新型コロナのワクチンを打つ前に読んでおきたい必読本3冊
プレジデントオンライン / 2021年2月5日 13時15分
■集団免疫獲得までは時間がかかる
昨年、そして今年と、世の中は新型コロナウイルスが全盛です。テレビや新聞のニュースといえば感染者数の推移と医療機関の過酷な態勢、そして自粛要請ばかりです。一体これがいつまで続くのか、どんな形で解決するのか、だれもが不安に感じているに違いありません。
1月下旬、新宿の書店に出かけてみると「コロナ本コーナー」には50冊も並んでいました。ワクチンについて考える際に参考になりそうな本は結構ありましたが、私がお勧めするのは次の3冊です。
『新型コロナウイルスを制圧する』
河岡義裕著、河合香織・聞き手
文藝春秋/1200円+税
20年7月刊
獣医学者の河岡さんは東京大学医科学研究所国際研究センター長で、米ウイスコンシン大学教授も兼務、日米で実際に新型コロナワクチンの開発研究もされています。この本はノンフィクション作家の河合さんが河岡さんにいろいろと聞き、3章にまとめました。
第1章・新型コロナウイルス研究最前線、はワクチンと治療薬がテーマです。欧米で臨床使用が始まっているワクチンはコロナウイルスの突起を作る遺伝子ワクチンで、人間の細胞に入ると細胞は突起への抗体を作り、ウイルス感染を防ぎます。心配なのは少数にとはいえ起こる副反応です。ワクチン接種後に感染すると重症化するADE(抗体依存性感染増強)は危険です。流行を乗り切るには治療薬かワクチンしかないわけですが、ワクチンは病気を起こさないことが条件で、慎重であるべきと河岡さんは強調します。
コロナはいつ収束するのでしょうか。河岡さんは時期を明示していませんが、抗ウイルス薬も出て、断続的な流行が2、3年ほど続き、その間に有効なワクチンが開発されるものの集団免疫獲得までは時間がかかりそうとの予測です。
第2章・ウイルスとともに生きる、は関連の話題です。米国のトランプ・前大統領は中国・武漢のウイルス研究所が新型コロナウイルスを作ったと攻撃しました。もともとコウモリにいたウイルスが人間に感染、強毒化したものですが、人工的に変異させると多くは弱毒化することから、河岡さんは当初から否定的でした。私が驚いたのは流行の初期に、その河岡さんがウイルスを作った張本人だとネットに書き込まれ、脅迫や嫌がらせメールがいくつも届いたと書かれていたことです。いやあそんな事件、初めて知りました。
■一番重要なのは栄養と睡眠をしっかりとること
『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』
峰宗太郎・山中浩之著
日経プレミアシリーズ/850円+税
20年12月刊
峰医師は国立感染症研究所などを経て2018年から在米研究機関に勤務する39歳の病理医で、ワクチンに一番近いウイルス免疫学の専門家です。
また、山中さんは日経ビジネスの編集記者で、新型コロナや原因ウイルスの幅広い知識を聞き出し、日頃の疑問をぶつけ、意見も述べたりして、会話形式でまとめています。新型コロナ時代にふさわしく、インタビューは対面でなく、双方が米国と日本の自宅にいてネットを通じて行われました。
峰さんは新型コロナなど呼吸器感染症の予防法リストを示しています。一番重要なのが「栄養と睡眠をしっかりとる」こと。以下「手指衛生の徹底」「咳エチケット」「3密を避ける」「マスクの着用」などです。日本の専門家対策会議が出した「3密」(密閉・密集・密接)は、密閉空間に長時間滞留する飛沫を避けることに相当するとして、峰さんは高く評価しています。世界保健機関(WHO)が同様の「3C」を打ち出すなど各国が追随しているそうです。
■「有効率9割」が示すこと
生、不活化、成分の「3兄弟」だったワクチンは、技術の進歩で人間にウイルス成分を作らせる「核酸ワクチン」(遺伝子ワクチン)が登場してきました。新型コロナで初めて実用化されます。有効との試験結果に期待は高いとしながらも、やはり問題はADEや副反応。日本は先進国では最もワクチン不信感の強い国ですから、峰さんは、副反応で死者が出た場合などの反応を心配しています。
「ワクチンの有効率が9割」の報道は、ウイルスに接しても接種者の9割が感染しないとの意味ではないことを峰さんは繰り返し説明します。自然に生活して非接種者集団の感染者が10人の時に接種者集団が1人、ですよと。
PCR検査も誤解が多いと指摘します。陽性者を正しく判定できるのは70%で、30%が陰性になります。逆に陰性者の1%が陽性と判定され、間違って隔離されることになります。PCR検査は疑わしい患者の確定診断に有用ですが、感染者を見つけるスクーリーニング検査には不適だとの説明は説得力があります。
世の中には間違いや独自論、きめつけ、不確実な情報があふれています。偉い人や専門家の言やメディアが正しいとはいえません。公的情報も含めた複数の情報を比較検討し、咀嚼し、行動すべしというのが峰さんのまとめのようです。
■PCR検査が拡大しなかった理由
『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』
上昌弘著、倉重篤郎構成
毎日新聞出版/1200円+税
20年11月刊
上(かみ)医師は国立がん研究センター、東京大学医科学研究所などを経て2016年からNPO法人医療ガバナンス研究所理事長として、医療問題研究の傍ら臨床医も続けています。現場からの行政批判でも著名。倉重さんは毎日新聞客員編集委員です。
第1章「日本1人負け」の深層、では日本の感染者や死者は少なかったと安倍晋三・前首相は「日本型モデル」と自慢しましたが、上さんは逆で「日本の1人負け」と論評しました。
例えば2020年4~6月のGDP(国内総生産)は、日本は米国の-9.5%に近い-7.9%。中国+3.2%、韓国-3.3%など東アジアでは最低です。また人口10万人当たりの死亡率0.77人はたしかに欧米諸国より低いですが、韓国0.55人、中国0.33人より悪いのです。
上さんはバブル崩壊後の金融不安同様、貧弱なPCR検査が国民のコロナ不安を招き、経済の落ち込みにつながったと見ています。
第2章・PCR不拡大の闇、はこの本の中心です。安倍・前首相は何度も「PCR検査を増やせ」と言ったのに厚生労働省の関係部局は応じませんでした。「首相の指示に従わないのだから、まして国民の意向など」と上さん。以下のような実態を指摘しています。
政府の専門家会議の尾身茂・副座長の「設備や人員の制約のため全ての人にはPCR検査はできない」との発言は、検査を拡大しようとの発想がないことがわかります。厚労省医系技官や国立感染症研究所(感染研)などのムラ社会が権益を守っています。検査が増えると保健所の処理能力を超え、民間検査会社を加えれば、データと予算の独占が失われます。専門家会議委員12人のうち8人は感染研など4施設の関係者で構成され、コロナ研究費の9割がこの4施設に、公募感染症研究費の4割が感染研に出ています。
■コロナとのつきあいは数年に及ぶ
第4章・コロナウイルスの謎を解く、で上さんはワクチンへの過剰な期待を戒めています。ワクチンで重症者を減らせるかどうか、コロナ感染で重症化しやすい高齢者や持病を持つ人にも免疫ができるのか、自然に再感染した人もあり、効果が限定的となる可能性もありそうです。コロナとのつきあいは数年かかる、と見ています。
ワクチンに対する記述があまりないものの、新型コロナについての解説が分かりやすいと思ったのは、岡田晴恵・白鴎大学教授の『どうする!? 新型コロナ』(岩波書店、520円+税、20年5月)でした。また、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の不備を指摘し話題になった岩田健太郎・神戸大学教授の『丁寧に考える新型コロナ』(光文社、960円+税、20年10月)は豊富な内容に敬服しました。
まもなく始まるワクチン接種の前に、情報を収集し自分の頭で考えてみる。考えを深めるための手がかりをこれらの書籍は提供してくれることでしょう。
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医療ジャーナリスト
1944年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒。68年朝日新聞社入社。医療担当記者として約40年間、日本の臨床現場を取材。著書に『ドキュメント医療危機』など。
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(医療ジャーナリスト 田辺 功)
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