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「通算1565勝1563敗」弱者を一流に変える天才、野村監督が"負けた日にやったこと"

プレジデントオンライン / 2021年2月15日 11時15分

西武に勝ち2年ぶり4度目の優勝を決め、胴上げされる野村克也監督(東京・神宮球場)=1997年10月23日 - 写真=時事通信フォト

名将・野村克也氏の1周忌を迎え、このたび事務所の全面協力により、その名言から厳選したベスト・オブ・ベストともいえる金言集『頭を使え、心を燃やせ』がセブン‐イレブン限定書籍として刊行された。同書より野村監督が私たちに残した「教え」を振り返る──。(第2回/全3回)

*本稿は、野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「不思議の勝ち」はあっても「不思議の負け」はない

人間というものは、「勝利」や「成功」からは多くを学ばない。私はそう思っている。

勝ったとき、成功したときは気分がいい。だから、その気持ちよさに酔ってしまい、どうして勝つことができたのか、成功できた理由はなにか、深く考えることがない。私自身もそうだった。

しかし、負けたとき、失敗したときは違う。徹底的に考えた。どうして負けたのか、なぜ失敗したのか、どれだけ時間がかかろうと敗因を突き詰めた。

勝利には、運や偶然に作用された勝利、私にいわせれば「不思議の勝ち」が存在する。対して、「不思議の負け」はない。必ず負けに至った理由がある。

たとえアンラッキーに見えたときも、しっかり分析していけば、それを招いた原因がどこかにあるはずなのだ。つまり、やり方を間違えたから負けたのである。

■「反省」できるのは「弱者の特権」

とすれば、負けたから、あるいは失敗したからといって、へこたれたり、嘆いたり、気分転換をしたりする前に、敗因を追及し、修正・改善することが非常に大切になる。そうやってきちんと反省すれば、同じ轍(てつ)を踏むことは格段に少なくなり、勝利する確率、成功する確率が上がるからだ。

野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)
野村克也『頭を使え、心を燃やせ 野村克也究極語録』(プレジデント社)

負けや失敗を認め、振り返るのはつらく、気分の悪いことかもしれない。だが、反省とはなにに向けてするのか。未来に向けてである。過去に向かってすると思うからいやな気持ちになるのだ。よりよい未来を手に入れるために反省するのだと考えればいい。

そもそも、反省できるのは弱者ならではの「特権」である。

弱者だからこそ、そういう機会に多く恵まれる。失敗が重なるということは、それだけ成功が近くなるということだ。失敗を糧(かて)にする経験が積み重なっていくことで、結果から学ぶことの少ない勝者・強者に追いつき、追い越すことは決して不可能ではなくなるのである。

私自身、決して強者ではなかった。だから現役時代も、監督になってからも、敗戦や失敗を数多く体験した。しかし、そのたびに敗因を追及・分析し、対策を練った。その蓄積が、私を一流と呼ばれる選手にし、監督として弱小チームを強者に変える力を与えた。

弱者だったから、私は負けや失敗を味方につけることができたのである。

■勝者や強者は変化を嫌う

また、勝者や強者は往々にして変化を嫌う。あるいは恐れる。いまのやり方でうまくいっているのだから、変わる、もしくは変える必要を認めない。むしろ、へたに変えればかえって失敗するかもしれない、と恐れる。

だが言い換えれば、変わることを嫌うとは、それ以上の成長はないということを意味する。ライバルたちは必死に研究・分析し、攻略法を考えてくる。同じことをしていてはいずれ通用しなくなる。相手をはね返すには、みずからが「変わること」が必要だ。変化とは進歩なのである。

その点、弱者はどうか。結果が出ていないのだから、いまのままでいいはずがない。「これが自分のやり方だから」といったところで、まったく説得力はない。そのやり方ではダメなのだから、「勝ちたい」「成功したい」と思うのなら、変えざるをえないのだ。

すなわち、弱者は変化を厭(いと)わない。これも弱き者の特権なのである。

弱さは、決して恥ずべきことではない。卑下(ひげ)する必要もない。世の中の大多数は弱者である。弱者がするべきなのは、弱者ならではの特権を最大限に活かし、弱さを味方につけることである。そうすれば強者など恐れるに足りないのだ。

■誰しも自分の武器をもっている

100メートルを走るのに20秒かかる人間は、10秒で走る人間に100メートル走で勝つことはできない。42.195キロを走るのに3時間を切れない選手は、2時間ちょっとで走る選手にはマラソンではどうやっても勝てない。

個人競技とはそういうものだ。明らかに力の劣る者が同じ土俵で勝つためには、相手の失敗やトラブルを待つしかない。

しかし、団体競技、すなわち組織で戦う場合はそうとはかぎらない。野球でいえば、4番打者ばかり集めれば必ず勝てるというものではない。なぜなら、野球の9つのポジションと打順は、それぞれ役割が違うからだ。求められる資質が異なるのである。

適材を適所に配すれば、ただ4番打者を並べただけのチームに勝つことができる。たとえひとりひとりの力は劣っても、自分の役割と責任をしっかり認識し、まっとうできる人間が揃(そろ)えば、強者に勝るのだ。個々の力を掛け合わせた「積」は、個々の力を足した「和」よりもはるかに大きいのである。

■どんな人間にも自分を活かす場所はある

このことは、どんな人間にも自分を活かす場所があるという意味にもなる。言い換えれば、誰しも自分の武器、セールスポイントをもっているということだ。

そもそも4番打者がひとりでできることなどたかがしれている。どんな天才バッターであっても、ひとりではホームランの1点しかとれない。前のバッターが塁に出てはじめて、ホームランが2点にも3点にも4点にもなる。後続バッターが続くからこそ、4番打者が打ったヒットが生きる。

すなわち、脇役がしっかり自分の役割を果たしてこそ、主役である4番打者はより力を発揮できるし、主役が主役としての責任を果たしてこそ、脇役はやりがいや手応えを感じることができるのだ。

主役と脇役、どちらが上ということではない。どちらが欠けてもチームは成り立たない。これは、野球のチームにかぎった話ではない。すべての組織にあてはまるはずである。映画だって、役者だけではできない。撮影、照明、録音、大道具といった、さまざまな専門職が必要だ。そして、それぞれ求められる才能は異なるのである。

野球スタジアム
写真=iStock.com/Dmytro Aksonov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dmytro Aksonov

■おのれを知れば、戦い方がわかる

ならば、誰もが4番打者、主役を目指す必要はない。100メートルを走るのに20秒かかる人間は、100メートルで勝負する必要はないし、42.195キロを2時間ちょっとで走れないなら、別の競技で戦えばいい。

大切なのは、自分の武器を最大限に発揮できる場所を見つけることだ。

それでは、どうすれば、自分を活かす場所が見つかるのだろうか──。

おのれを知ることだ。すなわち、自分の武器とはなんなのか、自分にはなにができるのか。まずはそれをしっかりと見極めることである。

そして、それがわかったら、その武器をより研ぎ澄ますとともに、武器を最大限に活かすにはどうすればいいのか、なにが必要なのか考えることである。自分を活かせる場所、力を最大限に発揮できる場所とは、そういう過程のなかから見えてくるものなのだ。

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野村 克也(のむら・かつや)
野球評論家
1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)へテスト生として入団。MVP5回、首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、ベストナイン19回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。後にロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレー。80年に現役引退。通算成績は、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。90~98年、ヤクルトスワローズ監督、4回優勝。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督を務めた。

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(野球評論家 野村 克也)

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