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佐藤優「攻撃的な人に怒鳴られたら『はい、わかりました』が唯一の正解だ」

プレジデントオンライン / 2021年2月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

仕事で攻撃的な人に出会ったら、どうすればいいのか。作家の佐藤優氏は「私は基本的には『はい、わかりました』と答える。決して言い返してはいけない」という――。

※本稿は、佐藤優『見抜く力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「攻撃的な人」には2つのタイプがある

危機の時代を生き抜くためにも、まず大切なのが、人を見抜く力です。

嫌いな相手や苦手な相手とも、付き合わざるを得ないのがビジネスです。中でも面倒なのは、攻撃的な態度を取ってくる人です。すぐ怒鳴ったり威圧的になる人を前にすると、つい臆したり気圧(けお)されてしまうものです。

攻撃的な人には、2つのタイプがあります。ひとつは、瞬間湯沸かし器型の人。もうひとつが、戦略的な観点に立っている人です。

前者は自身の脳内分泌に問題を抱えている人ですから、気にすることはありません。怒りの分泌物が出やすい人だ、という予見を持って付き合えばいいのです。怒鳴るにとどまらず、物理力を行使してくる場合もあります。机を叩く、灰皿を投げる、手が出てくる、まで幅はありますが、暴力性が発揮されたときは、演技ではないと知るべきです。

書店に並んでいるアンガーマネジメントの本は、脳内分泌の問題がある人に向けて行動療法などを説いたものです。こういう情緒不安定なだけの人は、ビジネスの現場からは淘汰(とうた)されていくものです。

■「戦略的に怒鳴る人」に言い返してはいけない

問題は、戦略的に怒鳴る人。あるいは優位を保とうとして攻撃的な議論を進めてくる、後者のタイプへの対処です。怒鳴れば喉が痛いし、威圧的になれば嫌われるものです。それでもこうした態度を取ってくるのは、それ相応の利益を得られるからです。

怒鳴るという行為は、意思決定におけるショートカットのひとつです。ただし何の力も持たない人が怒鳴ったところで、誰も言うことなど聞きません。普通に議論したら負けるとき、言い分を押し付けられるだけの力が自分の側にあると自覚する人が、議論を省くために用いる手段なのです。

私自身は威圧的な人に対するとき、基本的に「はい、わかりました」と相手の言う通りにします。仕事上必要なら、土下座でもなんでもします。「うるせーな、頭悪そうだな」と思うだけで、感情的になることもありません。

相手が意図して攻撃的になる状況では、力関係においてこちらが劣位なのです。感情的であれ冷静であれ、相手の非論理に対して論理的に応じるのは、カテゴリー違い。言い返すなど、もってのほかです。敵は百も承知の上で攻めてきている、と見なければいけません。

■「毎朝8時半に出勤」も「在宅勤務の強要」もパワハラだ

そもそも力とは、相手の意思に反して自分の意思を押し付けることです。それは一種のハラスメントであり、権力の本質を突き詰めればパワハラだと言えます。

払いたくない税金を払うのは、国家が暴力(バイオレンス)によって支えられているからです。昔は徴兵制があって、軍隊に行けば殴られるし死ぬかもしれない。誰も行きたくないのに、行かざるを得ませんでした。

会社の指揮命令系統や仕事も、すべてパワハラの塊です。たとえば、毎朝8時半に出社する決まりがパワハラです。会社という権力を背景にした就業規則という暴力装置があるため、一方的に決められた時刻に行かなければいけません。本当は、仕事に支障がなければ何時でもいいし、コロナがあろうとなかろうと在宅で構わないはずです。

逆に言えば、コロナで在宅勤務を強要されるのも同じです。「家にいると子どもがうるさいし、会社のほうが仕事がはかどるんです」と申し出ても、「来るな」と命じられてしまう。自己の意思に反してということをポイントに置くならば、濃い薄いの違いはあれど、誰もがパワハラ環境の中に組み込まれています。

そんな社会や組織で生きている以上、従わざるを得ません。会社を辞めてフリーランスになれば抜け出せるかというと、そうはいきません。今度は、契約自由の原則を盾にした金のパワーに縛られます。私のような作家業だと、誰を使うかは出版社の自由です。契約しないという形で作家を日干しにできる力を、組織は持っているのです。

雨の朝に歩行者通路を歩く通勤者の群衆
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

■マウンティング人間には「マフィアのビジネス」で対処する

事あるたびにマウンティングを取ろうとしてくる人も、こちらより優位に立つことによって、自分の利益が拡大することを狙っています。この人たちは、同僚や自分より下の相手に対してはしきりにマウンティングを取ろうと努めますが、自分の人事権を握っている上司など、立場が上の人間に対してはそうしません。

マウンティングは承認欲求の一種で、出世願望の変形です。出世できないことがわかっているから、同じ立場の中では自分が一番すごいと思われたり、褒められたいのです。

力を背景に攻撃的な態度に出る人と接するときは、まず相手の利害関心や、目指している利益は何なのかを見抜くように努めます。こちらは絶対に感情的にならず、冷徹であることが大事です。

ごり押しをするために怒鳴ったり攻撃的になる人を前にすると、誰でも面倒に感じて引いていくものです。この人たちは、その場はとりあえず思い通りにできても、もう付き合いたくないと思われるので、次がありません。

一度限りの付き合いで終わる相手とは、利害関係の分配を早く済ませておくことが肝心です。その究極は、マフィアのビジネスです。常に現金処理で、貸し借りをあとに残さないのが、あの人たちの流儀です。

応用問題に触れるとすれば、こちらがあえて攻撃的になり、怒鳴ったり威圧する演技をすることも考えられます。ただし、あまりお勧めはしません。そういう演技をしているうちに脳内分泌が活発になり、自分が瞬間湯沸かし器型になってしまう恐れがあるからです。

■社長が会社の人事に触ってはいけない理由

ストレートに怒りをぶつけてくるよりも厄介なのが、嫉妬心を抱くタイプの人です。嫉妬心も承認欲求の変形ですから、誰の中にも必ずあります。仕事の面では、それが権力闘争と結びつくから面倒なのです。加えて、嫉妬される側には防御策がありません。

イレギュラーの抜擢(ばってき)人事を受けた人は、自分の能力が正当に評価されたから登用された、としか思わないものです。ところが傍目で見ている人は、アイツが登用されたのは能力があるからだとは考えず、自分が優遇されないのを不当な扱いだと感じます。他人に嫉妬する人は、自分が嫉妬していると認識しないのです。

組織で1人を登用すれば、5人の敵ができると見るべきです。代わりに出世から外されたと思う人は、死ぬほど恨むからです。つまり人事担当者は、10人の登用人事を行なえば50人が自分の敵になります。ですから社長のポジションに長くいようと思うなら、人事には触らないことです。恨みを買わないため、人事部長に任せておいたほうがいいのです。人事部長は恨まれても、2年から3年で交代するからです。

組織において、優秀なのに嫉妬されないというポジション取りは難しいものです。嫉妬を防ぐことはできませんが、買わないような努力はできます。大切なのは口です。言葉遣いにだけ注意しておけば、ある程度の摩擦は避けられます。

■「嫉妬する人」への切り返しは韓流ドラマから学ぶ

第一に、刺激せず、乱暴な言葉遣いをせず、聞き上手になることです。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に出てくる三男アリョーシャは、聖人のように描かれますが、同書の翻訳も手掛けたロシア文学者の亀山郁夫さんは、アリョーシャは相手の言葉を繰り返しているだけだと指摘しています。

佐藤優『見抜く力 びびらない、騙されない。』(プレジデント社)
佐藤優『見抜く力 びびらない、騙されない。』(プレジデント社)

会話というのは、実は相槌(あいづち)さえ打っていれば成り立ちます。自分から積極的な話をせず、相手の言っていることを「〜ですね」「〜ですか」とオウム返しにしていると、会話は流れていくのです。すると相手は、自分の話を聞いてもらえたと満足します。質問力の神髄はオウム返しです。嫉妬を買わない人は、だいたいオウム返しが上手です。

嫌な状況を切り返すための話術は、論点回避です。これはディベート術であまり教えられないのですが、実際は非常に役に立ちます。テレビドラマ『黒革の手帖』(2017年版)で、武井咲さん演じる主人公の元子が、ある女性の写真を見せられて「どう思う?」と尋ねられ、「素敵なお召し物ですこと」と答える場面があります。容姿や性格がよさそうに見えなかったため、論点をすり替えたのです。

話題をうまく転換して会話が途切れないようにしながら、問題の本質に触れない。この場面は松本清張の原作にはないので、見事な脚本でした。とっさの切り返しは、場数を踏まなければできるものではありません。そこで本や映画やドラマで、こうした代理経験を積むことがいい訓練になります。大流行した『愛の不時着』や『梨泰院クラス』などの韓流ドラマには、激しく喧嘩(けんか)しているように見えて相手の懐に飛び込んでいくなど、やりとりから学べることが多いと言えます。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大矢壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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