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「140字の物語」すぐ読めるのに忘れられないTwitter小説の"最後の一行"

プレジデントオンライン / 2021年2月10日 9時15分

提供=KADOKAWA

Twitterで短編小説を書く神田澪さんが、これまでの作品をまとめた『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)を出した。140字という字数制限があるが、「想像以上に豊かな物語を書くことができる」という。本書の中から、ファンから人気の高い3本と新作をお届けする――。

■140字が織りなす豊かな物語

これまで4年にわたり、Twitterで「140字ぴったりで完結するものがたり」を書いてきました。

もともとは、「小説などの長い文章が読めない、読む時間がない」という方にも楽しんでもらえるものを書きたいという思いで始めた試みです。現在、日本版Twitterの文字数制限が140字。その長さであれば、苦なく読んでもらえるかもしれない……と思ったのが始まりでした。

140字という文字数は少なく思えますが、実際は想像以上に豊かな物語を書くことができます。これまで1100篇以上の「超短編小説」を書いてきた中で「140字でこんなふうに話が書けるとは」と驚かれることが多々ありました。『最後に会ってさよならをしよう』に収録し、Twitterでもたくさんのいいねをいただいた、人気の作品の背景を少しだけご紹介させていただきます。

君をミュート
スマートグラスに「ミュート」機能が追加された。
ボタン一つで嫌いな人を視界から消せるというものだ。
生活上必要な時だけ相手が表示される仕様で、
ストレスが減ると評判だ。

そんなある日、駅でスーツ姿の人から肩を叩かれた。

「あなたは百人以上からミュートされました。

別区画で暮らしてもらいます」

■「ミュート」機能が、もし現実世界で使えたら

【解説】
ツイッターやインスタグラムなど、多くのSNSには「ミュート」機能が存在します。

端的に言うと特定のユーザーの投稿を「非表示」にする機能です。「フォローを外すのは角が立つが、投稿は見たくない」という場合に役立ちます。

この作品は、そんな「ミュート」機能を現実世界でも使えたらどうなるだろう? という発想から生まれました。

メガネ代わりのスマートグラスを使用し、会社の同僚やクラスメイトなど、同じ組織には属しているが見たくない人を視界から綺麗に消せたら……。もしかするとSNSと同様に役立つ機能の一つとなるかもしれません。

けれどそうなれば、多くの人から「ミュート」され、もう誰からも見えなくなっている「透明人間」が出来上がる可能性が出てきます。

ミュートされるような言動をしているので、大抵の透明人間は何らかの問題を抱えた人物でしょう。

そうなると次は、表の社会からこっそりと透明人間をひっそりと消して、よりよい社会にするための組織が登場してもおかしくありません。組織の人から肩を叩かれた透明人間は別区画へ隔離。けれど現実世界では人が消えても誰も気付きません。

果たしてその後、透明人間達はどうなるのでしょうか? 私がもし続きを書くなら、もしかすると今度は隔離場所で、透明人間からさらに「ミュート」される人間が生まれるかもしれない……と考えたりします。

■マウンティング合戦? 女子大生の心は…

自慢合戦
女子大生の私達がカフェに集まれば、
当然のように自慢合戦が勃発する。
海外ブランドのバッグに限定コスメ。
内容がどうであれ、我々は最高の褒め言葉をかける必要がある。

「以上です」

自慢話を終えた友人は頭を下げた。
家族や恋人に褒めてもらえない私達は、
互いに褒め合い励まし合うと決めているのだ。

【解説】
かつて流行語大賞の候補にもなった「マウンティング(女子)」。他人に対して自分の優位性を示そうとする動物の行動から、人間同士でも過剰な自慢をする様子を「マウンティングしている」と表現するようになりました。自慢は、している方はスッキリするかもしれませんが、された方は辟易してしまいます。

けれど苦労して手に入れた限定グッズや、財布の底まではたいて買ったブランド物はどうしたって誰かに「よかったね」と言ってもらいたいもの。

マウンティングとは捉えられたくないけど、でも自慢はしたい……。

「自慢合戦」はそんな悩みを抱えた女子大生達が編み出した解決策の一つです。

周りから見たら「女性同士のマウンティングか」と思われてもおかしくないカフェの一角で、彼女達は順番を守って自慢し合い、「最高の褒め言葉」で称え合います。

自分の周りにもこんなノリのいい友達がいたらきっと楽しいですよね。

■短冊の願い事をめぐる「正しさ」

正しい願い事
短冊に願いごとを書く息子の手が止まった。
それから消しゴムを手に取り書いた文字を消し始めた。 「どうしたの?」 「優勝できますようにって書こうとしたけどやめたんだ。
友達の方が頑張ってるから」

私は我慢しなくていいよと息子を抱きしめた。
けれど今も思う。
あの時私は正しいことをしただろうかと。

【解説】
ある夏、近所のスーパーで買い物をしていたら七夕の笹飾りが目に入ってきました。笹の葉に括られた短冊には「大金持ちになりたい」「好きな芸能人と結婚したい」といった夢のあるものから「家族が幸せに暮らせますように」「おじいちゃんが長生きできますように」といった人の優しさに触れられるものまで、バリエーション豊かな願い事が書かれていて、自分ならなんと書くかな、と想像したことを覚えています。

車のヘッドライトで照らされる雪
提供=KADOKAWA

本作では、主人公の息子が「友達の方が頑張っているから」短冊に書いていた「優勝できますように」という文字を消してしまいます。頑張る友達の様子を間近で見て、自分よりもその友達を応援したいと思ったのでしょう。

けれど息子はまだ子供です。自分の夢を諦め、誰かに譲ることは大人になってからでもできます。主人公は我慢しなくていいよと息子を抱きしめました。

けれどそれは同時に、息子の中に芽生えた「友達を応援したい」という優しさを無視するかたちにもなってしまうのではないか……。

「正しい願い事」とは何なのか、ぜひ一緒に考えていただけたらと思います。

■ここだけの書き下ろし新作「一人きりの映画館」

一人きりの映画館
一人で映画を観ると決めた。
友人はつまらないと断言したけれど、前から気になっていた最新作。
誰も誘わず映画館に行くのは何年ぶりだろう。

キャラメルのかかったポップコーンと共に席に座った。
不安だったのは最初だけ。あっという間の二時間だった。
面白いと確信する自分ごと好きになれた休日だった。

【解説】
今回のために書き下ろした作品です。

スマホから膨大な数の「口コミ」を見ることで、良くも悪くも「失敗」することが少なくなった昨今。通販で物を買う時、レストランを選ぶ時、映画館まで新作映画を観に行くかどうか決める時……「口コミ」を確認し、評価が低ければ他を探すという方は少なくないのではないでしょうか。

事前に情報が分かるのは非常に便利です。価値観とは、人との関わりの中で生まれるので、さまざまな意見に触れられるのも素敵なことです。とはいえ、人の意見を軸に行動することを続けているうちに、いつしか自分らしい価値観を見失うのではないだろうか……。

この主人公は評判の悪い、けれどもずっと気になっていた映画を観ます。

大人であれば2000円近くするチケット代は、友人の言っていた通りつまらなければ水の泡です。けれどすぐに映画の世界に飲み込まれ、主人公は自らの感性の物差しを使い「面白い」という確信を得ることができました。

「口コミ」だけを信じていたら訪れなかった人生の1ページ。不安定な時代ですが、時々は「数」の多さに流されず、自分の内側に生まれる直感を信じてみると、新しい扉が開くのではないかとも思います。

■不自由だからこそおもしろい

「140字ぴったり」というと、数に制限のある文芸という点で俳句や短歌と似ていますが、この2つと決定的に異なるのは、制限の厳格さです。俳句や短歌の場合、作品によっては字余りを起こすことがありますが、Twitterで文字を入力する際は140字以上入力することが不可能なので、必ず140字以内に収めなければいけません。

神田澪『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)
神田澪『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)

そんな不自由さがかえって面白く、やりがいがありそうだと感じて創作を続けてきました。

緊急事態宣言が出された後、Twitterで発表している私の作品はそれ以前とは比べものにならないほど多くの方々に読まれるようになりました。

「外に出られない分、物語を読むことでさまざまな風景を想像できて癒されています」といった旨の感想を多くいただいたことが強く印象に残っています。

想像を膨らませて無限の旅に行ける「小説」のおもしろさを、手軽に楽しんでいただけたらうれしいです。

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神田 澪(かんだ・みお)
小説家
熊本県出身。2017年よりTwitter上で140字ちょうどの物語を投稿し始める。時に感動を呼び、時に切なくなる物語が支持され、フォロワー数は14万人超。人気作は17万いいねを獲得。Twitter:@miokanda

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(小説家 神田 澪)

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