"仕事も家もない"若者に絶望された文在寅大統領を待ち受ける韓国の危機

プレジデントオンライン / 2021年1月15日 17時15分

2020年12月、韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率がこれまでの最低値に並ぶ。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■財閥系大手企業は好調だが…

2020年、韓国経済はそれなりの底堅さを示した。企業業績を見ると、半導体やスマホ大手のサムスン電子やLG電子など財閥系大手企業の業績は比較的好調だ。また、造船業界も健闘している。しかし、韓国経済をより深く分析すると、いくつかの重要な問題を抱えている。楽観できないだろう。特に、首都圏における不動産価格の高騰と、若年層を中心とする雇用・所得環境の悪化は深刻だ。

これまでの文在寅(ムン・ジェイン)大統領の経済運営は、最低賃金の大幅引き上げなどを見ても期待されたほどの効果を上げてはいない。その結果、大手の財閥系企業とそれ以外の経済格差が拡大している。経済格差が固定化すると、人々が自助努力によって能力の向上を目指し、新しいことに挑戦することは難しくなる。

そうした将来への不安の高まりは、文大統領の支持率を低下させた要因の一つだ。今後、コロナ禍で世界経済の回復が遅れるようだと、韓国の経済状況はさらに深刻化する懸念が高まる。足許では、新型コロナウイルスの感染再拡大が韓国の労働市場を下押ししている。

他方、当面の間、首都圏の不動産価格は上昇基調を保つ可能性がある。景気先行きへの不安や経済格差への不満など、文政権下の韓国では社会と経済の閉塞感がこれまで以上に高まる恐れがある。

■上昇を続ける不動産価格

マンションを中心とする首都圏の不動産価格高騰は、韓国経済の不安定感を高める要因の一つだ。その背景には“カネ余り”と“価格上昇への強い期待”がある。

2017年5月に文政権が発足して以降、韓国銀行(中央銀行)は2017年11月と2018年11月に小幅な利上げを実施したが、大幅な長期金利の上昇は避けられた。2019年に入ると米中通商摩擦による景気減速リスクを理由に段階的な利下げが行われた。それが過剰流動性=カネ余りを生んだ。

2020年春先にはコロナショックによって世界の経済と金融市場が混乱。2月から3月中旬にかけて韓国から海外に、資金が急速に流出した。その状況を食い止め韓国経済の持ち直しを支えたのが米FRB(連邦準備理事会)のドル資金供給だ。それに加えて韓国銀行も金融緩和を強化し過剰流動性は膨らんだ。

金融市場に溢(あふ)れた資金は、価格上昇や成長が期待される資産や分野(企業、産業)に向かう。韓国では実体経済ではなくソウルなどの住宅市場に資金が流入した。韓国では少子化、高齢化、人口の減少が深刻だ。2019年の合計特殊出生率(女性一人が生涯に産む子供の数)は0.92と2018年(0.98)から低下した。

■ソウル圏にどんどん人口が集中している

人口減少によって経済の縮小均衡懸念が高まる中、より良い選択の機会を目指して政治と経済の中心地であるソウルなど首都圏に人口が集中した。それが住宅需要を押し上げた。朴槿恵(パク・クネ)前政権による住宅ローンの貸し出し規制緩和などもその一助となった。

カネ余りと需要拡大に支えられ、首都圏のマンション価格上昇への期待は高まった。それが投機熱を高め、価格が高騰した。韓国のKB国民銀行が公表している住宅価格データを見ると、2017年5月から2020年末の間、ソウルのマンション価格は38.4%上昇した。

文政権はローン審査の厳格化をはじめ20数回にわたって規制を強化し、不動産価格の上昇を抑えようとしたが効果は出ていない。それだけ、資金はだぶつき、価格上昇への期待も強い。住宅価格の上昇は投機や日常生活のための借り入れ増加につながり、韓国の家計債務残高はGDPの100%を超えた。経済成長率を上回るペースで不動産価格が上昇し、債務残高が増加する状況は持続可能ではない。

韓国ソウル
写真=iStock.com/CJNattanai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CJNattanai

■雇用悪化の背景にある「強力な労働組合」

それに加えて、若年層の失業率の高さも韓国経済の懸念材料だ。2020年12月の韓国の失業率は4.1%(季節調整値は4.6%)と前月から上昇した。世代別の失業率を見ると15~29歳の失業率が8.1%と高い。

その背景には、労働組合の影響力の強さがある。韓国の労働組合は恒常的に経営者に賃上げなどを求め、受け入れられなければストライキを実行することで知られる。

特に、自動車業界の労働組合の力は強い。昨年12月に韓国の自動車メーカーである双竜自動車が資金繰りに行き詰まり、裁判所に更生手続きを申請した。その要因の一つは、労働組合が経営者との協力よりも、賃上げなどの待遇改善を求め続けた結果、新しい車種の開発が進まず収益力が低下したことがある。政府系金融機関である韓国産業銀行は、双竜自動車に対して労働争議が起きる場合には一切の資金支援を行わないとの立場を示している。

■既得権益層によって締め出された若者たち

労働組合という既得権益層の影響力が強いため、韓国の労働市場では新規参入者である若年層の雇用創出が難しい。それに加えて、左派の政治家として労働組合などの支持を得てきた文大統領の政権下、労働争議は激化している。また、文政権は労働組合に有利に働く法律の制定を重視してきた。

そうした要素を基に考えると、若年層の失業率は上昇、あるいは高止まりする恐れがある。労働争議から逃れるために生産拠点などを海外に移す企業は増え、韓国全体で就業機会がさらに減少する可能性は軽視できない。また、新型コロナウイルスの感染再拡大によって飲食や交通をはじめ内需も縮小している。その一方で、労働組合は既得権益の維持と強化を目指して経営者に賃上げなどを求め労働争議が激化することも考えられる。

その結果、韓国では所得を手に入れ、自己実現を目指すことは難しいと感じる若者が増える恐れがある。韓国からの留学生や30代の人と話をすると、「日本で就職しできるだけ長く住みたい」との考えを聞くことがある。それは、韓国よりも、わが国の方がより多くの選択肢を手に入れる公正な環境が整っているとの見方があるからだろう。

太陽を浴びる女性
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

■支持率低下が止まらない

一般論として、住宅価格の高騰によってより良い生活を目指すことが困難になったり、借り入れが増えたりすると、人々の不安心理は強まる。それに加えて、若年層の失業率が高止まりすると、社会全体での活力も停滞する。韓国ではそうした状況が鮮明化し、文大統領の支持率が低迷している。

言い換えれば、文氏の経済政策はうまくいっていない。多くの国民が不動産価格の高騰や厳しさを増す雇用環境に直面する一方で、政府の高官が複数の住宅を所有して蓄財に努めていることが明らかになった。また、財閥企業の創業家などの富裕層は、カネ余りの環境下で株式や不動産への投資などによって富を増やしている。

それに加えて、検察改革を重視する文政権の秋美愛(チュ・ミエ)前法相と尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長の対立も表面化し、人々の心が文氏から離れているとの印象を強くする。

■韓国経済に潜む長期的なリスク

今後、韓国の実体経済がさらに厳しい状況を迎える展開は否定できない。新型コロナウイルスの感染再拡大によって韓国経済の成長率は鈍化し、状況によってはマイナス成長が現実のものとなる可能性がある。特に、中国でも感染が再拡大していることは、韓国経済の成長を支えてきた輸出に無視できない影響を与える恐れがある。

その一方で、世界的なカネ余りに支えられて不動産価格の高騰は、もうしばらく続く可能性がある。投機による利得獲得や生活のための借り入れが増加し、韓国の債務残高は膨張するだろう。

ただし、未来永劫、不動産価格が上昇を続け、債務が増えることはあり得ない。どこかで資産価格には調整圧力がかかり、投機のために借り入れた資金の返済に追われる個人や企業は増えるだろう。やや長めの目線で考えると、韓国の需要と供給=実体経済に下押し圧力がかかりやすい中で、徐々に経済全体での不良債権増加への懸念(信用リスク)は上昇するだろう。

今すぐではないにせよ、韓国の経済と金融システムにかなりの混乱が発生する可能性は軽視できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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