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連載・伊藤詩織「ベトナム人技能実習生の卒塔婆が並ぶ寺」

プレジデントオンライン / 2021年2月25日 9時15分

大恩寺に幼馴染みの遺骨を持ってきたホアさん。在日ベトナム仏教信者会会長の尼僧ティック・タム・チーさんが優しく肩に手を置いた途端、大粒の涙が流れた。(筆者撮影)

■日本に夢をみた……ベトナム人技能実習生の卒塔婆が並ぶ寺

埼玉県本庄市の大恩寺では行き場を失ったベトナム人技能実習生達が生活している。夜中、彼らは布団の中でスマホと向き合ったり、思い思いの時間を過ごしていた。

「詩織さん、今お骨を持った方が到着したみたいです」。さっきまでコタツでうとうとしていた尼僧のティック・タム・チーさんがそう言うと慌てて外に出た。技能実習生らも本堂に集まり、運ばれてきた遺骨に祈りを捧げた。

本堂には若くして一生を終えたベトナム人の卒塔婆が並ぶ。その多くは技能実習生や留学生だ。

遺骨の男性は20代だという。遺骨を持参した幼馴染みのホアさんは最後に彼に会ったときを話す。

「日本で働くのが夢で、日本に来てから本当に一生懸命でした。最後に会ったときはアパートを見せてくれました。壁一面に漢字が書かれた紙が張ってあり、日本語を早く習得しようと頑張っていた」。数カ月後、男性は自宅の階段の下で倒れているのを発見された。

技能実習制度は開発途上国に日本で学んだ技能や知識を持ち帰り、それを母国で生かしてもらう国際貢献を目的としたものだが、一部の実習先の劣悪な労働環境が問題となっている。耐えかねて失踪する人、生活に困り犯罪に手を染める人、過労死する人もいる。

■新型コロナウイルスの影響で職を失った技能実習生

そして新型コロナウイルスの影響で職を失った技能実習生は、故郷に帰りたくても帰れない。来日するために100万円以上借金をしている人も多く、そもそもベトナムへの飛行機も運休する事態が続き、助けを求め大恩寺にくる。

男性の遺骨が届いた2日後にチャーター便で帰国することが決まっていた、大恩寺に身を寄せているチャン・ティ・ハーさんは寺で初めて出会った男性の遺骨を持ち、ベトナムの家族へ届けるという重役を任された。ハーちゃんと呼ばれる彼女も技能実習生。AKB48などの日本の歌謡曲が好きだ。

ハーちゃんが帰国する朝、成田空港はとても静かだった。3年ぶりに家族に会えて嬉しいはずなのに……。ハーちゃんの心境は複雑だった。出国検査ゲートで遺骨とお別れした幼馴染みのホアさんは大粒の涙をこぼした。夢や希望を抱えて来日した若者が家族のもとに変わり果てた姿で帰宅する。これは彼だけの話ではない。

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伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

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