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「感染爆発の最中でも醜い権力争い」衆院選を控えた日本が学ぶべき欧州の教訓

プレジデントオンライン / 2021年1月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■批判のための批判に終始する野党、内ゲバにふける連立与党

日本では今年、衆議院の解散総選挙が行わる運びとなっている。昨年秋頃には、年明け1月にも衆議院が解散されるといった観測が有力であった。しかし年末にかけて新型コロナウイルスの感染者数が急激に増加し、菅政権が対応に追われていることから、最短でも3月の予算成立後の解散になると見込まれている。

新型コロナウイルスの感染対策に関しては、各国の政府が手を焼いている。感染対策を優先すれば経済活動が悪影響を受けるし、経済運営を優先すれば感染者数は増加する。局面に応じてバランスを取ろうと各国の政府は苦慮しているが、同時にどの国でも野党を中心に感染対策を「政争の具」として用いる構図が定着している。

新型ウイルスの世界的流行(パンデミック)という未曽有の事態を前に、各国政府が感染対策と経済運営のバランスに苦慮している。動向を見極めてバルブを開け閉めせざるを得ないわけだが、一方で野党は局面に応じて逆張りの論陣を張る。挙国一致での対応が望まれるにもかからず、批判のための批判に終始しているきらいが否めない。

とはいえ、与党にもそうした動きがないわけではない。コロナ対策が有権者に評価されて高い支持率を得た与党ほど次の選挙での勝利を見据えたアピールに努めている。世界中の人々がコロナ対応で疲弊している中で、与野党が立場を問わずコロナ対策を「政争の具」にしてせめぎ合う姿には疑問を禁じ得ない。

■オランダではコロナ対応で支持された内閣が辞職

ヨーロッパに目を向けても、新型コロナウイルス対応に関連した政争が年明けから激化している。口火を切ったのがオランダである。オランダの場合、与党・自由民主国民党(VVD)の支持率は新型コロナ対応が評価される形で40%弱まで上昇、第2位の極右政党・自由党(25%弱)を引き離すことに成功した。

今年3月17日までに予定されている総選挙でも、与党VVDは議席数を増やすと見込まれている。ところが1月15日、10年にわたりオランダを率いてきたルッテ内閣が突然総辞職した。2013~19年に約1万世帯が受給した児童手当に不正があったとして、税務当局が不当に返還させていたことの責任を取った形だ。

ハーグにあるオランダ国会議事堂
写真=iStock.com/GAPS
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GAPS

実際にそうした不正はなく、また標的にされた世帯の多くが移民の家系であったため、この問題は人種差別的な性格をはらんでいた。ダメージを最小限に食い止めるため、ルッテ首相が引責辞任という形で一度けじめをつけ、3月の総選挙を乗り切って政権を維持する選挙戦術に出たことは明らかである。

3月の総選挙まで、ルッテ首相は暫定内閣を率いて新型コロナ対応などの職務を続けることになる。当然、野党を中心にルッテ首相による政治パフォーマンスには非難の声が浴びせられている。とはいえルッテ首相は、新型コロナ対応に対する有権者の好評価を武器に、強気のスタンスを維持している。

■イタリアでは「壊し屋」が本領を発揮

イタリアでは連立政権が崩壊の危機に直面した。コンテ政権が1月12日に閣議を開き、欧州連合(EU)が各国の経済復興を後押しするために創設した復興基金からの支援を基にした新型コロナ復興計画予算案を閣議決定した。しかしこの内容に、連立政権に参加する少政党「イタリア・ビバ」の党首、レンツィ元首相が反対したのだ。

レンツィ元首相は「壊し屋」の異名を持つ。かつては中道左派の名門政党・民主党に属していたが、内部分裂の末、2019年に離党してイタリア・ビバを立ち上げた。左派連立政権となった第2次コンテ政権に参加したが、コンテ政権による復興計画案が不十分であるとしてレンツィ元首相は閣僚2名を引き揚げ、連立から離脱した。

レンツィ元首相には、政権の安定を望むコンテ首相から妥協を引き出し、重要な閣僚ポストを得たいという意図があったとされる。今イタリアで解散総選挙となれば、行動制限の長期化で疲弊しきった有権者の票が野党に流れる恐れは大きい。それに政府の債務問題や銀行の経営不安を抱えるイタリアの場合、政局不安は金利の上昇につながりやすい。

金利が上昇すればおのずと金融不安が意識される。そうした展開を回避するためにコンテ首相は歩み寄るはずだとレンツィ元首相は考えたようだ。こうしたレンツィ元首相の「壊し屋」としての振る舞いに対しては当然だが非難が相次ぎ、とりわけコロナ対応で先頭に立つスペランツァ保健相は議会でレンツィ元首相を痛烈に批判した。

結局1月26日付で、コンテ首相は辞任。解散総選挙を回避しつつ、新政権の樹立を目指すことにした模様だ。マッタデッラ大統領が再度コンテ首相を任命すると期待してのことだがその保証はなく、新たな首相が任命されるか解散総選挙が行われる可能性も出ている。

イタリア・ローマのトレビの泉広場を横切る、フェイスマスクをした警官(2020年3月10日)
写真=iStock.com/Em Campos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Em Campos

■長期政権ほどコロナ禍で信頼を取り戻したヨーロッパ

新型コロナの封じ込めに成功した国は極めて少ない。ヨーロッパを見渡すと、当初は一定の成果を上げたドイツやスウェーデンでも、第2波、第3波は抑えきれないでいる。大局的に見れば、各国で取られている行動制限の内容にそのものに大きな差はない。とはいえ、政権がコロナ対応で支持率を上げたケースもあれば下げたケースもある。

支持率を上げたケースの典型がオランダやドイツだ。うちドイツは1月15~16日に与党・キリスト教民主同盟(CDU)がオンラインで党大会を開催、ノルトライン・ウェストファーレン州首相のラシェット氏が新たな党首に選ばれた。メルケル路線の踏襲を明言するラシェット氏が9月の総選挙を経て新首相に就任する可能性が高まっている。

コロナ前までCDUの支持率は顕著に低下していた。2005年から続くメルケル政権に対する有権者の飽きに加えて、移民問題に対する不満などが支持率の低下に追い打ちをかけた。しかし第1波でのメルケル政権のコロナ対応が評価され、30%を下回っていた支持率は40%近くまで上昇、今に至るまで高水準をキープしている。

コロナ危機という未曽有の事態に直面し、その不透明感から人々は慎重にならざるを得なくなっている。そうした中で、長期政権の国ほど人々がそれまでの政権の実績を評価し直し、信頼を強めたのではないだろうか。移民問題で人気を高めた民族主義政党がこのコロナ禍で失速したことも、そうした長期政権の国の追い風に働いた。

一方で、政権が支持率を下げた典型的な国として英国やイタリアがあるが、両国の場合は近年、短命政権が続いており、政治的な成果を十分に残せていない。とりわけ英国のジョンソン政権には、16年6月の国民投票でEU(欧州連合)への残留を希望した人々を中心に厳しい評価が突き付けられており、野党も攻勢を強めている。

■「コロナ政争」で相場が下落する可能性も

ジョンソン政権の場合、当初の感染対策が後手に回ったことが致命傷となっている。そのため、就任時の公約通りEUとの通商交渉を決着させたくらいでは、有権者の不平不満は解決できないのだろう。感染状況がひどい英国ではワクチンの接種も進んでいるが、その方法に関してもEU残留派を中心に不満の声が多いようだ。

このように、ヨーロッパでは「コロナ政争」がさまざまな形で激化している。冒頭で述べたように、日本も年内に解散総選挙を控えている。コロナ対応への評価が問われることになるが、一方でコロナ禍は現在進行中の現象であり、その対応を「政争の具」にすることこそ、コロナ対応の遅れにつながってしまう危険性がある。

それにコロナ対応が遅れれば経済運営もままならなくなる。現在、株式市場は歴史的な株高に沸いているが、これは中銀が大規模な金融緩和に努めていることに加えて、政府による巨額の経済対策が期待されていることやワクチンの接種などコロナ対策が進むことへの期待によるところが大きい。その意味で、期待先行の相場が続いている。

各国が政争に耽(ふけ)るようでは一貫したコロナ対応が取れなくなる危険性が高まる。そうした展開を警戒して金融市場が動揺すれば、各国中銀が演出してきた株高もしぼんでしまい、金融不安が経済危機に追い打ちをかけるという最悪の展開になるかもしれない。各国とも今が正念場、与野党とも本来なら政争に耽る暇などないはずである。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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