「返信は明日以降で結構です」と書く人が根本的に誤解している事実
プレジデントオンライン / 2021年2月16日 9時15分
※本稿は、リズ・フォスリエン、モリー・ウェスト・ダフィー『のびのび働く技術 成果を出す人の感情の使い方』(早川書房)の一部を再編集したものです。
■「相手が意図を理解してくれるだろう」と思いすぎる
人は概して、何かを伝えようとするとき、自分の意図を相手が簡単に理解してくれるだろうと思いすぎる傾向にあります。
心理学者エリザベス・ニュートンはこれを証明する実験をしました。参加者は曲のリズムをたたく「タッパー」とそれを聞く「リスナー」に分かれます。タッパーは誰でも知っているような曲を選び、そのリズムを手でテーブルをたたいて「演奏」します。リスナーはそれを聞いて何の曲か当てるのです。タッパーは事前に、リスナーは2曲に1曲は当てられるだろうと予測しました。しかし結果はまったくの予想外れ。100以上の曲を試したうち、聞いた人が当てたのはわずか3曲でした。
自分が何かについて知っているとき、それを知らないというのがどういうことなのかを想像するのはとても難しいものです。クイーンの「伝説のチャンピオン」のリズムをたたいているとき、おそらくあなたは頭のなかで歌っているでしょうから、メロディは自然に再生されています。でもあなたが「ターン、タタターン、ターン」とたたくのを聞いている人からすると、その音だけでは何の曲かまではそうそうわからないのです。
こうした隔たりはメールなどのコミュニケーションでも生じます。「コミュニケーションにおける最大の問題は、意思の疎通ができたと錯覚することだ」とは、劇作家ジョージ・バーナード・ショーの名言です。メールやショートメッセージで思いがけず人間関係を破綻させてしまわないためには、何に気をつけるといいのでしょうか。仕事関係のやりとりで覚えておきたい注意点をみていきましょう。
絵文字は文にニュアンスや声の調子、感情を添えてくれます。リズがモリーに「遅れないでよ!」と書いたあとにスマイルマークの絵文字がついていれば、モリーは「あ、からかっているんだな」と伝わります。
とはいえあまり多用すると、相手とそこまで親しくない場合はとくに、ビジネスのやりとりにふさわしい品格に欠けてしまいます。相手がどう受け止めるかがわかるようになってから使うのが無難でしょう。
誤字脱字は、書いた人があわてて送ったか、気持ちが高ぶっていたかの表れだと言っていいでしょう(もしくは上司から部下へのメールで誤字など気にしていない、など)。研究者のアンドリュー・ブロツキーは、誤字は「感情を増幅する」と表現しています。
モリーからあちこちに誤字のある怒りのメールが送られてきたら、受け取ったリズは「モリーはとにかくめちゃくちゃ怒ってこれを送りつけてきたんだな」と想像し、相当激怒している、と解釈するわけです。
![『のびのび働く技術 成果を出す人の感情の使い方』(早川書房)より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/a/670/img_7a46500e205e3440a6c5d9be7162d41d71361.jpg)
![リズ・フォスリエン、モリー・ウェスト・ダフィー『のびのび働く技術 成果を出す人の感情の使い方』(早川書房)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/200/img_983b21787eb0f75938aa30cced1d1156199753.jpg)
オグルヴィ・グループでグローバルの人事責任者を務めるブライアン・フェザーストンホーは、社員を前に「感情がからむ問題をメールでうまく収束させた経験はありますか」と問いかけるそうです。ほとんどの人がノーと答えます。一方、同じ人に「メールで問題に火をつけてしまった経験は?」とたずねると、「みんな手を挙げる」のだそうです。
メールの送信ボタンを勢いよく押す前に、必ずもう一度読み直して伝えたいことがはっきりしているか、文章は意図したとおりのトーンになっているかを確認するようにしましょう。
具体的に「この前出してくれた案、いいと思う。どうやってドラフトに落としこめるか話そう」と考えているのに、「会って話そう」とだけメールで伝えてしまうと、言われた側はむだに不安になってしまいます。
まだよく知らない相手や年長の相手とやりとりする際には、大半の人があいまいさは避けたほうがいいと認識しているのではないでしょうか。リズがモリーにメールで「このドラフト、いいすべり出しだけど、いくつかのセクションはもっとよくなると思う」と言えば、モリーは文面どおりに受け取るはずです。でも同じ内容のメールを上司や新しくきたばかりの同僚からもらったら、不安を覚えたでしょう。
チームで新しい仕事に取り組むとき、とりわけ誰か一人でも離れた場所にいる場合は、ビデオ会議を使うと信頼関係を築きやすくなります。一般的に、お互いの表情がわかると言外のニュアンスを読み取りやすく、ちょっとした雑談もはずみ、心の通う人間関係をはぐくむのによいとされています。相手のことがわかってきてからはよりメールを使うほうにシフトしてもよいでしょう。
タスク管理アプリを扱うトレロ社では、チームに一人でもオフィス外でリモート勤務のメンバーがいれば、ビデオ会議にするそうです。みんなが自分もチームの一員なんだと感じられますし、情報の抜け落ちも防げます。
メールをもらって激怒したり、不安を募らせたり、有頂天になったりした場合、返信はひと晩おいてからするのをおすすめします。もっといいのは、気持ちが落ち着いてから直接顔を合わせて話すこと。メールで返信するときは、いったん下書きしてから第三者の視点で読み直します。
送信する前にまず自分あてに送ってみると、受け手がどう読み取るかをイメージしやすいかもしれません(もう一つ、小さなことですが、送るだけになるまであて先は空欄にしておくほうがいいです。ある友人は報酬の交渉メールの内容を練っている途中で送信してしまい、仕事のオファーを逃してしまいました……)。
直接会って頼むのとメールで依頼するのとでは、対面のほうが30倍以上、成功する確率が高いとある研究は報告しています。メールによる依頼は信頼性に欠け、緊急ではないと一般的にみなされているというのです。もしメールで交渉に入る場合は、事前に対面かビデオチャットか電話で相手と肩ひじ張らずに話してみるとよいようです。
MBAの学生を対象にしたある実験では、学生の半分に交渉相手の名前とメールアドレスだけを伝え、もう半分には相手の写真を見せたうえで、交渉に入る前に趣味やキャリアプラン、出身地などについて雑談するよう指示しました。前者で交渉がまとまったのは7割だったのに対し、後者はほぼ全員が交渉成立にこぎつけたそうです。
以前、ツイッターのパロディアカウント@AcademicsSayでこんなつぶやきがありました。
「オフィスを出たのにときどきメールをチェックしている。来たメールがとくに急ぎでなくても、たぶん返信する。自分はどうかしている」
たとえ送ったあなたが「返信は明日以降で結構です」「読むのは週明けでかまいません」と書いても、受け取った相手にとっては、明日や週明けまで頭のどこかでメールの件を考えてしまうものです。場合によっては、すぐに返信しなくてはとプレッシャーを感じてしまうことも。緊急でなければ下書きフォルダに入れておくか、あとで送るよう調整しておきましょう。
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ポモナ・カレッジ卒。マーケティングとデザインを専門とするコンサルタント。「エコノミスト」「フィナンシャル・タイムズ」などに寄稿している。
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ブラウン大学卒、パーソンズ美術大学美術学修士。デザインファームIDEOで組織デザイナーを務める。「ハーバード・ビジネス・レビュー」「ファスト・カンパニー」「クオーツ」などに執筆している。
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(コンサルタント リズ・フォスリエン、組織デザイナー モリー・ウェスト・ダフィー)
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