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広島の鉄工所が「日本のビル建設の半分」に関わることになった深い理由

プレジデントオンライン / 2021年2月12日 11時15分

高層ビルの建設に欠かせない「タワークレーン」 - 写真提供=北川鉄工所

高層ビルの建設に欠かせない「タワークレーン」。その半数を製造しているのが広島に本社を置く北川鉄工所だ。製品開発力の高さは製造業の世界で広く知られている。なぜそうした希少な位置を占めるようになったのか。同社の北川祐治代表取締役会長兼社長に聞いた――。(インタビュー・文=中沢孝夫・福井県立大学名誉教授)

■日本のビル建設に使うクレーンの半分は北川製

——北川鉄工所は典型的なBtoBの企業なので、仕事の中身は消費者には、地元(備後・府中市)の市民は別として、一般市民には見えにくいのですが、設立から80年、創業者の個人企業の時代から数えると100年を超えました。

【北川祐治(北川鉄工所代表取締役会長兼社長)】山あり谷ありでしたが、新製品の開発や改良を重ねることによって、おかげさまでここまで歩んできました。当社の事業の中身を大きく分けると①金属素形材事業、②産業機械事業、③工作機器事業、の3分野です。

金属素形材事業は、いわゆる鋳物製品で、クルマのトランスミッション部品や農業機械部品など機械加工した鋳造品を大量に造っています。工作機器事業は、工作機械の周辺機器などを造っており、NC円テーブル、回転シリンダ、旋盤用チャックなど多様です。

産業機械事業ですと、建設機械のタワークレーンなどです。日本のビルを建てているタワークレーンのおよそ2分の1が当社の製品です。高層ビル、中層ビルの上層階をどんどん重ねていくクレーンです。またコンクリートプラントなども多くの生コン工場に供給させていただいています。

■悪条件だったからこそ生まれた多くの技術

——社長に就任したのはいつ頃でしたか。

【北川】アメリカで同時多発テロがあった2001年でした。いわゆる9.11の際には、ドイツで工作機械の展示会などがあり見学に行っていました。当時の日本は金融危機の後で、右肩上がりが終わった、といった気分が支配的でしたね。

しかし中国の鋳物工場の見学に行ったりしましたが、裸で作業していたり、工場の外にまで機械を置いて働くといった、日本の50年前、60年前の意欲的で前を向いている働き方を見ている内に、まだ中国は成長軌道に乗り切ってはいないが、世界は成長するという感触をもち、社内的に「Decade Plan 2011」を立ち上げ、自分たちの将来を考えました。プランの基本は、グローバル企業、ナンバーワン企業としての目標、といったものでした。

なお、バブルの崩壊や金融危機、その後のリーマンショックといった大きな波のなかでも会社の継続が可能だったのは、さまざまな製品群が顧客の方々に受け入れられたからにほかなりませんが、そうした製品群の一つに一般社会でも目立つ、いま申し上げたビル建設のタワークレーンがあります。

タワークレーンは元々、本州と四国に三つの連絡橋を架ける仕事を受注し、島から島へと、足場のない場所で橋を架けるために建設業者と相談しながら考案していったクレーンの数々が、もとにありました。

御承知のように、本四架橋(本州四国架橋)は1978年に児島・坂出ルートから着工して以来、1999年に尾道・今治ルートが完成するまでの20年に及ぶ仕事でした。強い風雨、弱い足場、飛び飛びの島、といった悪条件の中の工事でしたが、その困難が、架橋工事に取り組む多くの建設業者と協力して、たくさんの技術を生むという結果をもたらしました。

■タワークレーンで乗り越えたリーマンショック

海中での基礎工事。島から島の距離の長い地形。それぞれが重く・長い鉄骨の運搬や取り付け、といった無数の課題がありました。それらに取り組むことで、クレーンに関する多くの技術を蓄積して、1990年にはクレーンの専用工場を設置しました。

本州と四国の架橋工事がおわるのとほとんど時を同じくして、都市でのマンション工事、巨大ビルの新築工事のラッシュが始まりました。

開発コストなどのために、90年代後半のクレーン製造の利益はまだわずかでしたが、00年代の後半には利益を生んでおり、2009年のリーマンショックもタワークレーンなど建設機械が生み出す利益でしのげたと言えます。

■進歩し続ける遠隔操作技術

——そのタワークレーンのことですが、近年伝えられるのは、遠隔操作と自動化への技術革新の必要性ですね。

【北川】遠隔操作と自動化はタワークレーンに限らず、地上での土木作業用のクレーンをはじめとしてさまざまな機械に求められています。

確かにビル施工にとって、遠隔操作と自動化は夢ですね。技能工がどんどん減少し、人手不足が深刻になりつつあります。とはいえ、オフィスビルもマンションも、あるいは消防署といった建物も、すべてが異なったデザインで、異なった大きさと機能を持っております。

それゆえ部材となる鉄骨もそれぞれ異なった形状、重さを持ちます。それらを一様に吊り上げて、その日の風の強さなども計算しながら必要箇所に据え付けるのは、容易ではありません。それを成し遂げる熟練オペレーターの技は、簡単にデータ化できるものではありません。

当社では昨年、業界初となるタワークレーンの3次元自動運転システム「OPUS1(オーパスワン)」を開発しましたが、まだまだ熟練オペレーターのレベルには到達していません。

例えば遠隔操作はカメラの性能が向上したことにより、かなり広範囲の領域が見えますが、それでもユラユラと揺れたりもする100トンの鉄骨を制御して、狙った位置にピンポイントで運ぶことは難しいですね。今後も開発を進めて、熟練オペレーター並の移動スピードと、さらなる停止精度の向上を目指していきます。

■模倣メーカーにはマネできない高精度な製品

——他の社内技術(製品)はどんな状態でしょう。

【北川】コンクリートミキサーの改良開発が続いています。生コンのプラントは以前、国内の40%くらいのシェアでしたが、今は35%くらいでしょうか。

ただ私どもの生コンのプラントは歴史が積み重なっており過去に納めたプラント設備の部品供給などが増加していますね。

広島トクヤマの工場
写真提供=北川鉄工所
溶融亜鉛メッキ仕様の新型プラント - 写真提供=北川鉄工所

一般の家電製品などは10年くらいで部品供給を止めてしまいますが、プラント設備はそうはいきません。15年たっても20年たってもオファーがあります。

これは当社の工作機器類も同様です。ただ,そういう部品も模倣メーカーが登場し、開発費用を負担せずに安物の類似品を造りますので、模倣メーカーではマネのできない、高精度な製品づくりに乗り出しています。

■5年かけてタイにある工場を黒字化

グローバル化、ということでは、1996年にイギリスで、回転油圧シリンダを作るための技術指導(技術移転)など、たくさんの取り組みがありましたが、タイとメキシコに工場を建てたのは21世紀に入ってからです。

2003年にタイの工業団地(チョンブリ)に、日産からタイ工場の全株を取得することで、拠点をつくりました。とはいっても最初は苦労しました。

すでに日産の企業文化を持つところに、キタガワのオリジナルの工程を確立するために、コミュニケーションの充実化、従業員の日本の工場での研修、修繕工事や備品の内製化、調達先の開拓、過剰な機材や材料のストックの削減など、基本的なことの取り組みを一つひとつ積み重ねていきました。結果、なんとか黒字になるのに5年かかりました。

広島トクヤマの工場
北川鉄工所のメキシコ工場(写真提供=北川鉄工所)

続く本格的な海外工場としてのメキシコ工場の立ち上げは2013年でした。もちろんその間に中国(瀋陽)での工場の立ち上げなどもありましたが、メキシコ、アメリカ、カナダの顧客へのサポートを目的としたメキシコ工場は素材から加工までの一貫生産です。

メキシコ工場の立ち上げでは、福山工場新設などの経験がものをいって、設備設計から据え付け、現地人へのオペレーション指導、稼働といった一連の生産体制まで、1年半ほどでこぎつけました。

■会社の課題は常に「人材の育成」

——アメリカのトランプ大統領の政権下ではメキシコとアメリカとの間で、いくつもの問題が生じたと思いますが。

【北川】経済には常に政治動向が反映されますが、アメリカとメキシコの経済的結びつきはいまさら切り離しようがないでしょう。クルマなどのモノを造ろうとすれば、取引のネットワーク(サプライチェーン)による工程は不可欠です。

——会社としての現在の課題は何でしょう。

【北川】常に人材の育成です。さまざまなレベルで必要ですが、よいマネジメントが問われています。リーダーの育成の必要性ということです。これまでうまくいっていた方法でも、社会環境、経済環境などが変わると、私たちも変わらねばなりません。

製品開発を続ける、工程改善を続ける、顧客との関係を発展させるといった基本を守るためにも、かつて正しかった、という条件も変えていかねばねばなりません。

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北川 祐治(きたがわ・ゆうじ)
北川鉄工所 代表取締役会長兼社長
1957年生まれ。広島県出身。東京理科大学工学部経営工学科卒。1983年北川鉄工所入社。2001年代表取締役社長に就任。2018年より現職。

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(北川鉄工所 代表取締役会長兼社長 北川 祐治 インタビュー・文=中沢孝夫・福井県立大学名誉教授)

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