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「変異ウイルスが市中蔓延か」これからのコロナ対策で踏まえるべき新常識

プレジデントオンライン / 2021年1月27日 15時15分

新型コロナウイルス変異株で感染経路が不明なケースが初めて確認され、記者会見する国立感染症研究所の脇田隆字所長(右)ら=2021年1月18日夜、厚生労働省 - 写真=時事通信フォト

■変異ウイルスの感染力は強いが、病原性は変わらない

感染力の強い新型コロナの変異株(変異ウイルス)が見つかり、世界各国が警戒を強めている。イギリス由来の変異株はこれまでのウイルスに比べて最大で1.7倍の感染力があるともいわれる。アメリカの疾病対策センター(CDC)は1月15日、「米国内で3月には変異株が感染の主流となり、死者が急増する危険がある」との見解を示した。

イギリスのジョンソン首相は1月22日、この変異ウイルスについて「従来のタイプより致死率が高い可能性がある」と病原性(毒性)の強さに言及した。しかし、ジョンソン氏の記者会見に同席した首席科学顧問は「政府のデータには現時点で不明なところがあり、さらなる分析が必要」との説明を加えた。

WHO(世界保健機関)の専門家も「これまでの感染拡大で医療が逼迫(ひっぱく)し、その結果として死者が増えたのだろう」と病原性が強まったとの見方には否定的だ。

これまでもジョンソン氏は大袈裟なプロパガンダを繰り返してきた。「致死率が高まった」という情報は冷静に受け止める必要がある。

ちなみに変異株を「変異種」と書くメディアがあるが、これは正確ではない。なぜなら、ウイルスは「属」「種」「株」の順に分類され、新型コロナウイルスの正式名称「SARS-CoV-2」は株名に当たり、ウイルスの変異も株単位で判断するからだ。2002年に東南アジアを中心に流行したSARS-CoVは新型コロナウイルスの姉妹株に当たる。

■変異株はすでに日本国内にも広がっている恐れ

イギリスなどで見つかった変異ウイルスの感染者は、日本でもすでに50人以上が確認されている。このため日本は空港での検疫を強化する水際対策に加え、遺伝子の検査による変異ウイルスの早期発見に力を注いでいる。

空港での検疫以外、つまり海外からの帰国者以外に国内で初めて変異株の感染が確認されたのは、静岡県だった。厚生労働省は1月18日、静岡県内の男女3人からイギリス由来の変異株が確認された、と発表した。3人とも海外への渡航歴はなかった。

さらに翌19日には、東京都の10歳未満の女の子からも同様の変異ウイルスが見つかった。この女の子にも海外渡航歴はなく、渡航歴のある人との接触もなかった。

どこでどのように感染したのかなど感染経路は不明で、市中感染の可能性もある。市中感染だとすると、すでに変異ウイルスの感染が水面下で広がっていることになる。

■重要なのは正しい知識に基づいて正しく怖がること

問題の変異ウイルスがイギリスで見つかったのは、昨年9月ごろだ。その後、南アフリカやブラジルでもそれぞれ変異したウイルスが確認された。WHOによると、イギリス由来の変異ウイルスはこれまでに約50カ国・地域で確認され、南アフリカ由来の変異ウイルスは約20カ国で見つかっている。

心配なのがワクチンの効き目だ。メッセンジャーRNAワクチン(遺伝子ワクチン)を開発したアメリカの大手製薬会社ファイザーは、ワクチンを接種した人の血液を使った実験でワクチンの有効性を確認している。しかし今後大きな変異が起きれば、ワクチンの有効性はなくなる。

私たちはこの変異ウイルスにどう対処すればいいのか。重要なのは正しい知識に基づいて正しく怖がることである。

そもそも変異とは、遺伝情報の一部が変化することだ。コロナウイルスに限らずどのウイルスも動物や人の宿主の細胞の中で増えるとき、自分の遺伝情報を複製する。しかし時々コピーミスを引き起こす。このコピーミスはコロナウイルスのようなRNAウイルスによく起きる。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
写真=iStock.com/BlackJack3D
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BlackJack3D

変異は起きて当然で、恐がったり、驚いたりする必要などまったくない。

■ウイルス表面のスパイク(突起)が変化して感染力が増大した

ウイルスの遺伝情報は塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4化学物質)の配列によって決まる。新型コロナウイルスにはこの塩基が3万個ある。それぞれのコロナウイルスが2週間に1カ所ずつの割合で異なる配列(変異)を作る。

世界中の新型コロナがこの割合で変異を繰り返し、人間界の環境にあったウイルスが生き残り、環境に適さないものは死滅していく。数限りない変異がこれまでに起きている。

塩基配列が特定の場所で異なると、感染力や病原性が変わることがある。イギリスや南アフリカ、ブラジルで見つかった変異株は、宿主の細胞に感染するときに使われるスパイク(突起)の先端部が変化して感染力が増大した可能性が指摘されている。

このスパイクはウイルス表面に無数に存在し、太陽のコロナのように見える。その先端部が鍵で、感染を受ける人の細胞が鍵穴に相当する。つまり問題の変異ウイルスはより鍵穴にあう鍵を持っているわけだ。

■最終的には風邪のコロナウイルスと同じ病原体になるはず

いまのところ、新型コロナウイルスは中国の山奥の洞窟に生息する特定のコウモリの体内に生存していたという説が有力だ。新型コロナウイルスは変異することで、コウモリのウイルスから人のウイルスへと変わり、人間界に定着していくのだと、沙鴎一歩は考えている。イギリスや南アフリカ、ブラジルで感染力の強い変異ウイルスは、人間界の環境に適したウイルスに変化しつつあるのだと思う。

たとえば、スペイン風邪(1918年)やブタ由来のインフルエンザ(2009年)で知られる新型インフルエンザは鳥インフルエンザが変異したものだ。鳥インフルエンザのウイルスは、もともとトリの腹中で増殖する腸管ウイルスで、それが人の喉や上気道で増殖できるウイルスに変異することで、やがて季節性のインフルエンザウイルスに生まれ変わったと考えられている。

繰り返すが、新型コロナの変異ウイルスは出現して当然であり、今後も必ず出てくる。新型コロナは変異を重ね、最終的には私たちの身の回りに常在する風邪のコロナウイルスと同じ病原体になるはずだ。ここは冷静に対処していくことが大切で、防疫もこれまでと変わらない。

■「政府も強い危機感を持て」と産経社説は主張するが…

1月24日付の産経新聞の社説(主張)は「コロナ変異種 国主導で市中感染対策を」との見出しを掲げ、冒頭部分でこう訴える。

「静岡県の川勝平太知事は19日に、県独自の『感染拡大緊急警報』を出した。政府も『緊急事態』に相当する強い危機感を持って、変異種の市中感染対策に万策を尽くすべきだ」

変異ウイルスが発生した静岡県が警戒を強めるのは当然だが、「強い危機感を持て」と政府にまで強く求めるのはどうか。変異ウイルスに対する感染対策はこれまでと変わらない。しかも緊急事態の宣言中である。冷静な対応を求めるべきだ。政府が危機感に煽られると、国民が動揺する。

産経社説は「市中感染のリスクは、人口と感染者数、特に経路不明の感染者数に比例して高くなる」とも指摘しているが、ここもよく分からない。インフルエンザと同様に飛沫感染する新型コロナは感染ルートを割り出しにくい感染症で、感染ルートが特定できないケースは増えていく。その意味で変異ウイルスも市中感染しながら感染者を増やしていく。

最後に産経社説はこう主張している。

「変異ウイルスの市中感染拡大に備えるために、感染症対策の基本である『検査』と『隔離』を徹底する強い施策が必要だ」

検査と隔離を強めれば強めるほど、患者・感染者に対する差別が生まれる。感染力が極めて弱いにも関わらず、国が隔離政策を押し通したハンセン病の悲劇を知らないのだろうか。新型コロナには適切な検査と適度な隔離を求めるべきだろう。

■「監視と情報収集の態勢を強化せよ」と朝日社説

1月12日付の朝日新聞の社説も「変異ウイルス 流行を想定して備えよ」との見出しを付けて変異株の問題を取り上げる。

朝日社説は前半でこう指摘する。

「開発されたばかりのワクチンの有効性への影響や、病気を発症・悪化させる程度など、よくわかっていないことが多い。南アフリカの変異ウイルスに関しても、感染力が強まった恐れが指摘されているものの、詳細はまだ不明だ」

この朝日社説の指摘にあるように変異ウイルスについて不明な点は多い。そこを朝日社説は冷静に書いているが、これは社説として評価できる。

しかし、そんな朝日社説も筆が勢い付くのか、後半ではさらなる防疫の強化を求めている。

「2度目の緊急事態宣言が発出され、いま日本は『第3波』の流行のまっただ中にある。そんな状況で新たなウイルスが広がれば、事態をさらに深刻化させかねない。リアルタイムでの監視と情報収集の態勢を強化し、感染力や病原性など科学的な知見に基づいて、リスク評価を進めることが欠かせない」

■いったい政府はどこまでの事態を想定しているのか

「監視と情報収集」「リスク評価」などどれも感染対策の基本的重要事項ではあるが、病院や保健所からの医療提供が逼迫すると、対策はさらに難しくなる。

朝日社説は最後にこう訴える。

「国内の医療の逼迫状況は限界に近いとの声が上がっている。感染の拡大防止とあわせ、最悪の事態も視野に、病床計画の見直しや人材確保策にいっそう力を入れる必要がある」

「最悪の事態も視野に」と書くが、元来、危機管理とは最悪の事態を想定して行うものである。野党から「対策が後手に回っている」と批判される菅義偉政権に必要なのは、この最悪の事態の想定だろう。どこまでの事態を想定しているのかが見えてこない。それがいたずらに不安を増大させているのではないだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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