号が異なることが明記されています。
そんなところへ、新コールセンターからたらい回しにされた筋違いの質問が入ったのですから(もちろん対応はしました)、われわれの職場ではけっこうな話題になったものです。もっともそのむちゃ振りは新センター全体の方針というわけではなく、〈あっちならちゃんと答えられる人がそろっているはず〉と、件のオペレーターが勝手に旧センターへの連絡を案内しただけのようですが……。
■電通が排除されたら、今度は博報堂が同じ図式を繰り返す
その後、もっと深刻なトラブルも起きています。
経産省が11月27日、9月以降に受け付けた持続化給付金申請のうち、給付条件を満たしていない536件に対して誤った支給が発生していたと公表したのです。オンライン申請システムの不具合が原因で、誤支給の総額は約5億円に相当するそうです。
その額が、給付条件に該当していながら新しい審査部署の混乱や不手際のせいでいまだに給付金を受け取れていない、切羽詰まった申請者の方々に渡っていたらどれだけよかったことか。
同システムの構築、運用を担当していたのは、デ社から再委託を受けた博報堂とその子会社などと見られる、と報じられています。電通が排除されたと思ったら、今度は博報堂が同じ図式を繰り返しているというわけです……。
現在も、持続化給付金のホームページによれば新しいコールセンターはもちろん、旧コールセンターだって引き続き絶賛稼働中のようです。
いかにも無駄な、国費の垂れ流しではないでしょうか。(続く)
(元オペレーター 飯島 じゅん)
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