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「講師は海外帰りのプロ」子供の塾と習い事に年300万円超を払う中国人の劣等感

プレジデントオンライン / 2021年1月28日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Martina_L

■「勉強以外」の習い事にもお金をかけるワケ

中国人が子どもの教育に熱心なことは日本でもある程度知られているが、近年は過熱しており、都市部の中間層以上の世帯では、子どもの教育費だけで、日本円で年間200万~300万円もかけているという人もいる。

だが、昨今の中国で特徴的なのは、学習塾や家庭教師代などの「勉強」だけでなく、芸術面の習い事など「勉強以外」にも相当のお金をかけているという点だ。そこには中国人父母の子どもにかける、どんな思いがあるのだろうか?

「わが家の場合、私立中学に通う長女の学費は年間約5万元(約75万円)と、私立の中では平均的な額。小4の時から通わせていた学習塾は、今は3科目(国語、英語、数学)、それぞれ週に2時間で、年間約6万元(約90万円)、夏休みの短期集中コースは約6700元(約10万円)以上です。

次女の分と2人合わせると、教育費は年間24万元(約360万円)くらい。うちは両親がかなり前に買ってくれたマンションがあり、住宅ローンを払う必要がないので、その分、子どもの教育費にかけられる。でも、それだけじゃないんですよ。最近では芸術関係の習い事にお金をかけている人がとても多いんです」

■「将来、世界に出ていっても恥ずかしくないように」

取材に応じてくれた女性は夫と2人の娘の4人家族だ。自身は企業の管理職、夫は会社経営者で年収は2人合わせると、日本円で2000万円を超える。所得が増加している中国では、これくらいは中間層の範囲内であり、富裕層とはいえないが、彼女自身、有名大学卒であるだけに子どもの教育にも非常に熱心だ。

「娘たちには勉強だけでなく、将来、世界に出ていっても恥ずかしくないよう、情操も身に付けてほしいと思って、小学校に入った頃からピアノ、書道、ダンスを習わせています。これら3つの費用は合わせて1人年間4万5000元(約67万円)くらい。

それ以外に、1年に1~2回は発表会があるので、その費用が別途かかる。ダンスならお揃(そろ)いの衣装を買わなければならないし、ピアノは豪華なドレスを用意するなど、お金がかかります。でも、うちなんかまだ安いほう。もっと習い事にお金をかけている人も大勢いると思います」

杭州市で小学生の息子にヴァイオリンを習わせているという女性にも話を聞いてみた。その女性は夫ともども金融関係の仕事をしており、年収は日本円で3000万円以上と生活には余裕がある。

■教育費は1人だけで年間300万円以上に

その女性によると、「息子が幼稚園の時から、知人に紹介してもらった米国帰りの中国人の先生について習っています。レッスンは週1回50分で1500元(約2万2500円)。先生はアメリカのニューヨーク大学に音楽留学していたことがある方。有名人ではないけれど、教え方が上手だと評判なので、この先生にお願いしました。だから、これくらいお金がかかるのは仕方がないかな、と思います」という。

オーケストラで集中力を高めて練習している若いヴァイオリニスト
写真=iStock.com/Chachawal Prapai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chachawal Prapai

まるで音楽高校や音楽大学を受験するようなお金のかけ方だが、その女性によると、将来、息子をヴァイオリニストにしたくて習わせているわけではないという。

「息子がどんな職業に就くかは分からないけれど、幼稚園の時から音感がとてもよく、音楽に興味を示していたので、息子と相談してヴァイオリンを習わせることにしました。たとえ音楽方面に進まなくても、いつか息子の役に立つと思っています。まだ小さいので、今は4000元(約6万円)くらいの安いヴァイオリンを使っていますが、上達したら、もっといい楽器を買ってあげたいと思っています」

昨年は新型コロナの影響でリモートレッスンになった時期があったが、今ではまた対面レッスンに戻っている。この家庭の場合も、もちろん英語や算数などの学習塾にも通わせており、教育費は1人だけで年間300万円以上になるそうだ。

■プロ並みの先生を揃え、組織的な経営が多い

もはや日本の富裕層の水準に近いお金のかけ方だが、日本と違うと感じるのは、先生の経歴や、親たちの習い事に対する意識だ。日本(といっても地域差や年齢差が大きいので、ひとくくりにはできないが)では1970~1990年代後半くらいまで、ピアノや書道、算盤などを子どもに習わせる家庭が多く、私の個人的な印象では、かつてはバレエやヴァイオリン、チェロなど一部の習い事を除いて、それほど高額なものではなかった。

先生も音楽大学を卒業後、自宅の一室でピアノ教室を開いている人だったり、書道歴や算盤歴20年の人だったりと、他人の子どもを指導するのに十分な経歴ではあるものの、それら一本で活躍している人は多くなかったと思う。むろん、全国チェーンの音楽教室などもあるが、個人経営も数多くあった。

一方、今、中国で流行している習い事は教師がプロ並みで、規模は大きくはないものの、組織的なビジネスとして行われているものが多い。習い事自体は、ピアノ、ヴァイオリン、書道、バレエなど日本と同じものが中心で、大きく変わらないが、他に中国ならではのものといえば、篆刻(てんこく)(印章を彫ること)や水墨画、国語(受験勉強以外の故事成語、漢詩、古典などを学ぶ)といったものがあり、先生はその道で、特別な教育を受けてきた人が多い。

■小学校低学年でも毎晩11時まで宿題漬け

中国のSNSに流れてくる習い事の広告
中国のSNSに流れてくる習い事の広告

中国のSNSを見ていると、よく習い事の広告が流れてくるのだが、そこに出てくる先生の経歴には「アメリカのジュリアード音楽院に留学した経験がある」「ヨーロッパに音楽留学していた」「海外の美術展で入選した」といったことが書かれていて、驚かされる。先生のプロフィール写真なども出ていて、いかにもすごいキャリアを持っている、といった感じだ。

生徒募集はSNSを中心に、ほとんどネットで行われており、「個人の習い事教室」といった雰囲気とは違う。前述のヴァイオリン教室に通っている子どもは、プロを目指しているわけではなくても、1日1時間以上、練習に費やしているといっていた。有名な先生に指導してもらっているからには、軽いノリでは済まされないような雰囲気だ。

中国のネットで検索すると、1人当たり5~6個も習っているという子どももいる。習い事だけで、放課後に毎日1~2時間の練習時間を取られ、しかも、学校の宿題も日本の何倍もあるという。以前、知り合いの小学生の子どもが「まだ低学年なのに、学校の宿題をこなすだけでも毎日夜11時過ぎになる」といっていたが、学習塾と習い事の両方なら、ハードスケジュールになるのもうなずける。

■中国は誘拐が多いので「送迎」は必須

中国でもう一つ、特徴的なのは、習い事の送迎だ。

北京や上海などの小学校の下校時間に校門前に行くと、各教室の名前を書いたプラカードを持った事務員やアルバイトが立っており、自分の教室に通う子どもを教室まで連れていく。親や祖父母、お手伝いさんが出迎えて、そのまま車やバスに乗せて教室に連れていくことも多い。日本でも、最近では習い事教室の担当者が送迎をすることもあるが、それは遠方から通う生徒のためなど、あくまでもサービスの一環だ。

だが、中国では誘拐が多く、ふだんの通学はもちろん、習い事にも1人で行かせるのは危険なので、送迎はセットなのだ。北京市に住む知り合いの女性は、2人の息子(小学生と中学生)の送迎のため、クルマを2台買ったと話していた。息子たちの登下校や習い事の時間帯が異なるため、夫と手分けして送り迎えをするために必要に迫られたそうだ。日本でも子どもに習い事をさせるには、親も一緒に学ばなければならないことがあるが、中国には、中国特有の事情がある。

学校でコンピュータを使うことを学ぶ小学生のグループ
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■なぜここまでお金をかけるのか

それにしても、中国では受験競争が日本以上に激しく、子どもは睡眠時間を削って勉強し、学習塾にも通っているのに、なぜ「勉強以外」の習い事もそんなにさせるのだろうか?

杭州の女性はその理由をこう語る。

「私が子どもだった20年前、中国では、習い事を教えてくれる教室なんて全然なかったんです。私はピアノを弾けるようになりたかったけれど、一般の人が気軽に通える教室は、少なくとも私の町にはなかったし、そもそも家にピアノがある友だちもいなかった。ピアノやヴァイオリンだけでなく、スポーツもそうですが、中国では以前、ごく一部の才能を見いだされた逸材だけが、特別な教育を受けることができたんです。

だけど、今は違う。ごく一般の人でもピアノやヴァイオリンを習えるような環境がやっと整ってきた。習い事が特別なものではなく、一般化してきたということですね。私のように、自分ができなかったからこそ、子どもには自分の分もいろいろなことを習わせてあげたいという気持ちの親は多いと思います」

日本ではあまり知られていないが、この女性がいうように、中国では、政府主導で芸術やスポーツ分野で才能のある人だけに英才教育を行ってきた。

日本ではオリンピックに出場するような才能のある選手でも、もともとは高校時代に部活でやっていたからとか、自分が好きで習っていて、だんだん頭角を現したなどのケースが多いが、中国では幼い頃に身体能力が明らかに他の子どもと異なるなど、才能を見いだされた人だけが、政府の支援によって特別な教育を受けることができた。

■中国人が抱えるコンプレックス

中国は部活がないこともあるが、そうした国家ぐるみで逸材を発掘してきたという経緯があるため、発掘された本人は、血のにじむような思いをして練習し、オリンピック出場やプロの音楽家などを目指した。逆にいえば、そうした経緯があるため、日本のように「音楽大学を卒業して、地域のピアノ講師になる」といったキャリアの人は、むしろ、これまでの中国では少なかったといえる。

中島 恵『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)
中島 恵『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)

加えて、「勉強だけではダメ、という最近の風潮もある」というのは冒頭の女性だ。もちろん、中国では今でも勉強ができることがいちばん大事という考え方があり、一流大学を目指す人が圧倒的に多いが、世界の人々と比べて、中国人は勉強以外の知識や一般教養があまり身に付いていない、というコンプレックスもある。

日本人に一般教養があるかというと、一概にはいえないことだが、例えば、日本人ならば、音楽に精通している人でなくても、ベートーベンの曲「エリーゼのために」を知っていることが当たり前、など受験に関係ない知識や雑学も身に付いている人は多い。そうしたものが、「受験勉強に時間をとられる中国では比較的少ない」と、現在、社会の第一線で働いている中国人の父母たちは感じているようだ。

冒頭の女性が「将来、世界に出ていっても恥ずかしくないように」といっていたが、今の子どもたちが「勉強以外」の習い事もしているのには、そうした事情も背景にあるようだ。むろん、それも父母に経済力があることが大前提であり、中国では習い事をするのも、何をするのも、お金次第……ではあるのだが。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)がある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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