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なぜ日本人は巣ごもりすると「永谷園のお茶づけ」を無性に食べたくなるのか

プレジデントオンライン / 2021年2月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

外出自粛期間が長引くなか、お茶漬け商品が人気だ。永谷園の「お茶づけ」シリーズは対前年比で約120%と大きく伸びた。約70年もの間支持される理由はどこにあるのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏が迫った――。

■巣ごもり需要で伸びたお茶漬け

新型コロナウイルスが日本の生活に影響を与えるようになってから、1年近くになる。

外出自粛や在宅勤務など、緊張感を強いられる暮らしの中、メディアは「コロナで売れた商品・売れなくなった商品」も報じてきた。すでにご存じだろうが、マスクや消毒剤などが売れた一方で、通勤の減少、マスク着用の増加から、口紅など化粧品が売れなくなった。

さらに自宅近くで買い物する機会が増え、食品の売れゆきは総じて好調だ。

今回はその中で「お茶漬け」に注目したい。日本の食生活のうち、ふりかけとお茶漬けは“ごはん”があれば食べられる簡単・便利な商品だ。筆者は昨年、別のメディアでふりかけも記事にしたが、お茶漬けはふりかけに比べてコロナ禍の影響が少ない商品だ。

巣ごもりが続く消費者は、どんな理由でお茶漬けに手を伸ばすのか。市場で圧倒的なシェアを占める「永谷園」に話を聞きながら考えてみた。

■「お茶づけ」シリーズは対前年比で約120%に

「お茶漬けの市場は、現在約170億円(※)の規模となっています。ここ数年、市場は横ばい傾向でしたが、コロナ禍で昨年3月からの保育園の登園自粛、学校の休校措置、企業におけるテレワークの推進などによる内食傾向から需要が増え、昨年度は市場全体で微増となりました」

※日本食糧新聞社調べ

広報室長の石井智子氏(永谷園ホールディングス広報部)はこう説明する。

永谷園ホールディングス広報部広報室長の石井智子氏
写真提供=永谷園ホールディングス
永谷園ホールディングス広報部広報室長の石井智子氏 - 写真提供=永谷園ホールディングス

日本食糧新聞社の調査では「ふりかけ市場」は約380億円で、お茶漬け市場の2倍以上の規模だ。在宅での食事が増えたのは、ふりかけにも追い風だったが、向かい風もあった。

ふりかけを使うシーンには、弁当やおにぎりなどもある。その機会が減ったのだ。

コロナ禍の外出自粛でゴールデンウイークや夏休みなどの行楽需要が減り、子どもの運動会や遠足などのイベントも中止となった。職場に手づくり弁当を持参していた人も、在宅勤務では作る必要がない。それもあって、ふりかけ市場全体は微増となっている。

一方、お茶漬け(永谷園の商品名は「お茶づけ」)は弁当との関連性は薄い。特に永谷園の「お茶づけ」商品は大きく伸びたという。

「昨年11月に発表した『2021年3月期・第2四半期決算』では、対前年比で約120%でした。当社でも施策を打ち、それが功を奏した一面もありますが、巣ごもり生活の中、手軽に食べられる商品として、お茶づけが選ばれていると考えています」(石井氏)

■「手軽で時短」朝食にお茶づけを訴求

もちろん、受け身の姿勢ではなく、メーカーとしての訴求も続ける。

昨年8月、永谷園は子どもの朝ごはんとして「めざまし茶づけ」の提案を始めた。

「小学生のお子さんの朝ごはんに、手軽で短い時間で食べられるお茶づけを推奨する企画です。きちんと朝食を食べることで、朝から3つのスイッチ=あたまのスイッチ、おなかのスイッチ、からだのスイッチが入るからです」

大人でも朝食を食べない人は目立つ。農林水産省の調査では、特に「20代から30代の男性の約30%は朝食ぬき」だという。同省は朝食をとることの大切さも啓発している。

お茶漬けを食べるシーンで、これまで朝はあまり想定できなかったが、意識の転換にもなりそうだ。緊急事態宣言で夜の営業時間が短縮された飲食店の中には「朝ラーメン」を提唱して人気を呼ぶケースもある。

■売れゆきトップ3は、やはり「あの味」

永谷園のお茶づけが発売されたのは1952(昭和27)年なので、来年で70年となる。

開発したのは永谷嘉男氏(永谷園10代目当主。1923~2005年。同家のルーツは煎茶の創始者である永谷宗七郎)とその父武蔵氏で、居酒屋で飲酒した後の仕上げに頼んだ茶漬けから、簡単に作れる「お茶づけ海苔」がひらめき、親子で共同開発したという。

もともと「湯漬け」は古くからあり、戦国武将が好んだ逸話もある。後に茶漬けとなり、一般庶民も食べていたものを、試行錯誤の末に即席茶づけとして世に送り出した。

発売当時のパッケージを見ると、歌舞伎で使う定式幕(じょうしきまく)、高札に江戸文字で書かれた書体などは、現在も変わらない。現在は隈取り(歌舞伎特有のメイクで同社の登録商標)も入り、より江戸情緒感が増した。

2016年11月から復活した「東海道五拾三次カード」(1枚入り)も印象深い。

永谷園に、お茶づけ商品「売れゆきベスト10」も教えてもらった。中でもトップ3は、やはりというべきか。誰もが一度は食べたであろう商品が並ぶ。

永谷園「お茶づけ」売れゆきベスト10

■味だけでなく形状にもこだわりが

ところで同社のお茶づけは、どんな原料から構成されているのだろう。

お茶づけ海苔(写真提供=永谷園ホールディングス)
お茶づけ海苔(写真提供=永谷園ホールディングス)

「レギュラータイプのお茶づけは、緑色の粒状の『調味玉(ちょうみだま)、海苔、あられ』が基本の構成となっています。さけ、梅干など具材が入っているものについては、上記の3つにプラスしてフリーズドライの具材が入っています。調味玉の中には抹茶が原材料として使われていることから、当社のお茶づけは、お湯をかけて召し上がっていただくことをお勧めしております」(石井氏)

商品の袋の裏側には「永谷園流おいしい食べ方」として、「お湯は、できるだけ熱いものを、たっぷりと。」とイラストつきで紹介されている。

お茶づけ海苔と、さけや梅干では、あられの形も違う。

「あられの形状が違うのは、具材は入っているか、入っていないかの違いです。お茶づけ海苔については、あられも重要な具材であることから松の葉に似た『松葉あられ』を、他のものに関しては、具材と協調できるように『ぶぶあられ』を使用しています」

前述したふりかけでは「一時卒業する人も多い」そうだ。

「子ども時代に親しんでいた人も進学や就職でひとり暮らしを始めると、ふりかけを買わなくなる傾向にある。お母さんも、子どものお弁当をつくるのは高校時代までが多い。そうしたライフステージの変化で、一時的にふりかけから卒業する消費者が増えます。結婚して家庭を持ち、子どもができると、再び常備するようになります」(食品メーカー)と聞いた。

ふりかけに比べると、お茶漬けは一時離脱者が少ないようだ。

■なぜお茶漬けは、ふと食べたくなるのか

「お茶漬けを食べようかな」と思うのはどんな時だろう。永谷園に問い合わせたところそうした調査結果がなかったので、編集部と一緒にそれぞれの経験も含めて考えてみた。

・軽くすませたい
・デリバリーは味が濃い
・こってりした総菜に飽きた
・小腹がすいた
・二日酔い

今のコロナ禍ではできないが、仕事柄、連日会食続きの大手企業の経営者が「たまには外食ではなく、家でお茶漬けを食べたい」と本音をもらすのを聞いたことがある。

多くの人がこれらに近い「喫食目的」ではないだろうか。

永谷園のテレビCMは、登場する著名人が食べた後「あぁ~」と一息つくシーンが多い。これは長年のこだわりなのかと思ったが、「お茶づけが持つ『ホッとする』『安心する』おいしさを素直に表現している」のだそうだ。

同社の商品はお茶づけに限らず、「和」のイメージが強い。大相撲の土俵を回る懸賞旗でもおなじみだ。2000年の5月場所より掲出しており、無観客の場所でも続けている。

グローバルや多様性が尊重される時代とはいえ、お茶漬けに手を伸ばす時、日本人としてのDNA(遺伝子)を思い起こすのかもしれない。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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