電車で騒ぐ子供を「静かにしなさい」と叱ってもうまくいかない根本原因
プレジデントオンライン / 2021年2月7日 11時15分
※本稿は、おおたとしまさ・監修、STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ・編集『究極の子育て 自己肯定感×非認知能力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「キレたら一発退場」のSNS時代
17歳前後の少年が相次いで凶行を起こしたことで、「キレる17歳」という言葉がメディアを賑わせたのは、2000年頃のこと。それから約20年が過ぎましたが、その間にも、いわゆる「キレる」子どもたちが引き起こす学級崩壊等の問題は報じられ続けています。
また、スマートフォンやSNSの普及によって、事件になるような出来事に限らず、ちょっとした言動までが、全世界に発信され残り続けるようになっています。キレて見境のない行動を取っていては、取り返しのつかないことになってしまう危険性もあるのです。
そうした意味でも、親たちは子どもを、自分自身の怒りをコントロールできる「キレにくい」人間に育てなければならないといえます。
■「キレる」人間には3つのタイプがある
一般的に「キレる」というと、興奮して怒っている状態をイメージするでしょう。でもそれだけではなく、「キレる」人間には大きくわけて3つのタイプがあります。
ひとつは、すぐに興奮する怒りっぽいタイプ。わたしは「赤鬼」タイプと呼んでいます。アドレナリンが出やすく、いろいろな刺激に対してすぐに興奮してカッとなるタイプですね。
このタイプは、八つ当たりをしやすく周囲に自分の感情をまき散らします。大人でも、パワハラをするような人はこのタイプに属します。
その逆にあたるのが「青鬼」タイプ。強い不安を抱えていて、ひきこもる傾向にあります。
自分が安心できる場所にいたり活動をしたりしているときは安定していますが、そこに他者が侵入してきてやりたいことを止められたり、無理やり外に出されそうになったりすると、激しい攻撃をすることもあります。
さらに「凍りつき」というタイプもあります。これは、虐待やいじめ、それから支配的な家庭に育った子どもに多いタイプですね。
子どもは3歳くらいになると、「こういうことをやりたい」といった自我が出てきます。でも、自我を出したときに親に否定されると、子どもは「いい子でいないといけない」と思うようになります。ただ、自我に逆らって「いい子」でい続けるのは大変です。
小学校ではずっと「いい子」だった子どもが、中学生になるといきなり不登校になっちゃった――。「いい子」でいることに疲れてしまうと、こういうことが起きるのです。
■第1段階は生後3カ月で決まる
そういった点も含めて、「キレやすい子ども」になってしまうかどうかは、親のかかわり方にかかっているといっていいでしょう。
じつは、安定した子どもになるかどうかのまず第1段階は、生まれてから3カ月くらいのあいだに決まってしまいます。
生まれたばかりの赤ちゃんは、まだはっきりとものを見ることができません。音は聞こえてにおいも感じられるけど、その正体はわからない。だから、とっても不安です。体も動かせませんから、赤ちゃんができることは泣くことだけ。
その泣き声を聞いた親が、しっかりと赤ちゃんの不安を察知して、おむつを替えてあげたりミルクをあげたりするなど、赤ちゃんが感じているいろいろな不快を快に変えることで、赤ちゃんは少しずつ安心して穏やかになっていくのです。
その3カ月のあいだに、たとえば未熟児で生まれたりなんらかの病気を持っていたりしたことで親から離される経験をした子どもの場合、分離不安(愛着を持つ人やものと離れることで、持続的に強い不安を感じること)を生じやすくなります。
だから、幼稚園や保育所に行く際にもすごく泣く傾向にある。その原因は、生まれてから3カ月のあいだの親子の接し方にあるのです。
■親が怒鳴るときは子どもの脳も怒鳴っている
そのあとも、子どもがキレやすくなるかどうかは、親のかかわり方が大きく左右します。
3歳くらいになって感情が出そろってくると、子どもは親の感情や行動を真似していくようになります。
自分にとってマイナスになる場面では、嘘をつくとうまくいくことを見ていると同様の行動をする。また、親から怒鳴られている子どもは、人と接するときや人になにかをしてもらいたいときには怒鳴るようになる、という具合です。
だから、親から虐待された子どもは、学校ではいじめっ子になりやすくなるといいます。
このことには、脳内にある「ミラーニューロン」という神経細胞の働きが関連しています。これは、文字通り、「鏡の神経細胞」です。これによってどんなことが起こるのか。
たとえば、父親が母親に暴力を振るっている場面を子どもが見てしまった。すると、子どもの脳のなかでは、ミラーニューロンによって子ども自身が暴力を振るっているときと同じ活動をする。つまり、親が怒鳴っているのを見たら、子どもの脳も怒鳴っているというわけです。
「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、これは脳科学的にも正しいといえます。
■頭ごなしの否定は絶対にNG
子どもをキレやすい人間にしないためには、親は自分の行動を振り返って見直すしかありません。
そのチェックポイントともいうべき行動指針はいくつもありますが、重要なことをいくつかお伝えするならば、まずは「肯定的で具体的な行動を促す声かけ」を意識することではないでしょうか。頭ごなしの否定の言葉はNGです。
「○○しないで」といわれると、子どもはなにをしていいのかわからず不安になってしまいます。電車のなかで静かにしてほしいときなら、「騒がないで」ではなくて「お口を閉じましょうね」「本を読もうか」というといった具合です。
また、さまざまな試行錯誤をさせてあげることも大切です。子どもは3歳くらいになると、いろいろと「実験」をしたがります。お風呂で石けんやシャンプーなどを混ぜて遊んでいるなんてこともあるでしょう。
もちろん、危険が伴うことはやめさせなければいけませんが、ある程度の試行錯誤、実験は許容してあげてほしいのです。
すると、そういった遊びなどを通じて、子どもは「これをやると怒られるんだ」「こういう遊び方は怪我をするんだ」と、実体験に基づいた説得力のあるルールやパターンを学んでいくことになる。
そのなかには、「うまくお友だちと付き合うにはこうすればいいんだ」というふうに、人間関係にかかわることも含まれます。
いずれにせよ、大切なのは子どもに対する親のかかわり方。それを肝に銘じて子どもの目線に立ち、子どもに暴力的な場面を見せていないか、頭ごなしに子どもの欲求を否定していないかと、普段の行動を振り返るようにしてほしいです。
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早稲田大学教育学部教授
中学、高校の教員を経験したあと、教育現場にカウンセリングの必要性を感じて渡米。アメリカにて特別支援教育、危機介入法などを学び、カウンセリング心理学博士号取得。帰国後にスクールカウンセラー、玉川大学人間学科助教授等を経て現職。学校、家庭、地域と連携しながら、児童、生徒を支援する包括的スクールカウンセリングを広めている。2000年代からは、矯正教育の専門家を対象としたアンガーマネジメント研修の講師も務める。著書に『改訂版 包括的スクールカウンセリングの理論と実践』(金子書房)、『脳科学を活かした授業をつくる 子どもが生き生きと学ぶために』(みくに出版)などがある。
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(早稲田大学教育学部教授 本田 恵子)
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