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「ただただ悲しく、悔しい」…複数の自分の患者を鬱で亡くした精神科医の心痛

プレジデントオンライン / 2021年2月1日 9時15分

愛知県豊橋市松崎病院の精神科医・鹿目将至さん

厚生労働省によれば、2020年の自殺者数は前年比750人増で2万919人(男性135人減、女性885人増)だった。コロナ禍が女性や若い世代など立場が弱い人たちを直撃した形だ。現場の医師はこうした状況をどう見ているのか。作家の鳥居りんこ氏が松崎病院 豊橋こころのケアセンター(愛知県豊橋市)精神科医・鹿目将至(かのめまさゆき)氏に聞いた——(前編/全2回)。

■「この数カ月で複数の患者さんを亡くしました。ただただ悲しく、悔しいです」

新型コロナウイルス感染症による生活環境の変化は、健康問題だけでなく生活不安・経済不安による自殺リスクの増加につながっている。

1月22日に厚生労働省が警察庁の自殺統計(速報値)を基にした発表によると、2020年の自殺者は2万919人。2019年まで10年連続で減少していた自殺者数は、一転して19年の確定値より750人増(対前年比3.7%増)。

特徴としては、男性が1万3943人で前年比135人減だったのに対して、女性は6976人で前年より885人増だったこと。また、年代別では40代が3225人で最多。50代、60代をのぞく全ての世代で自殺者数が増加したこと。前年比の増加した幅で目立ったのは、19歳以下(707人、前年同期比13.8%増)と20代(2287人、同16.8%増)の若い世代であることだ。

「コロナ鬱」に詳しい松崎病院 豊橋こころのケアセンター(愛知県豊橋市)の精神科医・鹿目将至(かのめまさゆき)氏に「コロナ禍と自殺」について話を聞いた。

——2020年自殺者数を発表した厚労省は、コロナ禍が女性や若い世代を中心とした立場が弱い人たちを直撃していると分析しています。コロナ禍による経済的な影響や生活環境の変化、学校の休校、外出自粛などが影響した可能性が考えられますが、先生はこうした状況をどう見ていますか。

【鹿目医師】厚労省の発表では女性に自殺者が増えたとされていますが、私が勤務する病院や周辺の病院では性別・年齢問わず、全世代にわたっているという印象を抱いています(※)。私たち精神科医は、今、かつてないほど自殺についての危機感を募らせています。私自身も、この数カ月だけで複数名の患者さんを亡くしています。これは例年に比べても多いと感じますし、率直に申し上げて、ただただ悲しく、悔しいです。

※2020年の都道府県別の自殺者数(出典・厚労省)では、愛知県の場合、自殺者数1173人、前年比111人増、増減率+10.5%。

■鬱になると楽しい、嬉しい、面白いという感情がなくなる

——「自死」という選択は本人だけでなく、家族、友人、同僚ら周辺の人間すべてにとって、取り返しのつかない悲しい結末だと思います。先生はどう考えていますか。

【鹿目医師】「自死」という判断・決断は「自分自身の」あるいは「自分らしい」判断ではない可能性が高いです。自死はうつ状態による判断・決断なので、「いつもの自分」「元気な時の自分」がする判断ではないということです。

——つまり、本人の決断ではなく「うつという病」がそうさせているということですか。

【鹿目医師】そうです。うつ状態になると通常であれば感じていた「楽しい」「嬉しい」「面白い」という感情がなくなってしまうことが多く、その部分を覆い尽くすかのように悲観的・ネガティブな思考に囚われがちになります。

そうなると、思考もうまく働かず、元気な時の自分であればしない考えをして、自分らしい判断をすることができなくなってしまうのです。いわゆる「視野狭窄」状態に陥っているということです。「うつ」が結果的にくだす判断は、正常な思考のもと、考えに考え抜いて、体の痛みや辛さという、止むに止まれぬ事情があった上で考える「尊厳死」などの概念とは全く違うものなのです。

■生活保護に申請も「これまで何をしてきたのですか?」と返され自殺

——「うつ病」は「心の風邪」ともいわれ誰がかかってもおかしくないと言われています。

【鹿目医師】そうですね。一般にうつ病は女性の15~25%、男性の10%がり患すると言われています。うつ病は自分でも気が付かないうちにり患している可能性がある病です。

このように、うつ病は誰でもがかかる可能性がある、同時に自殺率(15%)が高い疾患でもあります。思い悩んでいる、気分が塞ぎ込みがち……という状況であれば、躊躇なく医療機関を頼ってください。

——早期に治療したほうが効果的ということでしょうか。

【鹿目医師】はい、早期に医療機関に相談したほうがよりよいです。うつ病は治療可能な病気です。十分に治る可能性があるものなのです。実際、治る可能性が高い病なのですから「治療して、また元気になりましょうよ!」って強く訴えたいですね。

——私が取材したコロナ禍でのケースでは、このような事例がありました。

(1)50代前半 男性 職業=非正規社員

雇用解雇を受け、役所へ生活保護の申請に行くも「これまで何をしてきたのですか?」という質問を受ける。これを「自業自得」「人生への計画性のなさ」を指摘されたと思い込み、「自分は助けを呼ぶことすら許されない人間である」と人生を悲観しての自殺企図となった。

■上司に「辞めてくれ」と言われ、鬱に。失業保険金もらう前に自殺

(2)30代後半 女性 職業=正規社員
鹿目将至「1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ」(双葉社/鳥居りんこ 取材・文)はベストセラーになっている。
鹿目将至「1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ」(双葉社/鳥居りんこ 取材・文)。

コロナ禍で勤務先の経営状況が悪化。上司から「申し訳ないが、辞めてくれないか」と言われ、自己都合での退職を受け入れる。その後、うつ病を発症。失業手当を申請したが、手続きがスムーズにいかず、その間、貯金を切り崩す生活。貯金が減るに従い、次第に精神的に追い詰められ、失業保険金が振り込まれる直前での自殺企図となった。

——先生はコロナ禍での自殺の理由は何が多いと感じていますか。

【鹿目医師】もちろん様々な要因が複雑に絡み合ってはいるのですが、挙げていただいた事例は顕著なものです。直接の原因として最も多いのが、コロナ禍における経済的問題が患者さんの精神面に影響したものだと考えます。

コロナ前と違うことは、元来、精神的に比較的に強かった人(精神科とは無縁だった人)であっても、自殺問題を抱えてしまうほど状況は切迫していると言えます。

——先ほど、うつ状態の時は「視野狭窄」になっていると説明いただきました。コロナ禍において「視野狭窄」が「追い詰められ感」を増大させてしまう理由は何でしょうか。

【鹿目医師】大きく3つ理由が考えられます。まず、コロナ問題のネガティブな話題が連日、長期にわたって報道され続けていることで、潜在的な恐怖や不安を感じてしまうこと。2つめは、自分の周りでも、り患した人が出たり、その当人に対する心ない言葉を耳にしたりして、自分や家族の身に迫る危機感が増長すること。3つめは、失業や廃業、減収による経済的ダメージが深刻であるという背景があります。それで、結果として、社会全体の空気に引きずられやすくなり、たとえ軽微な問題であったとしても深刻に考えやすくなっているのだと思われます。

■「うつ病は治療可能な、十分に治る可能性がある病です」

——誰もが「もうダメだ」「もう逃げられない」などと追い詰められる精神状態に陥りやすくなっているということですね。やはり、「もうダメだ」という思考になりかかったら、医療機関に受診という方法がベストでしょうか。医療に頼っても、自殺願望を持つ人を救うのは限界があるのではないか、とも思いますが……。

【鹿目医師】確かに、医療を頼る人の中でも自殺者が多いのは事実です。しかし、医療に頼る前に自殺される人はもっと多いのです。医療を頼っても、完全に防ぐことは到底叶いませんが、かといって医療は無力ではありません。

繰り返しますが、うつ病は治療可能な、十分に治る可能性がある病です。

また、同時に知って頂きたいことがあります。精神科や心療内科には医師や看護師の他、精神保健福祉士や心理士など、経済的問題に専門的な知識を持つ人や、話を聴くスペシャリストが多くいます。病気に関する様々な制度などもアドバイスしてもらえますので、是非、相談して頂きたい。

医療につながりさえすれば、そこからは経済的にも心理的にも、様々な側面から助けになるサポーターたちがチームとなって、あなたの力になるはずです。

もし、自死が頭のどこかによぎっているならば、なおの事、そのチームにあなたを支えさせて欲しい。そのためにも、医療機関を受診することをためらわないでとお願いしたいです。どうか、自ら死を選ぶなどという悲しい選択をしないでください。自殺はしても、させてもいけないのです。

——そうですよね……「生きてさえいれば、なんとかなる」ということを信じたいです。

後編(2月2日公開予定)では、「大切な人を失いたくない」という私たちに何ができるのかを教えて頂きます。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。

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(作家 鳥居 りんこ)

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