佐藤優「絶対に大丈夫という人ほど、絶対に信用してはいけない」
プレジデントオンライン / 2021年2月10日 9時15分
※本稿は、佐藤優『見抜く力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■私たちは「相手の本音」を見ないようにしている
なぜ相手の本音が見抜けないのでしょうか。それは、我々の目に曇りがあるからです。ひとつには、本音を知るのが怖い。相手が本当は自分をどう見ているか、知らないほうが気楽だという気持ちです。
ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンは『信頼』という著書で、これを「複雑性の削減システム」だと言っています。たとえば信号が青で道を渡るとき、車が突っ込んで来ない保障はありません。歩いていたら空から隕石が落ちてきて、頭に当たるかもしれません。可能性はごくわずかですが、一定の確率で存在する危険です。
そうした危険はないという前提の下、我々は暮らしているわけです。見知らぬ誰かに襲われるかもしれないと考えたら、武装しなければ外を歩けないことになってしまいます。
それと同じで、会社でも取引先でも人間関係への信頼は、ときに少し裏切られても見ないふりができます。なぜかというと、自分を騙(だま)すような人を信頼してきた自分が惨めになるからなのです。
■ヘッドハンターの誘いにホイホイ乗ってはいけない
また、怒りや嫉妬も人の目を曇らせます。聖書の言葉に「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」(「マタイによる福音書」5章44節)という言葉がありますが、これは敵を作るなとか、どんな相手でも愛せというような博愛主義を説いているのではありません。敵というのは誰しも憎いものです。でも、他人を憎めば相手に対する認識が歪(ゆが)んで、正確な判断ができなくなり、自分が損をします。だから、敵を愛するくらいの感覚を持ちなさいと言っているのです。
学生時代までの友達は、利害関係のない付き合いでした。社会人が仕事で知り合って利益のない友達になっているとしたら、どこか付き合い方がおかしい。きつい言い方をすれば、真面目に仕事をやっていないということです。ゴルフ仲間でも飲み仲間でも、どこかに必ず仕事上の利益が付きまとうはずだからです。
ヘッドハンターから声がかかって、他社への転職を勧められたとしましょう。自分は高く評価されたと思って、ホイホイ乗ってはいけません。ヘッドハンターは、この転職を成功させなければ、報酬が出ないはずです。人を動かすことが目的なら、自分のことを親身に思って転職を勧めるはずがないし、次の会社の悪い情報をくれるはずもない。そう考えれば、騙されずにすみます。
こうした基本がわかっていれば、相手の本音は利害関係に基づいているとわかるでしょう。利害関係があると友人になれない、という意味ではありません。ビジネスで付き合う相手とは、お互いの利害によって関係が成り立っていることを忘れてはいけないのです。したがって相手の本音を見抜くとは、相手の利害がどこにあるかを突き止めることにあります。
■2020年の夏は、サングラスをする人が少なかった
信用できる相手かどうか、見た目や口癖からもある程度見分けることができます。
これからますます重要になるのが「目」です。2020(令和2)年の夏は、街でサングラスをしている人をあまり見かけませんでした。新型コロナウイルスのせいです。マスクの上にサングラスをかけていたら表情がまったくわかりませんから、不審に思われ、用心されるからだと思います。表情を読ませまいとしている人だと、警戒されます。そのため真夏の日差しが眩しくても、サングラスの着用をためらう人が多かったのだと思います。
コロナは、対面コミュニケーションの形を変えました。今後は、相手の目を読み取る力が重要になります。以前は表情から感情や意思を読み取っていましたが、誰もがマスクをしているせいで、読みにくくなったためです。視線を逸らしたり、おどおど動かしたりするのは怪しいし、逆に極端に見つめてくるのもおかしい。相手のちょっとしたまなざしに何か変だなと感じたときは、立ち止まって考えることです。
■「服はユニクロ、時計はロレックス」の人には要注意
相手も同じように、こちらの目を見ています。疑念や不信感を抱いていたり尊敬できないと感じると、無意識に目に出るからです。頰や口元のコントロールはたやすくできますが、目はごまかせません。嫌な人間だなと思ってもニコニコ笑っていることはできますが、目が笑っていないと、心中を見抜かれます。感情や意思をそのまま目に出さないように、鏡に向かって訓練する必要があります。「目を読む力」と同時に、「目で発信する力」も問われるのです。
服装や持ち物で人を見るポイントは、バランスです。どことなくアンバランスな人は怖い。たとえば、ユニクロのトレーナーを着ているけれども時計はロレックスとか、ブランドもののスーツを着こなしてるのに、名刺が財布から出てくるとか。
時計だけに、異常なこだわりがあるのか。専用の名刺入れを買わないのは、会社でそうしたマナーの教育を受けていないのか。あるいは、新人の頃に教えられたことを聞かなかったのか。見た目がアンバランスな人は、アンバランスな考え方の持ち主であることが多いものです。
■「絶対」「一般論として」「あまり」が口癖の人は危ない
口癖で言えば、「絶対」が多い人は危ない。話に自信と裏付けがない証拠です。「そんなことは、120%ありません」と断言するのも怪しい。通常の百分率でないのなら、分母が不明だからです。
また、日常的に本心を隠そうとしたり、暗に警告を発するような言い方をする人にも注意が必要です。たとえば、人にあてこするときの常套句で、「一般論として」があります。「一般論として言うけれども、顧客と会うときは上司に一言言っといたほうがいいんじゃないかな」というセリフは、一般論ではなく、あなたの具体的な仕事に対する文句です。
「あまり」にも、気を付けたほうがいいです。何か不手際が起きた際に、「私は気にしていません」と言われるのと、「私はあまり気にしていません」と言われるのでは、意味がまったく違います。前者は「気にしていない」けれど、後者は少し「気にしている」わけです。このような言い方をする場合、かなり気にしていることが多い。
「あまり」や「どちらかと言えば」といった、ものごとを和らげるニュアンスの言葉は、デジタル思考を用いて事柄の本質をイエスかノーかに還元したほうがいいでしょう。「いまのところ」「とりあえず」など、留保条件がつく言葉をよく発する場合も要注意です。
■「調子はどう?」→「普通」と答える人は、何も答えていない
比較級やスライド話法も危険です。「Aさんはいい人。Bさんはとてもいい人」というとき、Aさんはよくない人という意味の場合があります。以前のお寿司屋さんは、上、中、並の3つのランクがあったのに、最近は並を嫌うせいで特上、上、中になり、並のランクがないお店が増えてきたようなものです。
「調子はどう?」と訊かれて、「良い」「悪い」ではなく「普通」と答える人は、何も答えていないのと同じ。「普通」とはどういう状態なのか相手にはわからないので、本心を隠そうとしているわけです。
このように、相手の言動や見た目をよく観察していれば信用できるかどうか、だいたいは見抜けます。ところが息を吸ったり吐いたりするように、平気で噓をつく人間もいます。先天的な才能であり、天性の詐欺師と言える人物ですから、見た目にはわかりません。ただしカリスマセールスマンや宗教家には、紙一重の人がいます。
こういう人たちには決して勝てません。私も騙されることがあります。付き合ったら負けですから、痛い目に遭ったと気づいたら、早く逃げることです。
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作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大矢壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)
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