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薬物中毒者に殺人犯…周庭さんが収監された「大欖女子懲教所」のヤバい実態

プレジデントオンライン / 2021年1月15日 17時15分

2020年11月、香港での違法集会の容疑で裁判所に出廷した周庭氏 - 写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト

■「寒い冬」を迎えた香港

クリスマスから年末年始にかけ、日本を含む各国が新型コロナウイルス対策に追われるさなか、香港では「さらなる民主派への締め付け」が着々と進められている。

年末には日本への支持を日本語で求め続けている周庭(アグネス・チョウ、24)氏が、凶悪犯が入る刑務所に移送されたと報じられたが、新年を迎えて今度は50人を超える民主派の活動家らが逮捕されるというニュースも飛び込んできた。

香港で「国家安全維持法(国安法)」が施行されてから半年余りが経った。民主派にとって文字通り「寒い冬」を迎えた格好となっている。

■活動家や前議員53人らが一斉逮捕

民主派活動家として広く知られる周氏らに対する実刑判決が出たことで、「香港の自由」を訴えたい人々にとっては、過去最悪の失望感に打ちひしがれた年末となったことだろう。

新年を迎えて間もない1月6日、治安当局は香港特区政府を「転覆しようとした」容疑として、民主活動家や前立法議会議員など計53人が相次ぎ逮捕された。国安法の施行後、最大規模の取り締まりとなった。

当局は何を指して「転覆」と言っているのだろうか。民主派は昨年9月に実施予定だった立法会選挙で、「候補者共倒れ」を防ぐため、自主的に「予備選」を実施した。当局はこの行動を「無許可で行われた国家転覆につながる行為」と定義付け、それに関わった民主活動家を今回、逮捕に踏み切った格好だ。

その後当局は1人を残し、52人を保釈している。

■周氏が収監された「大欖女子懲教所」とは

一方、周庭氏はこの新年を、香港・新界(ニュー・テリトリーズ)地区西部にある大欖女子懲教所と呼ばれる刑務所で迎えた。

ここは、殺人犯や麻薬取引を繰り返すなど重大犯罪で実刑を受けた女性成年受刑者が収監される場所だという。しかし、メディアや動画などを通じて知る彼女のひととなりと重大犯罪という言葉は今ひとつ結びつかない。なぜこんな場所で新年を迎えることになったのか。

周氏は昨年12月2日、禁錮10カ月の実刑判決を受けた。罪状は2019年6月に起きた警察本部を取り巻くデモを扇動したためだ。中国の国安法施行(6月30日)よりも前に起きたため、国安法の適用は免れたが、事件から1年半余り経った昨年暮れになってようやく判決が出た格好となっている。

なお周氏は、今回判決を受けた罪状とは別に、国安法違反の「外国勢力と結託し、分離独立を扇動した」罪でも訴追されている。

15歳から8年以上にわたって、民主化運動に身を投じている周氏が実刑を受けるのはこれが初めてだ。初犯で、かつ判決から1カ月以内に凶悪犯と共に収監されている状況はいかにも不自然だ。

■「応援してほしい」動画公開の直後に移送

調べてみると、周氏は収監当初、中国国境に近い羅湖懲教所に送られ、そこで他の女性囚らと相部屋で過ごしていたことが分かっている。周氏とともに政治団体「香港衆志(デモシスト)」の元メンバーで区議員も務める袁嘉蔚(ティファニー・ユン、27)氏は、収監中の周氏と面会。生活用品や彼女が読みたがっている書籍などを届けていた様子が動画で公開されている。

日本語の字幕もつけられているこの動画には周氏本人の姿は映っていないものの、彼女から袁氏が聞き取った収監中の様子が垣間見えるほか、日本の支援者に対して「応援の手紙を送ってほしい」と訴えている。

周氏が大欖女子懲教所に移送されたのは、この直後だ。親民主派のりんご日報が伝えたところによると、「動画公開から2日目に大欖への移送の知らせが伝わってきた」という。同紙記者が香港の矯正機関である懲教署に問い合わせたところ「個別の案件については回答できない」とコメントを拒否。「犯罪の程度や治安に与えるリスクなどの度合いで収監期間は異なる」とごく一般的な回答しか得られなかったとしている。

取調べ室
写真=iStock.com/YILMAZUSLU
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YILMAZUSLU

■看守から殴られることも

ではこの刑務所での日々の様子はどんなものなのだろうか。手を尽くして探したところ、麻薬の常習犯として大欖女子懲教所に長年収容された女性のインタビューが見つかった。

非営利メディアの香港フリープレス(HKFP)によると、6時15分に起床し、独房内で受刑者と一斉に合唱。その後、作業場に行って看守らが着る服装の縫製や、病院向けリネン類の針仕事などに当たる。あるいは、公立図書館に納める資料を綴じる作業などをこなす。

この女性によると、「受刑者同士の喧嘩が絶えなかった」上、看守から殴られることも多かったと当時の様子を語っている。ただ、独房にずっと閉じ込められているわけでもなさそうだ。

香港は日本より南にあり、暖かい場所と思われがちだが、冬は意外と寒い。雪は降らないものの四季がある。寒波が厳しい年には、ホームレスの間で凍死者が出たこともある。

それに加えて、大欖女子懲教所は背後に山を控え、海風が吹きつけるという厳しい環境にある。おそらく独房内はかなり寒いことだろう。

なお、香港での「全受刑者に対する女性が占める割合」は、他の国・地域に比べ、著しく高いという統計もある。一般的に受刑者の男女比は、女性が数パーセントにとどまる(日本は8%)が、香港では20%にも達し、世界でトップの水準とされる。

■民主派活動家は“A級犯”扱いか

禁錮刑を言い渡された周氏がこうした刑務作業を行うかは不明だが、「国安法違反」で有罪判決を受けた人間が今後、大欖女子懲教所のような「カテゴリーA」レベルの受刑者が集まる刑務所に収監される可能性はある。2014年に起きた民主化運動「オキュパイ・セントラル(占領中環)」に関与したとして8カ月間の禁錮刑を受けた邵家臻(シウ・カーチュン)前立法会議員はこの状況を「極めて異例」といぶかる。

刑務所の独房
写真=iStock.com/MikeVanSchoonderwalt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MikeVanSchoonderwalt

ちなみに「カテゴリーA」と認定された受刑者は、2019年は128人が入所。うち、86%は麻薬関係の犯罪、残りの14%は殺人や強姦といった凶悪犯だという。また同年末時点で、収監中のカテゴリーAの受刑者は552人いる(自由アジア放送(RFA)の発表)。

周氏と同じ罪状で12月2日に判決が言い渡された民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン、24)氏も現在、カテゴリーAレベルの刑務所に収監されているという。

民主派運動の活動家に対するこうした厳しい対応は当然のことながら、諸外国の不興を買っている。周氏らに対する判決後の声明で、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルは判決を批判し、「政府を公然と批判する者に、次はお前かもしれないと警告」したに等しいと述べた。

また、米ポンペオ国務長官は「政治的迫害」と批判。その上で「反対意見を沈黙させるために法廷を利用するのは、権威主義体制の特質だ」と指弾している。

■気に入らない勢力を片っ端から捕まえている

民主派運動の急先鋒だったメンバーが収監されたことで、香港では例年数十万人が参加する正月恒例の民主派デモがほぼ皆無となった。これについて林鄭月娥行政長官は元日、フェイスブックの動画を通じて「国安法の施行で、香港は平穏になった。以前のような暴力沙汰がなくなった」と満足感を示した。そして、その数日後に50人を超える民主派前議員らの一斉逮捕に踏み切った。

事態はもはや、「国安法」を盾に次々と気に入らない勢力を片っ端から捕まえるというレベルにエスカレートしている。9日には、米国、英国、カナダそしてオーストラリアの4カ国外相が53人の一斉逮捕に対して「深刻な懸念」を表明する共同声明を出した。しかし、実効性があるとは思えない現状が嘆かわしい。

香港は今年、どんなつらい未来が待っているのだろうか?

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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