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「なぜ伊藤忠の社長は3年で辞めたのか」異例人事のウラにある2大案件のリスク

プレジデントオンライン / 2021年2月4日 11時15分

記者会見する、伊藤忠商事の鈴木善久次期社長(左)と岡藤正広次期会長=2018年1月18日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■次期社長は「撤退の歴史」を繰り返してきた化学品出身

「次期社長を打診されたときは、頭の中が真っ白になった」――。

1月の伊藤忠商事の社長交代会見。鈴木善久社長COO(最高執行責任者)からバトンを継ぐ石井敬太専務執行役員の言葉だ。

それはそうだろう。石井氏が長く在籍したのは化学品部門。会見でも「(伊藤忠の)化学品事業は撤退の歴史。そうした場面の立ち回りは経験が豊富だ」と苦笑しながら話した。それだけ驚きの人事だったということだろう。

■「会長CEOである岡藤正広氏の“焦り”の表れ」

今回、社長COO在任3年足らずの鈴木氏から石井氏への交代について、伊藤忠は「今後はSDGs(持続可能な開発目標)が重要になる。環境問題などエネルギー化学部門はその責務に取り組むには最適で、そこで長年舵を取ってきた石井氏は適任だ」と説明する。

しかし、社内ではこうした見方が広がっている。

「会長CEOである岡藤正広氏の“焦り”の表れだ。鈴木氏は岡藤会長の期待にこたえられなかった」(伊藤忠幹部)

商社業界は三菱商事を筆頭に、三井物産、住友商事と「財閥御三家」が長く業界のトップ3に君臨していた。万年4位が定位置だった伊藤忠のトップに岡藤氏が就任したのは2010年。海外の駐在経験もなく、繊維アパレルといった「傍流」を歩んできた同氏が社長になって掲げたのが「打倒・財閥」だ。

「電力会社や鉄鋼会社と付き合えないと商社ではない」と言われる中、伊藤忠もLNGや石炭・鉄鉱石などの事業を手掛けてきた。しかし、関西の繊維問屋が発祥の同社は、東京電力や日本製鉄などに「一向に相手にされない」(岡藤会長CEO)状態だった。

石油事業でも「和製メジャー」を目指してアラビア石油から1966年に東亜石油を買収するが、オイルショックで石油より割安なガスが普及すると、大きな損失を計上。1986年には石油精製事業から撤退した。

■純利益、株価、時価総額の「業界三冠王」は確実だが…

そんな中で伊藤忠は、「資源エネルギー分野では三菱・三井の牙城は崩せない」と判断、生活産業分野に活路を見いだし、ポートフォリオを組み替えた。電話1本で100億円単位の利益を上げる資源エネルギービジネスに見切りを付け、1銭1円の利益の積み重ねで生き残りを目指した。

岡藤氏はその陣頭指揮を執った。市況の変動で業績が乱高下する資源エネルギー分野での投資を絞り、アパレルや食品など生活産業の拡大に力を入れた。

象徴となったのが西友から買い取ったコンビニエンスストアのファミリーマートだ。

今期はコロナ感染拡大による資源価格の低迷でLNGや石炭などの収益が激減した三菱商事や三井物産を抜いて、純利益と株価、時価総額で業界トップとなるのが確実だ。

それだけに、社内では岡藤氏が求めてやまない「業界・三冠」の達成を花道に「会長CEO職を鈴木社長COOに譲る」との見方が大勢だった。

ところが、三冠王を達成したにもかかわらず、ナンバー2の鈴木氏を退任させ、自身の続投を決めたのはなぜか。その背景にあるのが、「岡藤プロジェクト」とも言われる6000億円を投じた中国中信(CITIC)との提携案件とグループの核となるファミリーマートの不振だ。

■中国最大の国有複合企業であるCITICに出資

伊藤忠は2015年、タイ財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループと共同で中国最大の国有複合企業であるCITICに10%ずつを出資し、日中タイ連合の枠組みを作った。

中国の広州市にある超高層ビル「CITICプラザ」。
中国の広州市にある超高層ビル「CITICプラザ」。(写真=iStock.com/gionnixxx)

「中国最強商社」を自負し、毎年100人規模で中国語研修を実施する伊藤忠だが、まだ目立った成果は上がっていない。2018年にはCITICの株価低迷で1433億円の減損を計上した。その後もCITICの株価は下げ止まらず、出資時の13.8香港ドルから半額以下の6香港ドル台まで下がっている。

伊藤忠幹部は「CITICの収益は安定している。株価だけで減損計上を判断するのは早計だ」と話すが、「米中摩擦や香港の民主化に伴う混乱などを考えると再度の減損を迫られるのは避けられない」(大手会計事務所)との見方は根強い。

その減損額を3000億~4000億円超とはじく試算もある。そうなれば、今期の純利益予想が吹き飛ぶ額だ。

減損計上する場合はパートナーであるCPもあわせて実施するのが通常だ。だが、「次に多額の減損を計上するようだと、CPとの関係も悪化する」(大手証券アナリスト)との声もある。

■完全子会社化するファミマの業績は「1人負け」

ファミリーマートはもっと深刻だ。伊藤忠幹部は「なかなかファミマから情報が上がってこない」と口にする。

昨年7月、伊藤忠はファミリーマートを株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化することを決めたが、その背景にはこの幹部が言う「ファミマから売れ筋情報や顧客のデータ、売り上げ状況などが上がってこない」といういら立ちがあった。

岡藤氏は社内で「マーケット・イン」の徹底を求めている。商社が仕入れた商品やサービスを顧客に押しつけるのではなく、「消費者が何を欲しがっているのかを事前に把握して、タイムリーに提供する」というのがその趣旨だ。そのマーケット・インを進める上で店舗からのデータが上がらなければ仕入れや商品開発はままならない。

業績が好調なら伊藤忠側の不満も出ないところだが、新型コロナ禍で出勤が減る中、都心部に集中的に出店しているファミリーマートは1人負けの状態が続く。商品力の低下も加わり、2020年3~8月期の連結最終損益は107億円の赤字(前年同期は381億円の黒字)と「1人負け」の状況だ。

■中国ファミリーマートが抱える提携先との訴訟

ファミリーマートの中国事業も停滞が続く。ファミリーマートは中国市場の開拓に乗り出すため、2009年に中国食品大手、頂新グループに20%出資した。しかし、「長期にわたるライセンス使用料の未払いなどがあった」(ファミリーマート幹部)ことが発覚、関係は次第に悪化した。ファミリーマートは2018年10月、頂新側が保有する合弁会社株の売却を求める訴訟を起こした。昨年4月には訴訟の審理継続が決まっている。

提携から20年近くたち「中国ファミリーマート」は店舗数で2800を超えた。しかし、両社の関係はいまだ改善していない。裁判の行方次第では店舗網を一気に手放さなければならない事態もありうる。

今回の人事ではそのファミリーマートの社長に「岡藤会長の右腕」とされる細見研介執行役員を送り込む。細見氏は小売りのグループ会社を束ねる「第8カンパニー」のトップを務めている。

ファミリーマートは人工知能(AI)を搭載したロボットを活用した商品補充を検討しているほか、2021年春には従業員のいない無人店舗を都内で開く。「第8カンパニー」で培ったDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIを駆使した新業態を目指す考えだが、「伊藤忠が乗り込む形での再建にファミマのオーナーの反発も大きい」(ファミリーマート幹部)との声もある。

大阪にあるファミリーマート
写真=iStock.com/tang90246
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tang90246

■CITIC事業の再構築とファミマの経営立て直しが急務

ファミリーマートは2009年に中堅のエーエム・ピーエム・ジャパン、2016年にはサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスと統合して店舗数ではセブン‐イレブンに次ぐ2位に躍り出た。しかし、「寄り合い所帯ゆえに岡藤氏が一方的に支配しようとすると空中分解する」(前出ファミリーマート幹部)との懸念がある。

中国事業を巡っては、三井物産が昨年末に中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)と提携。12億人のユーザーを抱えるテンセントと組んで日本企業の進出を後押しするなど、同国の開拓に乗り込む。

伊藤忠には「どこまで中国に食い込んでいるのか、判然としない」(大手証券アナリスト)との指摘もある。それだけに岡藤会長留任には「巨額の減損リスクを抱えるCITICについて、しっかりした筋道をつけるまで、逃げ出してもらってはかなわない」(同)との見方がある。

停滞するCITIC事業の再構築とファミリーマートの経営立て直し。岡藤会長CEOの“焦り”は解消されるのか。「三冠王」の次の展開に注目が集まっている。

※編集部註:初出時に「化学品」「アベノマスク」についての記載で誤解を招く表現があったため、該当部分を削除しました。お詫びして訂正します。(2月5日19時40分追記)

(プレジデントオンライン編集部)

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