本音全開の僧侶が40歳のとき「掃除機のフィルター掃除」で気付いた人生の極意
プレジデントオンライン / 2021年2月5日 9時15分
※本稿は、名取芳彦『上手に発散する練習 “風通しのいい心”になる考え方』(青春新書プレイブックス)の一部を再編集したものです。
■単調な日が続くと、飽き飽きしてくる
忙しい日々が続くと「ああ、のんびりしたい」とため息を漏らし、のんびりした日が続くと「ああ、変化がほしい」と喉(のど)の奥まで夕陽が届くほど大きなあくびをします。
そして実際に目まぐるしく変化する生活が続けば単調な生活に憧れるのですから、人間とは勝手なものです。
忙しいにしても、のんびりした日にしても、どちらも同じことをし続けると飽き飽きしてしまうのでしょう。
ただし、それが悪いわけではありません。漢字の書き取りや坊さんの修行も、同じことを繰り返すから身につく技術や実力なのです。そもそも仏教も、2500年間、同じことを説き続けているという意味で、大いなるマンネリと言えるのかもしれません。
忙しい状態でもヒマな状態でも(この二つは一見矛盾するようですが、変化続きの状態も、ずっと変化ばかりしているという意味で単調です)、それが続くと何となく心にモヤモヤとしたものがたまってくるのは、人類のDNAに刻まれたシステムで、脳科学がそれを明らかにしてくれるかもしれません。
■「どんな生活を望んでいるのか」を考える
しかし、モヤモヤがたまるのは仕方がないと、諦めることはできません。
将来、人類が太陽系や系外惑星探査に出かけるときは、何年、何十年も宇宙船の中で単調な日々を過ごさなければなりません。宇宙飛行士たちのモヤモヤが原因でミッションが失敗するのは避けたいでしょう。
そのためにも、単調な生活が私たちの心を不活性化させる原因究明の研究成果には期待したいところです。その成果は、私たちの日常生活にも大いに役立つはずです。それまでは、試行錯誤をしながら自分なりに単調な生活をやりくりするしかないでしょう。
そこで、仏教的なアプローチをご紹介します。
私たちは忙しければのんびりしたいと思い、のんびりしていると変化を望みます。
変化が多いと逆の単調な生活を望んでいる自分に「我ながら勝手なものだ」とニヤリと笑って呆れてしまうのも、現実をそのまま受け入れる覚悟をするという意味で、いい方法です。
大切なのは、単調な生活にウンザリし始めたら、まずウンザリしている自分に気づくことです。
次に、自分は今と違ったどんな生活を望んでいるのかを明らかにすることです。
のんびりしたいのか、変化がほしいのか、変化と単調のバランスがとれた生活をしたいのかなどを明確にするのです。目標を明確にして、具体的に動き出さなければ、現状は変わりません。
■行き当たりばったりで、変化を作ればいい
そして、のんびりしたいのか、変化を望んでいるのかが明確になったら、次にやるのは、その目標は自分の努力だけで達成できるのか、自分の努力だけではどうにもならないのかを明らかにすることです。
自分の努力でどうにかなるのなら、やればいいのです(ここで「やればいいと言うけれど、それができないから苦労しているのだ」と思うようなら、お悩みメリーゴーラウンド。事態は一向に好転しません)。
一人暮らしが単調だと思うなら、ルームシェアするか、シェアハウスに入居するか、同棲するか、結婚するかでしょう。
しかし、その生活を始めてもすぐに飽きて一人の時間がほしいと思うようになるでしょう。そうしたら、一人になれる時間と空間を作ればいいのです。
臨機応変、行き当たりばったりで乗り越えていく覚悟さえしておけば、人生はとてつもなく愉快です。
会社と自宅の往復が単調と思うなら、三日に一回は通る道(路線)を変えるなど、いくらでも方法はあるでしょう。
自ら作る変化は、向こうからやってくる変化よりも、あなたにとって、ずっと的確です。
単調な生活にも「忍耐強さを鍛練する」「実力や技術が身につく」などの意義を見出した上で、心の変化という風を日常の中で吹かせてみてはいかがでしょう。
■掃除機のフィルターを洗って気がついた
自分の関心があること以外に興味を示さない人がいます。
じつは示さないのではなく、示せないのかもしれませんが、四十歳になるまでの私がそうでした。
そんな人がよく口にする言葉に、「ツマラナイ」があります。
世の中には膨大な量のできごとがありますが、関心領域が狭ければ狭いほど、必然的に自分に関係ないことが多くなり「ツマラナイ」ことが多くなります。
「詰まる」はもともと、ある空間に隙間なくいっぱい入っている、まるでM&M'sチョコレートがギュウギュウ詰めになった袋のような状態のことです。この空間を心に置き換えれば、心にまだ隙間があり満足できないのが「詰まっていない」=「つまらない」状態です。
四十歳になるころ、使っていた掃除機に「フィルターを掃除してください」というサインが出たことがありました。指示に従っていれば間違いがない、かりに間違っていたら指示を出した側に責任転嫁できるという処世術を身につけていた私は、真面目にフィルター掃除をしました。
洗面所で薄い四角のスポンジフィルターを洗い、薄汚れた水が出てくるのを見たときでした。「掃除機のフィルターだけではなく、私の心も目詰まりしているのかもしれない」と思ったのです。
■「ツマラナイ」が出るのは心の風通しが悪い証拠
「ツマラナイ」が口癖の人ほど、心のフィルターが詰まっているというのはややこしい話ですが、「心の風通しが悪くなったときに出る言葉がツマラナイである」というのが、現在の私の結論です。いまでも掃除機やエアコンのフィルターを掃除するときには、自分の心が目詰まりしていないかをチェックしています。
やはり40代のころ、ベテランの村上正行アナウンサーに「聞き上手のコツはありますか?」と質問したことがありました。
するとすぐに「それは“初めて”という心の張りを持つことです」と答えてくれました。よくわからない顔をしている私に、村上さんは次のように補足してくれました。
旅行に誘うと、「そこは5年前に行ったことがある」で話が終わってしまう人がいます。5年前とは一緒に行くメンバーも違うし、季節だって違うでしょう。なにより自分は5歳年を取っているのですから、同じはずがありません。
新しくできたレストランの話をすると、「先週行ってきた」と自慢する人がいます。さらに「材料はいいんだけど、味付けがイマイチだった」と、これから行く人の楽しみをゴッソリ奪って知らん顔をしている人がいます。
このような人は心のスポンジに泥水がたまっているようなもので、どんなにきれいな水に浸しても吸い込む能力なんかない――それが村上さんの分析でした。
■「心のスポンジ」はカラカラにしておく
「だから、私たちは心のスポンジをカラカラにしておくんです。そうすれば、何度も聞いた話だって、新鮮な気持ちで聞けるんです。それが“初めて”ということに対する心の張りってことですよ。そして、それが聞き上手のコツです」
私は泥水がたっぷりたまった自分の心を、目の前に突きつけられた気分になりました。
そして気づいたのは、心のスポンジに泥水がたまってきたときに出る言葉が「ツマラナイ」なのだということでした。
村上さんのおっしゃる心のスポンジも、私が気づいた心のフィルターも、同じ意味です。これが目詰まりしていると、イライラやモヤモヤが行き場を失って心の中にたまります。
目詰まりをなくす最も簡単な方法は、フィルターの目を広げることです。関心領域を広げるのです。心のスポンジをカラカラにしておくことです。
多くのことに「へぇ!」と驚き、「どうして?」と疑問を持つようにするのです。
そうすると目詰まりが解消されて、心の風通しがよくなります。風通しがよくなると、より広範囲のこと、遠くのことにも関心がわき始めます。
注意して周囲を見れば、不思議なこと、愉快なことはたくさんあるものです。
■自分の思い通りにならないときに「苦」を感じる
私たちが日々抱く、「ちぇっ」、「嘘でしょ」、「何でだよ!」などのネガティブでマイナスの感情を総称して、仏教では「苦」と言います。
苦の定義は「自分の都合通りにならないこと」です。この定義に反論の余地はないように思われます。
私たちは、物事が自分の思い通りになっていればイライラもしないし、文句も言わなくてすみます。ですから、ネガティブでマイナスの感情が起きるのは、いつだって自分の都合が叶(かな)っていないときなのです(他人の都合は関係ありません)。
仏教は、この苦から解放されることに特化したコンテンツと言っていいでしょう。いつでも、どんなことが起こっても苦から離れ、心おだやかでいるための教えが、2500年説き続けられてきたのです。
洋の東西を問わず、昔から苦をなくすための方法は二つあります。
一つは西洋的な考え方で「努力して都合を叶える」方法。
私たちの家にある掃除機、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの家電製品などの発明品は、ことごとく私たちの都合を叶えるために作られました。おかげで暮らしの中の苦が少なくなり、楽になりました。
■「自分の都合」を減らせば、心はおだやかになる
苦をなくすもう一つの方法は、インドや東南アジアの文化圏の「都合そのものを少なくする」という方法です。
仏教の考え方もこれに当たります。この方法を消極的だとして嫌がる人がいますが、心おだやかな人になるという目標のためには、あなどれない方法です。
昼時にレストランに入ったらお客さんが満員でウンザリ顔になったら、「まあ、昼時に来る私がいけないのだ」と納得すれば、混んでいるのは仕方がないと、キレイに諦めることができて、苦は減ります。
天気予報でにわか雨の予報が出ていたのに高を括(くく)って傘を持たずに出て、雨が降ってきたら一瞬嫌な顔になるでしょうが、「私の判断が甘かったのだ」と思えば、それほど苦を感じずに雨宿りできたり、「これで予備のビニール傘がもう一本増えるぞ」とウキウキすることさえできます。
何十年も生きているのですから、苦への対応は早めに身につけておきたいものです。
その対応策は、それほど難しいことではありません。
■イライラに気づいて、手段を講じるのが大切
嫌なことに出合ったら、自分はその状況をどうしたいのかという自分の都合を考えます。バスに乗ろうとバス停に行ったところ、走り去っていくバスの後ろ姿が見えて眉間にシワが寄ったら、まず「私はあのバスに乗りたかったのだ」と自分の都合を明確にします。
次にやることは、自分の都合は自分の努力で叶うものなのか、自分の努力だけでは叶わないのかを判断します。これからダッシュでバスを追いかければ次のバス停で乗れるか、バス会社に電話して自分のために臨時のバスをすぐに出してもらえるかなど(これだけ考えていてもけっこう楽しめるものです)。
自分の努力だけでどうにもならないことにイライラしても、意味はありません。
もちろん、自分の努力だけでは達成できないことでも、都合を叶えるために微力を発揮できることはあります。選挙の投票などは、そのいい例でしょう。
そして、自分の努力で都合が叶いそうなら、そうなるように努力すればいいのです(すべての努力は目標が明確になっていないと、驚くほどあっけなく挫折します)。
「言うは易し、行うは難し」ですが、この簡単な手順を知って、少しでも実践すれば、心の風通しがよくなり、イライラの種が何処ともなく飛んでいってしまいます。
改めて申しあげますが、イライラの種を発散させるために最も大切なのは、「私は今、イライラしている」「マイナスでネガティブな感情を持っている」と自覚することです。
この気づきがなければ、苦から解放されるのは至難の業でしょう。
イライラしても、それに気づいて手段を講じればいいのです。
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元結不動密蔵院住職
1958年、東京都江戸川区小岩生まれ。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。大正大学を卒業後、英語教師を経て、25歳で明治以来住職不在だった密蔵院に入る。仏教を日常の中でどう活かすのかを模索し続け、写仏の会、読経の会、法話の会など、さまざまな活動をしている。著書に『気にしない練習』(知的生きかた文庫)、『いちいち不機嫌にならない生き方』(青春新書プレイブックス)などがある。
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(元結不動密蔵院住職 名取 芳彦)
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