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SBI北尾社長はなぜ44歳で野村證券を辞めようと思ったのか

プレジデントオンライン / 2021年1月21日 9時15分

SBIホールディングス 北尾吉孝代表取締役社長/1951年、兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村證券事業法人三部長などを経て、95年ソフトバンクに入社、常務取締役に就任。99年より現職。SBI大学院大学の理事長兼学長なども兼務する。

新型コロナウイルスの影響が続くなか、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に注目が集まっている。SBIホールディングスの北尾吉孝社長は、日本における「金融×デジタル」の第一人者だ。コロナ禍にどんな戦略を描くのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――(第1回/全2回)。

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「菅政権で加速する金融大再編。金融×デジタルシフトの第一人者、SBI北尾社長の見据える未来を田中道昭教授が読み解く」を再編集したものです。

■金融におけるDXの第一人者

【田中】菅政権が誕生して、金融大再編が噂されています。その中核の一人が北尾社長と言われています。

【北尾】いえいえ、私どもの戦略は金融再編とは方向性が違います。私どもSBIグループは創業してちょうど21年ほどになります。私は大卒で新入社員として野村證券に入り21年勤めて退職しましたから、いよいよここからは、SBIホールディングス時代が野村よりも長くなっていく、そういうタイミングでもあります。

【田中】そうですか。21年とは面白い節目でいらっしゃるのですね。

【北尾】そうですね。その中間地点で、ちょうど私は孫さんに請われてソフトバンクに入った、これが一つの転機でした。ソフトバンクに入り、孫さんからインターネットはいかにすごいものかということを、併せて私自身インターネットと金融は非常に親和性があると確信したのです。

孫さんと出会い、ソフトバンクでインターネットに向けた様々な事業展開をしていこうという、当時はちょうど緒に就くタイミングでした。

【田中】そうですね。今21年という数字が出ましたけど、北尾社長は色々な著作の中でも、「49歳起業」というお言葉をかなり大切にされていらっしゃると思います。なぜ49歳で起業されたのでしょうか?

■自分の天命を確信した「49歳」

【北尾】私自身の天命は何か、ということをずっと探しており、孔子でも天命を知るのは50歳ですから、非常におこがましいのですが、私なりに自分の天命を、これだ! と思ったのが49歳だったのです。ちょうどその時に書いた『不変の経営・成長の経営』という本に、私は自分の天命はこれだと書いています。そういう歳でした。

孔子でも天命を知るのに、50歳という歳月を要したのですから、私は当時49、まだ違うかもしれないなと思いながらも、このインターネットの力を借りて、一つ金融の世界に革命を起こそうと。それが世のため人のためになるはずだと。

そして私が野村證券からソフトバンクに移ると言ったら、トータルで60名ぐらい、野村證券の連中が私を慕って来てくれた。そういう人たちに対し経済的厚生といいますか、better off(一層暮らし向きが良くなる)にしてあげないといけない、そういう一つの覚悟を自分なりに持って動き始めた時でしたね。

【田中】昨年7月、SBIホールディングスは、デジタル証券の発行プラットフォームを開発しているBOOSTRY(ブーストリー)の株式を10%取得すると発表しました。ブーストリーの親会社は野村證券ですから、SBIグループと野村證券が接近していると業界では驚きの声も聞かれました。

【北尾】お互いにいろんなことはあるかもしれないけど、僕の方はあまり気にしていることはないですね。お互い利用できるところは利用すればいい。喧嘩していても仕方のない世界ですからね。「オープン・アライアンス」という言葉を僕は使うのですが、今の時代は、昨日の敵は今日の味方くらいに考えて、それぞれの事業基盤をどうやって拡大するか、その一点に絞ってアライアンスをどんどんしていくべきだと思います。

■「金融業」=「情報産業」だ

【田中】先ほど49歳のときに、インターネット×金融で天命をお感じになられたということでした。もともと野村證券に入られて、帝王学的にかなり特別な教育も受けられ、M&Aなど様々なお仕事をされて、非常に重大な事業や取引をされてこられたと思います。49歳にインターネット×金融に出会った時に、相当特殊だったのでしょうか?

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

【北尾】アメリカではすでにインターネットの世界が広まりつつありましたが、日本ではまだまだという状況でした。そういう状況の中でちょうどモルガン・スタンレーのインターネット業界のアナリストだったメアリー・ミーカー氏が、インターネットと一番親和性のある業種は金融業だと分析されていたのです。

よくよく考えてみると、金融業は、モノのデリバリーを伴わなくても、情報さえ伝われば、ことが済むのではないか。金融業はイコール情報産業で、情報産業だとすれば、デジタルの方が、アナログよりもっとフィットするのではないかと言えるわけですね。実際自分でトライした結果が、SBIグループの今日に至るということです。

■「起業したい人」の育成は社会に対する最大の貢献になる

【田中】今日は中核としてはデジタルの話、金融の話をお伺いしたいと思いますが、まずは私自身も一緒に教鞭をとらせていただいている、SBI大学院大学についてお伺いしたいと思います。

2008年の4月設立ということで、オンライン大学としては本当に日本の先駆者でいらっしゃいます。今年はコロナ禍で、大学や高校でも一気にオンライン授業が始まりましたが、すでに2008年4月から、オンラインMBAを展開されていらっしゃいました。その始められた思い、当然安岡正篤先生(※)のように学校を作られる、君子(人格者)を作るなど、いろんな思いがあったと思います。

2008年4月に、当時では考えられなかったオンラインでMBAを作られた、その時の哲学・こだわりというのはどういうところにあったのでしょうか?

※安岡 正篤:陽明学者・哲学者・思想家。歴代総理など多くの政治家や財界人の精神的指導者であり、かつ「人間学」の偉人としても知られる。

【北尾】まず、自分で起業したいと思うような人を対象にしたいと思いました。なぜそう思ったかというと、起業するということはイコールいずれ人を雇い、トップとして雇った人を色々な形で感化していく。そして一燈照隅万燈照国(※)に繋がるようにしたいなと思ったのです。

※一燈照隅万燈照国(いっとうしょうぐう ばんとうしょうこく):一つの灯火だけでは隅しか照らせないが、その灯火が万という数になると国中を照らすことができるという意味の語。最澄が説いた言葉として知られている。

■経営者に必要なのは「人間学」だ

【北尾】言うまでもなく、経営者というのは影響力がかなり大きい存在です。そこに働く従業員、取引先、そしてお客様に対し、自分の志を広く世に伝播させ、世の中のためになることをしていく。併せて、人の指導者になるということですよね、起業家になるということは。

SBIホールディングス 北尾吉孝代表取締役社長

ですから単に時務学(※)と称される学問、いわゆる経営学や、法律の知識だけではなく、人間学が必要だと思ったのです。私は究極、人を動かすのは何かというと、人間力ではないかと思うのです。ですから、そういう人間力を醸成するような教育観は世界広しといえどもなかなかないなと思いました。

※時務学:知識・技能を養う学問のこと

併せて、大学を卒業した人のための大学院という形に位置付けず、大学院大学という非常に珍しい形態で作りました。例えば高校を卒業して社会で揉まれ、勉強し、そして一定の学力、あるいは見識を備えたら、ここに入れるようにしようと。高卒の人でも、ここを卒業できたら文科省認可のMBAが取れて、大学院を卒業したという立場になれるようにしたいと。そんな様々な思いの中で作ったのです。そして、働く人を対象にしていますから、オンラインでないと無理だと思いました。

■主婦の女性が、起業を目指して入学

【田中】そういう意味では2008年4月に開講されて、今年は2020年です。私はここで教鞭をとらせていただいて2年目ですけれども。先ほど起業家というお話がありましたが、ちょうど2年目で私は「孫子の兵法×現代経営学」ということで、人間学×時務学みたいなことをさせていただいています。

今年履修してくださった方は30名強いらっしゃり、おそらく6割ぐらいの方がSBIグループの社員の方で、残りは起業家を目指している方ですね。1人非常に感銘を受けた方がいらっしゃいました。女性の方でもともとはある会社にお勤めでしたが、今は主婦をされていて、起業を目指して勉強したいと。それでこの大学を受けたということでした。

そういう意味では、2008年4月に天命を受けて作られた大学院ですが、その通りの方が履修されているのではないかと思います。

【北尾】おかげさまでだいぶそういう人が増えてきましたね。自分で起業して成功している人も結構出始めてきていて、そういうお便りをいただくと、喜んで見ています。

【田中】そうですよね。たまに本屋に行くと、北尾社長の推薦の帯が書かれていたりする本の著者が、卒業生であることが多いですもんね。

【北尾】そうなんですよ。

【田中】そういう方の帯で推薦文を書くというのは、本当に嬉しいですよね。

■コロナ禍でDXが加速度的に進んでいる

【田中】今お話させていただいたように、私はSBI大学院大学では、「孫子の兵法×現代経営学」ということで、孫子の兵法に出ている五事を「5ファクター・メソッド」という形で私なりに経営学のフレームワークにアップデートして、使わせていただいています。

ご存知の通り孫子の兵法の五事というのは、「道、天、地、将、法」というものです。次にお伺いをしたいのは、北尾社長の今の大戦略についてです。「道、天、地、将、法」の中に埋め込まれている天と地ですね。

当然、天と地には相当深い意味がありますが、ここでシンプルに天を「天の時」、それから地を「地の利」という風に定義させていただくと。この2020年、あるいは2021年のタイミングというのは北尾社長にとって、あるいはSBIホールディングス全体にとって「天の時」とはまず何を表しているでしょうか?

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

【北尾】まず基本的にコロナ禍というと、あんまり良いイメージがないですが、我々の事業という面で見ると、我々がずっと追求していたインターネットの世界、デジタルトランスフォーメーションに向かって、どんどん加速度的に動いています。その状況は我々のビジネスにはすべてプラスに作用しているのです。

■「勢い」を持って、ビジネスが好調に進んでいる

【北尾】ですから、大変な状況になっている業界は沢山ありますが、我々はDay1からインターネットの世界に入り込んで今日までやってきた。ますますデジタルトランスフォーメーションが進むと、我々がますます強くなっていく。今はそういう状況で、全ビジネスが非常に好調に推移しています。ですから、「天の時」を、そういう意味では得られているということでしょう。

もっと言えば、「天の時」というのは、その一時点だけではなく、一つの流れ、言い換えれば時流ということですね。その時流に乗っているということだと思います。

孫子の兵法の中でも勢いというものを非常に大事にしています。そういう勢いを持って今、進んでいるということですね。

■コロナ情報をビッグデータとして解析したい

【田中】そうですか、その時流、勢いということですが、それに対して生かしていく「地の利」というのは、どういうところになりますか?

【北尾】「地の利」は、現代風に言えば、事業ポートフォリオと言えると思います。我々は金融業から出発した。そこに今度は、例えば新規事業として、メディカルインフォマティクスというものを立ち上げました。

例えば今回、コロナのこの状況下で、コロナに関する様々な情報が整理されない形で様々なところから出ています。これがもっと整理されてビッグデータとして解析が進んだら、非常に価値があるものになるだろうと、むしろそういう風にしないといけないと思います。例えばどういう人がかかりやすいだとか、単純に年齢や性別がどうなのかというのは一つありますね。

では、どういう人が重症化しやすいのか。いろんな疾患を持っている人、ではその疾患で特に重症化しやすいのは、なんだろうと。2型糖尿病だとか、高血圧だとか、そういうような疾患と結びつけた情報がまた入ってきますね。そうすると薬はどういうものがいいのか、これも細部にわたって使ってみた薬をデータ化し、どういう人にどういう薬が効いたかなども、非常に役に立ちますよね。

■医療情報には統計化する世界が必要だ

【北尾】しかし、テレビで入ってくる情報というのは、今日の新規感染者のニュースばかり。ほとんど役に立ちません。こんなに増えているとある意味で不安を煽るだけですね。

だから、医療情報というのは、もっと分析的に、疫学的に統計化していくような、そういう世界が必要です。そういう意味では、この今の状況下で、そこにいろんなITのテクノロジーを加味して、新しい事業体を作っていく。そういう事業ポートフォリオの拡大を今、しつつあります。

【田中】なるほどですね。そういう意味では「道、天、地、将、法」の「地の利」という点はもともと「金融を核に金融を超える」ということを仰っていて。それからメディカルなどの分野までもずっとされていましたが。むしろ「天の時」というと、今こそデジタルを通じていろんな事業ポートフォリオが繋がってくる、よりその時流を感じていらっしゃるタイミングなのでしょうね。

【北尾】そうだと思いますね。

■インターネット時代こそ「信」と「仁」が大切

【北尾】もう一つ大事なことは、このインターネットの世界というのは、言うまでもなく、対面で人と人が会い、目を合わせて、話をするという世界ではないです。

多くの人は、インターネット上の情報に一種の信頼感をおいて、「このお弁当は美味しそうだ」と注文するわけですよね。このインターネットの世界で、インターネット以前の世界に比べて大事な要素というのは、人を欺かないこと。要するに信ですね。これが非常に大切。

もう一つは、例えば、人を欺かないだけではなく、人に対する思いやり、仁という思想ですね。仁というのは、にんべんに二と書きます。人が2人と。人が2人いると、全く言葉は通じなくても、なんとなく見ていて、相手と意思疎通を図ろうとする。まあそれは普通の人間の姿ですね。そうすると、今度は身振り手振りになってくる。そうすると次に恕(じょ)という働きが起こる。如ですね。我が心の如く、相手のことを考えるというようなことになる。それはイコール思いやりということ。仁の思想になるわけですね。

インターネットの世界ほど、相手のことを思いやりながら、お客さんはどういったことに喜ぶのか。いろんな情報を集めながらそういうものを感知して、お客様の満足度を最大限に高めようとしていかないといけない。ですからこの中国古典の仁という思想が、この時代こそ必要だと言えるかもしれません。またセキュリティの面では、いろんな詐欺事件が起こっている。これも、信をいかに大切にしないといけないかということですね。

■インターネットで、情報が公平になった

【田中】信、仁というところでお伺いしたいのは、49歳の時にインターネット×金融が天命だと感じられたというところで、色々なご著作の中で、インターネットを通じて本当に顧客中心のサービスが提供できるのではないかと考えられたと。

すでに49歳の時に、顧客中心のサービスがこれでこそ提供できると書かれていましたが、今こそさらにカスタマーセントリックのサービスができるという感じでしょうか。

【北尾】そうですね。インターネットがどういうことを可能にしたかといえば、情報の非対称性をなくしていくことです。つまり今まで金融機関側にあったけど、一般の利用者にはなかった情報、企業の側にあったけれど、一般の利用者、あるいは受益者にはなかった情報などが、インターネットによって両方に公平に行き渡るようになる。そういう仕組みを安く、手間ひまかけずに提供することができる。

ですからある意味、完全競争というのはこのインターネットの世界を持って初めて具現化するのではないかと。それまではimperfect competition、不完全競争だと。一方に情報がなく、片方にだけ寄っているのですから。

SBIホールディングス 北尾吉孝代表取締役社長と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

■顧客満足度を高めることが重要課題になる

【北尾】両方に情報が行き渡るということはどういうことかというと、結局、お客さまが賢くなるということですね。よりスマートになる。そうすると、大量生産してどんどんコマーシャルを流して押し込み販売的なことはもうできなくなる。いろんなニーズを持ったお客さまがいる、多様化している。それに応えていくことも必要になってくる。

ですからどうやってお客さんのニーズに応えるか、が企業にとっては最大の課題になっていく。言い換えれば、顧客満足度をどうやって高めるか。これが最も大事な課題になるわけですね。

ですから私は事業をスタートする時から、顧客満足度をいかに高めるかがインターネット時代に最も大事なことだと言い続けてきたのです。

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北尾 吉孝(きたお・よしたか)
SBIホールディングス代表取締役社長
1951年、兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村證券事業法人三部長などを経て、95年ソフトバンクに入社、常務取締役に就任。99年より現職。SBI大学院大学の理事長兼学長なども兼務する。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(SBIホールディングス代表取締役社長 北尾 吉孝、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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