開成、桜蔭、女子学院…「超難関校」の入試問題に起きている大変化

プレジデントオンライン / 2021年1月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Manmarumaki

今年の大学入試から「大学入学共通テスト」が始まる。これが中学受験にも影響を与えつつある。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康氏は「大量暗記が中心だった中学受験が、思考力や記述力を問うものに変わってきている」という――。

■「知識量や処理能力」から「思考力や記述力」に舵切り

2021年度の大学入試から、センター試験が廃止され、大学入学共通テストが導入される。入試改革の背景には、AIの進化や急激に進むグローバル化など、近年の日本を取り巻く社会環境の変化があげられる。

これまでの学校教育で重視されていた知識や技能は、やがてAIが代わりにやってくれるようになる。それよりもこれから必要になるのは、人間にしかできない思考力や表現力、判断力だ、というのが主な趣旨だ。その考え方自体はまっとうだと思う。だが、一昨年土壇場で英語の民間試験の活用が見送られたように、いまだ入試改革は混乱が続いている。

そんな大学入試の動向を固唾をのんで見守っていたのが、私立中高一貫校だ。もともと麻布中や栄光中といった一部の難関校では、思考力や記述力を求める問題を出題していた。それがここ数年、同じ難関校でも知識量や処理能力の高さを重視していた学校が、思考力や記述力を問う入試問題へと舵を切り始めているのだ。

たとえば開成中の理科入試は、これまでは知識型で難関校の入試のわりには簡単と言われていた。ところが、昨年度の入試では、統計の処理が必要な問題が出るなど、判断するための材料を自分で整え工夫する力が求められるようになった。

また、医学部進学が多い、女子最難関校の桜蔭中の算数入試といえば、膨大な量の問題をいかに早く正確に解けるかという処理能力の高さが求められていたが、ここ2~3年で思考力を問う問題も見られるようになった。同じく女子難関校の女子学院中の国語入試は、これまで記述はほとんどなかったが、昨年度の入試では表現力を問う記述問題が出題された。

こうした変化の背景には、やはり大学入試改革の存在がある。

■大学進学実績をつけたい「中堅以下」

毎年多くの受験生を集める人気の難関校でさえ、時代の変化を感じ、新しい入試スタイルに変えつつあるのだから、それ以外の学校はさらに新大学入試を意識せざるを得ない。私立には各学校に建学の精神があり、本来であればそこに魅力を感じて入学するものだ。

そうは言っても、大学進学実績が学校の人気を決めるというのも現実。特に少子化が加速する今、数少ない子供たちになんとか自分たちの学校に入ってもらおうと、中堅校や底辺校は生き残りに必死だ。生徒を増やすためには、大学進学実績を上げていくしかない。

■大学入試対策が、学校のレベルアップにつながる

そこに早く目を付けたのが、公立中高一貫校を受検(※適性検査問題による選考は、受検という名前になります)する子の受け皿を買って出た中堅以下の私立中学だ。東京都に公立中高一貫校が次々に誕生した15年前は、「ダメもとで受かればラッキー」くらいの気持ちで受検するケースが多かったが、今は「受検」に必要な知識やテクニックを教える塾も登場し、そこでしっかり対策をとってから受検に挑む家庭が増えている。単なる記念受験ではなくなってきたのだ。

とはいえ、毎年、平均倍率6~7倍の狭き門であることには変わりない。残念ながら不合格になった子供たちをターゲットに始まったのが、中堅以下の学校の適性型の入試だ。当初は「これって適性型入試って言えるのかな?」と首をひねるような“適性型風”のものも多かったが、年々研究を重ねていくうちに問題の質もかなり上がってきたように感じる。

また入学後も、思考力、記述力を高める授業を実践し、入試に実際の授業の中身が伴うようになった。公立中高一貫校に向けた対策で、思考力、記述力が鍛えられた受験生が集まったことで、レベルアップにつながった学校もある。

これまでは生徒確保のための手段として適性型入試を行っていたが、今後は大学受験対応の入試として注目される学校も増えてくるだろう。新しい大学受験に対応できる力があるか否かが、今後の中学受験における学校選びのポイントになるに違いない。

東京大学安田講堂
写真=iStock.com/wnmkm
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■大量暗記・パターン学習では通用しなくなる

中学受験に塾は不可欠と言われるが、集団授業を基本とする大手進学塾を中心とした今の中学受験では、どうしても知識やテクニックの指導になってしまいがちだ。近年、家庭教師として受験指導をしていて感じるのは、塾が指導している内容と実際の入試の中身が乖離(かいり)していることだ。

多くの受験生は、大手進学塾の指導の下、受験勉強を進めていく。すると、大量の暗記やパターン学習が身についてしまい、今の時代に必要とされる思考力や判断力、記述力を養うことができない。

だが、学校が求めているのは、それらの素地を持った子供たちだ。なぜなら、そういう子は物事に対して興味・関心を持ち、自ら考え、学ぶ姿勢が備わっているから。そして、そういう子こそ、新しい大学入試では強く、結果、学校の進学実績にもつながっていく。

これからの中学受験に思考力や記述力が求められるようになることは、塾側ももちろん分かっている。だが、これまでの指導をガラリと変えるのは、現実的に難しい。塾で学ぶ知識量は若干減るかもしれないが、大きくは変わらないだろう。それならば、どのように受験対策をしていけばよいのか?

■「幼児期の過ごし方」が重要になる

一番の方法は勉強の取り組み方を変えることだ。従来の受験勉強は、塾から教えられた知識やテクニックをくり返し覚え、大量の問題を解くことで、頭にインプットしていた。しかし、これからの入試はその知識や問題がそのままの形で出ることはまずない。その知識をもとに因果関係を説明させたり、過去の経験と照らし合わせて表現させたりするといった思考型や表現型の問題に変化していく。

子供は自分が経験したことや実感したことがなければ、思考をめぐらせたり、自分の考えとして表現したりすることができない。そういう点においては、これからはますます幼児期の過ごし方が重要になってくるだろう。早期教育に走るのではなく、身体を使った遊びや、視野の広がる経験、語彙(ごい)を広げる家族の会話を大切にしてほしい。それらが思考力や表現力を育む土台となるからだ。

公園で遊ぶ子供
写真=iStock.com/chachamal
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■「何を」よりも「どのように」が大切

実際に受験勉強が始まったら、学び方を間違えないことだ。塾の先生の話をただ聞いていては、知識は右から左へと流れていくだけ。入試のスタイルが変わっても、受験に必要な知識量が大幅に減ることは考えにくいので、なんとなく覚えたつもりの知識は、家でまたくり返し学習しなければならない。そうなってしまうと、これまでの受験勉強のやり方から脱することはできない。

思考力や表現力を伸ばすには、子供自身に勉強の工夫をする余裕を持たせることが大事だ。そのためには、「なぜそうなるのか?」(原因)、「だったら、どうなるのか?」(予測)を意識しながら、納得して覚える習慣を付けることだ。そこをしっかり意識して学習すれば、無駄に大量の宿題をやる必要はない。

また、「考えることは書くこと」を徹底させてほしい。大人でもそうだが、頭の中にぼんやり浮かんでいることを言葉にするのは難しい。思考を整理するのは、書くことが有効だ。中学受験でこうした学び方を身につけておくと、その先の大学受験はもちろん、社会に出てからも活用できる。

これからの中学受験で大切になってくるのは、「何をやらせるか」ではなく、「どのように勉強をするか」。大量パターン学習が身についてしまった中学受験が、これを機会に大きく変わることを期待している。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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