口うるさくて面倒な上司には「はい、気を付けます」と言うだけでいい
プレジデントオンライン / 2021年2月23日 9時15分
*本稿は、和田秀樹『感情的にならない心の整理術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■森田療法の「感情の法則」
神経症の治療法として世界中に広まっている森田療法には、「感情の法則」と呼ばれる考え方があります。詳しく説明すると専門的になりますが、基本的な考え方はものすごくシンプルです。
それは、「感情は放っておけばだんだん収まってくる」というもの。不快なことを気にすればよけいに不快な気分になりますが、感情というのは放っておけばそのうち静まってくるのです。
「腹が立つ」……放っておく。
「悔しい」……放っておく。
「憎い」……放っておく。
森田療法の基本的な考え方は「あるがままに」ですから、腹を立てることも悔しがることも、他人を憎いと思うことも、あえて否定はしません。どれも感情の仕業ですから、あるがままに放っておけばいいと考えるのです。
■問題は「感情」ではなく「感情コンディション」
実際、「怒るな」と言われても無理です。「悔しがるな」「他人を憎むな」、あるいは「嫉妬するな」「悲しむな」、すべて無理です。
理性では、そういった感情が少しもプラスにならないとわかっていても、私たちはつい感情が強く出てしまうことがあります。
でも、そのときどきで感情的になったり、ならなかったりします。いつもならカチンとくる上司の嫌味も、「なにか言ってますねえ」と受け流せるときもあるのです。
それはどういうときかといえば、あなたの「感情のコンディション」がいいときです。逆にいつも以上にピリピリ、イライラしているとき、つまり「感情のコンディション」が悪いときは、すぐに腹を立ててしまうものなのです。
■感情のコンディションを整える
感情的にならないためには、自分自身の「感情のコンディション」を良好に保つ必要があります。その工夫や技術について考えてみましょう。
①先の「不安」はいまのあなたと無関係!
週末に友人と久しぶりに会う約束をした女性がいます。再会が楽しみでワクワクしていたのですが、ちょうど大きな台風が近づいているのが心配でした。
「買ったばかりのスーツを着てみたいけど、雨にぬらしたくないなあ」とか「帰りの電車が動かなくなったらイヤだなあ」などと考えるうちに、約束をキャンセルすべきか否かで悩み出してしまいました。でも、全然答えは出ません。
そこで友人に電話をしてみました。「土曜日、大丈夫かなあ。台風来るみたいだけど、どうしようか?」。そう問いかけると、「その日の様子で決めようよ」という返事。
それで彼女は納得しました。このとき電話をしたのは、水曜の夜のこと。3日後の台風の動きなんて、わかりっこありませんね。
あれこれ考え込むクセのある人は、自分の悩みや不安が「いまいちばん大きな問題」と受け止めがちです。この女性のように、「どうすればいいんだろう」と頭の中がそのことだけで占められてしまうのです。
「考えても答えが出てこない」「答えが出ないから、もっと考える」というのが、悩みグセのある人の典型的なパターンです。でも、先の女性の友人のように、「考えても答えが出ないから、考えない」という人がいます。
こういうタイプの人にとって「いまいちばん大きな問題」は、目の前の仕事や作業なのです。それらに優先順位をつけて、1つずつ片づけていきます。
いまの自分が優先しなければならないことはなにか、また、考えても答えの出ないことは「いまの自分には関係のないこと」だと知っているのです。
■イヤな感情は「放っておく」
②「ともかく」動いてみる
自分の感情を明るく保つためには、イヤな感情を放っておけばいいのです。そのためには、別のものに関心を向けることが大事です。
まず心がけてほしいのは、「自分の気持ちと向き合わない」こと。感情を明るく保っている人は、いつも外を向いています。散歩に出れば街角の様子や季節の移り変わり、人と会えばその人とのおしゃべり、美味しいものを食べているときはその料理だけを見つめたり、味わったりできるのです。
ふだんの感情を明るく保つためにも、動くことをためらわない人であってください。動けばイヤでも気持ちが外に向きます。すると、仮にイヤな感情が残っていても、それを見つめる時間がなくなります。感情は放っておけば収まるのですから、動いているうちに気分がスッキリしてくるのです。
一方で、動きの鈍い人や腰の重い人は、「出かけるといっても、楽しいことなんかそうそうないし、疲れて帰ってくるだけじゃないか」。そういうことをつい考えてしまいます。
そこで気軽に動くためにも、ためらいが生まれたら「ともかく」と自分に言い聞かせてください。
「つまらないかもしれないけど、ともかく出かけてみるか」
「断られるかもしれないけど、ともかく電話だけはしてみるか」
迷ったら「ともかく」です。「ともかく」という行動パターンが身につくと、いまよりはるかに動くことをためらわないようになってきます。それが結局、明るい感情をつくってくれるのです。
■予定はアバウトに
③きっちりとしたシナリオは描かない
「ともかく」動いてみて、悪い結果が出たらどうするのか? どうもしません。結果というのは一時的なものです。「ひとまず」受け止めるだけです。
外に出かけたらすぐに雨が降ってきた。ひとまず雨宿り。
電話したら断られた。ひとまずあきらめる。
「ともかく」と「ひとまず」の組み合わせは、成り行きまかせ、出たとこ勝負になってきます。細かい予定を決めていたわけではありませんから、どういう結果が出ても予定外ということはありません。
これは、あらかじめシナリオを描かない、ということです。たとえば友人を誘って食事をしようと考えたときには、まず誘ってみる。それで断られたら別の友人に声をかけるか、1人で街に出てみる。そういうアバウトなプランにすることです。
イヤな感情につかまりやすい人は、かなり細かいプランを立てる傾向があります。
「待ち合わせは街路樹の木陰が気持ちいいあのカフェテリアにして、ランチはこの前に食べたレストランのサンドイッチが美味しかったからそこにして、ショッピングはAデパートがいまヨーロッパブランドの展示をしているからそれを楽しんで……」
ここまでシナリオを描いてしまうと、断られた段階でガックリきます。
もしOKしてもらって予定通りのカフェテリアで待ち合わせしても、相手から「ランチもここで済ませましょう」と言われたりすることもあります。シナリオ通りにいかないことがいくつも出てくるのです。
![成功を収めた女性は未来を見つめる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/2/670/img_2263ba3c6d5ef5315664bb44c40a4067466057.jpg)
そこで「自分のプランが台無しにされた」ととらえると、不機嫌になります。そういうときは「それもそうね」といった受け止め方をすればいいのです。
「どうして?」とか「せっかく考えてきたのに……」といったイヤな感情につかまってしまうと、いつまでも不機嫌が続きます。「それもそうね」と切り替えることで、気持ちはどんどん外向きになっていくのです。
■無理に解決しようとしない
④不調の原因探しなんかしなくていい!
「気が滅入(めい)る」とか「うつうつとする」「なんだかつまらない」といった状態も、ささいなことで腹を立てたり、他人に突っかかったりする原因になります。
もちろん、理由はあるのです。きちんと考えていけばかならず思い当たります。
「結局、仕事がうまくいってないからなんだ」
「Aさんばかりがチヤホヤされるから、私は嫉妬(しっと)しているんだ」
そういった答えが出てくるのですが、ではどうすれば解決できるかと考えてしまうのが、イヤな感情から抜け出せない人のパターンです。
なぜなら、考えてもどうにかなるわけではないからです。せいぜい、「努力するしかない」とか、「我慢するしかない」「もっと大人になろう」といった結論しか出てきません。「私にそれができるだろうか」と考えれば、また振り出しに戻ってしまいます。
そういう場合でも、行動を変えることで気分が変わります。仲のいい友人と美味しいものを食べたり、お酒を飲んだりしながらおしゃべりすれば、気の滅入る状態からはひとまず抜け出せるでしょう。
そこで「さあ、明日からひと頑張りするか!」という元気さえ出てくれば、気が滅入った原因なんかどうでもよくなります。いっときの気晴らしさえできれば、状況はなにも変わらなくても、「ドンマイ!」という気になれるのです。
■「はい、注意します」でおしまいにする
⑤人の言葉を深読みしない
部下のチェックに熱心な小姑タイプの上司はどこにでもいます。
![和田秀樹『感情的にならない心の整理術』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/200/img_757e1554ed511caaffcea71ac154371e530827.jpg)
「Aさん、この決算書は部長も目を通すんだから、ミスのないように頼むよ」
それくらいのことは先刻承知のAさんは、「いちいちうるさいなあ」という不満がだんだんふくらんでいきます。
「みんなの前でわかりきったことを言うなんて、まるで私が信用ならないみたいじゃないの」
「ああいう言い方をされると、しょっちゅうミスしているとみんなに思われる」
そんな調子でイヤな感情をふくらませてしまいます。でも実際にあったことは、口やかましい上司がわかりきったアドバイスをしただけです。「はい、注意します」と返事をすれば、それですべておしまいです。
■相手の「感情」を深読みしないこと
Aさんは上司の言葉に隠された“悪意”や“意図”までも感じ取ってしまいます。これは深読みですね。こうした深読みぐらい、感情のコンディションを悪化させるものはないのです。
なぜなら、その読みが正しいかどうか確かめようがないからです。Aさんが上司に「ミスをすると思っているんですか」と質問しても、「そうは言っていない」でおしまいです。
「ミスのないように頼むよ」
「気をつけます」
これで終わりにすれば、拍子抜けするのは上司のほうです。そういう上司は放っておいて、さっさと自分の仕事に戻ることをおすすめします。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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