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「すぐ読めるのにあまりに切ない」別れがテーマのTwitter小説ベスト3

プレジデントオンライン / 2021年2月12日 11時15分

提供=KADOKAWA

Twitterで短編小説を書く神田澪さんが、これまでの作品をまとめた『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)を出した。フォロワーからお題のリクエストも受けながら1100篇以上を発表してきたが、2020年は「別れ」や「距離」といったテーマを求める声が圧倒的だったという。その理由とは――。

■過去を切り取って縫合する「整形」

これまで4年にわたり、Twitterで「140字ぴったりで完結するものがたり」を書いてきました。

もともとは、「小説などの長い文章が読めない、読む時間がない」という方にも楽しんでもらえるものを書きたいという思いで始めた試みです。

現在、日本版Twitterの文字数制限が140字。その長さであれば、苦なく読んでもらえるかもしれない…と思ったのが始まりでした。

140字という文字数は少なく思えますが、実際は想像以上に豊かな物語を書くことができます。これまで1100篇以上の「超短編小説」を書いてきた中で「140字でこんなふうに話が書けるとは」と驚かれることが多々ありました。『最後に会ってさよならをしよう』に収録し、Twitterでもたくさんのいいねをいただいた、人気の作品の背景を少しだけご紹介させていただきます。

過去整形
愛の形が変わってしまうほど遠い未来、
市民の間では『過去整形』が爆発的に流行した。
就職前、進学前、後ろめたい過去を切り取って縫合する。

しかしながら過去整形を済ませた学生達の
面接突破率はそう高くない。
研究者は語る。 「過去を乗り越えなかった彼らは
精神的に幼くなってしまう傾向があります」

■綺麗に消せても、大切な何かを失うかもしれない

【解説】
あの過去を無かったことにしたい。仕事で大失敗をした時、こっぴどく振られた時、そう思う人は少なくないと思います。この物語は都合の悪い過去を切り取って縫合する「過去整形」が可能になった未来が舞台です。(皮肉なことに、3年以上前に書いたこの作品を書籍に掲載するにあたり、物語のオチを大きく「整形」することとなりました。ただし、元の文章はツイッターに載せたままです)

さて、後ろ暗い過去がある人にとっては夢のような「過去整形」ですが、本当にメリットばかりでしょうか? デメリットがあるとしたら、失敗することがある? 整形がバレる? 

今回は、綺麗に「過去整形」が済んだとしても尚失うものがあるとしたら何か? を考えました。過去を切り取ることは経験を失うことと同義です。今のあなたが消したいと思っているつらい過去も、切り取ってしまえば大切な何かも抜け落ちてしまうのではないか……。

もし「過去整形」できるなら、あなたはやってみたいですか? どんな過去を変えたいですか? ぜひ感想を聞かせていただけたら嬉しいです。

■「人生やり直しボタン」、もしあったら押しますか?

人生やり直しボタン
人生やり直しボタンが欲しいと思っていた。
生きていても毎日つらいことばかり。
だから本当にそのボタンが目の前の画面に表示された時、
僕はすぐに手を伸ばした。

指を置いた瞬間なぜか涙が出た。
本当に欲しかったのはボタンではない。
「そんなの押さないで。寂しいよ」と
僕の手を止める誰かだったのだ。

【解説】
一度や二度の失敗なら「過去整形」で修正できますが、全てが上手くいかず希望を持てないなら、根本的な解決策が必要になります。「人生やり直しボタン」はその名の通り、押すだけで人生をやり直せる恐ろしく便利なボタンです。

原稿用紙と万年筆と猫
提供=KADOKAWA

この物語を最初に思いついた時は具体的なオチを考えていませんでした。

もし自分の過去に振り返りたくない思い出ばかりが積み重なっていたら? そして将来にすら希望を見出せなかったら? 想像の中であらゆる不幸を吸収した私は、筆を進め、いよいよボタンを押せるとなった時に言いようのない寂しさに襲われました。

2回目の人生は今よりましになるかもしれない。けれど、ボタンを押す手を止める人が世界にたった一人でもいてくれたのなら、どんな暗い闇の中でも生きていけたかもしれないのに、と。

もし「人生やり直しボタン」があるとしたら、あなたなら押しますか?

■反響が大きかった「愛」を問う物語

愛は宝石になる
愛は宝石になる。
想いが深いほど輝きを増すと評判で、贈り物の定番だった。
彼女と共に店へ来た僕は、緊張しながら宝石化した愛を受け取った。

出てきたのは、鈍く光るだけの小石。
彼女は目に涙を溜めて店を出た。
店員も困り顔だ。

「これから磨くところでしたのに。
愛そのものは、美しくありませんから」

【解説】
ダイヤモンドの原石を見たことはありますか? 無色のもの、黄色っぽいもの、見た目はさまざまですが総じて言えるのは、宝石の王様とも呼べるその圧倒的な透明感と輝きは、最初から備わっているわけではないということです。

選別され、精緻に磨き上げられ、ようやく輝きを放つ宝石となります。けれどそれを知らなければ、ダイヤモンドの原石を見てガッカリしてしまうかもしれません。そのさまは、愛が育まれる過程に似ているという気づきからこの物語が生まれました。

誰かを本気で愛した時、人は同時に自分の心に潜む醜い感情にも気付きます。「誰にも取られなくない」「自分だけを見てほしい」「返ってくる愛が足りない」……そんな不安と欲望でいっぱいになっている心に「愛」という名のラベルを貼っても、実物は荒く削り出された鉱物と同じ。

もし、長年寄り添った老夫婦の愛を宝石化していたらどうなるだろう? 穏やかで曇りのない愛は、もしかするとほとんど磨く必要がないかもしれない……そんな想像も膨らませました。

物語に登場する「彼女」は、結晶化した愛が綺麗な宝石では無かったことに涙を流しますが、誰もが美しいと信じている愛もまた、時間と手間をかけて輝く時を待つ必要があるのではないでしょうか。

■「別れ」「距離」が支持された理由とは

この物語のように、私の作品の中では以前から恋愛をテーマにしたものの人気が高かったのですが、2020年はその傾向に一つの大きな変化がありました。

実は、緊急事態宣言以降、「別れ」「距離」を題材にしたテーマにより多くリクエストやいいねをいただくようになったのです。

たとえば、2017年に募集した際は、少しファンタジー要素のあるキーワードが多く見られました。

しかし今年、募集をしてみたところ、全回答のうち20%が「遠距離恋愛」。ここまでキーワードが重複することはあまりありません。

神田澪『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)
神田澪『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)

私はさまざまなメッセージを受け取る中で、外出を自粛して家族や恋人に会えない人々が「人と人との距離」をより強く実感するようになったことが理由の一つではないかと推測しています。

私の作品を評価してくださる方からは、「『終わっていく関係の中にも見える愛』『最後に触れる、相手の優しさや思いやり』に感動した」というお声をよくいただきます。

「コロナ別れ」「コロナ離婚」という言葉をよく目にするようになった昨今。かつてより「別れ」というものを身近に感じているからこそ、たとえ距離や価値観の違いが原因となってそれぞれ別の人生を歩むことになっても、願わくば最後まで2人の関係を大事にしたいと考える人が増えているのかもしれません。

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神田 澪(かんだ・みお)
小説家
熊本県出身。2017年よりTwitter上で140字ちょうどの物語を投稿し始める。時に感動を呼び、時に切なくなる物語が支持され、フォロワー数は14万人超。人気作は17万いいねを獲得。Twitter:@miokanda

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(小説家 神田 澪)

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