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たった5.7%…日本の「体外受精の成功率」がここまで低い理由

プレジデントオンライン / 2021年1月13日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BlackJack3D

日本産婦人科学会がまとめた最新データによると、2018年、体外受精での生児獲得率は5.7%。諸外国と比べても際立って低い数値です。なぜ日本の体外受精の成績は低迷し続けているのか、産婦人科医の月花瑶子さんに聞きました――。

■5.7%が示すことは……

2018年に行われた体外受精は、45万4893件。それに対して、実際に生まれた赤ちゃんは5万5499人です。総治療数に対する生児獲得率は、12.2%。「では冒頭の5.7%という衝撃的な数字はどこからきたのか」と首をかしげる人も多いでしょう。

5.7%と12.2%、同じ生児獲得率を表しているはずの数字に倍以上の開きがあるわけは、分母の違いにあります。5.7%は採卵回数を分母にしたとき、12.2%は採卵や移植のすべての治療周期を分母にした場合のデータなのです。

■不妊治療にまつわる数字を読み解く知識を

「体外受精とは、卵巣から卵子を採取し、体の外で精子と受精させてから子宮に戻す治療です。ただ、採卵しても空胞だったり、変性していて受精しなかったり、受精しても途中で発育を止めてしまったりと、移植まで到達できない卵も少なくありません。そのため採卵を母数にするか、移植回数を母数にするか、あるいは採卵と移植をすべて合わせた総治療数を母数にするかで生児獲得率の数字の“見た目”は大きく変わってくるのです」

5.7%という数字だけをとらえて、不妊治療の最後の砦たる体外受精でも6%に満たない人しか赤ちゃんを抱けないのか、と暗澹とした気持ちになるのは早合点。不妊治療にまつわる数字を読み解くには、治療の前提についても知っておく必要があると言えるでしょう。

■日本は採卵数が少ない自然周期治療が主流

日本では「自然周期」での治療が多いことも、採卵数に対する生児獲得率が極端に低くなる理由のひとつだと言います。

カウンセリング
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

「体外受精の治療法は、大きくわけて2つ。自然に排卵される卵子を採卵する自然周期と、排卵誘発剤を使って複数の卵子を育てる刺激周期です。一度に複数の卵を採卵するほうが移植まで到達できる受精卵を得やすく、その分、妊娠率も高くなります。海外では、高刺激での治療が主流です。ただ、日本では体に負担が少ない自然に近い治療を希望する人が多い。自然周期では、採卵できる個数は通常1個です。卵子1個あたりの受精率は7~8割ほど。着床率まで考えると、さらにそのパーセンテージは下がります」

自然周期での体外受精では、移植できる受精卵を得られないために何度も採卵を繰り返す、というケースも少なくないそう。

「ただ採卵個数が多くなるからといって、一律に強い刺激を推奨することはできません。卵巣機能が低下してくると、排卵誘発剤で刺激しても思うように卵が成長しないこともあります。高齢での体外受精では、自然周期でなければ治療ができない人も多いのです。また、日本人は体格が小さいために薬の反応が出やすい、と考えられています。あまりに強い刺激を与えると卵巣過剰刺激症候群などの副反応が出てしまう恐れもあるのです。刺激周期を選択する場合も、海外で行われているよりも弱い刺激で行うことが多いですね」

■高齢での不妊治療が多い

「日本の高度生殖医療の技術レベルは、諸外国と比べても高いと言われています。ただ、その医療技術を持ってしても、年齢にあらがうことは難しい。日本の体外受精の成功率が低い最大の理由は、高齢になってからの不妊治療が多いことだと考えられます」

2018年のデータを見ると、全年齢のうち、採卵数が最も多かったのが40歳。40歳以上の不妊治療患者の割合が世界で最も高いのが、日本です。

「35歳以降、妊娠率は急速に下降していきます。それは体外受精を行っても変わりません。40歳での着床率は、10%前後です。一方、アメリカやイギリス、フランスでは、体外受精の治療を受ける患者のボリュームゾーンは35歳未満。フランスでは、不妊治療に一部保険を使うことができ、結婚前や事実婚のカップルにも適用されます。妊娠は妊娠適齢期に、という啓蒙はもちろん、それを推進するための社会的な仕組みも整えられているようですね。日本でも卵子の老化については広く知られるようになりましたが、まだまだ治療のスタートは遅い。妊娠は結婚してから、という考えも根強くありますし、働く女性の職場環境にもまだ課題が多いと思います。治療の年齢を引き下げていくためには、社会的サポートも必要です」

■海外では卵子提供による体外受精も一般的に

たとえば、アメリカでは福利厚生の一環として未受精卵の凍結への補助を行う企業も多いそう。

「女性が働き続けるためには、妊娠・出産へのケアが欠かせないという企業リテラシーがある。優秀な人材を獲得するために必要な施策だと考えられていると聞きます。こうした背景もあって、海外では20代、30代前半の妊娠適齢期に未受精卵を凍結しておく、という人が多いことも、不妊治療の成績を上げる一因であると思います。また、海外では、35歳以上の不妊治療では、卵子提供による体外受精を行うことも一般的です。妊娠率に最も影響するのは、女性の年齢。年齢とともに卵子は老化し、妊娠しづらく、流産しやすくなるからです。若い女性からの卵子提供を受ければ、妊娠率は提供者の年齢相当ということになります。ただ、日本ではほとんど行われていません。治療成績の背景には、諸外国と日本の家族観の違いもありますね」

ひとことで「日本の体外受精は成績が悪い」と言っても、そこにはさまざまな要因がからみあっています。キャリアを積んでからでないと妊娠、出産を考えづらい、経済的ハードルから治療に踏み出せないなど、不妊治療の年齢が高くなる理由もさまざま。不妊治療への保険適用が議論されていますが、課題は金銭的な問題だけではありません。社会全体で妊娠、出産、育児がしやすい環境、仕組みをつくっていくことが必要です。

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月花 瑶子(げっか・ようこ)
日本産科婦人科学会産婦人科専門医
東京・新宿にある不妊治療専門クリニック杉山産婦人科に勤務。 産婦人科領域で事業展開するヘルスアンドライツのメディカルアドバイザーを務める。 共著書に『やさしく正しい 妊活大事典』(プレジデント社)、 監修メディアに「性をただしく知るメディア Coyoli」がある。

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(日本産科婦人科学会産婦人科専門医 月花 瑶子 構成=浦上藍子)

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