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「何を今さら」ゴーンと一緒に日産を食い物にした有力OB3人の弁解ぶり

プレジデントオンライン / 2021年1月28日 11時15分

不正報酬問題について記者会見する日産自動車の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)。西川氏はこの1週間後の9月16日に社長を退任した。=2019年9月9日、横浜市西区 - 写真=時事通信フォト

日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の報酬過少記載事件で、共犯とされる元代表取締役のグレッグ・ケリー被告の公判が進んでいる。日産の元社長や元会長が証言台に立っているが、その「弁解」に、現役社員や取引先幹部が不満を抱いている。真実はどこにあるのか――。

■「結局、最後は部品メーカーや工場従業員にしわ寄せが来る」

「深く、本当に深く反省している。私の人生の中で痛恨の汚点だ。後味の悪さはずっと残っている」――。

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が合計で約91億円に上る役員報酬を有価証券報告書に開示しなかった金融商品取引法違反の罪の共犯として、元代表取締役のグレッグ・ケリー被告が東京地裁で裁かれている。1月12日、その公判で日産ナンバー2だった志賀俊之元COO(最高執行責任者)は、神妙な面持ちでこう口にした。

この証言に際して、日産の現役社員や取引先の部品メーカーの幹部たちは異口同音に「何を今さら」とつぶやいたという。

日産は一連の経営の混乱と、ゴーン時代の拡大路線のツケがたたって、2019年度と2020年度に2連続で7000億円近い最終赤字となる。

そのリストラのあおりを受けて工場閉鎖の報道が流れたスペイン工場では一部の従業員が「暴徒化」し、工場で火災が起きるなど、現場は混乱している。日本国内でも取引部品メーカーは多くが希望退職者を募っている。

日産の本社がある神奈川県内の系列部品メーカーの幹部は、「何をいまさら」という思いから、なかば諦めたような表情で「在任中に多くの報酬を得て、財界活動などで偉そうな発言をしていたが、そうした連中にはおとがめがなく、結局、最後は部品メーカーや工場従業員にしわ寄せが来る」と、不満を吐露する。

■ゴーン氏と志賀氏の10年間を「恨めしく」見ていた人物

志賀氏は「ゴーン・チルドレンの筆頭株」と社内で言われる。そのゴーン元会長と志賀氏が最初に出会ったのは、日産が経営難に陥った1998年秋だ。

銀行からも見放された中で、日産は独ダイムラー、米フォード・モーター、そして仏ルノーと秘密裏に資本提携交渉を進めていた。志賀氏は仏ルノーとの交渉を担当していた。その際にルノー側からゴーン氏を紹介されたのが最初の出会いだった。

結局、日産は一番規模が小さい仏ルノーを資本提携先に選んだ。「ダイムラーやフォードが相手となったらのみ込まれる。日本の技術がほしいルノーであれば対等関係で事業を続けられる」(当時の日産幹部)というのが理由だ。それ以来、ゴーン元会長と志賀氏は2005年から10年間、トップとそれを支えるナンバー2として、強い関係で結ばれることになった。

こうしたゴーン氏―志賀氏の関係を「恨めしく」見ていた人物がいた。志賀氏の後を継いでCOO、そして社長になった西川広人氏だ。

■志賀氏と同期入社の西川氏は「いつも苦々しい思いで見ていた」

志賀氏は和歌山県生まれで大阪府立大卒。日産入社後は、車の販売ではなくマリーン部に配属された。さらに部下のいない一人支社のインドネシアに駐在するなど、「傍流」を歩んできた。

一方の西川氏は東京出身で東大卒。辻義文社長・会長の秘書や購買部門などを歴任し、エリート街道を歩んできた。「役所より役所」と揶揄(やゆ)された日産・東大閥の官僚組織の中心にいた人物だ。

「ゴーンにうまく取り入っている志賀氏を同期入社の西川氏はいつも苦々しい思いで見ていた」。多くの日産幹部にはそう見えていた。「志賀氏がいつかぼろを出すのを待っていた」と語る日産幹部OBもいる。

そしてついにその日がきた。2013年だ。満を持して出した電気自動車「リーフ」の販売や北米でも販売奨励金頼みのシェア拡大戦略で業績が悪化。「コミットメント経営」を標榜するゴーン元会長の顔に泥を塗ることになったため、志賀氏は実質的に更迭となる副会長に「棚上げ」され、経営の第一線から退いた。後任に就いたのが西川氏だ。

■「ゴーンから叱責を受けないために、系列メーカーを売却」

業績悪化の責任は西川氏にもある。実質的に戦略を取り仕切っていたのが西川氏だったからだ。北米のインセンティブはトヨタ自動車やホンダに比べて2~3倍にも膨らんだ。

2018年、日産自動車・SUVディーラーの新車。日産はルノー日産三菱アライアンスに加盟している
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

アジアへの過度な傾斜もあだになり、国内での新車の投入も遅れた。そのため西川氏に対して、「コスト削減のために系列の部品メーカーに過度な原価低減を押しつけるだけで、ひたすら拡大路線に走るゴーンの暴走を止められなかった」(大手系列部品メーカー幹部)という声が出たのもむべなるかな、だ。

財務がひとたび悪化すれば、連結子会社のカルソニックカンセイ(現・マレリ)を海外の投資ファンドに、車載用電池の戦略子会社だったNECとの共同出資会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC)も中国のエンビジョングループに売却。その資金をリストラの原資に回した。

その西川氏に対して系列部品メーカーに転じた日産OBは、胸の内をこう明かす。

「購買を長くやったと言っても部品メーカーに足を運び、一緒に原価低減のための取り組みなどをするわけでもない。本社の机の上で、数字を見ながら利益が目標に達しなければ系列の部品メーカーを売却して穴埋めしただけの人物だ。それもゴーンから叱責を受けないために」

■「犯罪には全く加担していない」と開き直る小枝至氏

この志賀・西川両氏の背後にはもう一人、大物が控える。かつてゴーン氏とともに共同会長をしていた小枝至氏だ。

小枝氏も1月13日の公判に出席、証言した。

志賀氏は「ゴーンの振る舞いを許した日産の責任も大きい」「特に私は10年間、代表取締役の立場にあり、コーポレートガバナンス(企業統治)の担当役員だった。ガバナンスが機能していないと認識しながら改善できなかったことは、痛恨の極みで深く反省している」などと反省の念を示した。

一方、小枝氏は「ゴーンが起こしてしまったことを処理しただけで、犯罪には全く加担していない」と開き直りに近い発言に終始した。

小枝氏も西川氏と同様、東大卒だ。事務系の西川氏に対し、小枝氏は生産から経営企画、さらには購買部門など幅広く経営の中枢を担ってきた。久米豊氏(元社長)や辻義文氏、ルノーとの提携を決めた元社長の塙義一氏にうまく取り入り、ルノーとの提携後に退いた塙氏の後を継いで、日産生え抜きの中でトップになった。

そのため「日産の内部をあまり知らないゴーンから人事の相談を受け、実際に差配するのは小枝氏だった」(日産OB)とも言われてきた。

■「報酬過少記載事件」は小枝氏が主導したとの見方も

久米、辻、塙氏の3代とも東大卒。「小枝氏は東大工学部の先輩だった久米、辻両氏にはかわいがられていた」(日産OB)。「勝ち馬に乗る機を見るに敏の立ち回りのうまさは天才的だ」(ほかの日産OB)と皮肉交じりの評価が聞こえてくる。

東京大学・安田講堂
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

小枝氏も同じ東大卒の西川氏に目をかけていたが、「やはり傍流からゴーンに寄り添い、マスコミ受けのいい志賀氏の存在を苦々しく思っていた」(日産幹部)という。

小枝氏は、志賀氏がようやく副会長に退くと、西川氏を使って自分の息のかかった幹部を経営中枢に引き上げた。西川氏がCOOから社長に昇格すると、山内康宏氏をCOOに据えるなど、西川氏に次ぐ地位に押し上げた。いずれも、小枝氏が長く在籍してきた、日産で最も発言権のある購買部門の出身だ。

ゴーン元会長への目配りも忘れない。ゴーン元会長の役員報酬を有価証券報告書に開示しなかった金融商品取引法違反の問題も小枝氏が主導したとの見方がある。

■ゴーン元会長が「留守」の間、日産を陰で取り仕切るように

志賀氏は公判で2011年2月ごろ、小枝氏から「減額は気の毒。ゴーン前会長の退任後に(受けとらなかった)報酬を支払う方法を考えよう」と提案を受けたことを証言している。

志賀氏は退職慰労金の名目で退任後に報酬を後払いする方法を提案したが、小枝氏も別名目で後払いする方法を提案。結局、ゴーン元会長は小枝氏の案を採用したとされる。

また、小枝氏は、日産が指名委員会等設置会社に移行すると、「口うるさい社外取締役や監査役を嫌った」(志賀氏)ゴーン元会長の意向をくんで、レースクイーンからレーシングドライバーに転身した井原慶子氏を招聘(しょうへい)するなど、「形だけのガバナンス体制」(大手証券アナリスト)を敷いた。ゴーン元会長がルノーのトップも兼務し、日産を「留守」にする日が増える中、実質、日産を陰で取り仕切ることになる。

■「保身のためカメレオンのように主義主張を変える」

その後、ルノーの経営が低迷し、業績面で日産の立場が強くなると「ルノー支配からの離脱」を画策するようになる。実際、公判の中でも小枝氏は「(ゴーンは)10年もいたので辞めていただいて結構だと思っていた。そろそろ日産を退任していただいて問題ないと思っていた」と述べている。

マダガスカルジャイアントカメレオン
写真=iStock.com/Michelle McDonald
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Michelle McDonald

さらに小枝氏の「子飼い」である西川氏が自らの役員報酬に関するストックオプションの制度を社内ルールに違反する形で運用し、本来得られる額より4700万円ほど多い額を受け取っていたことが判明、内外から辞任を迫られると、小枝氏は「西川氏を最後までかばい続けた」(日産幹部)とされる。

この日産幹部は小枝氏をこう切り捨てる。

「日産時代は歴代社長にすり寄り、ルノーに身売りされるとルノーから送り込まれたゴーンにつく。ゴーンが弱ると子飼いを配下に置き、権力の座に居座る。世渡り上手と言えば聞こえはいいが、自らの保身のためにはカメレオンのようにころころ主義主張を変える」

■保身のために日産を苦境に陥れた3人の共通点

志賀氏は今も官民ファンドの産業革新機構の会長を務めている。日本企業の産業強化が目的の同機構だが、液晶パネルのJDIの経営は綱渡りの状況だ。

また、経営難に陥ったシャープの処理はすったもんだの揚げ句、台湾の鴻海精密工業に売却された。東芝の半導体も米韓連合に売却するなど、「日本の技術の海外流出を加速させただけ」(大手証券アナリスト)とも言われる。

志賀氏、西川氏、小枝氏の共通点は「日産OB」というだけではない。3氏とも日産からの報酬と資産作りに世間の目が向けられている。

志賀氏は都内の同じ敷地にある高層マンションの別々の棟にそれぞれ部屋をもつほか、他にもマンションを家族と保有する。西川氏の不正報酬問題もまた、都内の超一級マンションの購入にあてるためだったと推測された経緯がある。小枝氏は、日産のストックオプションで多額の報酬を受け取り、隅田川沿いの高層マンションに居を構える。さらに京都にも別宅を所有するなど、暮らしぶりは豪勢だという。

都内の高層階からの眺め
写真=iStock.com/MarsYu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

ゴーン元会長は日産を食い物にした罪を問われ、海外に逃亡した。一方、自らの保身のために日産を苦境に陥れたこの3人は、罪に問われてはいない。だが、日産社員や取引先関係者の多くは、ゴーン元会長と同様の罪があるとさえ考えている。そのことを、3氏はどう受け止めているのだろうか。今後のさらなる証言に注目が集まる。

(プレジデントオンライン編集部)

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