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「女子高生100人がひとつに」コーチのいない日本最強ダンス部の秘密のルール

プレジデントオンライン / 2021年2月11日 15時15分

中西朋『高校ダンス部のチームビルディング』(星海社新書)

近年、「部活ダンス」が女子高生の間で大きなムーブメントになっている。このうち「日本最強」といわれるのが、全国制覇6回の同志社香里高校(大阪・寝屋川)だ。同校のダンス部にはコーチがいない。なぜそれでも強さを維持できているのか。NHKのドキュメンタリー番組で同校に密着した映像ディレクターの中西朋氏が解説する――。

■100人超をまとめ上げる女子高生リーダーのスゴさ

「高校ダンス部を取材してドキュメンタリー番組を作っている」と知人のビジネスパーソンに話すと、ほぼ必ず「高校ダンス部ってなんだっけ? という言葉が戻ってくる。

「あのバブリーダンスで話題になった」と答えると「ああ、知ってる」という小さなリアクション。そして「女子高生を追いかけて何が見えてくるわけ?」と怪訝なニュアンスで質問が飛んでくる。テーマは「若い世代のチームワーク」で、例えば強豪ダンス部の部長たちは100人を超える女子を見事に統率してステージを作り上げている……とここまで話すと、ほとんどの人は「すごい! ぜひコツを知りたい」と目を輝かせ始める。

先日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が日本オリンピック委員会(JOC)評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し、多くの批判を受けた。ジェンダーレスが叫ばれる時代に、女性の社会進出にブレーキをかけるような発言はもってのほか。いわずもがな、これからは女性たちとも良きチームワークが築けるリーダーにビジネス上の勝機が訪れるはずだ。

■良かれと思った言葉が空回り、針のムシロ状態

しかし、現実問題として中間管理職が見えてきた社会人から「職場での女性スタッフとの付き合いに苦労している」という悩みを頻繁に聞く。ある程度キャリアを積んだ女性でさえ「若手女性スタッフらと良いチームワークを築く」ことに難しさを感じている人が多いようだ。

良かれと思って重ねた言葉が、なぜか空回り。こちらは褒めているつもりなのに相手の顔色が曇り、いつの間にか距離を取られてしまう。リーダーあるいはサブリーダーとして会議を正しく仕切っているはずなのに後輩女性のリアクションが薄くそれこそ針のムシロ……。

300人ほどが在籍する企業(映像制作会社)で13年働いていた私は悲しくなるほど不器用で、コミュニケーション能力が足りず、こうした状況を上手に切り抜けることがまるで出来なかった。

だからこそ考えた。映像ディレクターとして高校ダンス部を取材し、ドキュメンタリー番組に仕上げることに決まった時、踊りを写すだけでなく、その背後にあるチームワークの秘密に迫りたいと。

■「日本高校ダンス部選手権」に密着取材

部員数が日本全国で4万人を突破し、女子を中心に大きなムーブメントになっている高校ダンス部──いわゆる「部活ダンス」はひとつの文化と呼べる規模に成長している。そして数ある部活ダンス大会の中で「日本高校ダンス部選手権(通称・ダンススタジアム)」という全国大会を私はドキュメント番組の舞台に選んだ。なぜならこの大会の最大の評価基準が「チームワーク」だったからだ。

ルール上「ダンススタジアム」では一部のエースが派手なダンスをしているだけでは高得点は望めない。重要なのはステージに登る半数以上が振りをそろえる「ユニゾン」と呼ばれるパートだ。一体感が問われるユニゾンの振り付けは難しすぎたらそろわないし、簡単すぎたら評価されない。チームメイトそれぞれが身につけたスキルのレベルや、生まれ持った体格の違いを理解した上で、最適解のアウトプットが求められる。

ゆえにこの大会で上位に入る学校には、多感な女子高生たちを束ねる優れたリーダーシップが必ず存在している。以下、取材で体験した具体を記していく。

■1年生の技術量はバラバラ…どうする?

大阪府立堺西高校ダンス部。この学校はバレエを基礎にした華やかなステージングで観客を沸かせる全国屈指の強豪チームだ。校舎の壁には「ダンス部全国大会○位入賞!」と活躍を知らせる垂れ幕が掲げられ、玄関にはこれまでにダンス部が獲得してきたトロフィーが飾られている。

ダンススタジオ
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

2018年、最初にこの学校のダンス部を取材した際、1年生23人にインタビューしたところ「ダンス部に入るためにこの学校を受験した」と全員が口をそろえた。このチームの特徴はダンスの振り付けの難易度が極めて高いにも関わらず、初心者を積極的に受け入れていることだ。そのため新入生のダンス技術には大きなムラがある。

例えば2回転ターンをする練習で、一度も回れない部員がいる一方で、わざわざ3度回って自分のレベルを見せつける部員もいた。

公立高校の良さである門戸の広さを保ちながら、部員の技術を高水準でそろえるのは並大抵のことではない。歴代の部長・副部長たちは後輩への指導方法を大切に受け継いできた。

■休校で入部が遅れても「優しくするのは違う」

昨年2020年の春、コロナ禍における最初の緊急事態宣言。日本全国の高校は3月上旬から5月下旬まで休校措置を取り、ダンス部も活動停止。堺西高校ダンス部も例年より入部が大きく遅れた1年生を、スムーズに受け入れ、育てることに頭を悩ませていた。この課題は部活動に限った話ではなく、2021年になった今も多くの企業が直面していることかと思う。

部のリーダーたちは課題解決に向けてオンライン会議を重ねていた。すでにネットを通じて、1年生に向けたメッセージを発信したり、部の活動内容について質問を受け付けたりしてきた。

そしていよいよ対面練習が再開する直前、元木菜々香部長はこう方針を示した。

「入ってくるのが遅いからって優しくするのは違うから。ちゃんと厳しくするけど落ちこみすぎないように最大限持ち上げよう」

「厳しくする」と「最大限持ち上げる」をどう両立するのか? 話を聞いていた私にはまるでイメージができなかった。しかし実際に部活が再開されてようやく理解できた。

■「厳しさ」は発言で、「優しさ」は行動で示す

基礎がおぼつかない1年生が習ったばかりのダンスをぎこちなく披露した後、上級生はダメ出しをして改善点を伝える。その指摘は手加減なし。上級生は、新人の練習期間が短いことを考慮した甘い発言を絶対にしなかった。思わずうつむいてしまう新人たち。それを見た私は心配になった。たとえ指導が的確でも初心者部員のモチベーションは下がってしまうのではないか? と。

しかし次の瞬間、練習場に響き渡ったのは上級生みんなの大きな拍手。彼女たちは発言ではなく、無言の行動で新人の健闘をたたえたのだ。1年生はチームの気配りを汲み取り笑顔を見せた。

何事も言語化して伝えるクセのある私は、過去の振る舞いを反省した。似た状況の場合、嫌われることを恐れて厳しくは言わず「短時間にしては良くできているね」などと安易なお世辞で「持ち上げる」だけになってしまっていた。これではチーム内の仕事のOKラインが徐々に下がってしまう。

堺西高校ダンス部のリーダーたちは「厳しさ」は発言で、「優しさ」は行動でというメリハリをつけ、良い雰囲気を保ったままレベルの高い育成を行っていた。

■演出は生徒が行うボトムアップ型チーム

こうした取材はNHK BS-1にて「勝敗を越えた夏 ドキュメント日本高校ダンス部選手権」という99分のスペシャル番組になって、2018年から毎年9月下旬に放送されている。2020年末には『高校ダンス部のチームビルディング』(星海社新書)というタイトルで書籍化もされ、新世代のチームワークのあり方を多角的に取り上げた。中でもビジネスパーソンから大きな反響をいただいた学校がある。

2018年 日本高校ダンス部選手権 夏の公式全国大会
写真=アフロ
2018年 日本高校ダンス部選手権 夏の公式全国大会 - 写真=アフロ

京都にほど近い大阪府寝屋川市にある同志社香里高校。最大の特徴は、「外部コーチがいない」こと。部活ダンスへの世間的注目が増すに従って、プロダンサーをコーチとして招き振り付けを一任する学校が増えている。そんな中、同志社香里ダンス部ではコーチを置かず生徒のディスカッションによってダンス作品を練り上げるボトムアップ型のチームだ。このスタイルでこれまで歴代最多となる6回の全国制覇を達成している。

■100人超のうち、レギュラー入りは40人だけ

これまでに私も社会人としてボトムアップを標榜するチームに編成されたことがある。しかしチームメンバー間で活発に意見が交わされたかと問われるとイエスとは言いづらい。結局、参加者が立場や実績を乗り越えることができず「日本人にこのやり方は合わない」と見切りをつけられてしまった。

学生
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

では、生徒によるボトムアップでプロダンサーのトップダウンを凌駕してきた同志社香里ダンス部の進め方は? この高校では3学年で100人を超える部員が在籍しているためステージに上がるためのレギュラー争いは熾烈だ。大会は出場メンバーを最大40人までと定めているので、どうしても選抜から漏れる生徒が出てきてしまう。

大会に出られない生徒をこの学校では「練習メンバー」と呼んでいる。「練習メンバー」は、他校ならレギュラー入りできる実力があるからこそ立ち直ることが難しい部分がある。一方で選抜された「大会メンバー」は近くで傷ついているチームメイトに気を使いながらも大会作品の質を上げなくてはならない。

「大会メンバー」と「練習メンバー」に分断されたチームを部長・副部長はどうまとめるのだろうか?

■ダンス披露後、部長は練習メンバーに…

2020年の全国大会3日前のこと。2年ぶりの優勝がかかった追い込み期間にも関わらず練習のタイムテーブルに空白があった。取材をしながら不思議に思っていたら、大会メンバーが練習メンバーに礼をしたのち全力の通し稽古を披露した。

その直後、梶浦麻椰部長が練習メンバーを集めて円陣を作った。梶浦部長は、「もう順番とかごちゃごちゃでもいいから、思ったこと何でも言ってください」と披露したばかりのダンス作品について抜き打ちで意見を求めたのだ。

しかし私は本番直前のこのタイミングで、サブの練習メンバーが作品の変更につながるような本質的な発言をすることはないだろうと予想した。案の定、1人の2年生が手を挙げかけたが、すぐに下ろしてしまった。彼女は副部長の促しでなんとか発言したものの、その声はか細くほとんど聞き取れない。

それでも梶浦部長はいつの間にかノートを手に取り、出た意見をメモし始めた。

全力で踊り終えたばかりなので、髪は乱れ、息を切らしていたがペンを握る手には力がこもっていた。その姿を見た練習メンバーからは徐々に具体的な改善点が上がりはじめた。彼女たちの見解はステージに上がらないかわりに、客観性があり、作品の質を向上する大きな力になった。

■発言以上に行動が大切なときもある

また、今年はステージに上がれない練習メンバーも、この経験があれば自分たちの役割を実感しながら日々の部活に参加できるだろう。こうした小さな工夫を重ねて、同志社香里ダンス部は各所から的確な意見が上がってくるボトムアップ型のチームを実現していった。

もし梶原部長がただのポーズとして練習メンバーに意見を求めていたらこうはなっていなかったはずだ。この学校でもリーダーが真剣にメモを取るという「無言の行動」が光っていた。

人生における女性の選択肢が急速に増え、価値観の多様化がより進む令和の日本だからこそ「若手女性と良いチームワークを築く」ことが難しいのだろう。

高校ダンス部の優れたリーダーたちは発言だけでなく、行動や態度を大切にしていた。多彩な価値観を束ねるには非言語コミュニケーションの方が有効な局面があるのだと、私はずいぶん年下の彼女たちから教えられた。

2021年の春。貴重になってきた対面の機会にこそ若手女性にどんな行動を見せるのか? 考えてみるのはどうだろう。

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中西 朋(なかにし・とも)
映像ディレクター/コンテンツ制作knot主宰
立教大学卒業後、ドキュメンタリーを作り始める。ガンダム産みの親の創作現場に初めて迫ったBlu-rayシリーズ「富野由悠季から君へ1・2」、日本テレビ・スタジオジブリ公開記念特番「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」、Googleオフィシャルムービー「クリエイタースポットライト・ヴァンゆん」などを企画・演出。企画及びディレクターを担当したドキュメンタリー番組「勝敗を越えた夏2020~ドキュメント日本高校ダンス部選手権~」(NHK BS-1)で第58回ギャラクシー賞上期・奨励賞を受賞。2月12日午前9時より、同番組が再放送される。

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(映像ディレクター/コンテンツ制作knot主宰 中西 朋)

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