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「"1回3億円の口紅王子"は日本ではムリ」青汁王子がそう考える2つの理由

プレジデントオンライン / 2021年1月15日 11時15分

“青汁王子”こと三崎優太氏 - 提供=扶桑社

インフルエンサーが動画で商品をPRする「ライブコマース」という手法が中国で盛り上がっている。中には1回の配信で3億円もの売り上げを出す人気ライバーも存在する。かつてネット通販事業で年商130億円を稼いだ“青汁王子”こと三崎優太氏は、「日本ではライブコマースは流行しない」という。その理由を聞いた――。

■最大の特徴は「視聴者からもコメントを受け付けている」こと

いま中国で大きな売り上げをたたき出している分野として「ライブコマース」があります。ライブコマースは、「ジャパネットたかた」とYouTubeライブが合体したテレビ通販番組のネット版と言えばわかりやすいかもしれません。その大きな特徴は、視聴者からもコメントを受け付けていることです。ライバー(ライブをする人)がその場で商品にかんするあらゆる質問に答えられるため、満足度が高いのです。

中でも高い人気を誇るライバーが、1回の配信で3億円分を売り上げるという「口紅王子」こと李佳琦氏(以下、口紅王子)です。彼は1992年生まれ。1989年生まれの私と年齢はほぼ一緒です。

口紅王子のもとには連日企業からのPR案件の依頼が入り、その商品を口紅王子が「淘宝直播(タオバオライブ)」というアプリを使い、1つの商品を10〜15分かけて紹介します。PR案件は広告宣伝費のほかに、売り上げに応じてレベニューシェアをとることが一般的です。

ライブ配信では商品のスペックや値段の紹介はもちろん、実際に口紅をつけて色味を見せたり、口紅王子自身の主観的なコメントが入ったりします。彼に絶大な信頼を寄せているフォロワーたちは、ライブ配信を見ている最中に商品をカートに入れ、購入するのです。

では、2021年に日本でも口紅王子のような存在は登場するでしょうか。

「日本で口紅王子は生まれない」が私の答えです。その根拠について説明します。

■青汁王子はどうやって青汁を売っていたのか

私がフルーツ青汁のEC事業(ネット販売)を進めていたのは2014年ごろ。それまで高齢者が飲む“苦い薬”のイメージだった青汁を、若い女性向けに飲みやすいフルーツ味にして“美容商材”として販売していました。今でこそTwitterフォロワー数149万人、YouTubeチャンネル登録者数28万人の私ですが、当時は個人のSNSアカウントはほとんど更新しておらず、ネット通販で頼っていたのはLP(ランディングページ)と呼ばれる商品の紹介ページだけでした。

LPの場合、ページを開いたときにすぐに目に入るファーストビューでいかに興味を引くかが重要です。ファーストビューで興味を持つと、消費者はページを下にスクロールしてくれるからです。もちろん、今でもこうしたノウハウでネット通販をしている企業はあまた存在します。

中国の口紅王子は“人”で売っていますが、当時日本でかなり売り上げを伸ばしていた私のフルーツ青汁は、ページの“キャッチ文言”と“写真”で売っていました。これをリアル店舗で置き換えた場合、前者が店頭販売員、後者がチラシを販促ツールとして使っていたというとわかりやすいでしょう。

当時私が実行していたのは、複数用意したLPをランダムで表示させ、そのうちどれがもっともクリックされやすいか測る「ABテスト」と呼ばれるものでした。例えば、ファーストビューの画像を4パターン用意し、最もビューがよかったページを採用する。そして、また4パターン選択肢を用意し、その中でコンバージョンレート(クリック率)が高いページを検証する……の繰り返しです。「わがままボディを解消!」と「メタボ解消!」では、ほぼ同じような意味ですが、「わがままボディ」という文言のほうがクリック率が1.5倍以上高かったりするのです。

こうして、ABテストを繰り返して購買率を高め、そこで得た売り上げを広告費予算に回すというサイクルを繰り返して売り上げを伸ばしていきました。

■日本の人口規模はライブコマース向きではない

さて、そんな私が日本で口紅王子は生まれないと主張する根拠はなんでしょうか。

座って話す三崎優太氏
三崎優太氏(提供=扶桑社)

理由は2つ。

一つは、人口の差です。

現在、日本の人口が1億3000万人なのに対し、中国は約14億人。その差は約10倍と圧倒的です。両国では1回のライブ配信による視聴者数がまったく異なるのです。

私が青汁を通販していた際に使っていたネット広告は「広告バナーを1クリックすると○円」というように広告単価が決まっていました(現在もそうです)。つまり少額な予算から始められるため、数個しか売れなかったとしても広告費で赤字になることはあまりないでしょう。特に、中国に比べて圧倒的に人口が少ない日本では、小さくスタートして、小さな売り上げを立てていくという仕組みが主流になりやすいのです。

もちろん、ネット広告は従量課金制なので事情は中国も同様ですが、ライブコマースはインフルエンサーに初期費用を支払う必要があるため、小規模ビジネスだとなかなかタッグを組みにくい。つまり、日本の場合ライブコマースを進めにくいのです。

また、中国では一度のライブ配信で数千から数万人が商品を購入することも珍しくありません。いわば日本のテレビ通販と同じ規模の売り上げが動いてるので、ライブコマースを積極的に実行するインセンティブが働きやすいと考えます。

■ステマを疑う日本人という国民性の問題も

日本で口紅王子が生まれない2つ目の理由として、日本と中国のインフルエンサーに対する考え方の違いが挙げられるでしょう。

ここ数年で日本国内におけるインフルエンサーの勢いは鈍化しています。日本のインフルエンサーは企業からの広告案件を受けすぎた結果、節操なくいろいろな商品を紹介したことで信頼度が下がってしまいました。

インフルエンサーが増えた結果、次第にPR案件の広告単価が下がり、インフルエンサーは安価な広告案件も受けざるを得ず、フォロワーから「お金をもらってるからこの商品を紹介しているんでしょ?」とそっぽを向かれてしまっているのです。

さらに、近年では広告であることを標榜せずに商品を紹介する「ステマ行為」がインスタグラム内で増えており、インフルエンサーへの信用度が低下しているのもこの問題をより深刻なものにしています。

また、広告を出稿する企業側の視点で言っても、インフルエンサーに頼ることは中国よりもメリットを享受できないものになっています。日本のインフルエンサーのフォロワー数は中国に比べて圧倒的に少ないからです。例えば、元AV女優で、現在は中国で日本のコスメの販売事業を手掛ける起業家の蒼井そらさんのSNSを見てみましょう。彼女のツイッターのフォロワー数は約37万人なのに対し、中国版のツイッターである微博のフォロワー数は約1900万人。その差は圧倒的です。

フォロワー数が少ないという問題と、広告案件単価の低下により、日本ではライブコマースで大きく売り上げを伸ばせる可能性が低いというのが私の考えです。

三崎優太氏近影
提供=扶桑社
三崎優太氏 - 提供=扶桑社

■日本においてネットでモノを売るにはどうしたらいいのか

では、現在日本国内においてネットでモノを売ろうとした場合、どうすればよいでしょうか。

口紅王子のようにライブ配信で商品を紹介するよりも、YouTuberと協業するのが正解だと私は考えます。年々、YouTubeの市場規模は拡大しています。加えてYouTubeは<PR>の表記を広告案件の動画に入れても、最後まで動画を見てくれる視聴者が他のSNSよりも圧倒的に多いのです(一般的にほかのSNSでは、<PR>表記を入れるとフォロワーから見られにくくなる)。

しかし、長期的にはYouTube広告の影響力も低下していくでしょう。一般に、1つのプラットフォームに広告があふれかえると、プラットフォーム自体への信頼感や魅力が落ちやすいからです。すべてのプラットフォームは一過性のものにすぎないのです。

三崎優太『過去は変えられる』(扶桑社)
三崎優太『過去は変えられる』(扶桑社)

これは私自身の経験を根拠にしています。私が2014年にフルーツ青汁を売った頃は、今ではよく見るTwitter広告を出している企業はまれでした。当時の広告単価は現在の10分の1程度で、クリック率もとても高かったのです。現在1万円する広告をなんと1000円で出稿できました。

つまり、広告費が安く、まだ誰も施策を打っていないプラットフォームで広告を出すことが日本国内でネット通販事業を行う上では重要なのです。今回取り上げた口紅王子の件にしても、重要なのはライブ配信というプラットフォームそのものではなく、時代ごとに価値の高いプラットフォームを見極め、そこで仮説と検証を繰り返して先行者利益を得ることです。

売り上げをあげてくれる「王子様」を指をくわえて待つのではなく、自社で「予測力」を持つことこそが売り上げを立てる最大の要因となるのです。

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三崎 優太(みさき・ゆうた)
メディアハーツ元代表
1989年、北海道出身。高校時代に始めたアフィリエイト広告で月収400万円を売り上げるなど、若くしてビジネスの才能が開花。高校を二度退学後、パソコン1台で起業し、18歳でメディアハーツ(現:ファビウス)を設立。2014年には美容通信販売事業を開始、2017年に「すっきりフルーツ青汁」が累計1億3000万個の大ヒットとなり、年商131億円になる。「青汁王子」と呼ばれ、メディアにも多数出演。現在は、若手経営者への多岐にわたる事業支援を精力的に行う実業家として活躍。

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(メディアハーツ元代表 三崎 優太 構成=鈴木俊之)

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