マスク研究家が解説「布マスクでOKな場所、不織布にすべき場所」
プレジデントオンライン / 2021年1月19日 11時15分
※本稿は飯田裕貴子・眞鍋葉子『感染症時代のマスクの教科書』(小学館)の一部を再編集したものです。
■マスクでできること、できないこと
感染症のリスクが身近に迫る時代において、私たちはマスクとの付き合い方をどのように考えていけばよいのでしょうか。
科学の進化にもかかわらず、大正時代にインフルエンザが流行したときと現代の感染症対策は、基本的には、ほぼ同じ「手洗い、うがい、マスク着用」です。今後も、大きくは変わらないのかもしれません。
また高機能なマスクさえ着ければ、100%安全で感染しない、ということにはなりません。
そこで今一度、現在最も多く使用されている不織布マスクのできること、できないことについて、ご説明していきます。
できることのひとつ目は、「咳やくしゃみなどで飛散するウイルスなどを含む飛沫を抑える」です。マスクのこの効果が、今回の新型コロナウイルス感染症では評価されました。咳やくしゃみで飛ぶ「飛沫」というのは、直径5μm以上の大きさの粒子を指しています。
![飯田裕貴子・眞鍋葉子『感染症時代のマスクの教科書』(小学館)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/a/200/img_0a32ef42a559ae285f96cd811dbe9a80188757.jpg)
ふたつ目は、「咳やくしゃみなどで飛散する、ウイルスなどを含む飛沫から防護する」。咳やくしゃみなどの飛沫は平均2m程度飛散すると言われています。またマスクをすることで発生源から飛沫が飛んできたとしても、着けたマスクでブロックすることができます。
「鼻やのどの乾燥を防ぐ」効果もあります。ウイルスを吸い込むこと=感染、ではありません。免疫がウイルスの増殖を抑えることができなかった場合に、発症します。のどや鼻の粘膜の乾燥を防ぐことで免疫が働きやすくなり、ウイルスなどが増殖しにくくなります。ウイルスを吸い込んでしまったとしても、マスクをすることで感染を抑えやすくなるのです。
■静電気で粒子を捕集することも
さらに、マスクをしていることで「ウイルスなどが付着した手で鼻や口を直接触らない」ですみます。くしゃみ等で飛び出す飛沫以外に、ドアノブやエレベーターのボタンなど、人が手でよく触る場所を介してウイルスが人から人へ移動するからです。しかし、手にウイルスなどがついたとしても、その手で鼻や口、目などの粘膜を触らなければ発症しません。
最後は、「飛沫よりも小さな粒子を不織布マスクの帯電フィルターに捕集できること」です。帯電加工された不織布フィルターは、静電気でマスクのフィルターを通る空気中の飛沫より小さな粒子も、すべてではありませんが、引き寄せて捕集することができます。
■「低減」できるが「完全に封じる」ことはできない
これまでの説明に反するようですが、マスクにできないことは、「飛沫の発生源を完全に抑えることはできない」「飛沫や飛沫よりも小さな粒子の感染経路を完全に遮断することはできない」「鼻やのどの乾燥を防ぐことで感染性を完全に抑えることはできない」などです。
マスクは、感染が成立する3要素、つまり感染源・感染経路・ウイルスや細菌への感受性を低減させることができますが、完全に封じることはできません。マスクを使うときにはその点を理解しましょう。マスクは感染の確率(ウイルスにばく露する割合)を減らすものです。ひとりひとりを完全に守ることはできませんが、なるべく多くの人がマスクを着けることによって、社会全体として感染を抑える力になります。
・ウイルスや細菌を含む唾液などを外に飛ばさない(感染を広げにくくする)
・ウイルスなどを含む飛沫から防護する(感染経路の遮断)
・鼻やのどの粘膜の湿度を高めて、侵入したウイルスの増殖を抑える(抵抗力を高める)
・マスクを着用することにより、机やドアノブ、スイッチなどに付着したウイルスが手を介して口や鼻に直接触れることを防ぐ(感染経路の遮断)
・環境中のウイルスを含んだ飛沫は不織布製マスクのフィルターにある程度は捕捉される(感染経路の遮断)
△ マスクではできないこと
・唾液などウイルスや細菌を含んだ飛沫などの発生源を完全に抑えることはできない
・不織布製マスクを着用する際に、唾液などの飛沫や飛沫より小さい粒子を完全に吸い込まないようにすることはできない
・鼻やのどの乾燥を防ぐことで、感染性を完全に抑えることはできない
マスクを選ぶときは、自分がこれから過ごす場所の感染リスクの高さに合わせて選んでください。人が少ない屋外などでマスクを着ける必要はありません。マスクをしていない相手と接する必要があるときは、粒子の捕集性能が高い不織布マスクを着けましょう。医療目線では「ユニバーサルマスクのおかげで飛沫の飛び散りが抑えられているので、換気している電車なら布マスクでOK」としています。
換気がしっかりされていて、個人の空間がパーテーションなどで区切られている場所では、息が楽な布マスクを着ける、など、状況に合わせてマスクを選んでいただければと思います。
■飛沫の約8割が抑えられる
ここで、不織布のマスクを着けることで得られる効果についての、科学的な実験データをご紹介いたします。
理化学研究所と豊橋技術科学大学などの研究グループの共同研究データによれば、マスクを着けることで、くしゃみや咳などで出る飛沫の約8割が抑えられると報告されています。
マスクを着用していると人のことも自分のことも守ることができる
![感染者→飛沫は少ししか出ない 接触者→マスクで大きい飛沫は止められている『感染症時代のマスクの教科書』より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/7/670/img_c709416152ec2d6554957047dad16cfa216931.jpg)
仮に、ウイルスを保有しているAさんと、保有していないBさんが向き合って会話をしていたとします。
Aさんがくしゃみをしても、唾液など大きな粒子である飛沫の8割は不織布マスクや布マスクのフィルターで止められます(人が密集していない状態で全員マスクを着けていれば、お互いの飛沫を防御し合い、吸い込みリスクが減ることになります。この状態を「ユニバーサルマスク」と表現します。こうした防御性の高い状態では、布マスクで充分とされます。密集の状態で使用するマスクは、不織布マスクをおすすめします)。
残り2割はマスクから飛び出し、1~2メートルほど周囲に飛びますが、粒子の大きさがあるので重力に引かれて下へ落ちます。AさんとBさんが2メートル以上離れていれば、飛沫はBさんにほとんど届きません。
飛沫よりも小さなウイルスや細菌などを含んだ粒子は、5~6割がマスクで抑えられ、残りの4~5割が周りの環境に広がっていきます。漏れ出した飛沫より小さな粒子約5割のさらに10%がBさんのほうへ漂ってきたとして、Bさんがホコリの半分をカットできる性能のマスクを着けていたとします。
この場合、Bさんが吸い込むAさん由来の飛沫よりも小さなウイルスや細菌を含んだ粒子は、最初にAさんから出た飛沫の2.5%になります。
双方がマスクを着けて距離をとれば、吸い込んでしまう飛沫や飛沫より小さな粒子の量はこんなに減るんですね。
また、新型コロナ感染症の場合は、症状が出る前に感染力が強い状態だ、ということがわかってきました。
人と同じ空間にいるときは、自分はウイルスを保有しているかもしれない、と思って、正しくマスクを着けてください。
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マスク研究家/株式会社環境管理センター アスベスト対策事業部 技術部長
労働衛生工学を専門とし、マスクやアスベスト等の粉じん対策で使用する呼吸用保護具研究に携わるマスク研究の第一人者。大阪府立大学大学院農学生命科学研究科(当時)修了後、食品添加物や原材料を扱う会社で細菌検査室研究員として勤務。その後、医療食品会社の衛生管理員や労働科学研究所の研究員、産業保健協会研究開発グループリーダーを経て、東京工業大学大学院博士後期課程を修了。2019年10月より現職に。内外からのマスク関係の問い合わせを一手に引き受けている。バラエティ番組『マツコの知らない世界』(TBS系)、情報番組『あさイチ』(NHK)にマスク研究家としても出演。
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(マスク研究家/株式会社環境管理センター アスベスト対策事業部 技術部長 飯田 裕貴子)
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