「夫婦で年収2000万円も可能」客単価2万円の高級寿司店の儲け方
プレジデントオンライン / 2021年1月13日 11時15分
■一流寿司屋は1食3万円もザラ
「値段がわからずお会計が怖い」「なんで1食3万円もするのか?」
一流寿司屋に対してこのようなイメージを抱く方は少なくないはずです。
わたくし、「寿司リーマン」と申します。月給の6割を投資し、平均週4回全国の一流寿司屋を食べ歩いている28歳のサラリーマンです。これまで一流寿司に投資した金額は3年間で600万円。累計10000カンの一流寿司を食べてきました。
私にとって一流の寿司屋とは、寿司を食べる場所ではなく、自己成長につながる場所、いわば「ビジネススクール」です。これこそが普通のサラリーマンである私が、時間とお金を投資し続けている理由です。
さまざまな角度から、「一流の寿司屋=ビジネススクール」という観点で、読者の皆さまにその魅力をお伝えできればと思っています。
今回のテーマは、「一流寿司屋のビジネスモデル」です。
「一流寿司屋の経営がどのように成り立っているのか?」「なぜ一流寿司屋は1食3万円もするのか」その正体を考察していきます。
■「自分が客なら」という視点で「おまかせ」の値段を決める
一流寿司屋では、その日最高の魚を仕込み、つまみから握りまでの一通りのコースを大将に委ねる「おまかせ」を頼むことが主流で、価格帯は「2万円」「3万円」がスタンダードです。超高価格帯でも予約が絶えない店が続々と登場する現象は「寿司バブル」とも呼ばれているほどです。
なぜ、一流の寿司屋はこんなにも超高価格帯なのか。その内訳はどうなっているのでしょうか?
私が仲良くさせていただいている、北海道の一流寿司屋の大将、42歳の高田さん(仮名)に、「寿司屋とお金」の話を聞いてみました。他のお客さんが帰った後、彼は「寿司屋のリアル」について語ってくれました。
【寿司リーマン】(以下、寿司)聞きにくい話なのですが、今日は「寿司屋とお金」の話を聞かせてください。
【高田大将】(以下、大将)グレーなところを聞いてくるなあ(笑)。
【寿司】すみません! 早速なのですが、寿司屋のおまかせってなんであんなに高いのでしょうか? おまかせの金額ってどうやって決めているんですか?
【大将】一流寿司屋が高いのは、市場で良い魚を選びに選んでいるというシンプルな理由だよ。あとは、キャバクラみたいに「見栄の商売」でもあるから、意図的に高く設定しているという部分もある。おまかせの値段の決め方は、いろいろな人がいると思うけど、俺は「自分がお客さんだったらこれくらいの値段ならギリギリ許せる」という観点で決めた。あとは、地元のお客さんにも来てもらいたいから、極端に高すぎないラインを考えて、うちは1.5万円にしたよ。
【寿司】大将の場合は、「お客さん目線に立って、自分が許せる価格帯でまずコースの値段を決める」というやり方で価格設定されたんですね。
【大将】そう。いい魚を仕入れようとしたら値段にキリがないから、まず1.5万円という価格を決めて、その中でなるべくうまい魚を仕入れているんだよ。
■なぜ寿司屋の寿司には値段が書いていないのか
【寿司】「おまかせ」は値段が決まっているので安心ですが、追加の握りは値段が書いていないのが一般的ですよね。注文するときに少しドキドキしてしまうのですが……(笑)。
【大将】握りの値段が書いてないのは、市場の魚の値段が毎日違う「時価」だからだよ。ただでさえ仕込みで忙しいのに、寿司屋で毎日メニューの値段を差し替えていたらキリがないよね。だから初めからメニューがないんだ。あと、値段を書かないことで「ちょっと敷居が高いんだぞ」と示したい、という理由もあるかもね。さっきも言ったけど、お寿司屋さんって、見栄の商売みたいなところがあるから。
【寿司】なるほど! ちなみに、お客さんの足元を見て値段を決めることはあるんですか?
【大将】一部にはそういった悪習もあると聞くよ。お金を持っていそうな人からは多く取る、いわゆる「ぼったくり」だ。それから、迷惑だったり面倒くさいお客さんには高い請求をして、もう来させないようにするお店もあるみたいだよ。
【寿司】直接注意せずに、「値段を見て察しろ」とするのもある意味“粋”なんですかね。
■寿司屋の原価率は40%が一般的
【寿司】ちなみに、寿司屋の原価率ってどれくらいなんですか?
【大将】寿司屋の原価率は「40%が一般的」かな。
【寿司】確かに「原価率40%」はよく聞きますね。都内の弟子が多い寿司屋だと、原価率をそんなに高くできないから、30%の原価率でやっているという話もよく聞きます。
【大将】俺の修業先では、30%前半に抑えろ、みたいな感じで言われてたかな。そんなんでおいしいものを出せるのかよ、と疑問に思ってたけどね。
【寿司】なるほど。
【大将】だから修業先にいいイメージがなくてね……。でも正直、都内だとオーナーがいないとやっていくのは厳しいだろうね。土地代もあるし。東京の寿司屋は割高に感じてしまうな。地方で寿司屋を経営したほうが自分には合っている。俺はなるべく原価をかけないように市場で直接魚を買うようにしているよ。
【寿司】要は、仲卸を挟まずに、直接漁師さんから魚を買うということですか?
【大将】そうそう。仲卸を挟むメリットは、仲介料がかかるけどその分お店に届けてくれたりすること。それはそれでありだと思うけど、俺は産直での仕入れや、直接市場に行って自分の目で魚を選ぶようにしているかな。その分原価を少しでも抑えて、うまい魚を提供したいからね。
■寿司屋はもうかる職業なのか
【寿司】東京と地方では魚の値段も全然違うんですか?
【大将】地方の市場は豊洲の魚を引っ張ってくることも多く、その場合輸送量が上乗せされる。意外と豊洲で買った方が安く済むなんてこともあるよ。例えばアナゴ。豊洲で買うと大体1kgあたり3500円。北海道の市場で同じアナゴを買おうとすると、1kg5000円。だから俺は豊洲の3500円のものを大量に仕込んで、冷凍しておくんだ。
【寿司】そうなんですね。おまかせの値段をまず決めて、原価率40%という制限の中で、使う魚を決めていく。価格設定の話、初めて聞きました。
【大将】マグロやカニ、カラスミの旬である冬の方が、どうしても原価率は上がるから、今の時期は正直つらいよ。でもいずれにせよ「損益分岐点」を超えればいい。俺は弟子がいるわけではないから、「もうけないといけない」というマインドがそんなに強いわけではないし。ほそぼそとお店が続けられたらいいかな。
【寿司】ぶっちゃけ、お寿司屋さんってもうかるんですか?
【大将】寿司リーマンさんだから詳しく話すけど、安定的に予約が埋まってくるようになれば、けっこうもうかるよ。たとえば客単価2万円、夫婦2人で経営、弟子2人のお店で“もうけ”を試算してみよう。月に25日間営業して1日あたり5人お客さんが来たとすると、月の売り上げは250万円。原価率が約40%なので仕入れに月100万円ほどかかる。弟子2人の給料に月50万円、家賃が30万円としても月70万円ぐらいは夫婦に残る計算になるよね。ここでは1日のお客さんを5人として計算したけど、もし10席のお店が毎日満席で2回転したら、単純計算で月の売り上げは1000万円。従業員の人件費や家賃も高くなるけど、もろもろの経費を引いても夫婦2人で月収200万円ぐらい稼ぐことも夢じゃない。原価率は一般的な飲食店(約30%)より高いとはいえ、客単価が高いからいい商売だよね。
【寿司】へえ~! もちろんそこまで人気店になるまでが大変だと思いますが、夢がありますね。
■ビジネスライク派の職人と庶民派の職人
【寿司】おまかせの価格をいくらで設定するのかは、大将=経営者としてのスタンスが問われますね。ビジネスライクにお店を経営するのか否かという方針は大将=経営者としての価値観が大きく影響しているんですね。
【大将】だんだん売り上げが上がってくると、「老後の保険」のことを考えたりするんだよね。子供のためとか、自分や家族の将来を考えると、もう少し価格を上げようかという思考になる大将は多いみたい。仲の良い大将と飲みながらそういう話をよくするね。
【寿司】寿司職人から「老後の保険」の話が出てくるとは。これは意外(笑)。
【大将】あと「もうけたい!」という欲求が強いビジネスライクな大将は、若い頃の「反動」があるかも。
【寿司】若い頃の反動?
【大将】どうしても寿司職人は、18歳ごろから数十年、安い給料で厳しい修行生活を過ごしていた人が多いから、そうした下積み時代の反動で「自分で店を経営してもうけて、いい生活をしたい!」という野心がある人は多いだろうね。
【寿司】ビジネスライクな職人なのか、庶民派の職人なのか……。どちらがいい悪いではなく、お客さん側も食べ歩きをする中で、自分の価値観とマッチする寿司屋に出会えればいいですよね。私の場合は、ビジネスライク派よりも、庶民派の寿司屋の方が、結果的にリピートする傾向にあります。これは本当に価値観の話なので、合う寿司屋、合わない寿司屋が出てくるのは当然だと思います。
【大将】「4万円を払ってでも日本最高峰のマグロを食べたい」「そこそこのネタを技術でおいしくしてくれる1.5万円の寿司を食べたい」など、お客さんのニーズもさまざまで、そのどれもが正解。われわれ寿司屋側もお客さんのニーズをくみ取ることは大切だけど、自分自身の哲学、価値観を貫くことで、それを受け入れてくれるお客さんもついてくる。カウンター8席が毎日埋まってくれれば、食っていける。時間はかかるけど、自分を信じて、愚直にやるしかない。
■寿司屋の大将は1人3役をこなしている
【寿司】私が寿司屋の大将をリスペクトしていることのひとつに「1人で3つの職業をしなければいけない」ということがあります。こだわりの料理を提供する「料理人」、居心地の良いサービスを提供する「サービスマン」、そしてお店を運営する「経営者」。この3つの職業を1人でやらねばいけないのがとにかくすごい。
【大将】「夢だけでは寿司屋はできない」んだよ。経営観点は必須。雇われの大将よりも1年間での経験値はかなり多いと思うよ。全部自分で判断しないといけないからね。営業電話も毎日かかってくるし、だまされたことも何度もある。どの大将にもストーリーがあり、いろいろな事情があって、価格設定、経営をしているんだ。いい悪いではなく、人それぞれだよ。
【寿司】われわれお客側もリスペクトの気持ちで寿司屋に足を運ぶべきだと改めて感じました。ありがとうございました。
■寿司屋を通して、自分の「好き嫌い」の基準が見えてくる
一流の寿司屋が高価格な理由はさまざま。「最高級のマグロを使うために、価格を上げざるを得ない」「自分の家族の将来を見越して値上げする」「仕事を頑張ればぜいたくな暮らしができるという寿司屋ドリームを弟子に見せたいから高価格帯で勝負する」など、大将それぞれの人生観が、「お会計」に詰まっています。
そうした観点で寿司屋に足を運び、大将の想いを想像しながら寿司を食べると、新たな発見や学びがあるかもしれません。
そして、寿司屋の食べ歩きを通して、「自分はどんな寿司屋、どんな大将が好きか?」ということを考えてみてください。その問いを通して、寿司屋に限らない「自分の好き嫌いの価値観」が、きっと浮かび上がってくるはずです。
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会社員
25歳で訪れた石川県の名店「太平寿し」をきっかけに寿司屋の奥深さを知り、全国200軒以上の予約困難店を食べ歩く28歳のサラリーマン。月給の6割を寿司に投資し、累計10000カンの一流寿司を食す。そこでの実体験から編み出した「一流の寿司屋はビジネススクール」という独自の価値観で、寿司の価値を再定義し、発信している。各種SNSはこちらから
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(会社員 寿司リーマン)
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