「森喜朗会長の後任は丸川珠代氏か」永田町で飛び交う"いいことずくめ"の仰天プラン
プレジデントオンライン / 2021年2月5日 19時45分
■週明けにも「森辞任」が発表される可能性が
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)が、自業自得ともいうべき女性蔑視の失言で大炎上した。発言を撤回した謝罪会見でも「逆ギレ」し、全世界の女性を敵に回すことになった。国会などでも菅義偉首相らが矢面に立たされ、これ以上東京五輪中止の世論が高まるなら「辞任は不可避」との空気が強まっている。
そうしたなか、元五輪担当相で自民党の丸川珠代参院議員(50)が後任会長に浮上している。この週末に水面下で「ポスト森」の人事をめぐる綱引きが行われ、週明けにも事実上の更迭にあたる「森辞任」が発表される可能性がでてきた。
■「面白おかしくしたいから聞いているんだろ?」
森会長は2月3日のJOC(日本オリンピック委員会)理事会の臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」「女性の理事を増やしていく場合は、発言の時間もある程度規制しておかないとなかなか終わらない」と失言した。
さらに、それを撤回する4日の謝罪会見でも「面白おかしくしたいから聞いているんだろ?」「謙虚に受け止めております。だから撤回すると言っているんですよ」と居直った。
失言の多い麻生太郎副総理兼財務相とおなじく、森会長もまた「半径3メートルの男」といわれる。とにかく内輪では細やかな気配りをして、人を笑わせようとリップサービスする。それがジョークで通じると思っていたのだろう。だが、いまや猫も杓子もリモート時代である。3メートルどころか、オンライン中継されているなかで滑ったのだから、これは笑えない。「イット革命」や「神の国」発言など、過去の失言録まで米紙に蒸し返される羽目になった。
SNSでは「#森喜朗氏は引退してください」というハッシュタグまで登場し、拡がっている。森会長はいまや「日本の恥」的な存在となり、もはや誰ひとりとして弁護する貧乏くじを引きたがらない。
■政府関係者の空気は「更迭やむなし」に傾いている
4日の謝罪会見では、森会長本人が「7年間やってきて私から辞めるということはありません。みなさんが邪魔だとおっしゃるなら、おっしゃる通り老害を掃いてもらえたらいい」と述べている。
五輪オフィシャルスポンサーの新聞4紙のうち、朝日は「すみやかな辞任を求める」と森おろしを鮮明に打ち出し、毎日と日経は「一連の言動は大会を率いる責任者としては失格」「それ(撤回)だけですむことではない」と明言こそ避けたが事実上の辞任を要求している。
外堀を埋められた政府関係者の空気は、「更迭やむなし」に傾いている。聞こえてくるのは、菅首相が「いざとなれば私が動く」と周辺に語っていること。安倍晋三前首相を含む細田派内からは、森会長を組織委の最高顧問に棚上げし、後任に組織委理事で元五輪担当相の丸川珠代参院議員をあてる案が浮上しているという。
![丸川珠代参院議員](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/670/img_cff22b829d9bcbeb1e74290819c6a543708683.jpg)
■丸川氏なら森支配の実質は変えず、派内の反発も最小限に
女性会長の登場で国際世論の批判もかわせるし、丸川氏なら森支配の実質は変えず、派内の反発も最小限に抑えられる。さらに菅首相も森会長も、ともに「目の上のタンコブ」とみてきた小池百合子東京都知事への牽制になり、千代田区長選で都民ファーストに苦杯を喫して7月都議選で挽回を期す自民都連も喜ぶ――といいことずくめの案と考えているらしい。
昨年の都知事選でも小池対抗馬に丸川を担ぐ話が取り沙汰されたが、要するに自民は「困ったときの丸川頼み」なのだ。
だが、ちょっと待った。森失言のもうひとつの核はハッシュタグにも取り上げられた「わきまえる女」である。
森会長は「私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます。みんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を得た、そういうのが集約されて非常にわれわれ役立っています」と言った。これも身内への気配りだろうが、これに女性たちがカチンときた。男の前では言いたいことをこらえるのが女の美徳といわんばかりに聞こえるからだ。
■丸川会長では「世の女性たちの怒り」は収まらない
さて、その組織委理事の「わきまえる女」7人は以下の通り。
田中理恵(体操)
谷本歩実(柔道)
成田真由美(競泳)
蜷川美花(写真家・映画監督)
丸川珠代(参院議員)
ヨーコ・ゼッターランド(日本名・堀江陽子、バレーボール)
アスリート5人、芸術家1人と政治家1人で、これが「わきまえる女」、つまり森組織委にとって理想的な女性の代表なのだろう。頼みの綱の丸川さんもいらっしゃる。もし森会長を更迭するなら、この飼いならされてきた「わきまえる女」たちも同罪だろう。つまり丸川会長では、世の女性たちの怒りは収まらないということだ。
しかも丸川議員は、環境相、五輪相と華やかなひのき舞台を歩んでいるが、コロナで開催が1年遅れ、それも無観客か縮小の「ショボい五輪」になれば、大枚はたいてこの程度かという非難の矢面に立つ。笑顔だけで切りさばけるとは思えない。
■更迭しても理屈は立ち、政権への打撃も最小限に済む
橋本聖子・現五輪相は4日、森会長に電話して「あってはならないことと申し上げた」と取材陣に語ったが、実は菅首相から五輪担当相として森会長にそう言うよう指示されたからだ。現に菅首相の同日の国会答弁も、まったく同じである。
橋本議員が安倍政権下で五輪担当相に指名されたのも、竹田恒和JOC前会長を山下泰裕現会長に交代させたのも、森会長のツルの一声だったから、恩義のある森会長の「ネコの首」に鈴をつけに橋本五輪相は行かされたようなものである。
首相のハラはもう固まっているのではないか。今週の週刊文春で、東北新社に務める長男の正剛氏が、総務省の総務審議官でスマホ値下げのキーパーソンである谷脇康彦氏ら通信・放送関係の官僚4人に対し日本橋人形町で接待したことが報じられたからだ。
ここで谷脇氏の首を駆られたら、スガノミクスの柱の一つが頓挫しかねない。現に4日の予算委で接待を認めたのは秋本芳徳情報流通行政局長で、なんとか通信業界への競争導入論者である谷脇氏をかばって処分で済ませ、辞任させたくない意志がみてとれる。
それにはスケープゴーツ――総務省幹部と長男の接待疑惑が霞むような大物の更迭で当座をしのごうという気持ちになっても無理はない。どだい、失言は森氏自身の責任であり、泣きっ面にハチの政権がここで尻尾切りをしても理屈は立ち、打撃も最小限に済むと計算するはずだ。
■「そうした打診は受けていない。仮定のことには答えられない」
プレジデントオンライン編集部は丸川珠代事務所に、組織委または政府または政治家から、後任会長の打診はあったか、打診されたら受けるかを聞いた。「そうした打診は受けていない。仮定のことには答えられない」との回答を得た。
さあ、どうする? 菅総理。組織委中枢は副会長の遠藤利明、河野一郎、専務理事の武藤敏郎の各氏、そして理事の高橋治之・元電通専務ら森会長の手勢で固めている。首を狩ってもこの手足がある限り「モリンピック」からの脱出は難しく、しかもゴール直前での首のすげ替えは五輪開催そのものを瀬戸際に立たせるだろう。進むも地獄、退くも地獄――。
総理ご本人も人気アニメ「鬼滅の刃」の「全集中」を口にしてコケたが、この人事はまさに「全集中」によって積年の「老害」の首狩りが必要になる。竈門炭次郎に倣うなら、「水の呼吸」伍の型の「干天の慈雨」にしたい。相手が自ら首を差し伸べたとき、ほとんど苦痛を与えずに首を飛ばす技だ。それしか、この難局を切り抜けるすべはない。
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ノンフィクション・ライター
1948年、東京生まれ。73年に日本経済新聞入社、社会部、整理部、金融部、証券部、論説委員を経て、95年にロンドンの欧州総局編集委員。帰国後に退社して英ケンブリッジ大学Visiting Scholar。「選択」「FACTA」を経て現在はオピニオン誌「Σtoica」発行編集人。ネットで臨機応変にチーム「ストイカ」を組んで調査報道を行っている。
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(ノンフィクション・ライター 阿部 重夫、チーム「ストイカ」)
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