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「自分を好きになろう」という大人の善意が、悩む子供を追い詰めてしまう

プレジデントオンライン / 2021年2月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

「学校へ行きたくない」と言う子どもに、どう対応すればいいか。原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子さんは「追い詰められてしまった子は、家と学校という環境からいったん離れるといい。自分を好きになれなくても安心できる状態や環境を見つけることが重要だ」と説く――。

※本稿は、茂木健一郎・信田さよ子・山崎聡一郎『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■コロナは教育が変わるチャンスだった

子どもが「学校へ行きたくない」というと、悩んでしまう保護者の方がたくさんいます。けれども、したくないこと、やりたくないことをするのは、心にも身体にも悪いことです。学校に行きたくない気持ちを責めないことが大切だと思います。

学校に行かなくても、リモートでも動画サイトなどでも勉強はできますし、数日休んだからといって、世界が変わるわけではありません。がんばって行こうとしているから行きたくないのです。ちょっとがんばって学校に行くのをやめてみてもいいのではないでしょうか。実際にコロナで、強制的に学校を長く休みにしましたよね。

コロナ禍での休校は、タブレットをみんなに配布すれば、みんなそろって学校に行かなくてもいいし、給食で同じものを食べなくてもいい、ということを国民に周知徹底できる良いチャンスでした。しかし、日本ではそうは思われません。「リモート授業」となり困ってしまったのは、これまでの学校教育が不登校を無視してきた結果だといえると思います。

なぜかというと、日本では学習内容より、国民として従事するためのシステムが重視されているからです。制服を着て、同じ時間に来て、一緒のものを食べて、一列に並んで……みんなと同じことができないと、まずいと思われているんですね。

学校は「世間」の象徴だと思うのです。日本に生きる以上、「世間」という目に見えない、宗教以上の大きなものに適応していかないといけない。学校に行けたということは世間に適応する第一歩。学校に行くべきというのは、「世間からこぼれ落ちるな」ということなんじゃないかと思います。

「世間」とは、「ふつう」であることの代表です。今やフリーターは、その「ふつう」の中に入っていますよね。一方、親の考える「ふつう」は「いい大学を出て、年収500万円くらいの仕事について暮らす」ことです。子どもを「ふつう」にするために、無理矢理学校に行かせ、受験勉強をさせる親もたくさんいます。

■子どもを「ふつう」に、という呪縛

受験は時として残酷です。子どもが学校や塾と違った価値観をもっていると、親が不安になってしまって、子どもの価値観や好きなことを無意識につぶしてしまうからです。受験して合格したけれど、学校も勉強もトラウマになり、うつ病になってしまう子だっているのです。子どもが精神的に殺されてしまうことがある。精神的、肉体的な苦痛を与えて勉強させることを「教育虐待」とよびます。

学校に行けなくなった子どもは、世間からこぼれ落ちたと感じて、世界のどこにも居場所がないと苦しんでいます。学校でないところでも生きていけるという社会になってほしいですし、そのためには大人に「ふつう」を突破する力を持ってほしいと思っています。「ふつう」の形は、常に変化にさらされているのですから。

■「別の世界がある」と言っても耳に入らない

「学校か死か」というところまで追いつめられてしまっている子に「別の世界があるよ」と言っても、耳に入りません。そういうときは、生活している家と学校という環境からいったん離れるといいと思います。

自分を批判しないで見てくれる場所をひとつ、もてるといいですよね。その場所は、カウンセリングでもいいかもしれません。自分だけで抱えこむ必要はないんです。相談できる人がほしいと思うのは当たり前のことですし、カウンセラーなどの専門家に「頼る」ことは恥ずかしいどころか、賢い判断です。

■カウンセリングは信頼してもらうところから始まる

それではカウンセリングとは、どのようなものでしょうか。

困っている・苦しんでいる・つらい・さみしい・自分が悪いのではないか、といったことを「気軽」に相談できるようにすることが、カウンセリングの役割です。

茂木健一郎・信田さよ子・山崎聡一郎『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』(KADOKAWA)
茂木健一郎・信田さよ子・山崎聡一郎『明日、学校へ行きたくない 言葉にならない思いを抱える君へ』(KADOKAWA)

私たちカウンセラーは、相談する人(クライエント)の秘密を守ったうえで、ていねいに話を聞きます。いちばん大切なのは、クライエントがカウンセラーを少しでも信頼できると思い、ほっと安心できる状態にすることです。

カウンセラーは正しい方向に導いたり、アドバイスをしたりする人ではありません。目の前にいるクライエントの語る言葉を「そのまま信じる」ことを私は心がけています。

誰にも話せなかったことを話してくれているクライエントを信じるところから、カウンセリングは始まります。そして苦しんだり、傷ついたりしていると話せたこと、助けを求められたことは「すばらしい」と伝えるようにしていますね。

カウンセラーとして思うのは、自分ではどうしようもない、ギブアップだと思ったところから、人は変われるということです。とにかくだれかに頼ろう、そう思った方がはるかに安全ですし、楽になれるはずです。依存は良くないといわれることも多いですが、それは誤解です。人はそんなに多くのものを背負えないのですから、どんどん依存すればいいんです。

■自分を否定されない場所を探そう

自分が安心できるものや場所を探すのもいいかもしれません。追いつめられた方には、豊かな自然のなかにある、安全な病院を紹介することがあります。なかには飼っている犬やねこがいるというだけで、生きられる人もいるんですよ。ペットは自分を絶対に否定しないから、それがいいんですね。

ペットがいなかったら、本を読むことをおすすめします。本を読んでいると、宇宙や海底、どこにでも行けるし、世界の豊かさがわかる。図書館というのも、公共性をもった居場所ですから、図書館でとにかく本を読み、自分が安心できる、没入できる世界を見つけられるといいなと思います。ゲームもまた、現実ではない世界に入るという意味では、少し読書と似ていますよね。どれもポイントは、自分を否定しないということです。

■自分を好きにならなくていい

自分の将来のためにどうしていくかを考えるとき、「自分を肯定する」「自分を好きになる」といったことを目指そうとする人が多くいます。自分を見つめ、自分の力だけで生きやすさを得ようとするのでしょうが、おすすめしません。

どうして自分の内部ばかり見つめることをやめた方がいいのでしょうか。

みなさんは広い宇宙の中で、ひとりで生きているわけではないからです。絶えず、家族や友人といった他者とつながって生きています。影響を受けたり、与えたりしながら、苦しんだり傷ついたりします。楽しいこともあるでしょうが、よく考えると、傷つくだけの人生だったという人もいます。

それでも生きていくために、必要なものは「自己肯定感」といったものではありません。ましてや、そんな「自分を好きになる」ことでもありません。

■自分を嫌悪することで生まれるエネルギーもある

私はいつも「楽かどうか」「ほっとできるかどうか」という点を大切にしたいと思っています。この感覚は心と体に分けられるものではなく、なんとなくそう感じられる状態のことを指します。

たいてい自分はいやなものです。でも、自分を認められず嫌悪するところから、エネルギーが生まれることもあるのです。それに自分を好きになったり自己肯定感を得ようとしたりすることは、「自分がいやな自分を否定する」ことになりはしませんか。

「今あなたは、ほっとできているか」「誰と、どこにいるときに楽なのか」という問いかけの方が、生きていくためにはるかに重要だと私は思います。

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信田 さよ子(のぶた・さよこ)
臨床心理士
1946年岐阜県生まれ。公認心理師、臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業、同大学院修士課程家政学研究科児童学専攻修了。修士(児童学)。親子・夫婦関係、アルコール依存症、DV、子どもへの虐待などの問題に取り組み続けている。『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』(春秋社)、『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』(角川新書/2021年3月発売予定)など家族の問題を紐解いた著書多数。

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(臨床心理士 信田 さよ子)

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