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これ以上、「おじさん」に誰かの魂を削ってほしくない

プレジデントオンライン / 2021年1月25日 9時15分

『持続可能な魂の利用』著者の松田青子さん(2020年10月、筆者撮影)。

■これ以上、「おじさん」に誰かの魂を削ってほしくない

この国から「おじさん」が消える——。小説『持続可能な魂の利用』の帯にはピンクの文字でただならぬコピーが書かれていた。それを読み、私はガラガラになった国会を思い浮かべた。「おじさん」が消えると、企業トップたちの部屋も静寂な場所になるだろう。

——カッコつきの「おじさん」は、今の社会システムを象徴する言葉として使っています。一人一人を批判していません。

著者の松田青子さんはそう説明する。

小説で使われている「おじさん」という言葉に年齢は関係ない。そして、女性の中にも「おじさん」は存在するという。なぜなら、社会が女性にも「おじさん」になることを推奨しているからだ。

「大丈夫じゃないのが日本の『普通』で、だから『普通』だし大丈夫だと自分に言い聞かせていたのかも」。これは小説の中の一節で、私は痛いほど共感した。学生のとき、痴漢にあっても「それはよく起きる『普通』のことだ」と自分に言い聞かせた。本当は震えて電車に乗れなくなるほど怖かったのに、授業前、最悪でキモイ「ネタ」として友達に笑って話した。

■魂は疲れるし、魂は減る

『持続可能な魂の利用』松田青子 著・中央公論新社
『持続可能な魂の利用』松田青子 著・中央公論新社

ほかにも「魂は疲れるし、魂は減る」という節を読み、私はレイプ被害にあったときを思い出した。これまで何度も傷つけられてきた魂が「殺された」と感じた。まるで自分という「車」の「ハンドル」を根こそぎ持っていかれてしまい、これから自分をどう「運転」していけばいいのかわからないような感覚に陥った。しかしそれから、魂を永眠させないように、取り戻すように、必死に生きてきた。

「自分の魂をなくさずに、この世界に立ち向かっていく意志や宣言をこのタイトルには込めました。持続可能なものとして自分の中に維持していって、何とか頑張ろうという気持ちを読者に伝えたかった」と松田さんは語る。

これ以上、「おじさん」に誰かの魂を削ってほしくない。いつか世界がこのカッコから解放される日を願い、この小説を幅広くおすすめしたい。

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伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

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