森喜朗会長は100%間違い「本当は女より男のほうがベラベラしゃべる」世界中の研究で証明済
プレジデントオンライン / 2021年2月5日 13時15分
■蔑視発言でつるし上げ森喜朗会長「女性はしゃべりすぎる」は正しいのか
元総理で、東京五輪・パラリンピック組織委員会長の森喜朗氏(83)は2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、「女性の多い会議は時間が長い」といった発言をしたことに対して、翌日、謝罪し発言を撤回した。
この女性蔑視発言には、日本人だけではなく、世界の人々が反応した。ワシントンポスト、ニューヨークタイムズなど世界の主要メディアがこぞってその発言を取り上げ、ソーシャルメディアのコメント欄は
「この化石はもう口を閉じるべきだ」
「いったい今何世紀?」
「彼が、女性が長くしゃべりすぎると考えるのは、彼が女性は全くしゃべるべきではないと考えているからだ」
「全く日本は遅れた国だ」
「日本は性差別の国だ」
筆者としては控えめに言って、日本の恥部を世界にさらしてしまった、そんな気分だ。ましてやこの人が日本の五輪の顔だというのだから、絶望的な気持ちになる国民も多いだろう。
バッシングを鎮火させるべく臨んだ4日の釈明会見はむしろ火に油だった。反省の色は見えず、辞任も拒否し、単なる失言として、「撤回する」としただけ。「声が聞こえないからマスクを外せ」と記者に指示し、しまいには逆切れする始末だ。
ひょっとしたら、本人はそんなに問題のある発言だったとは思っていないのかもしれない。
「『女はおしゃべりだ』と言っているだけで、当たり前の常識じゃないか」。そんな感覚だ。会見で、「何が不適切だったのか」と記者に聞かれ、「男女の区別するような発言をした」と答えた。「区別であって、差別はしていない」との認識らしい。
しかし、この発言は、単なる失言ではすまされないことがわかっていない。その鈍さを残念に思う。恐ろしく時代錯誤的で、性「差別」的なのに。
■多くの科学的研究で否定されている「100%間違った認識」
森氏が言う「女性はしゃべりすぎる」は正しいのだろうか。
結論から言えば、下記に列挙する論文の通り、その考えはあらゆる科学的研究から否定されてきた「100%間違った認識」である。
声を上げようとする女性を、常に封殺してきたのは男性で、実は男性のほうが「しゃべりすぎ」であるという認識が全くない。さらに、そういった偏見によって、女性が手を上げ、声を上げにくい風土が作り上げられてきたことを理解できていない。
確かに、女性のほうが男性に比べて、会話力は高いといったことは科学的にも実証されている。しかし、それが、無駄話が多い、しゃべりすぎだということにはならない。数多くの研究が、その逆を真理だと結論づけている。
■男は権力を持つほど話が長くなり、女が話すとそれを遮る
2012年に発表されたブリガムヤング大学とプリンストン大学の研究によれば、「男性が多数を占める会議において、女性一人当たりの発言時間は、男性一人当たりが話した時間の75%しかなかった」という結果だった。
ニュージーランドの研究では、公的な会議の場で、男女の数が同数だったとしても、3分の2が男性からの質問で占められた。どの研究をみても、会議や仕事の場などで、女性のほうが男性より多くしゃべるといった事実は見当たらない。
イエール大学の社会心理学者ビクトリア・ブレスコール氏は「権力を持つ男性が多くを話せば、人々はその人を雇ったり、投票したい、というように評価するが、女性が多くをしゃべれば、横柄だ、傲慢だ、押しが強いとみられるため、話す量を控えようとする」と分析している。
また、権力のある男性はない男性より多く話す一方で、女性の場合、話す量と権力とは関係がなかった。森氏は、「自分は話が長い」と自認していたが、まさに「話すこと」は自らの権力を示す行為そのもの、ということだ。
また、女性は常に男性から発言を遮られることがよく知られている。2014年のジョージワシントン大学の研究では、男性は男性に対して話すときより、女性に対して話すときは33%も話を遮る、という結果だった。
海外では、Manterrupt(Man+Interrupt=遮る)とか、Mansplain(Man+explain=説明する)といった造語がよく使われるほど、男性は女性の話に割り込み、女性に対して、エラそうに話をすることが大きな問題になっている。
■トランプを見よ…「女は感情的だ」「女は論理的に話せない」もウソ
他にも挙げたらキリがないが、相手が鈍いからもう少し紹介しよう。
●自己主張をよくする男性CEOは、しないCEOより「仕事ができる」と評価される率が10%高かった。よく自己主張をする女性CEOは、しない女性CEOより、14%評価が低かった。(イエール大学)
●昇給を交渉する、隣人に音楽の音量を下げるよう依頼するなど、男女ともに同一の自己主張的な行動をした場合、女性は平均して男性よりも大きく評価を落とす。(スタンフォード大学)
といったように、コミュニケーションのジェンダーバイアスが女性のリーダーシップの大きな妨げになってきた。そうした偏見が、昇給を求めて交渉する割合は男性が52%に対し、女性はたった12.5%(カーネギーメロン大学)といった結果に結びついている。
他にも、「女は感情的だ」「女は論理的に話せない」などとしばしば言われる。だが、アメリカのドナルド・トランプ前大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相のどちらが感情的で、どちらが論理的だろうか。こうした、間違ったレッテル貼りが女性の声を上げにくくさせているのに、「女性が手を上げない」とまるで、女性が悪いかのように言う企業幹部や政治家は少なくない。
![2016年、選挙集会中のドナルド・トランプ氏](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/a/670/img_face6e7256417669368951cd81d15c26392355.jpg)
■御年83の森氏の発言は、全くエビデンスのないフェイクニュースばかり
森氏は御年83。昭和12(1937)年生まれのおじいちゃんである。現役でよく頑張っているが、時代感覚は致命的にズレている。それは世代的な宿命かもしれない。
日本の政治や経済を見ていると、組織のトップにいるそうした後期高齢者のズレは目に余るものがある。例えば、数合わせやアイキャンディ(目の保養)のために企業経営のことにあまり精通しない女性を社外役員にすえる経営者や、資質があるとは言えない女性を選挙の候補者にすえる政治家たち。彼らにとっては、女性はお飾りであって、お人形のように座っていてくれればいい、というのが本音かもしれない。だから口を開かれるだけで、うっとうしい。
「黙って座っていてほしい」という時代遅れの政治家や経営者の思いとは裏腹に、実は女性のリーダーシップの素養は男性より高く映るシーンがコロナ禍で増えている。前出のドイツのメルケル首相、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、台湾の蔡英文総統など女性リーダーたちの国民に向けたスピーチや手腕は国際的にも高く評価されている。その点、わが国の男性首相はどうだろうか。
2020年12月にハーバードビジネスレビューで発表された論文によれば、女性のリーダーシップスキルはほぼすべての項目で男性を上回り、このパンデミック危機でその差は埋まるどころか広がったという結果だった。
このように、森氏の発言は、全くエビデンスのないフェークニュースであるばかりか、結果的に女性を貶める性差別的発言と受け取られてもしかたない。必死にステレオタイプと戦い、声を上げようとする女性たちの芽を根こそぎ摘み取りかねない、絶対に口にしてはならないタブーだった。日本はともかく世界の人は黙っていない。
![日本オリンピック委員会の女性理事増員方針をめぐる発言について記者会見する東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長=4日、東京都中央区[代表撮影]](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/2/670/img_52cc6922b39b1c183021e076dd8350f7182030.jpg)
![筆者の最新刊「世界最高の話し方」(東洋経済新報社)は発売2カ月で7万部超](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/9/200/img_6957cd9a2d7ba4648fbb8b1e0ef505d0413098.jpg)
長年、企業リーダーなど日本のトップエリートの「家庭教師」としてプレゼンやスピーチのコーチングに関わってきた筆者であるが、コミュニケーションという観点で森氏ほど評判のよろしくない人もそうそういない。周囲にいる人から漏れ伝わってくるのは、「下の人を怒鳴りちらす」「横柄で、人を見下す」「下々の者に目を合わせることなく、意見を聞かない」といった声で、「政治家の中でも、ダントツのワーストワン」という不名誉な評価だ。
長年、永田町界隈や組織の要職として活動した功績はあるに違いない。
だが、コロナ禍において森氏が対外的な顔でいるということはもはや恥ずかしい。これまで、ありとあらゆる問題発言や行動にもかかわらず、強権をふるい続けてきたわけだが、今回、踏んでしまった地雷はあまりにも巨大だ。
森氏はこれ以上晩節を汚してはいけない。「日本」「日本人」を思う気持ちがあるなら、即刻責任をとっていただきたい。
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コミュニケーション・ストラテジスト
グローコム代表。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。リーダーシップ人材の育成・研修などを手がけるかたわら、オジサン観察も続ける。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)などがある。
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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)
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