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大量リストラが前倒しされる恐れ…3社に1社が「1年以内に雇用維持できなくなる」

プレジデントオンライン / 2021年1月12日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chipstudio

1月7日に発出された2度目の緊急事態宣言で、企業の大規模なリストラの発生が現実味を帯びてきた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「失業対策の国の財源が枯渇しつつあり、業績低下の企業も体力をそがれた状況での再宣言。昨秋の調査で3社に1社が『1年以内に雇用維持できなくなる』と回答しており、リストラが前倒しされる恐れがある」と指摘する――。

■恐れていた事態「リストラも検討しなければならなくなった」

緊急事態宣言の再発出によって大規模なリストラの発生が現実味を帯びてきた。

対象エリアは一都三県だが、明日13日以降、関西、中部圏にもエリアが拡大する可能性が高い。企業各社は感染拡大と再発出を最も恐れていた。大手広告会社の人事部長はこうため息をつく。

「2020年4月の緊急事態宣言の発令により受注活動が制限され受注数が前年比マイナス40~60%に落ち込んだが、その後は回復傾向にあった。雇用を守るという前提で下半期から本格的に固定費額が大きい採用費、広告宣伝費、交際費削減、ボーナスカットを実施してきた。もちろん冬期の感染拡大による緊急事態宣言もあるかもしれないと予想はしていた。だが、そうなるとリストラも検討しなければならなくなるが、まさに恐れていた事態が起こってしまった」

すでに雇用情勢は悪化している。

2020年11月の雇用者数は前年同月比41万人減となり、同月のパートを除く有効求人倍率は1.02倍と低迷している。また、厚生労働省は新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めは見込みを含めて1月6日時点で8万121人に上ることを明らかにしている。

■完全失業率2.9%は国が休業手当の一部を助成しているおかげ

悪いニュースはまだある。

昨年の秋から本格的に始まった上場企業の早期退職募集企業は昨年12月22日現在91社、募集数1万7700人。リーマン・ショック時の09年に次ぐ規模になったが、今年1月以降に実施を表明した企業も18社、3300人に達している(東京商工リサーチ調査)。

それでも完全失業率は2.9%(2020年11月)と、なんとか踏みとどまっている。

本来ならもっと高くなってもおかしくないが、じつは失業率の抑制に大きく寄与しているのが国の「雇用調整助成金」(雇調金)だ。

売り上げが減少しても社員を休業させ、雇用を維持した場合に国が休業手当などの一部を助成する制度。厚労省はコロナ禍で1人1日当たりの助成金の上限額8370円から1万5000円に引き上げる特例措置を実施している。2020年2月から12月25日までの支給件数は216万9616件、金額にして2兆5093億円を投じている。

■雇用調整助成金は枯渇寸前、雇用保険積立金も4兆5000億→1722億円に

もちろん大企業も受け取っている。特例措置が始まった2020年4月から11月までに雇調金を計上または申請した上場企業は3826社中599社(15.6%)、金額は2414億5420万円に上る(東京商工リサーチ調査)。

業種別では小売業の33.9%が計上・申請し、次いで運送業の33.0%、サービス業21.9%、製造業15.9%となっている。

失業した人々のシルエット
写真=iStock.com/chipstudio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chipstudio

つまり雇調金でかろうじて雇用が守られている形だが、特例措置は2021年2月末で終了し、段階的に縮小していく予定だった。そうなると企業が一挙に解雇に踏み切る可能性もある。そこで今回、政府は緊急事態宣言の再発出で特例措置の延長の検討に入った。しかし、そこには大きな問題がある。

雇調金の財源は枯渇しつつあるのだ。

雇調金の主な財源は、企業と従業員が負担する保険料だ。本来の雇調金は使用者のみ負担する保険料で賄われていたが、それだけでは足りないので失業給付や育児休業給付などに使う労使折半の雇用保険料の積立金から1兆7000億円を借り入れている。それと一般会計から1兆4000億円を繰り入れ、合わせて3兆3000億円の予算を確保している。

ところが前述したように12月25日時点で支給額は2兆5000億円に達し、2度目の緊急事態宣言が出た今、すぐ底をつくのは明らかだ。

それだけではなく雇用保険の積立金自体も2019年度末に4兆5000億円あった残高が失業給付や雇調金の借り入れで21年度末は1722億円に減ると厚労省は試算している。実に96%以上が消えることになるのだ。

■雇調金の特例措置が延長されても、リストラに踏み切らない保証はない

すでに財源は、雇用を維持する休業手当にとどまらず、失職後の失業給付まで虫食い状態にある。財源がない中で雇調金の特例措置を延長するとなると、どうなるか。企業と従業員が負担する雇用保険料を値上げするか、財政投入するしかない。まさに切羽詰まった状況となる。

企業で働く人々を絶望的にさせるのは、雇調金の特例措置が仮に延長されても、企業がリストラに踏み切らない保証はないということである。

従業員の給与だけを国が面倒をみても売り上げが下がれば企業の体力は徐々に低下していく。そうなると倒産回避のリストラは避けられないだろう。

労働政策研究・研修機構の「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(2020年10月5日~15日調査、12月16日発表)によると、2020年9月末の企業における労働者の過不足状況は、「過剰」と「やや過剰」の企業が23.1%だった。

なぜ、過剰な従業員を抱えているのか。

その理由では「将来的に人手不足が見込まれるため」(17.0%)が最も多く、次いで「社員のため(解雇すると従業員が路頭に迷うことになるから)」(13.7%)、「雇用維持は企業の社会的責任だから」(13.6%)の順である。

余剰人員を抱えても雇用を守り抜くという姿勢が伝わるが、それも限界がある。「現在の生産・売上額の水準が今後も継続する場合に現状の雇用を維持できる期間」を尋ねると「1年ぐらい」が15.6%、「半年ぐらい」11.9%、「2年ぐらい」5.8%、「2~3カ月ぐらい」4.3%、「すでに雇用削減を実施している」1.8%だった。

■3分の1の企業で1年以内に「現状の雇用を維持できなくなる」

調査したのは2020年10月初頭だが、コロナの第3波がまだ到達していなかったこの時点で削減実施の企業を含めて2割弱(18.0%)の企業で半年以内に、また3分の1(33.6%)の企業で1年以内に「現状の雇用を維持できなくなる」と見込んでいる。もちろんこうした企業はすでに雇調金を受け取っている企業も多いだろう。それでも企業の体力に限界はある。

産業別に雇用維持できる期間を確認しよう。最も短いのは「飲食・宿泊業」だ。4割以上(43.0%)の企業で雇用維持できるのは「半年以内」、7割(70.3%)の企業で「1年以内」と答えている。

オフィスで上司に叱責される女性のシルエット
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

以下、雇用を維持できる期間が半年以内と答えた産業別の割合は以下の通りだ(カッコ内は1年以内)。

飲食・宿泊業 43.0%(70.3%)
製造業 23.7%(40.6%)
サービス業 19.6%(39.0%)
卸売業 17.8%(32.2%)
小売業 15.3%(29.5%)
情報通信業 13.3%(28.3%)
運輸業 12.8%(30.6%)
建設業 12.3%(26.1%)

しかもこの数字はコロナ新規感染者数が比較的落ち着いていた2020年10月初めの時点の各社の見込みだ。その後、感染拡大が進み、緊急事態宣言の再発出されることは想定していない。今回の緊急事態宣言の直撃を受ける飲食・宿泊業が雇用維持できる期間がさらに早まるのは確実だろう。

■感染収束しなければ多くの産業で前倒しのリストラの公算が大きい

もちろん他の産業も例外ではない。

緊急事態宣言がさらに長期化する、あるいは感染が収束しなければ、それを引き金に多くの産業で前倒しのリストラに踏み切る公算が大きい。

同時に産業の再編も起こる可能性も高い。建設業の人事部長はこう予測する。

「かつて多くの都銀があったが再編され現在に至っているように建設業界も今後は再編へと向かって行かざるを得ないと思う。たとえば住宅建設は大手8社のシェアはわずか20%台であり、いわゆる個人事業主(一人親方)や地域の工務店などが圧倒的に多いのが特徴。しかも人口減で後継者がなく、廃業する企業も年々増えている。収益構造を考えれば、ゼネコン同様に業界再編成へと向かうだろう」

産業再編による合併などが発生すれば、さらに余剰人員が増え、大機規なリストラが避けられない。

こうした労働環境の悪化は、他の業種にも多かれ少なかれ波及するのではないか。とすれば、政府は“失業なき労働移動”をいかに実現していくのか。動きの遅い感染対策に終始する政府ははたして国民の生命と財産(収入)を守ることができるのだろうか。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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