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孤独と絶望…あなたの隣にいる「コロナ自殺」願望者を思いとどまらせる3つの声かけ

プレジデントオンライン / 2021年2月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

コロナ禍の2020年の自殺者数は前年比750人増で2万919人だった。もし、家族や大切な人の中に自殺願望を持つ人がいたらどうしたらいいのか。作家の鳥居りんこ氏が松崎病院 豊橋こころのケアセンター(愛知県豊橋市)の精神科医・鹿目将至(かのめまさゆき)氏に聞いた——(後編/全2回)。

■コロナ鬱に人は些細なことが「自殺のトリガー」になる

前編では「コロナ鬱」に詳しい精神科医・鹿目将至(かのめまさゆき)氏に、コロナ禍で増加した自殺者数の背景について聞いた。後編では、引き続き鹿目氏に「自分自身や大切な家族を守るうえで、今、私たちにできること」を教えてもらう。

——以前、先生に取材した記事、「激増中『コロナ鬱』を避けるための5つの予防法・精神科患者の9割以上がコロナ案件」は大きな反響を呼びました。

その中で「コロナ欝対策」として、先生は

(1)自分の症状を冷静に見つめ「これはコロナのせい」と自覚する
(2)ニュースの追っかけをやめる
(3)規則正しい生活をして、できるだけ体を動かす
(4)明るい未来を予測する
(5)感謝の気持ちをもつ

ということを提唱されました。WITHコロナが長く続いていますが、今もこの対策に変わりはありませんか。

【鹿目医師】基本的には同じです。ただ、うつ状態に陥っている人には、もう少し別のアクセスも必要になってくるでしょう。うつ状態の患者さんの主な症状は「気持ちの落ち込み」なのですが、「コロナうつ」はそれに加えて「不安と焦り」という特徴があります。今後の見通しが立たないことから、不安や焦りが強くなり、些細なことでもトリガー(=きっかけ)となって自殺願望が出てしまいやすくなるのです。こうなると、ひとりの力で立ち直るのはなかなか困難になります。

■「孤独と絶望」の中……自殺の5つの前兆

——自殺願望ですか……。大切な人がそんな悲しい思いを抱いているとしたら、家族としてはたまらない気持ちになります。やっぱり考え直してほしいですよね。自死を考えている人の言動なり行動に特徴のようなものはあるのでしょうか。

【鹿目医師】自殺リスクを評価する上で、そのリスクが非常に高いとされるのが「孤独と著しい絶望感」です。その中で、自殺の予知徴候として、次のようなものが知られています。

①過去に自殺企図歴がある
②本人が「死にたい」と述べ、自殺念慮があることを認めている
③過去の自殺企図の手段が縊首(いしゅ)、飛び降りなど成功率が高い手段である
④最近、家族や友人などで自殺既遂した例が身近にある
⑤今、実際に成功率が高い手段で自殺を考えている

■家族や大切な人の「SOS」をキャッチしたらするべき3つの声かけ

——前編で、消えない気分の落ち込みや猛烈な孤独を感じている人は医療機関に頼るように進言されていましたが、そこで医師はどういう診断をするのでしょうか。

【鹿目医師】精神科医は、患者さんがどれほど切迫した希死念慮なのか、どれほど緊急性があるのかなどを自殺リスクの高い/低いで考えます。医療者は患者さん本人のSOSに気付いた場合、死なないことを約束してもらうのですが、約束できそうもない場合には入院などの治療を検討します。しかし、患者さん本人の心に一番響くのは、患者さん自身が大切に思っている人、例えば家族のような人からの声かけなんです。

——身近な信頼している人からの声かけが大切ということですね。具体的には、どういう言葉かけですか。

【鹿目医師】家族や大切な人のSOSを感じたら、以下の3つのことをやってみてください。

1 自殺について、真剣に話そう
鹿目将至「1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ」(双葉社/鳥居りんこ 取材・文)
鹿目将至「1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ」(双葉社/鳥居りんこ 取材・文)

自殺を考えている人に対して、家族が「(自殺を話題にすることで本人を刺激し)本当に自殺してしまったら大変だから、話をするのを避けよう」と考えるのは誤りです。その人に対し、その話題と真剣に向き合うことは、自殺を促すことにはなりません。それどころか、思い留まらせる効果があることが分かっているのです。したがって、見て見ぬふりをするのではなく、あるいは「本人のため」と思って黙っているのでもなく、積極的かつ真剣に本人と向き合うことが重要です。ここで、個人間だけの問題で終わらせずに、医療機関への受診に確実につなげることがポイントになります。

2 話すときは「TALK」の原則を用いる

精神科医や精神科看護師が用いる方法に「TALK」の原則と呼ばれるものがあります。

実際の現場では、自殺を図り、救命センターなどに搬送された患者さんと向き合う際などに用いられますが、一般の人であっても十分に活用できるものです。

T(Tell)誠実な態度で真剣に話しかける……「あなたのことを心配しているよ」
「何かあった?」

A(Ask)自殺について、はっきりと尋ねる……「死にたいと思うことはある?」
「どんな時に死にたいと思うの?」

L(Listen)相手の訴えに耳を傾ける……「死にたいくらいつらいんだね」
「あなたの話を聞かせて欲しい」

K(Keep safe)安全を確保する……「一緒にいようね」
「1人じゃないよ」

3 「私はあなたに死んでほしくない」と言葉で伝える

コミュニケーションを取る時には「Iメッセージ」で伝えたほうがいいという説があります。

「アイ・メッセージ」とは、発信する人の「私(I)」が主語になるように伝えること。反対に「YOUメッセージ」とは、「あなた(YOU)」が主語になって発せられるメッセージを指します。一般的に「YOUメッセージ」では、意図はしていないにしても「あなたはこうあるべき」という断定的な響きや「あなたはこうなんでしょ?」という話者の勝手な思い込みや評価が含まれがちです。

それよりも、「私はあなたが生きているだけで嬉しい」「あなたがいると(私は)楽しい」という言い方で、「あなたは私にとって大事な人である」ことを素直に伝えたほうが、相手が受け取りやすくなるのです。

■「私にとって、あなたは大切な人だ」ということを伝えるのが大事

——なるほど、こちらがまず素直に心を開いて、誠実に向き合うということが大切なんですね。でも、もし、大切な人がものすごく悩んでいたとしても、こちらがうまくキャッチできないケースもありそうです。

愛知県豊橋市松崎病院の精神科医・鹿目将至さん
愛知県豊橋市松崎病院の精神科医・鹿目将至さん

【鹿目医師】もちろん、注意深く本人のSOSを見ていても、医師ですら見抜けない場合が多い病ではあります。防ぎたくとも、結果として、防げないことも多いのも事実です。

しかし、だからこそ、日常的に大切な人に「私にとって、あなたは大切な人だ」ということを伝えるのが大事なのです。「言わなくても伝わっている」ということは通用しないのです。是非、身近な人と支え合うということを意識してみてください。

——今回、前後編にわたって、先生には「コロナ禍で生きるために」という知恵を授けて頂きました。家族や身近な人の声かけで救われる命があるということ、自分自身や親しい人の異変を感じたら、迷わず医療機関に受診してみること、さらに精神科の病院や比較的大きめのメンタルクリニックには精神保健福祉士という職種の人が在籍しているので、病気に関する経済的な問題についても気軽に相談できることなども教えてもらいました。

最後に、緊急事態宣言が続く中、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

【鹿目医師】ご存知のとおり、今を生きる私たちは、このコロナ禍で多くの物理的、心理的負担を強いられています。それに伴い、自殺の潜在リスクは過去にないほど高まっていると言えます。重ねて申し上げますが、うつは治療可能な病です。今、悩んでおられる方には、身近な人、行政、医療機関など、誰かとつながるという選択肢を諦めないでいただきたいです。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。

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(作家 鳥居 りんこ)

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