「確定拠出年金の含み益が急上昇」利確すべきか、ほったらかすべきか
プレジデントオンライン / 2021年1月28日 11時15分
■投資への意識が高まっている
2020年はほとんど1年を通じて私たちの生活は様々な制約を受けました。経済活動は停滞を余儀なくされて、世界経済も異例の縮小を強いられました。ところが厳しい実体経済の渦中にもかかわらず、主要国の大胆な金融緩和政策によって株式市場には余剰マネーが流入。最大規模の感染者に苦しむ米国では、2月から3月にかけて1万ドル超もの急落を招いたダウ平均株価が、年末には3万ドルを超えて最高値を更新する急回復を見せました。日本でも日経平均が30年ぶりの高値を付けるほどの賑わいで新年を迎えています。
さてコロナ禍は私たち生活者に新たな生活様式を定着させると共に、人生観や価値観に大きな変化を及ぼしていることも、読者の皆さんは感じていることでありましょう。そこへの論述は次回以降のコラムに譲るとして、将来不安の更なる惹起によって、政府が標榜している「貯蓄から資産形成へ」の世間の関心が高まり、「iDeCo」や「つみたてNISA」といった非課税制度を活用した長期積立投資へ一歩を踏み出す生活者は着実に増加の一途をたどっています。
■2022年から企業型DCと個人型DCの両方に拠出可能に
また伝統的な退職金制度の代替を目的とした企業型確定拠出年金制度(DC)を導入する会社も多くなり、老後に向けた財産作りへの意識は、コロナ禍で否応なく高まったと言えましょう。
ところで確定拠出年金は、企業が従業員に向け用意したものを企業型DC、「iDeCo」は個人型DCとも呼ばれ、これまで企業型DCに加入している人は個人型に参加できなかったのですが、2022年からは全体の金額枠内で企業型加入者も個人型、つまり「iDeCo」への拠出が可能となり、今後「iDeCo」加入者が激増して、ますます非課税制度による長期資産形成は一般化していくことになりそうです。
■投資対象を頻繁に入れ替える人もいるが……
さてDC(確定拠出年金)は、国民年金や厚生年金の公的年金に対して、自ら拠出した分は総額自身が享受できる私的年金制度。わかり易く「じぶん年金」と呼びましょう。そして恩典は運用益に対する非課税のみならず、年間拠出金額の所得控除、更には受取時にも税制上のメリットを得られるすぐれもの制度です。が、あくまでもその名称の通り老後に向けた年金制度ですから、60歳以前には途中資金化することができません。
その制度目的は、現役時代を通じて長期積立投資を継続して老後資金を育てていくことにあるからです。
ところが、制度主旨は資産形成をどっしり長期で叶えてくれる投資信託を毎月積み立てながら長期保有することがメインストリームであることは間違いないですが、投資対象については随時入れ替えが可能な仕組みであるため、頻繁にそれを行っている人もけっこう見受けられるのです。
■最近よく寄せられる質問
ちなみに最近よく受けるのが、「iDeCoでかなり大きな利益が出ているが、利確すべきですか?」という類の質問です。要するに昨年の急上昇相場の恩恵から、「iDeCo」で投資している投信が値上がりして含み益が増えたから、一旦リカク(利益確定の売却)して、メニューの中にある銀行預金に移し、次にまとまって下落したところで買い戻せば賢い運用になる、と考えているわけですね。
![比較](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/8/670/img_a8e32391351e610e701046493b86dab6376887.jpg)
こうしたアクションは「iDeCo」の制度主旨に背いて、相場の短期的上下を予測した売買を目的とする「マーケットタイミング取引」そのものと言えましょう。要は自ら相場の値動きを予測して当てにいく、投機的行為に陥っているのです。
「まだはもう、もうはまだ」という短期的なマーケットの特性を捉えた格言があります。みんながまだ上がるとこぞって能天気になっている時が足元の損場のピーク。そしてみんながもう天井だと専ら弱気が支配し始めた時はまだ上昇途上だよといった意味で、目先の値動きは必ずしもみんなが思っている通りには動かない、という至極当然の心理を表現していますね。逆に下落相場の局面でも同様に、相場が底を付けたところで買おうと思ったって、いざ下落が続く状況下ではもっと下がるのでは、という恐怖心が買う勇気を駆逐してしまうものなのです。
■自分は只者であると心得よ
そもそも、なぜ自分だけが相場の先行きを当てられると思ってしまうのか。自らを省みてください。長期資産形成における成功の要諦は、「自分は只者」であると客観視して、相場の値動きに惑わされず、毎月コツコツと同じリズムで一定金額を投入し、同じ投資行動をひたすら継続することなのです。そして企業型も「iDeCo」もDCはそうした行動を自然に叶えてくれる仕組みが備わった制度であり、それを素直に理解して自身の相場判断を排除し、現役時代を通じて投資を続ける。ぜひとも肝に銘じてください。
世界経済の成長をリターンの源泉とする国際分散型ポートフォリオの投資信託をしっかり選択しておけば、長期的な地球経済の成長期待に応じた資産育成が想定されて、短期的にはデタラメに価格は上下しますが、長期的にはその期待リターンに則った価格水準に収斂するはずだ、という長期投資の原理原則を理解することが、何より「じぶん年金」で将来成果を着実に育てる大前提なのです。
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セゾン投信・代表取締役会長CEO
1987年明治大学卒業、クレディセゾン入社。関連会社資金運用部にて債券のポートフォリオ運用に従事後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金運用や、海外契約資産の運用アドバイスを手がける。2006年セゾン投信を設立。
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(セゾン投信・代表取締役会長CEO 中野 晴啓)
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