「コロナ禍の大学生はひきこもりを強いられて可哀想」が大間違いである理由

プレジデントオンライン / 2021年1月25日 9時15分

And'sの林さん(左)と合田さん - 撮影=ホシカワミナコ

コロナ禍でオンライン授業がメインとなっている大学生はずっとひきこもっているのか。フリーランスの編集者・ライターのホシカワミナコさんは「自宅やアパート内で“軟禁状態”に置かれているというイメージがありますが、学生の中には、ネットの利活用で友人をたくさん作り、地域の人々とつながり、起業を目指している人もいます」という。早稲田大学1年生の3人の事例を紹介しよう――。

■オンライン授業の大学生は実はそんなに孤独ではなかった

コロナ禍の2020年春、晴れて大学入学を果たした学生は、63万5003人(※)。しかし、入学式が中止となる大学が続出し、緊急事態宣言で授業がオンラインになると、大学1年生たちは新しい交友関係も築けない時期が続いた。地方から上京した学生の場合、賃貸アパートに閉じこもる孤独な時間も多かった。

※出典:文部科学省「令和2年度学校基本調査」(5月1日時点の在籍者数)

だが、“軟禁状態”に甘んじている学生ばかりではない。

「がんばっている学生もいるので、もっと学生にフォーカスをあててほしい」

そう話すのは、早稲田大学先進理工学部1年生の合田葵(ごうだ あおい)さんだ。

同大社会科学部1年生の林美里さんと「And's」(アンズ)という学生団体を昨秋に作った。これまでに2人は福島県や石川県などに滞在し、在学中に起業することを目指している。

■コロナ禍だからこそ「起業の夢」を持つことができた

昨年の早稲田大学は、入学式は中止、正式な授業は5月11日からから始まった。前期はオンラインで、9月以降は一部授業が大学内でも受けられるようになったが、2人ともまだ一度も大学で授業を受けたことがなく、合田さんにいたっては大学の敷地に入ってもいない。しかし、授業はオンラインで受け、単位は落としていないという。

合田さんは東京都と山梨県で育ち、林さんは長野県出身だ。福島県とは縁もゆかりもないうえ、春の時点では学生起業家を目指そうなどとは考えてもいなかった。それにもかかわらず、約半年間で大学内外に多くの友人・知人ができ、起業の夢を持つまでになった。

オンライン授業ばかりで鬱々(うつうつ)としていた新1年生の2人が、前向きになれたきっかけは、市民大学「さとのば大学」(発起人:信岡良亮氏)への参加だ。この市民大学は「社会と接続した学びのあり方」を提案し、オンライン講義と地域留学を組み合わせたプロジェクトを行っている。

「早稲田大学に『大隈塾』(早稲田大学エクステンションセンターが主宰する講座で塾頭は田原総一朗氏)という社会人のゲストスピーカーにお話しいただく授業があって、僕と林さんはその受講生です。直接の運営を学生が行っているのですが、学生の学びをとめないよう、大隈塾だけは4月からオンラインでスタートしました。そこで『さとのば大学』の信岡良亮さんの話を聞く機会があって。外出自粛で出歩くこともできず、実家でイライラしていたんですが、さとのば大学で夏休みに地域留学する夏季特別コースがあると聞いて、参加することにしたんです」(合田さん)

■夏休みに「福島第一原発から20キロ圏内」に地域留学

地域留学の行先は、福島県南相馬市の小高(おだか)地区。小高は2011年の東日本大震災で事故が起きた福島第一原発から20キロ圏内にあり、津波と地震、放射能の被害に見舞われ、人が住めるようになったのは2016年7月12日からだ(一部地域は現在も帰還困難地域)。

ワイン用ぶどう農家さんの手伝い
ワイン用ぶどう農家さんの手伝い(写真提供=And's)

さとのば大学が提携する「小高パイオニアヴィレッジ」は、コワーキングスペースと簡易宿泊所を備えた施設で、地元出身者が「ゼロから街を作っていく開拓者(パイオニア)の拠り所」になるように作った。

そしてその願い通り、「起業してゼロから街の復興をしたい」といった熱意のある若者が日本全国から集まっている。夏季特別コース受講中、林さんはこのパイオニアヴィレッジに、合田さんはシェアハウスで暮らしながら、コワーキングスペースで大学のオンライン授業を受け、課題に取り組むことになった。

「さとのば大学は、自分でテーマを決めて地域の課題に取り組んだりして自己発見をしていくのですが、私は『地元の人と会うこと』を目的に“数珠つなぎプロジェクト”を行いました。ひとりの方の話を聞いたら、その方から南相馬の尊敬する人や仲間を紹介してもらってと、年齢、職業問わず、数珠つなぎでさまざまな人の話を聞く試みです。この活動を通して、地域の面白い知り合いがたくさんできました」(林さん)

■「大学卒業後は東京の大企業に就職すると漠然と思っていたけど……」

知り合いが増え、交流の機会が増えれば、ボランティアなどの頼みごとをする人も増えてくる。夏季コースを一緒に受講したほかの3人はそれぞれの地元に帰ったが、2人はその先も小高にプチ移住することを決めた。

「自分からチャンスを作る」
「チャンスに必ず乗っかる」
「誘われたら絶対に断らない」

を実践し、どんどん小高地域が好きになっていったという。

馬ボランティア
乗馬ボランティア(写真提供=And's)

「ワイン農園のお手伝いや、乗馬ツアーのモニターといったことから、新しく小高にオープンする酒蔵の壁のペンキ塗りまで、いろいろやらせてもらいました。そのうち、プログラミング教材を扱う地元企業のイベントの手伝いなど、有償で手伝わせてもらったりするものも出てきたんです」(合田さん)

小高の人たちに触発され、自分たちも小高で起業すると決めた2人は、当初は塾で起業することを考えた。しかしリサーチを重ねるうちに、子どもたちと地域の分離を感じた。そこで子どもたちが南相馬に愛着を持てるよう、地元の大人たちとのつながりを作ったり、県外から来た人と小高の人をつないだりと、「人と人をつなげる」仕事ができたらと考えるようになったそうだ。

「大学卒業後は、東京の大企業に就職すると漠然と思っていました。仕事とプライベートは別だと。でも、小高に来たら、自分のやりたいことを突き詰めて仕事にしている人がたくさんいて。聞いてもいないのに、ニコニコしながら仕事の話をしてくれるんです。仕事への情熱を感じました。地方でも、社会と自分がつながって仕事をしていく方法があるんだと、将来の選択肢の幅が広がりました」(林さん)

■人見知り、引っ込み思案…地味なワセダ生がコロナ禍でイキイキする訳

2人の活動を知り、小高を訪れる大隈塾の学生も増えた。12月でいったんプチ移住を終え、林さんは東京で試験勉強に精を出し、合田さんは石川県加賀市に飛ぶ。小高で知り合った人の紹介で、春休み終了までの短期間だが、町おこしの手伝いをする。そして今後は起業も視野に入れつつ、さらに活動の幅を広げていく予定だという。

さて、ここまで読んで、「2人は特別積極性のある活動的な学生だったからだろう」と感じた人もいるかもしれない。しかし、自宅にこもらざるを得ない状況だったにもかかわらず、新たな活動に挑戦した学生もいる。

仲真吾さん
仲真吾さん(写真提供=本人)

オンラインでできることを模索し続け、学生向けビジネスコンテストの運営に携わるようになった同じく早稲田大学文学部1年生の仲真吾さんだ。茨城県出身の仲さんは、実家から大学に通う予定だったが、前期は自宅待機となった。母親が介護関係の仕事のため、家庭のルールで不要不急の外出は厳禁、「ずっと家の中にいました」。

一浪して合格を勝ち取った仲さんにとって、浪人中は我慢の連続だった。大学のサークルを紹介する雑誌を買い求め、ツイッターで情報収集しながら思い描いたキャンパスライフはオンライン上になり、家族に迷惑をかける可能性を考えると出歩くこともできない。相当なストレスだったことは想像に難くない。しかし仲さんもまた「大隈塾」を受講していたうえ、GW以降はオンライン授業を通じて何人か友人ができていった。

「大隈塾では『自分はこれをやりたい』と手をあげる人がたくさんいて、それを皆で応援する気風があります。僕も『仲くんなら大丈夫』と背中を押してもらって、声に出して言ったり、チャレンジしたりすることへの抵抗感がなくなりました。ただ、僕は林さんたちのように外に出ることができなかったので、特に緊急事態宣言が解除された夏休み期間中は、周囲から取り残された気がして一番きつかったです。でもずっと会えなかったからこそ、9月に大学の一部授業が対面でも受けられるようになって皆と直接会えたときに『僕には大切にしなければいけない仲間がいる』と実感が湧きました」

仲さんは大隈塾を通して「自分を好きでいてくれる仲間に人生をかけたい」と思うようになった。そして尊敬する先輩に誘われて、3人で2020年10月に「Anone Project」(アノネプロジェクト)を発足した。

アノネプロジェクト
撮影=仲真吾
アノネプロジェクトのメンバー - 撮影=仲真吾

「学生向けビジネスコンテストを企画・運営する団体です。2月の初開催に向けて、いまも企業にアポイントをとってオンライン面談で協賛金のお願いをしています。成人式も中止になってしまったんですが、それ用に買ったスーツを着て、PCの前で説明させていただいています」

まだ将来の予定は見えていないという仲さんだが、2021年度の目標は、「仲間を応援するためにマネジメントスキルをあげることと、自分自身もやりたいことを見つけて、実現する努力をしていきたいです」と話してくれた。

■「コロナ禍でオンラインだからこそ人の目を気にせず動けます」

来年度も、オンライン授業は続く可能性がゼロではない。3人に後輩たちに伝えたいことを聞くと……。

早稲田大学の大隈講堂(手前は仲さん)
早稲田大学の大隈講堂(手前は仲さん)(写真提供=本人)

「オンライン受講は偶発的な出会いがないので、自分から動くことが重要だと感じました。SNSなども含めて仲間を見つけて、共感するところがあったらDM(ダイレクトメッセージ)を送ってみて、仲間を作っていくといいと思います。僕はもともと人見知りなところがあるのですが、オンライン授業でメンバーとやりとりしていたことで、直接会ったときに問題なく話ができました」(仲さん)

「どんな状況下でも楽しめるよう、サークル、授業、バイト先など、いろいろなコミュニティでつながりを作っておくいいと思います」(林さん)

「平常時に面と向かってやると『意識高い系だよね』と周囲から引かれてしまうことも、コロナ禍(でオンライン)だからこそ人の目を気にせず動けます。入学する後輩たちには、『未来に期待してほしい』と伝えたいです」(合田さん)

後輩たちにも、そう頼もしいアドバイスをしてくれた。

毎日新聞(2021年1月9日)でも、早稲田大学教育学部の1年生が困窮家庭のために月額1000円の学習塾を開くという記事が配信された。コロナ禍で内にこもる学生が多い中、こうして社会や自分と向き合い、積極的に仲間を作ることを覚え、楽しみながら道を切り開こうとしている学生もいるのだ。

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ホシカワミナコ フリーランスの編集者・ライター
長野日報東京支社広告営業、大村書店書店営業を経験後、女性向け情報紙「東京パノラマ」、TVスポーツTV誌「TV sports 12」、育児・教育誌『プレジデントFamily』、ビジネス誌『プレジデント』の編集部に在籍。雑誌・書籍・WEB記事・PR関連などさまざまな媒体で活動中。

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(フリーランスの編集者・ライター ホシカワミナコ)

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