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「核のゴミの行き場がない」原発依存で追い込まれる関西電力の"2度の失態"

プレジデントオンライン / 2021年1月11日 11時15分

宮下宗一郎むつ市長(左)に使用済み核燃料の中間貯蔵施設共同利用案について説明する電気事業連合会の清水成信副会長(右)=2020年12月18日、青森県むつ市役所 - 写真=時事通信フォト

原発依存度が高い関西電力にとって、福井県の3基原発の再稼働は経営の最重要課題だ。ところが、森本孝社長は就任以来、肝心の使用済み核燃料の移設候補地探しについて二の足を踏んでいる。その結果、関電社内からも批判の声が上がる「危機的状況」を迎えつつある――。

■「青森県は核のゴミ捨て場ではない」

「青森県やむつ市は核のゴミ捨て場ではない。(使用済み核燃料が)集まったときに出口はあるのか」――。

昨年12月18日、青森県むつ市の宮下宗一郎市長は面会に訪れた電気事業連合会(電事連)の清水成信副会長(中部電力副社長執行役員待遇)と、経済産業省の幹部を前に憤りの声を上げた。

宮下市長の怒りの矛先は電事連が年末に公表した同市にある使用済み核燃料中間貯蔵施設の共同利用案を巡る問題だ。むつ市の前に電事連が訪れた青森県の三村申吾知事も「本日は聞き置くだけにする」と電事連の説明を受け流した。

宮下市長は、正月明け4日の年頭会見でも「一事業者(関西電力)の再稼働の話と、私たちの中間貯蔵が関連するような論調があり、非常に困惑している。本来は全く関係がない」と述べ、その怒りは収まらない。

青森県知事やむつ市長を憤らせる電事連の「中間貯蔵施設の共同利用案(共用化案)」とは一体何か。なぜ、青森県と地理的にも離れた関電がこの問題に絡むのか。

■関電管内の各原発内にある貯蔵スペースも5~9年で満杯に

むつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設は東京電力ホールディングス(HD)と日本原子力発電(原電)、それに青森県、むつ市の4企業・自治体が共同運営するリサイクル燃料貯蔵(RFS)がもつ施設だ。東電と原電の原発から生じる使用済み核燃料を一時保管する施設として2021年度中の操業を目指して建設が進められている。

共用化案は、東電HDや原電以外にも、原発の使用済み核燃料の一時保管場所として他電力も「相乗りさせてもらう」という提案だ。今後、原発の再稼働が進めば、使用済み核燃料は増え、各原発の隣接地などに置く貯蔵スペースに限りが出てくる。

特に震災前には総発電量に占める原発比率が5割を超え、今でも3割弱と最も原発依存度が高い関電にとって使用済み核燃料の処理は深刻な問題だ。関電管内の各原発内にある貯蔵スペースも5~9年で満杯になる。

さらに関電には重い課題がのしかかる。福井県にある稼働40年を超える高浜第1号、同第2号、美浜3号機の3つの老朽原発の再稼働の条件として、これら原発から出る使用済み核燃料を県外に移設することを福井県から求められているのだ。

■「思わず本音が出てしまった」森本孝関電社長の一言

その県外候補地の提示期限が昨年末だった。慌てた関電が経産省と協議し、ひねり出したのが電事連による共用化案だ。

「共同利用の検討に積極的に参画したい」。電事連や経産省の幹部が青森県を訪れた同じ日、都内で会見に臨んだ関電の森本孝関電社長は力を込めてこう発言した。高浜原発などの再稼働を急ぐ中、「思わず本音が出てしまった」(電事連幹部)。この発言に、地元は「事前に何の面会にも報告にも来ていない関電が電事連の後ろに隠れる形で核のゴミをむつ市に押しつけようとしている態度は到底承服できない」(むつ市幹部)と反発。怒りの火に油を注いだ格好になった。

関電以外の電力各社は東電HDがむつ市の同施設を建設しているように、独自に中間貯蔵施設を保有している。「共用案」が関電の支援策ではないと強調するはずの電事連会長の九州電力の池辺和弘社長も、記者団からの追及に「九電は独自の施設をもっている。むつ市の施設を使うかどうかは電力各社の判断次第だ」と最後は関電を突き放すような発言に終始した。

四国電力が所有する伊方発電所
写真=iStock.com/paprikaworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paprikaworks

■「2020年を念頭に示す」と改めて約束していたのに…

関電は青森県・むつ市からの反発を受け、結局、この会見の翌日に訪れた福井県との面談でも関電の松村孝夫副社長は、使用済み核燃料の県外移設候補地の提示を断念せざるを得なかった。

そのため、応対した櫻本宏副知事も「約束が守られず誠に遺憾。明確な報告がない今の状況では、原発40年超運転をはじめ、原子力のさまざまな課題の議論を進めることはできない」と厳しく関電を批判した。

関電の使用済み核燃料の移設問題は以前からの課題だった。むつ市の中間貯蔵施設を巡る混乱も、実は今回が初めてではない。2017年も同じような事態が起こった。

同年11月に西川一誠知事が関電の岩根茂樹社長(いずれも当時)から「2018年中に具体的な計画地点を示す」との説明を受け、大飯3、4号機(福井県おおい町)の再稼働に同意した。しかし、関電は18年12月になっても具体的な地点を示せず、岩根社長本人が西川知事に謝罪のうえ「2020年を念頭に示す」と改めて約束していたのである。

■2017年にもむつ市の施設は浮上していたが…

ところが、それが今回再び約束が果たされなかったことになる。しかも、2017年にも使用済み核燃料の一時保管先として浮上したのがむつ市の施設だった。

しかし、当時、「関電がむつ市の中間貯蔵施設の事業会社に出資する方向で最終調整」との一部報道が伝わり、地元軽視と反発したむつ市の宮下市長が東電と原電に直接説明を求める騒動に発展。両社は関電から事前の説明はないと主張。回答を突きつけられた関電も「そうした事実は一切ない」と公式に否定。選定作業に水を差された経緯がある。

かつては中間貯蔵施設の候補地として、関電の美浜原発がある福井県美浜町や小浜市、火力発電所がある和歌山県御坊市が取り沙汰された。しかし福井県内は西川知事と岩根社長の約束で対象外となり、福島第1原発事故後に原発不信が強まる中で御坊市案もほぼ消えた。

■3基のうち1基でも稼働すれば月25億円の費用圧縮

「関電の歴史は原発の歴史でもある」と言われる。

1970年に大手9電力で初めて原発を稼働させた。他社に先駆けて原発を推進、石油危機を経て1980年代半ばには発電コストが低い原子力を発電の中心に据えた。安全性や使用済み核燃料の問題を別にすれば、当時主力の石炭や石油火力発電のように二酸化炭素も出ない「クリーン」な発電手段だ。震災前の2010年3月期は、総発電量に占める原発比率が54%に上昇した。

しかし、東日本大震災に伴う福島第1原発の事故を受け、関電の原発も相次いで停止。それに伴い、最終赤字が4期続いた。二度の電気料金の引き上げで息をつき、原発が再稼働すると値下げを実施した。震災後に4基の再稼働を実現し、いまや国内で動く9基のほぼ半分を占める。

さらに検査を終えた高浜や美浜原発の計3基についても関電幹部が「中間貯蔵施設の問題をクリアして、3基が動けば、経営再建に大きく前進する」と話すように、原発が経営を左右する。

3基のうち1基が稼働すれば月に約25億円の費用が圧縮でき、稼働済みを含めた7基の原発で安全対策工事に1兆円を超える巨費を投じても採算は合うとそろばんをはじく。

■なぜ、二度も同じような失敗を繰り返したのか

電事連幹部は「原発を知り尽くしている関電がなぜ、二度も同じような失敗を繰り返したのか」と疑問を呈する。

その最大の要因が福井県高浜町と元助役・森山栄治氏(故人)の間で起こした関電幹部への金品受領問題だ。

「原発を知る幹部が一掃された。役所との交渉役もいなくなり、完全に昔の内向きの組織に戻ってしまった」と関電の中堅幹部は漏らす。

関電幹部が原発のある自治体関係者から金品を受領して工事を発注することは電力会社の公益性から考えると問題がある。しかし、電事連幹部が「原発は地元の理解なしには存在し得ない。地元とどうやって信頼関係を作っていくか。それは一朝一夕に築けるものではない」と語るように簡単にはいかない。「関電の場合、馴れ合いが乗じて逆に森山氏にのみ込まれる結果となってしまった」(同)という事情がある。

■「社長就任からの半年間、青森県に出向くことはなかった」

関電の森本社長にも社内から批判があがる。

「中間貯蔵施設の問題は社長に就任してから最初に迎える最大の問題だったことはわかっていたはず。なのに、社長就任からの半年間、青森県やむつ市に出向くことはなかった」(関電幹部)という声が上がるのも当然だろう。

原発に依存する関電は福井県にある3基の原発の再稼働を確実にするためにも、使用済み核燃料の処理問題に筋道をつけることは最重要な課題であることは、関電の社員なら誰でもわかることだ。しかも同じ失敗を二度繰り返す失態を冒した。

昨年10月に菅義偉首相が掲げた「2050年温暖効果ガス排出実質ゼロ」宣言でも原発は必要な電源として盛り込まれた。新型コロナウイルスの感染拡大で財政難に悩む地方自治体にとっても雇用の受け皿として原発の再稼働を求める声は増えている。

関電の冒した失態は東日本大震災からまもなく10年がたつ原発への信頼回復に水を差した意味でも罪は重い。

(経済ジャーナリスト 矢吹 丈二)

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